『電波メディアの神話』(6-6)

第二部 「多元化」メディアを支配する巨大企業

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.7

第五章 「打って返し」をくう「公平原則」信奉者 6

三匹の盲目のネズミにもにた「ネットワーク」の迷走

 湾岸戦争の停戦から二年以上のち、『巨大メディアの攻防/アメリカTV界に何が起きているか』(ケン・オーレッタ、小野善邦訳、新潮社、93・4・20初版、以下『巨大メディアの攻防』)が発行された。

 私は新聞広告をみた直後に注文したが、とどいてみると、普通の単行本よりも大版のA5サイズで五六二ページ。上下二段ぐみ。ちいさな字がビッシリつまった超大著。四百字づめの原稿用紙で約千八百二十枚。日本の普通の単行本なら五冊分はある。おりからのカンプチアPKOへの反対運動やら取材やらで苦戦中だったので、ウヘッと降参し、積ん読にしてしまった。あわてて走り読みしたのは、椿舌禍事件に触発されたのちである。

 著者のケン・オーレッタは一九四二年生れで、合衆国商務長官特別補佐官などをへて、一九七四年からジャーナリスト。新聞・雑誌への寄稿のほか、公共放送局でインタヴュー番組の司会を経験。著書は五冊。一九八六年に発表した『ウォール街の欲望と栄光』は全米でベストセラー。その後の六年間を本書についやす。三大ネットワークのトップのほとんどをふくむ「三五〇人との延べ一五〇〇回のインタビュー」による本書は、アメリカのメディア界で「バイブル」と評価された。先に記した三大ネットワークの買収さわぎは、そこに旧約聖書の物語よりもくわしくえがかれている。

 原題の直訳は『三匹の盲目のネズミ/いかにしてネットワークは道に迷ったか』である。三大ネットワークの迷走を、英語圏では子供の頃から耳でおぼえる「マザー・グース」の「三匹の盲目のネズミ」にたとえたものだ。

 昨年末のこと、椿舌禍事件をめぐる日本ジャーナリスト会議主催の集会のあとの懇親会で、日本の通信社ではたらくアメリカ人の女性記者に、この本のことを話した。彼女は日本語がわかるので、最初は日本語訳の題名をつげ、三大ネットワークの物語だと説明したのだが、まったく知らなかった。しかし、原題を思いだしてつたえた途端に、目を輝かせてニッコリ、全身を軽くはずませながら、わざと子供っぽくくちずさんだ。

「スリー ブラインド マイス、 スィー ハウ ゼイ ラン! ……」

 マザー・グースの歌詞の特徴は、むかしばなし風のひなびた残酷さだ。『巨大メディアの攻防』の末尾には、英語の歌詞とともにつぎのような日本語訳がそえられている。

 「三匹の目の見えないネズミが走っているよ! 農夫のかみさん追っかけて、かみさん、肉切り庖丁で三匹のシッポをちょん切った。生れてこのかた見たことあるかい、三匹の目の見えないネズミなんて?」


(7)資産売却やレイオフやり放題のアメリカ式残酷物語