「ガス室」裁判 最終準備書面 その1

結審宣告の評価と異議申立 ― 原告の主張に対する反論を放棄

 平成九年(ワ)七六三九号 名誉毀損・損害賠償請求事件
           原告   木村 愛二
           被告   株式会社 金曜日ほか
 一九九八年[平10]一二月四日
 東京地方裁判所   民事第三八部 合議係 御中

最終準備書面 第一

第一、結審宣告の訴訟指揮に関しての評価と一応の異議申立

一、第11回口頭弁論当日の経過について

 本年(一九九八年[平10])一一月二四日、第11回口頭弁論で突如、被告会社代理人が「終結」を求め、直後の合議の結果、裁判長は「結審」を宣言した。原告の主張に対する反論を放棄して終結を求めたのは、被告らが敗訴を覚悟したゆえであろうが、その経過には、以下の疑問点があるので、一応指摘する。

1、右合議に先だって、被告会社代理人が突然、早口で「裁判所が原告を尋問しないようであれば終結をして頂きたい」と述べた。

 間髪を入れず、裁判長は「ただ今から合議します」と言うや否や、陪席裁判官を従えて、法廷の背後に下がった。誰の目にも「事前の裁判官面談による打ち合わせ通りの芝居」が見え見えであった。

2、この経過は、すでに前任裁判長が原告の証人採用を決定し、新任の裁判長自身も、さらに原告に対して陳述書の補強と提出を求めた経過に反している。原告の直接の口頭による証言の権利を踏みにじる訴訟指揮と言わざるを得ない。

3、被告会社代理人は、右の第11回口頭弁論の当日、開廷以後に、準備書面(番号記載がなく甲号証の認否のみ記載なので、以後「甲号証認否書」とする)を提出した。

 右「甲号証認否書」の「記」の2には、甲号証について、「同第一〇ー二、一五、三三ー四八、三五ー二乃至九、三六乃至四六、四八、五六乃至六五号証は、いずれも本件と関連性がないから、認否しない」とある。

 原告は、「認否しない」という認否拒否行為に関して、初耳なので、念のために東京地方裁判所の事件係にまで問い合わせをしたが、やはり初耳であるとの回答を得た。

 かかる異例の認否拒否行為の小細工を、なぜ被告会社代理人が行ったのかという理由は、右「甲号証認否書」の提出方法の小細工と、「認否しない」部分の書証の内容、その後の「終結」請求の芝居の小細工を照らし合わせると、実に明確に判断できる。その判断と問題点の指摘は、本準備書面「第二」で述べる。

二、「ガス室の存否を判断しない」方針の経過と当否について

 裁判所が、被告会社代理人の小細工に迎合した理由に関しても、従来の経過から明らかである。

1、裁判所の訴訟指揮は、前任裁判長が理由を示さずに言い張っていた「ガス室の存否を判断しない」とする方針の必然的帰結であり、この点の回避願望は、実に奇妙なことに、被告会社らの側にも共通している。

2、原告は、「ガス室の存否を判断しない」という訴訟指揮に反対して、後述のように、97年11月25日に提出した準備書面(三)で、いわゆる「北方ジャーナル事件」最高裁判例を示して反論したが、奇しくも本件被告会社代表たる被告・本多勝一が原告の通称『本多勝一反論権訴訟』についても、以下のような同主旨の最高裁判例解釈が見られる。

「他人の言動、創作等について意見ないし論評を表明する行為がその者の社会的評価を低下させることがあっても、その行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、意見ないし論評の前提となっている事実の主要な点につき真実であることの証明があるときは、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱するものでない限り、名誉毀損としての違法性を欠くものであることは、当審の判例とするところである(最高裁昭和六〇年(オ)第一二七五号平成元年一二月二一日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二二五二頁、最高裁平成六年(オ)第九七八号同九年九月九日第三小法廷判決・民集五一巻八号三八〇四頁参照)。」(甲第78号証・『判例タイムズ』98・12・1、85頁3段20行)

 右判例に照らせば、特に被告・金子マーティンは、自らの行為が「公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、意見ないし論評の前提となっている事実の主要な点につき真実であることの証明」を積極的になすべきであるのに、その権利を放棄していることになる。

 実のところ、原告が準備書面(三)で指摘したように、共同被告としての被告・本多勝一と被告・金子マーティンの「ガス室の存否」に関する主張の足並みは乱れているのであって、被告らは、法廷外における大言壮語の数々にもかかわらず、「ガス室の実在性」を法廷で立証することが不可能であり、むしろ藪蛇の逆効果となることを熟知し、恐れ、それゆえにこそ立証の権利を放棄したのである。

3、裁判所には、別途、学校教育の「立法・司法・行政」の独立論とは相反する政治的位置付けがある。

 裁判官の事実上の無権利状態に関しては、通称『寺西判事補の分限裁判抗告』を棄却した最高裁決定に関する報道例(甲第79号証)を提出するに止めるが、本件に関するドイツ検察局への告訴の茶番、被告・金子マーティンの「国際公序」云々の主張などは、本来、法秩序を異にする日本国が関知すべき問題ではないにもかかわらず、『マルコポーロ』廃刊事件で外務省などが果たした水面下の役割を考慮するならば、一地方裁判所の一合議体に「ガス室の存否」の判断を迫るのは酷であると判断せざるを得ない。

 原告が、あえて裁判官の訴訟指揮批判の「忌避」をしなかったのは、右の理由によるものである。

 以上の数多い疑問点を念頭に置いた上で、以下、個別の問題点について具体的に解明する。


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