『電波メディアの神話』(7-9)

第三部 マルチメディアの「仮想経済空間
(バーチャル・エコノミー)」

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.15

第七章 日米会談決裂の陰にひそむ
国際電波通信謀略 9

ピザの宅配注文なら電話で十分、パソコンは不要

 データベースソフトの最大手、オラクル社は、マイクロソフト社のライバルとしてシェアを拡大中である。オラクルは、古代ギリシャの神託、予言の意味である。いわば神がかりの社名だが、このオラクルのローレンス・エリソン会長が日本ではじめての展示会「オラクル・オープン・ワールド」をひらいた。一時間の講演のうちの約五十分をつかって、会長自身が舞台の上で双方向テレヴィ利用の実演をするという熱心さだ。

 「リモコン操作で食事メニューの中からピザを選択」すると「ピザ屋の主人が現れて自慢の味を″宣伝″。エリソン氏は中くらいのピザを一枚注文した」(日経産業94・1・31)といった具合なのだが、この種の宣伝はすでにアメリカでも実演ずみのものらしい。しかも、地元ですでに痛烈な皮肉がとんでいたのだ。

 「ピザの宅配を頼むのに、わざわざパソコンに入力してピザ屋と『対話』する必要がどこにあるのか。電話で十分だ」(ニューズウィーク93・12・22)

 昨年末、こうかたっていたのは、シリコンバレー有数のベンチャー投資家、ドン・バレンタインである。かれは、「情報ハイウェイができたとして、誰が利用するのか。双方向のマルチメディアを庶民が操る光景など夢物語」、「対話型なんか、一切必要ない」とまで断言している。アメリカがソフト開発で日本をみかえすほどに成功した裏には、ビル・ゲイツらのようなジーパン派の、最新技術にとりつかれた若者の存在だけではなく、「百件のうちの五つ成功すればよいほう」(『マイクロソフト社の怖さ』)という成功確率のベンチャー企業に投資する「ベンチャー・キャピタル」の存在があった。その代表格のドン・バレンタインの発言だけに、真剣に耳をかたむける必要があるだろう。

 また、「非営利の研究機関SRIインターナショナルが二万世帯を対象に行った調査によると、双方向サービスで最も人気があるのは、好きな時に好きな映画が見られるシステムだが、それでも五年後の加入世帯数は二〇〇万に満たない見通しだ」(前出ニューズウィーク)。これがアメリカでの予測である。現在、全世帯の六〇パーセント以上がCATVに加入しているアメリカでさえ、こういう予測なのだ。

 日本のCATVの普及率は二・七パーセントでしかない。基本的な条件のちがいには国土のひろさがある。日本の地上波テレビは、ほとんどの地域をカヴァーしているが、アメリカでは約六〇パーセントだし、電波の性能もわるい。だからアメリカでは、CATVが急速に普及したのだ。

 もう一方の携帯電話も、アメリカの普及率四・四パーセントに対して日本は一・五パーセント。電話全体の利用度では、アメリカ人一人あたり一日の平均通話回数が約四・七回(八九年度)にたいして日本人は一・七回(九一年度)。いずれもアメリカの約三分の一のひくさだ。こちらにも国土のひろさのちがいが作用している。

 こんな条件の日本でなぜアメリカに呼応し、NTTを先頭に、光ファイバ網の建設をいそぐのか。アメリカはなぜ、モトローラの携帯電話機を振りかざしてまで「開国」を迫るのか。しかも、その裏のしかけとして「電波ジャックによる有線化の強制」までたくらんでいるとしたら、あまりにアコギすぎないか。

 こたえはただ一つ、大不況、ハッキリいえばせまりくる本式の恐慌局面からの脱出口をもとめての、必死のアガキにほかならない。技術は最新でも一発勝負の危険な投機だ。そんなバクチに市民が主権をもつはずの電波の使用権まで勝手にかけさせてはならない。

第1図 情報メディアの利用意向等

第1図


第八章 巨大企業とマルチメディアの国際相姦図
(1)スポンサーの電機メーカーに遠慮する既得権の主張