『週刊プレイボーイ』《迷走のアメリカ》ユーゴ空爆編

ユーゴ戦争:報道批判特集 / Racak検証

KLAと米政界の《闇》の同盟を暴け!

1999.11.12

Racak検証より続く / 本誌(憎まれ愚痴)編集部による評価と解説は別途。

 この回の文中には「マス・グレイブ(虐殺墓地)」が出てくる。「マス・グレイブ」の逐語訳は「集団墓地」であるが、事実上、虐殺死体をまとめて埋めた場所の意味に使われている。私(木村愛二)は、NATO軍のコソボ進駐時、米軍放送に入っている各種ニュースを漏らさず聞く努力をしたが、発見例の報道では、せいぜい何十人程度の数字だった。しかも、具体的な検死結果を報道した例の場合には、むしろ、NATO側、もしくはKLA側の宣伝とは真反対の内容だった。

 英軍(British brigade)が検死した例では、50人の全部が男性で、最年長が48歳、最年少が19歳、つまり兵役年齢で、全員がField bootsを履いていた。Fieldは、戦場をも意味する。私は、掃討作戦で死んだKLAの死体を、そのまま埋めたのだと判断した。念のために、Field bootsの用法を、ニューヨークの独立戦争犯罪法廷の場で、隣席のアメリカ人に聞くと、やはり、軍靴のことだった。私が、そのニュースのことを、パネラーの1人に教えたところ、彼は、大きく頷き、休憩後に私の方を見ながら、「日本の友人が聞いたニュースでは……」と説明し、Field bootsを、Combat bootsと言い換えていた。


『週刊プレイボーイ』(1999.10.26)
《迷走のアメリカ》第4部「ユーゴ空爆」編・第8回

KLAと米政界の《闇》の同盟を暴け!

アメリカは、なぜ、バルカン半島にこだわるのか?
その謎が、ついに解けた!

写真説明:

1) ユーゴスラビア軍参謀本部大佐、ミラン・ミヤルコフスキー氏.セルビア側とアメリカ側の主張は、どちらが正しいのだろう?

2) 内務省ビル(左)などの政府機関の建物から民間のバス(右)まで空爆のターゲットは広範囲にわたった

3) KLAとマフィアの関係については、フランスの一部の新聞も早くから指摘していた。写真左は、リーダーのハシム・タチ

4) 元セルビア警察麻薬捜査部長マルコ・ニコビッチ氏の証言衝撃的なものだった

 アメリカやNATO軍側からの情報のみで語られるコソボ問題。欧米のマスコミは、こぞってユーゴ政府及びセルビア人の「悪行」と「蛮行」ばかりを書き連ねてきたが、それだけでは、この問題の本質は見えてこないのではないか……。筆者はあえてユーゴ側の要人たちの懐に入って話を聞くことにより、コソボが長年抱えてきた「負の歴史」に迫っていく……果たして真実はいずこに?

(取材・文/河合洋一郎)

『虐殺』の情報操作に惑わされるな

 先月の終わり、コソボでNATO軍の空爆中、28名のアルバニア系住民を虐殺した容疑で4人のセルビア人がKFOR(コソボ平和維持部隊)によって逮捕された。このニユースはBBC,CNN,その他、世界の主要マスコミがこぞって取り上げ、セルビア人の残虐性が再び世界に喧伝されることとなった。

 コソボに潜入したセルビア人の極右組織のメンバーがアルバニア系住民を虐殺していたのは事実であろう。また、空爆開始後にはユーゴ軍の中でも憎しみのために住民を殺した兵士もいるはずだ。殺しが復讐を呼び復讐が復讐を呼ぶ。どこの戦場でも繰り返されてきた悲劇である。が、ユーゴ政府またはユーゴ軍や警察がシステマティックにアルバニア系住民を処刑していったかといえば、話はまったく別だ。

 同じく先月の半ば、世界の主要マスコミが報道しない興味深いニュースがスペインで報じられた。コソボで発見されたマス・グレイブ(虐殺墓地)に埋葬されたアルバニア系住民の死体を解剖するために派遣されたスペインの検死チームが虐殺を完全に否定する声明を発表したのである。

 彼らが調査したのはイストック周辺だった。NATO軍に爆撃された刑務所がある場所である。現地入りする前、彼らは2千以上の死体を解剖することになるといわれていた。しかし、彼らが検死した死体は全部で187体しかなかった。それも半分近くは空爆で死んだ服役囚だった。

 それ以外の死体は確かに銃弾によって殺害されていた。ところが彼らの証言によると、服役囚の死体も含めて、死体は全部、ひとつひとつ別々の墓に収められていたというのだ。つまり、マス・グレイブなどではなかったということだ。また、セルビア人によって虐殺されたものではなかったことも彼らの証言でほぼ確実である。なぜなら、死体はすべて頭をメッカの方向に向けて埋葬されていたからだ。これはイスラム教徒の埋葬の仕方である。セルビア人が虐殺したのなら、死体に敬意を表するやり方で埋葬するわけがない。

 それらの死体は刑務所が空爆された時のドサクサにまぎれて逃亡しようとした囚人か、または戦闘で死んだKLAのメンバーだったのではないかと検死チームは推測している。

 今回の紛争で多数のアルバニア系住民が犠牲となったのは紛れもない事実である。たとえKFORが当初発表した犠牲者1万人という数字が大幅に誇張されたものであり、民族浄化と呼べるようなシステマティックな処刑がなかったとしても、戦いの中で無実の人間が殺されたことに変わりはない。

 セルビア人側がこれまでのクロアチア、ボスニア、またコソボのアルバニア系住民たちとの闘争で、相手側も虐殺行為を行なったのだから自分たちもやっていいはずだと自らの行為を正当化しているのであれば、それは単に子供の屁理屈にすぎない。

 しかし、繰り返すようだが、問題は紛争当事者ではないアメリカという第3者が権力にまかせて故意に片方の残虐行為を何倍、何十倍にも膨らませ、一方的に悪魔化していることなのだ。それが爆弾とミサイルの雨を降らし、ユーゴの国土をズタズタにする口実に使われたのだからなおさらである。我々は情報操作に惑わされずに、コソボの真実を見極めておく必要があるだろう。

 いつか世界唯一の超大国アメリカの牙が我が日本に向けられる日がこないとも限らないからだ。

誘拐、レイプ、拷問、麻薬、そして臓器売買

 ユーゴ軍参謀本部のミラン・ミヤルコフスキー大佐へのインタビューに戻ろう。

 前号で大佐は、バルカン半島におけるアルバニア人の歴史、KLAのテロ戦術などについて、これまで知られていなかった数々の貴重な証言をしてくれたが、やはり彼もKLAの最も大きな問題は犯罪組織が内部で絶大な影響力を持っていることだと指摘した。大佐によると、これまでコソボで発生した多くの非アルバニア系住民の暗殺や誘拐は犯罪組織メンバーによって実行されたという。彼らにはそのノウハウがあったからだ。

 彼は、膝の上で手を組み、背筋を真っ直ぐ伸ばした姿勢を崩さずに再び話し始めた。

「KLAは誘拐した人間を閉じ込めておく収容所も設置していた。1998年6月、クレチカという村で27人のセルビア人の死体が発見された。そのうちの6人は子供だった。死体には拷問の痕があり、女は全員レイプされていた。調査によって、犠牲者はすべてKLAに誘拐され行方不明となっていた者たちだったことが判明した。つまり、そこは誘拐した人間を収容し、拷問の末、処刑していた場所だったのだ。こういった収容所が他にも数ヵ所あったことを我々は確認している」

 収容所が存在していたことはほぼ間違いないと思われる。このインタビューが行なわれた後、ベルギーの新聞社がKLA内部の人間から入手した情報により、KLAにセルビア人の誘拐と暗殺を専門とした特殊部隊が存在する事実を確認しているからだ。空爆が始まる前の6ヵ月間で誘拐されたセルビア人の数は約600名。空爆終了後、現在までの数を合わせれば1千人近くに達する。そのほとんどが今でも行方不明のままだ。すでに処刑されていると見ていい。

「KLAのテロリストの犠牲になっているのはセルビア人だけではない。アルバニア人も、だ。KLAが麻薬の密売に深く関与しているのは知っていると思うが、彼らが扱っている商品はそれだけではない。女と臓器もだ。

 彼らが貧困に喘ぐアルバニア人女性や少女を西ヨーロッパに売春婦として売り飛ばしているのは公然の事実だ。また、誘拐して処刑したセルビア人の死体から臓器を取り出して売っている。7月に発見されたセルビア人のマス・グレイブの死体をKFORがすぐに検死させなかったのは、臓器が取られている可能性があったからだ」

 世界の臓器市場に犯罪組織がその影を落としていることについて、話には聞いていた。コソボのように死臭漂う場所では、そういったビジネスが行なわれていてもおかしくないだろう。特に犯罪組織の活動がまったくチェックされていないのが今のコソボなのだ。

このままではアルバニア人の独立国家ができてしまう

 ここで私は、ユーゴからの独立を求めるアルバニア系住民側の主張をぶつけてみた。彼らの言い分を要約すれば、1989年に、それまで連邦憲法で保障されていた自治権をユーゴ政府に取り上げられ、コソボの政治権力のセルビア化が図られたために闘争に立ち上がったということだ。軍のエリートであるミヤルコフスキーが、どのような反応を示すか興味があった。

 大佐は通訳が終わるのを待たずに、ややトーンの上がった声で堰を切ったように話し始めた。

「それは大きな誤解だ。1980年代終わりにコソボの自治権が取り上げられたというが、もともとコソボはセルビア共和国の1州にすぎなかった。それが1974年の連邦憲法で共和国並みの権限が与えられたのだが、1989の憲法改正で本来のかたちに戻された。この改正はセルビア共和国が独断で行なったわけではない。ユーゴ連邦の全共和国によって行なわれたものだった」

「だが、アルバニア語による教育さえ禁止されたというが」

「それも間違いだ。我が国政府はコソボの学校でアルバニア語の使用を禁止した覚えなどない。カリキュラムはセルビア共和国の文部省指定のものを使えと言っただけなのだ。共和国の1部なのだから当然だろう。しかし彼らはそれを拒否し、自分たちの学校で子供たちを教育し始めた。自治州政府内の職にしても、セルビア人が彼らを締め出したのではない。彼らのほうからボイコットしてきたのだ。

 ひとつ付け加えるなら、コソボのアルバニア人たちは与えられた自治権を乱用しすぎた。事実、当時の新聞を見てもわかるが、1980年代にアルバニア系住民に迫害され、コソボの地を去らざるを得なくなったセルビア人が10万人以上いるのだ。あのルゴバ(コソボ共和国大統領)でさえ自治権の乱用を認めているのだ」

 今、彼が言ったことについてはアルバニア人側にも言い分があるだろうが、確かにインターネットで当時のアメリカを含めた西側の新聞をチェックしてみると、迫害により多数のセルビア人がコソボを追われたのは事実だった。面白いことに、記事の論調は現在とは逆にセルビア人に好意的である。

 彼は続けた。

「コソボでは90パーセントがアルバニア系住民だとアメリカやNATO諸国は言っているが、空爆前、コソボの人口200万人のうち50万人は非アルバニア系だった。

 確かにコソボに住むアルバニア人の数は以前に比べると多くなった。1980年代、彼らの出生率はヨーロッパ1だったのだから、それも当然だ。だが、人口比率が増えただけで独立できるわけがない。例えばカリフォルニアで黒人の人口が急増し、州民のほとんどが黒人になったとしても、アメリカ政府は絶対に独立を認めないだろう。残念なことに、誰もそういう観点からコソボ問題を見ようとしない」

 最後に、今後、コソボ情勢がどう進むか聞いてみた。

「このままいけば、確実にコソボからセルビア人がすべて追い出され、アルバニア人の独立国家ができるのは目に見えている。我が国は国境線を維持する権利がある。いずれユーゴ軍がコソボに戻り、麻薬密売と人身売買を根絶させ、治安を回復させる以外に方法はなくなるだろう」

 後に説明するが、ユーゴ政府内ではすでにコソボをあきらめる空気が蔓延している。が、大佐が今言った言葉で、まだ軍部内ではコソボ独立を阻止する意見が強いことがわかる。コソボが独立した時、ユーゴ軍が動けばアメリカとNATOは再びセルビアを叩く絶好の口実を手に入れることになる。

 KFORがKLAによるコソボの民族浄化をただ指をくわえて見ているだけなのは、ユーゴ軍を誘い出す罠なのではないかという思いが一瞬、脳裏をよぎった。

元セルビア警察麻薬捜査官の証言

 その夜、私はカラメグダン公園にあるカフェでセルビアの通信社タンユグの女性記者とタ食をともにした。

 彼女はKFOR進駐直後にコソボ入りし、つい最近、ベオグラードに戻ったばかりだった。私はダニューブ川に映る夜のライトを見下ろしながら、彼女からコソボがセルビア人にとってどのような場所となっているのかを聞き続けた……。

 翌朝、快晴の空の下、私は再びサバ川を渡り、ベオグラード市街へ向かった。タクシ-は石造りの建物が建つ路地裏で停まった。入口のドアを開けると、いきなり見慣れた漢字が飛び込んできた。ユーゴスラビア空手道連盟とある。

 秘書が、「ミスター・カワイですね」と流暢な英語で話しかけてきた。インターホンで私の来訪を告げて、デスクの横にある重々しい鉄の扉を開ける。その向こうにもうひとつ扉があった。万全のセキュリティである。この部屋の主の経歴を考えれば、それも当然だった。デスクに座っていた長身の男が立ち上がった。

 それがマルコ・ニコビッチだった。元セルビア警察麻薬捜査部部長としてアルバニア人マフィアと織烈な戦いを繰り広げた男だ。現在はロンドンに本部を置く国際麻薬捜査官協会の理事を務めながら世界中を飛び回り各国の麻薬捜査をアドバイスしている、自他ともに許すヨーロッパ有数の麻薬エキスパートである。

 和道流空手8段の彼は、この国の空手連盟会長でもあった。日本ではあまり見かけないが、外国では警察や軍関係者に空手家が多い。しばらく空手談義がはずんだ後、本題に入った。彼は、なぜアルバニア人がヨーロッパヘのへロイン密輸で主要なプレイヤーとなったのかを、こう説明した。

「彼らには国際的ネットワークがあったからだ。第2次大戦中、そしてその後、共産主義を嫌ったアルバニア人が移民として世界中に散らばった。特にトルコへ移った者たちが多かった。1966年にチトーが規制を緩和して誰でもパスポートが入手できるようになってから、さらに多くのアルバニア人がユーゴを出ていった。そして、1970年代に本国のアルバニア人がヘロインの密輸に手を染め始めた時、海外に出ていった者たちは非常に効果的なネットワークとなったのだ。彼らは血のつながりを大切にするからね」

「現在、コソボで麻薬密輸を支配しているファミリーには、どのようなものがあるのか」

「どれかひとつに絞って語れと言われても困るね。コソボ、西部マケドニア、そしてアルバニアで40ほどのファミリーが密輸を行なっている。だが、それを取り仕切っている男たちはコソボにはもう住んでいない。みな海外で優雅な生活を送っている。そこからオペレーションを遠隔操作しているのだ。例えば、最大の大物のひとりといわれるハリット・シェフーはニューヨークに住んでいる」

 彼によるとヘロイン密輸から得られる利益の約4分の1がKLAの活動資金として提供されているという。もちろん、これはビジネスのためだ。KLAがコソボの独立を勝ち取れば、政府公認の下、安心して商売ができるようになるからだ。が、麻薬の利益が使われているのはそれだけではなかった。

 なんと、各国の政府要人の買収工作にも使われているというのである。しかも、その中にはアメリカの超大物政治家も含まれているという。

 果たして、その人物とは……。

(以下、次号)


以上。次号に続く。


playboy-9:KLAマフィアから米政界に流れた『黒い金』
『週刊プレイボーイ』連載一括リンク
緊急:ユーゴ問題一括リンクへ / 週刊『憎まれ愚痴』46号の目次