「ガス室」裁判 最終準備書面 その2

「虚言癖」立証恐れた被告 ―「小細工」の詳細

最終準備書面 第二

第二、「被告・本多勝一の虚言癖」立証を恐れた被告会社

1、前述の「小細工」の詳細は次の通りである。

 当日の法廷では、本件開廷の予定が午後一時二〇分からとなっていたが、別件の審理の時間が押して実際には一〇分遅れの午後一時三〇分からとなった。

 原告は、本件開廷の予定の一〇分前の午後一時一〇分に入廷し、当日提出予定の準備書面(七)と陳述書(一)の訂正差し替え部分綴りを、それぞれ正本及び副本2部、所定の机の上に置き、そのことを書記官に告げた。

 被告会社代理人は、午後一時一〇分頃には入廷し、右の原告側準備書面(七)と陳述書(一)の訂正差し替え部分綴りの副本を受け取ったのであるが、自らは右「甲号証認否書」の正本及び副本を所定の机の上に置こうとはしなかった。法廷の実務に詳しい弁護士業を長く営む身でありながら、またはそれゆえに、本件開廷までの二〇分、傍聴席に座って悠然と出番を待機するがごとき演技を凝らしつつ、右「甲号証認否書」をアタッシュケース内に隠し持ち、故意に手渡し行為を遅らせていたのである。

 右「認否しない」甲号証のすべては、被告会社代表取締役・本多勝一(以後、被告・本多勝一)の公人及び個人としての「虚言癖」を立証する証拠物件である。原告が証言の準備として提出したB4判64頁の『陳述書(一)』には、「被告・本多勝一の虚言癖」を立証する詳しい記述がある。右「認否しない」甲号証のすべては、その証言の際に証拠として示す予定の書証であった。

 原告は、右立証の必要性について、右陳述書に詳しく記している。提訴以後も繰り返される被告・本多勝一の虚言に対抗して、真相を明らかにするためには、「被告・本多勝一の虚言癖」の「外形的立証」が不可欠なのである。

 しかも、本件で唯一、法廷における証言をなした被告会社側証人、巌名泰得の証言のほとんどは被告・本多勝一からの伝聞によるものであり、「速記録」(平成一〇年七月二八日第九回口頭弁論)では、原告の質問「本多氏を信頼していらっしゃるんですか」に対して、「もちろん信頼しなければ一緒に仕事ができないでしょう」(右速記録42頁4行)などと答えているのであるから、右巌名泰得の伝聞による証言の信憑性を確かめるためにも、原告が用意した「被告・本多勝一の虚言癖」に関する「外形的立証」は、決定的な争点だったのである。

 にもかかわらず、または、そうだからして、被告会社代理人は、あえて開廷後の慌ただしい状況の中で、全体で一〇分と予定され、次の事件の当事者たちが法廷内で待っているという条件を十分に知りつつ、いかにもプロらしく、右「甲号証認否書」を、そそくさと提出し、結果として原告が「甲号証認否書」の内容を検討する時間を与えずに、抜き打ちで「事前の裁判官面談による打ち合わせ通りの芝居」を興行したのである。

 被告会社代理人の小細工の目的は、明らかに、原告が「被告・本多勝一の虚言癖」を詳しく、生々しく、確実な証拠物件に基づいて法廷で立証するのを妨げることにあった。被告会社としては、原告本人の口頭による生の証言を避けたかったに違いないのである。

 裁判所が、この小細工を見破らず、または知りつつ、被告会社代理人の突然の請求に迎合して「結審」を宣言したのは、まことに遺憾である。

2、被告会社代理人のダブルスタンダード

 もとより裁判所には、被告が「認否しない」書証についても、証拠採用する権限があるのであるが、前述のごとく奇しくも本件審理中に、同一人物の被告及び被告代理人が名前を連ねる事件に関して、最高裁の判決が下された。通称『本多勝一反論権訴訟』(甲第80号証・『判例タイムズ』98・12・1、85頁)がそれであるが、被告会社代理人の弁護士・桑原宣義が名を連ねる「上告理由」の中には、この場合は原告の本多勝一が本件の被告・本多勝一の名誉を毀損したと主張する記事の執筆者、殿岡について、たとえば次のように当該記事とは別の著作を証拠として提出した上で、殿岡の証言の信憑性を疑う主張をしているのである。

「被上告人殿岡においても『アメリカに見捨てられた国』(甲第五三号証)、『ベトナム難民との二年間』(甲第五四号証)、『難民に会ってみて』(甲第五六号証)などでは難民から聞いただけの話を『活字』にしており、『国家の崩壊』(甲第五七号証)では噂を活字にしている。特に『国家の崩壊』の中では、旧ベトナム軍情報将校の『テト攻勢は「同盟軍の陰謀であった」』旨の話を記事にしているのである」(甲第78号証95頁4段10行)

「被上告人殿岡は、ベトナム難民に関する著作の中でもベトナムの子供達の養育に関する発言自体を『夫』や『妻』や『親』にしたり(甲第五八号証)、爆弾の投下についての発言主体を『私の祖母』や『道で泣き叫ぶ老婆』にする(甲第五九号証)など、発言主体や発言場所等、その内容を各著書の中で自由勝手に創作している。こうした事実をみても、被上告人殿岡は資料のねつ造・創作を常習的に行っている人物であり、本件評論においても悪意によりハオ師の言葉を上告人の発言にすり替えていることを容易に推認することができる」(甲第78号証、98頁2段12行)

 被告会社側証人は、すでに原告が陳述書(一)で指摘したように、右事件の発端において被告・本多勝一自身が『諸君!』に「同頁数」の「反論権」を主張していたにもかかわらず、それを根拠として同じく「同頁数」の「反論権」を主張したのは「無理難題」だと陳述した。右「上告理由」の主張と本件の甲号証の「認否しない」行為との関係も、右「同頁数」問題と同様の「ダブルスタンダード」と言う他なく、まさに慨嘆あるのみである。

3、被告会社側証人の証言が実質的に裏付けた「被告・本多勝一の虚言癖」

 被告会社側証人、巌名泰得に対する反対尋問のやり直し請求が却下されたので、やむをえず、不十分だった反対尋問のわずかな成果を、ここに指摘しておく。

 本件では唯一の「速記録(平成一〇年七月二八日第九回口頭弁論)」によると、同証人は主尋問では、原告の原稿検討状況に関して、「当然編集部の連載計画ではございません」(同速記録11頁10行」などと答えているが、反対尋問で原告からの「これだけ分厚いもの、これだけの一冊の本になったのですからね。ほぼ同量あったわけですよ。それを編集長も、斜め読みとおっしゃったけど、読んだと。で、副編集長二人も読んだと。これは、普段の編集会議よりもかなり中身が濃いと思いませんか」という問いに対して、次のように答えているのである。

「はっきりいえば、普通は例がないですね。だから、それだけ本多氏の引っかかりが強かったと。それだから、自分一人の判断ではなくて、副編集長二人に、君たちも読んでくれないかと、意見を聞かしてほしいという形で意見聴取を求めたと。これは確かに異例です。普通はそういうところまでは行きません」

 すでに準備書面にも陳述書(一)にも何度も明記したが、いわゆるスへぼ「連載計画」の否定は、提訴以後に出現した「被告・本多勝一の虚言癖」の一例なのである。被告会社側証人、巌名泰得の以上のような答えは、「被告・本多勝一の虚言癖」を実質的に裏付けるものに他ならない。

4、その後、またもや新たに到来した「被告・本多勝一の虚言癖」の証拠

 この点に関しては、最早、これ以上は不必要と思われる程の証拠の累積状況であるから、ここでは、またもや新たに追加して提出する書証の簡単な説明に止める。

「電子メール」の一番目(甲第80号証の1)、中国の旅(甲第80号証の2、すずさわ書店)、本多勝一集14(甲第80号証の3、朝日新聞社)は、新たに発見された被告・本多勝一の自己文章改竄の事実を示す一連の証拠である。

 甲第80号証の2及び3は、甲第80号証の1が指摘している「中国の旅」の版とは異なるが、原告には、最寄りの市営図書館で、仕事のついでに探す以外の時間が取れない。だが、この二つの版を比べて見ただけでも、すでに、甲第80号証の2の17頁に赤で囲った8行の部分が、甲第80号証の3の12頁では赤い傍線部のように短く1行で、「一国の基本性格は教育政策によくあらわれてくる」と改変されている。

 しかも、甲第80号証の3の巻末に「解題」と気取った被告・本多勝一自身の署名による著者解説では、四〇六頁の赤い傍線部のように、「著作集への収録に際して一語たりとも削除や訂正をいたしませんでした」とまで麗々しく記しているのである。

「電子メール」の二番目(甲第81号証)は、被告・本多勝一が行っていた「カンボジア大虐殺」に関する自己の文章の改竄に関して、初代『週刊金曜日』編集長でもある和多田進が、質問に答え、適切でないとの評価を下したとの通信である。

5、

 よって、裁判所は、「被告・本多勝一の虚言癖」についても、被告会社代理人の姑息な職業的法廷技術駆使による策謀に迷わされることなく、むしろ確信を持って、原告の主張、陳述、覆し難い物的証拠に基づき、正確かつ論理的に判定すべきである。

 以下では、すでに提出済みの原告が準備書面(三)で釈明を求めた問題点をも要約して引用し、以て、判決の示唆とする。


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