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状況20〜21は、現代企画室編集長・太田昌国の発言のページです。「20〜21」とは、世紀の変わり目を表わしています。
世界と日本の、社会・政治・文化・思想・文学の状況についてのそのときどきの発言を収録しています。

太田昌国の夢は夜ひらく[28]オスプレイ配備は、事前協議によって拒否できる


反天皇制運動連絡会『モンスター』30号(2012年7月10日発行)掲載

米海兵隊御用達の航空機・オスプレイospreyは、「ミサゴ」の意である。「わしたか科の大形の鳥で、海岸の岩や入り江などに住み、するどい爪で魚をとらえて食べる」と簡便な辞書にはある。古代・中世の歴史を欠き、移民国家として高々二百数十年の歴史しか持たない米国は、開発する武器や展開する軍事作戦の名称に、征服した先住民族(インディアン)の母語に由来する名詞や、猛々しい鳥類の名称や、「不朽の自由作戦」や「トモダチ作戦」などという、米国以外の地域に住む人間なら顔も赤らむ名称を、臆面もなく付す伝統がある。オスプレイは、猛禽類から来る名称である。

「敵」ながら、言い得て妙な、名づけである。侵略部隊としての米海兵隊がオスプレイを重用するということは、従来なら上陸用舟艇に頼っていた上陸作戦(それは、当然にも、陸地に構える「敵」から丸見えである)の様態を一新する手段を得たことを意味している。水平線の彼方から突如として現われるオスプレイは、最大速力・時速520キロメートルで飛行できるのだが、その輸送能力は、兵員数24名と武器などの物資(15トン)である。持てるその獰猛な暴力によって「敵」を鷲掴みにするというのであろう。

オスプレイの日本配備(厳密にいうなら、沖縄配備)の道を掃き清めるために、日本国防衛省が「MV-22オスプレイ——米海兵隊の最新鋭の航空機」と題するA4で22頁の小冊子を関係各所に配布したのは、去る6月13日であった。同日夕刻(米国時間)、フロリダ州ナヴァレ北部のエグリン射撃場でCV-22オスプレイが墜落し、搭乗員5名が負傷した。4月11日にはMV機がモロッコでの軍事演習中に墜落したばかりだから、事故確率が高いという印象が否めない。冊子には翌14日に配布された分もあったが、それには事故発生だけを伝える素っ気ないビラが一枚挟み込まれた。

この冊子によれば、オスプレイは「ヘリコプターのような垂直離着陸機能と、固定翼機の長所である速さや長い航続距離という両者の利点を持ち合わせた航空機」とされている。「回転翼を上へ向けた状態ではホバリングが可能となり、前方へ向けた状態では高速で飛行することができ」、「MV-22は、現在配備されているCH-46と比較して、最大速度は約2倍、搭載量は約3倍、行動半径は約4倍になる」という。ヘリコプター機能を持つことで滑走路を必要としない点が、一層の効果的な運用を可能にするのだろう。冊子には、飛行高度と騒音の関係表もあるが、下限は500フィート(150メートル)だから、超低空飛行も行なうのである。その他「運用・任務」「安全性」「騒音」「沖縄での運用」などの項目ごとに、ごく簡単な説明がなされている。

全体としてみれば、事故率を低く見せかけ、騒音は「前機より軽減」され、環境への影響なども「特段なし」とみなすなど、米軍が提供した資料をそのまま翻訳しただけの代物であることが透けて見える。危険性が高いこのオスプレイ配備が発表されるや、沖縄はもとより低空飛行訓練が予定されている全国各地から、厳しい批判の動きが高まっている。無視できなくなった政府は、一応、せめて「配備延期」要請を行なう程度の対米交渉は行なったらしいことを明らかにしている。官房長官は「米国と何度も交渉したが、押し返せなかった。米国は日米安保条約上の権利だと主張した」と語った。防衛相は「日本政府に条約上のマンダート(権限)はない」と述べている。1960年の条約改定時に「安保条約六条の実施に関する交換公文」が交わされ、米政府は、在日米軍に関する①重要な配置の変更、②重要な装備の変更、③日本国内の基地から行われる戦闘作戦行動——の3項目については、事前協議することが規定されている。協議があれば、日本政府が自主的に諾否を判断するというのが政府の立場であるが、事前協議は一度として行なわれていない。自民党時代はもとより、民主党政権になっても、日米安保を容認することが、そのまま、占領時代さながらに米軍の特権を容認し続けることに直結している。米軍の140機のオスプレイは、今年3月現在、東はノースカロライナ、西はカリフォルニアとハワイの米国内に配備されている。米国本土を初めて離れて、オスプレイは日本→沖縄へ向かっている。日米軍事協力体制は、こうして、世界にも稀な「異常な」性格を有している。(7月7日記)