『NHK腐蝕研究』(5-7)

《あなたのNHK》の腐蝕体質を多角的に研究!
《受信料》強奪のまやかしの論理を斬る!

電網木村書店 Web無料公開 2004.1.5

第五章NHK《宮廷》の華麗なる陰謀を撃つ 7

タレント学者の兼業と結託

 だが、NHKの「高等戦術」は、もとより、一公開番組の処理法に終るものではない。

 より高度の、政治戦略の一端は、一九八○年春に決定した受信料値上げに向けても、発揮されている。たとえば「NHK受信料、再値上げへ」と報ずる『朝日新聞』(’79・11・20)の紙面を例にとってみよう。

 六段の大見出しは、「基本問題調査会が容認の答申、『赤字でやむをえぬ』、来年4月、幅25%程度か」となっている。

 「再び赤字財政になっているNHKの今後の経営のあり方について、坂本朝一会長の諮問を受けていたNHK基本問題調査会(第二次=中山伊知郎会長)は十九日『受信料改定も考慮せざるを得ない』と事実上、受信料の再値上げを認める提言を答申した」(同紙)

 これが記事の書き出しである。「諮問」とか、「答申」とか、いやにお役所風の表現をちりばめているのだが,この「NHK基本問題調査会」という組織は、どういう権威を持っているのであろうか。同紙は、「同調査会の委員は作家の永井路子さんら各界の有識者二十六人」と記し、大衆受けをねらう書き方をしているが、この人たちを選んだのは、視聴者であろうか。NHK大作ドラマ『草燃える』の原作者、永井路子は、利用されているだけではないのか。

 同じ日の朝刊だけを読みくらべると、『読売新聞』が「NHK坂本朝一会長の諮問機関である第二次NHK基本問題調査会(網島毅会長代行)」と記していたほかは、会の性格についても人選方式についても、まったく説明を加えていない。これでは、たまたま『読売新聞』を注意深く読んだもの以外には、同調査会がまったく公的性格のもののように思えるであろう。もちろん『読売新聞』の報道も不充分である。そして、それがNHKの狙いとするところであったに違いない。

 NHK基本問題調査会とは、まったく公的なものではない。つまりは法律によらない集団であって、NHK会長個人の相談相手にすぎない。メンバーの選定も、まったく勝手になされている。また、一九七九(昭和五十四)年五月十一日に同調査会が設置されたり、同月二十五日に第一回会合を開いた時には、各紙ともベタ記事にしかしておらず、委員名もせいぜい二、三人しか挙げていない。ところが、専門紙の『電波新聞』(’79・5・12)などをみると、委員の中には、伊藤正己(東大教授から最高裁判事)もおり、新聞関係者としては広岡知男(目本新聞協会会長、朝日新聞会長)が加わっている。そして、ここで不思議なのは、各紙が「各界の有識者」を連呼しながら、なぜ自分たちの業界の御大将が参加していることを書き立てないのかということである。むしろ、かくしたがっているとしか思えないのである。その上、討議内容、各メンバーの発言はおろか、出席状況すら公表されていないのだ。

 「結託」という用語がある。そして、NHK関係誌でも「失礼だが、今様にいえばタレント学者のはしり」(『放送文化』’77・9)と評された中山伊知郎(故人)は、早くからNHKとの深い関係を持っていた。初代NHK中央放送番組審議会委員長、NHK監事、NHK経営問題委員会委員長、そして放送文化基金理事長。ついで、NHK基本問題調査会の会長代行、網島毅については、スト破りの実績を紹介したところ。当時の肩書は、宇宙開発委員会委員となっており、NHKと一緒になって通信衛星を打ち上げている仲である。これも明白な利害関係者だ。その上、放送文化基金審査委員として、第一委員会(技術の研究・開発・受信改善手段開発)の委員長にもなっている。さらに伊藤正己は、この放送文化基金から資金援助を受け、放送通信制度研究会をつくり、三巻もの大著を出しているのだ。

 また、何々委員という立場になると、どれぐらいの収入になるのかと、まずは「下司のカンぐり」が先立つようだが、NHKの経営委員については、こういう証言がある。「月に二、三回の会合に出て六十万円も報酬をもらい、地方視察に出れば大名旅行で歓待される……。こんなことをくり返していれば、必然的にNHK幹部(実務執行部)に対して愛着の念もわいてくるだろうし、モノもいいにくくなるでしょう」(『テレビは魔物か』)

 参議院逓信委員の青島幸男の発言である。青島はまた、「受信料の領収書をもって一票の投票権にかえる」という原理をもって、NHKの改革を提案している。これに対する政府側答弁は「実行が不可能」というのだが、そんなことはない。

 原理的に同じことは、すでに資本主義国のオランダやイタリアで実現されている。そして、NHKと日本国政府の共同による「高等戦略」目標は、さらに、そのような国際的事実を、日本国民からおおいかくすことに、傾注されているようなので、次の項で追求する。

 その前に、国内の放送操作もあり、政府も出資する広報センターとか、放送番組センター等の暗躍などについては、いくつかの追及がある。ところが、すでに何度か名前を出した放送文化基金については、とくに批評が加えられていないようだ。内幸町敷地を三百五十四億六千万円という高値で売り、そのうちの百二十億円が、この基金となった直後には、NHKや郵政省の天下り機関にするのでは、といった論評があった。しかし、その後の活動内容は詳しく伝えられていない。

 一九七四(昭和四十九)年一月に設立された財団法人「放送文化基金」なるものは、郵政省高級官僚の承認の下、毎年十二億円を研究者に交付しはじめていた。そして、この基金による研究が、最近のマスコミ法学論のはんらんに一役買ってもいる。しかも、これらの動きは、日本国内でもNHKの大赤字があり、海外でも放送制度が揺れているなかで、意外に奥深い計画性を秘めているようなのだ。

 もちろん、たとえば、この放送文化基金を使って研究したり賞をもらったからといって、それだけで御用学者よばわりをするつもりではまったくない。国立大学だろうが私立大学だろうが、はたまた公立私立の研究所だろうが、研究費はつねに権力や資本の手をくぐってくるものである。要は研究内容である。そして、もう一方で、基金運用の実態である。

 果たして操作はなされていないか。われわれにも活用させてもらえるのか。などなどの疑問は多い。すでに何人かの有力で、しかもNHKや自民党の放送政策に批判的な学者が、研究費の助成を拒否されたという事実があるらしいのだ。「基金」事務局の返事は簡単だ。「助成を決定したケースだけしか発表いたしません」というだけである。隠されたマーダーケース(殺人事件)の数々は、拒否された学者個人の訴えによる他はないが、そこまで事を荒立てれば、「とかくこの世は住みづらい」という浮目を見るのが学者の世界だ。

 ともあれ、たとえば、この放送文化基金やNHKの一般向けPR誌『放送文化』などで毎度登場する“評論家”の大森幸男は、NHKなどの「放送事業者」の「編集権」を、権力者側から解釈し、その本性を現わしたことで有名な人物。これからふれる海外事情の紹介でも、御都合主義の権化である。


(5-8)海外放送事情の紹介に「操作」