米国重要技術報告書復活へのカルテ」 3

2000.7.4

(3)材料(下)民生分野では劣勢に

[写真説明]:湾岸戦争で米軍が使用した巡航ミサイル「トマホーク」
[写真説明]:米国の新材料開発は軍事・航空宇宙に偏っている(スペースシャトル「アトランティス」)

【複合材料】=高分子、セラミックス、金属、炭素を母材とした複合材料は応用が広がっており、特に高分子系複合材料は軍事・民生分野で利用が進んでいる。高温に耐える炭素系複合材料、繊維を織り込んで強じんにしたセラミックス系複合材料、合金を使い軽量で強度を持たせた金属系複合材料などは利用はまだそれはどでないが、重要性が増してこよう。

技術選択の理由=米国航空宇宙工業会によると1989年だけで、高分子系複合材料の市揚規模は世界で40億ドルになった。最先端の複合材料の市場規模は、2000年までに2百億ドルになるという報告もある。新複合材料は高性能軍用機や宇宙開発に欠かせない。これらの材料は航空機産業で重要な役割を果たし、自動車産業の優位を保つもとになろう。

国際傾向=米国は外国に比べ複合材料分野で研究や生産の強い基盤を持ち、生産力は世界一。消費も最大である。一般に米国は高性能を求められる分野での応用で強いが、民生利用できるような複合材料では競争力が劣っている

 高分子系複合材料で米国は世界の先駆者となってきたが、他の国の開発力が高まっている。欧州の企業は、20以上の米国のメーカーを買収した。米国の高分子系複合材料業界は、航空宇宙や軍事用の高性能なものに目標を絞っている。高分子に限らず他の複合材料でも、国防総省や航空宇宙局(NASA)の研究開発動向に注目する一方で、一般市場に注意を払わなくなっている。

 日本は、成熟した航空機産業をもたないために、一般の民生品市場に力を入れてきた。日本企業は土木や建築などの分野に高分子材料が利用できるとみて活発な研究を続けている。将来、航空宇宙以外の分野では、有利な立場に立つだろう。

【高性能金属・合金】=高性能金属や合金の中で、最も将来性があると考えられるのが(1)軽さや強度を武器に、従来の合金にとって代わろうとしているアルミニウム・リチウム合金 (2)従来の金属よりも宇宙などの特殊環境条件に強い金属系複合材料 (3)耐熱性で各段に優れている金属間化合物……の3つだ。

技術選択の理由=最先端の高性能金属と合金は、次世代の軍用機や宇宙構造物を利用した防衛システムの実現には欠かせない。航空機分野で世界のトップを保つには、高性能金属と合金で抜きんでている必要がある。

 高性能の金属材料は航空機分野への応用をめぐって、セラミックスや高分子系複合材料と競合している。アルミニウム・リチウム合金もその一つで、旅客機の構造材として、一部で利用が始まっている。1990年代半ばには従来使われているアルミ合金とコスト的にも競争力をもつだろう。

 高コストの金属系複合材料は、将来も利用分野が限定されるかもしれない。カギを握るのは宇宙分野。放射線や真空に強く、ロケットエンジンなどに有利だ。

国際傾向日本や欧州主要国は高性能金属でも米国に対抗してきている。ドイツやフランス、英国は、研究を活性化させている。フランスは、次世代のエアバスに適用するアルミ・リチウム合金の主要供給国になろうとしている。しかし、米国より技術的に遅れがあって生産面で問題を抱えている。ドイツには、金属間化合物を超音速機に利用する計画がある。英国は耐熱性に優れたチタン合金とアルミニウム合金に力を入れている。

 日本は超合金技術で米国に近づいてきている。金属間化合物では主たる開発者となっている。日本の製鉄会社数社は経営多角化の一環として新金属材料の開発に力を入れている。新日本製鉄はチタン・アルミ金属間化合物で一級の能力がある。日本はアルミ・リチウム合金に取り組んでいるが、ここではトップクラスから水を開けられている。

 日本は航空宇宙以外の分野で金属系複合材料に取り組んでいる。スポーツ用品向けの金属系複合材料の市場を支配し、自動車業界もアルミ金属系の複合材料のエンジン応用で先行している。米国企業は、用途を軍事用や航空宇宙分野に限定しており、新しい民生用の応用分野を見つける努力を怠っている。

以上で(3)終り。(4)に続く。


(4)生産技術(上)制御装置がカギ

WEB雑誌『憎まれ愚痴』56号の目次