米国重要技術報告書復活へのカルテ」 8

2000.7.4

(8)情報・通信(下)農業などに応用

[写真説明]:シミュレーション技術はもともと軍事

【データ記憶と周辺機器】=データ記憶と周辺機器は、コンピューターを使うすべての情報技術の発展のカギである。安価で大容量のデータ記憶システムなしにはスーパーコンピューターも実用にならない。周辺機器にはあらゆるタイプの入力・出力装置と入出力を制限するソフトウエアが含まれる。入力装置では手書き文字や音声認識システムなど、出力装置では音声合成、3次元画像合成システムなどの開発が重要だ。

▼技術選択の理由=情報技術が実用的になるかどうかは、記憶媒体の発達にかかっている。大容量のメモリーがないと、気候変動のモデルづくりやコンピューターを使つた航空機の設計などの技術は実用的にはならない。文書や画像、音声を扱うマルチメディアの端末機では、大容量のディスク型メモリーが必要となる。

 プリンターや音声認識、音声合成などの入出力にかかわる装置は、使い手がコンピューターを使いこなすために重要な技術である。どんなに優れたコンピューターでも入力装置なしには役にたたない。

▼国際動向=メモリーの市場規模は500億ドルで、米国が主導的な地位を占めている。しかし、日本の企業がそろって大容量の記憶システムを開発し、今や米国の地位は危機的な状態にあるといってよい。磁気媒体と光記憶媒体の両方でさらなる研究開発努力が必要である。

 最近薄膜の磁気記憶媒体とこれに合うヘッドの開発が盛んになつている。最低でも1ケタ以上は多くのデータを入れられると期待されている。光記憶媒体では標準化が進んでいないため相互交換ができない。保存したデータがいつまでもつかという実験的な研究もない。この2つが光記憶媒体の普及を遅らせる原因となっている。

 印刷の分野では米国と日本が主導的な地位にある。パソコンに使うドットマトリックス式プリンターの市場では、日本の力が強い。米国は毎分10-40ページを印刷するレーザープリンターの分野に力をそそぎ、市場で優位に立っている。しかし、外国産のプリンター用部品を使っているなど不安材料がある。毎分50ページ以上印刷する高性能プリンターでも米国は優位に立っているが、この状態は永久に続くわけではない。

【シミュレーションとモデルづくり】=軍事、製造業、農業、天気予報、気候変動予測など様々な分野で活躍する技術である。もともとは軍事用に開発され、戦闘を模擬したり、武器のモデルづくりなどに使われていた。10年後にはこの技術が発展して、設計、受注、出荷などをコンピューターが一括して管理する統合生産システム(CIM)につながり、普及するものと思われる。農業はシミュレーション技術の新しい応用分野の一つで、肥料の適切な量や与える時期が分かれば、収穫量も増えるし土壌汚染も防げる。

▼技術選択の理由=シミュレーションとモデルづくりの技術を利用すれば、創造力と分析力次第で、あらゆることをコンピューターで予測したりできるようになる。向こう10-15年間の課題は (1)コストを下げる (2)融通性を高める (3)プログラムを最適化しで無駄な試行錯誤を減らす……などである。

 最近ではミサイルの防衛システムなどのように“システムのシステム”ど呼ばれる複雑な組織があり、複雑すぎて、手仕事や従来のコンピューターでは管理などができない。“システムのシステム”を管理、操作、設計するには、シミュレーションやモデルづくりの技術が不可欠になっている。

▼国際動向=シミュレーションとモデルづくりは米国が開発した技術である。この技術にはソフトウエアどハードウエアの両方の開発が必要である。米国はソフトの分野では強い地位を維持しているが、そのほかの分野では日本や欧州などに地位を奪われつつある。

 欧州をはじめとするほかの国々でも、軍用と民間用のシミュレーション技術を開発し、利用している。日本も目覚ましい進歩を遂げていて、ソフトを共同開発するための国家的な試みも始まっている。

以上で(8)終り。(9)に続く


(9)バイオ・生命科学/エイズの予防も

WEB雑誌『憎まれ愚痴』56号の目次