『湾岸報道に偽りあり』(54)

第三部:戦争を望んでいた「白い」悪魔

電網木村書店 Web無料公開 2001.7.1

第九章:報道されざる十年間の戦争準備 4

米帝国軍「中東安全保障計画」に石油確保の本音切々

 深く反省した私は、国会図書館の法令議会資料室でアメリカ議会の記録を探した。

 ところがなんと、いちばん重要と思われる一九八〇年の上院外交委員会聴聞会議事録『南西アジアにおける合衆国の安全保障上の関心と政策』(『U.S. SECURITY INTERESTS AND POLICIES IN SOUTH-WEST ASIA 』)の図書カードには、「欠・不明」と記載されていたのだ。念のため係員に確めると、「いったん受けいれたものが行方不明になっている」という説明である。疑り深い私は「スワッ、CIAの仕業か」といきごんだが、どうすることもできない。ともかくこれで、日本国内でも、この報告を見る機会が過去にあったのだという事実だけは確められた。係員が気の毒そうに、「アメリカン・センターにマイクロ・フィシュがある」と教えてくれたので、翌日そちらにでかけた。

 資料名だけはすでに一年前から知っていた『南西アジアにおける合衆国の安全保障上の関心と政策』は、マイクロ・フィシュではたったの四枚だが、議事日程で二月から三月にかけての六日間の証言と付属報告集であり、B5版で本文が三六八ページにもおよぶ長文のものであった。

 表紙には斜めに、「 HOLD FOR RELEASE SEP 16」というゴム印らしい文字が二ヵ所に押されている。マイクロ・フィシュは白黒写真なので、色は分らないが、赤字の日づけ入りハンコだったのではないだろうか。「九月十六日に公開」ということは「それまでは差止め」の意である。この種の議事録には機密性があり、内容も一部は削除され、公開が遅れることも多いという。この場合、三月十八日に終わった聴聞会の記録が、以後約半年間、公開差止めとなっていたわけだ。同時期の軍事委員会議事録にはゴム印が見られないことから考えると、やはり、特別扱いだったのだろう。

 内容は、定まり文句の「ソ連の軍事力の増大」ではじまり、「ペルシャ湾への合衆国(軍)の接近作業」(U.S. APPROACHES TO THE PERCIAN GULF )という題名の軍事作戦地図でおわっている。だが、むしろ驚嘆すべきなのは、実に詳しい石油事情の分析と予測である。つまり、「安全保障」といい「軍事力」というものの本音が、まさに石油資源地帯確保にほかならないことを見事に自ら告白しているのだ。途中からは「追加報告」となり、文書提出の「CIA長官の陳述書」、「緊急展開軍」(中央軍の前身)、「ペルシャ湾からの石油輸入:供給を確保するための合衆国軍事力の使用」などが収録されている。「事件年表」の発端が、一九七三年十月十七日から一九七四年三月十八日までの「アラブ石油禁輸」となっているのは、この報告の歴史的性格の象徴であろう。

 大手メジャー、エクソン作成の報告書「世界のエネルギー予測」もある。

 エクソンの一九八〇年当時の状況に関しては、石油企業の広報マンという経歴のジェームス・マクバガンが『石油謀略』のまえがきで、こう要約している。

「エクソンは一九七九年の一年間に四〇億ドルを上まわる収益を記録し、企業世界一の座についた」。

 最後の章では、「石油産業は八〇年、二五パーセント以上の利益伸び率を示し、依然としてアメリカ各種産業のもうけがしらであった。トップをいくのはいつものごとくエクソンで、……三一・八パーセント増、五六億六〇〇〇万ドル……モービルは六三パーセント増、三二億七八〇〇万ドル……テキサコは五〇パーセント増、二六億四二五〇万ドルを得た」などと記している。

 同時に彼は一九七九年に関して、「アメリカの石油企業上位八社の利益は合計一五〇億ドルにのぼった。四年前の利益合計は、同じ八社で六八億ドルだった」と指摘し、それらの「暴利」への批判に対するテキサコ会長モーリス・F・グランビルの、次のような株主向け説明を紹介している。

「テキサコは今後必要なエネルギー需要をみたすにあたり、重要な役割を果たしたいと念願している。そのためには莫大な資本の投下が必須であり、それに見合う収益を確保しなければならない」

「暴利」では筆頭のエクソンの場合、「重要な役割」は「莫大な資本の投下」以前にまず、軍拡予算の推進に向けられたようだ。これらの議会工作は、すでに本書の第一章で紹介した集団報告、スコウクロフト補佐官らによる一九七九年の『石油と混乱/中東における西側の選択』などの一連の作業と呼応するものと考えてよいだろう。全体を貫く基調は、なんといっても「石油資源地帯確保のための軍事力行使」である。


(55) ヴェトナム戦争の教訓を生かす電撃作戦