わたしの雑記帳

2005/5/18 大野悟くん(中1・13)の裁判、全面棄却! ここのところのいじめ裁判の傾向に懸念。


2000年7月26日に、いじめ自殺した埼玉県川口市立中学校の大野悟くんの裁判の判決が、今日(2005/5/18)さいたま地裁であった。
廣田民生裁判長は、「原告のいずれの請求も棄却する。裁判費用は原告の負担とする」とそっけなく言い放った。
同時刻の別の判決も、「棄却」と言うと、そそくさと引き揚げて行った。
判決理由が述べられることはなかった。

原告側の担当弁護士が、東京のほうにでかけているということで、裁判に間に合わず、判決文を受け取ることもできなかった。「なぜ?」という思い。割り切れなさ。

正直言って、不安を感じないではなかった。桶川ストーカー事件の民事裁判で、警察に落ち度はないと棄却したあの廣田民生裁判長であることme030303)。当初はかなりやる気を見せて、元生徒たちの証人尋問にも、原告以上に積極的だった。それが突然、「必要ないでしょう」となり、まだまだこれから続くと思われた証人調べがあっさりと終止符を打たれて、判決言い渡しとなった。しかも結審から判決までが長かった。その間、いったい何を検討したのか。
それから、他の裁判でも時々感じることなのだが、判決前にもしかして結果がすでに流れているのではと思われることがある。かなり注目を浴びた事件だったはずなのに、マスコミが一社も来ていない。一方で、被告側弁護士は全員が揃っていた。

この事件の場合、子どもたちは、事件直後に悟くんへのいじめを遺族の前で認めた。その子どもたちを加害者として連れてきたのは学校だった。その余りに素早い対応。直後の記者会見でいじめの態様をわざわざ実演までして見せた学校側。学校側は以前から、いじめについて何らかの情報を持っていたのだろう。でなければ、こんなに早い時期に加害者やその行為が特定されるはずがない。
誰が、何をやったか、具体的なことが何もわからないいじめ裁判が多いなかで、争う余地のほとんどない裁判だと思われた。ただ、被告側が毎回、様々な理由をつけて提出すべき書類を出してこない。積極的に争うこともしないわりに非協力でずっときた。
そして、結果は全面棄却。間に和解勧告さえなかった。ひとつとして、原告側の思いが汲み取られることはなかった。

裁判の流れにいやなものを感じている。一時、認められるようになってきたいじめ事件の損害賠償が、ここのところいい判決が出ていない。圧倒的に多い和解の内容でさえ、原告側が金銭的な請求を放棄することで成り立っている。「陳謝」と「再発防止策」。つまり、言葉だけで終わっている。実質敗訴の色が濃い。子を亡くした親が、ぎりぎりのところで、なんとかわが子のプライドを保っている。


最近のいじめ裁判判決 (詳細は 裁判事例1 参照)

事 件 概 要 判 決 内 容
1995/11/27 新潟県上越市 春日中
伊藤準くん
、いじめ自殺。
951127
2003/6/23
東京高裁 和解
原告側が、賠償請求を放棄して
和解
2000/3/ 神戸市東灘区 中学校
男子生徒、いじめ事件。
990600
2004/3/15
大阪高裁 和解 
原告側が、賠償請求を放棄して
和解
1988/12/21 富山県富士市 奥田中
岩脇寛子さん(中1・13)
いじめ自殺。
881221
2003/12/17
名古屋高裁金沢支部
棄却
原告 敗訴確定
2004/6/10 
最高裁 
不受理
1996/01/22 福岡県三瀦(みづま)町
城島中
大沢秀猛くん
、いじめ自殺。
960122
2004/11/30
最高裁
 棄却
「自殺は予見できた」とする両親の上告不受理を決定。
2001/12/18福岡地裁判決。町と県に対する計1000万円の支払い命令が確定。
2001/ 静岡県富士市 小学校
女子児童、いじめ事件。
me040811 me050209
2004/5/12
静岡地方裁判所沼津支部
棄却
原告 敗訴確定
2005/2/9
東京高裁 棄却
2000/07/26 埼玉県川口市 中学校
大野悟くん、
いじめ自殺
000726
2005/5/18
さいたま地裁 
棄却
1997/01/07 長野県須坂市 常磐中
前島優作くん、いじめ自殺。
970107
2005/6/3
長野地裁 
和解予定)
原告側が、賠償請求を放棄して
和解



いずれも、公立学校を相手どっての民事訴訟であり、教育裁判であると同時に自治体という公相手の賠償訴訟でもある。このことの意味は大きいかもしれない。
国の権力が強まり、国民に否やを言わせない。君が代・日の丸、自衛隊の海外派遣、憲法9条の改案その大きな流れのひとつではないかと懸念する。

大野さんの裁判については、判決理由、控訴の有無など、詳細がわかり次第、このサイトにて報告させていただきたいと思う。

なお、過去の裁判傍聴報告は、雑記帳のバックナンバーを参照してほしい。
me010912 me020201 me020406 me030330 me030711 me030903 me040129 me040310 me040526 me041008 me050217



追 記:讀賣新聞(2005年5月19日付)に小さな記事が出た。棄却理由は、「いじめは、生徒間の悪ふざけにとどまるもので、自殺との因果関係は認められない」とのこと。
川口署は悟くんの自殺後、同級生9人の常習暴力を認めている。毎日のように殴られたりけられたりすることのどこを「生徒間の悪ふざけ」などと言えるだろうか。まして、生徒たちが遺族に対しても認めていた。学校側もエルボーなどのプロレス技を実演してみせた。これだけ具体的に暴行が明らかにされているというに。
そして、裁判ではまともに反証してきたのは、加害少年のうち最も加害行為が少なかったとされる親子のみ。
元生徒たちの尋問もしないで、なぜこのようなことが言えるのだろうか。いじめがなければ絶対に、今も悟くんは生きていた。ほかに自殺理由は考えられない。因果関係はあまりに明らかだと思う。




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