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状況20〜21は、現代企画室編集長・太田昌国の発言のページです。「20〜21」とは、世紀の変わり目を表わしています。
世界と日本の、社会・政治・文化・思想・文学の状況についてのそのときどきの発言を収録しています。

太田昌国の、ふたたび夢は夜ひらく[52]政府・財界が一体化して進める軍需産業振興の道


『反天皇制運動カーニバル』17号(通巻360号、2014年8月5日発行)掲載

ふだんはまったく関心をもつこともない『週刊ダイヤモンド』の表紙の大見出しに目を奪われた。6月21日号の「自衛隊と軍事ビジネスの秘密」である。読んでみると、経済合理性の観点から問題を捉える記事が多く、時勢に対する批判的な分析がなされているわけではない。それだけに、現状分析としては手堅いのかもしれぬ。この数年をふり返って見ても、『週刊エコノミスト』や『週刊東洋経済』が時折見せる、力のこもった特集記事は、マスメディアがほとんど触れなくなった、この社会の深部で密かに進行する事態を調査報道していて、大いに参考になる。こころして注目したいと思う。

『ダイヤモンド』誌に触発されて、この間の顕著な動きを整理しておきたい。現政権は4月1日、武器の輸出を原則禁止してきた「武器輸出三原則」を廃止し、それを原則解禁する「防衛整備移転三原則」なるものを決定した。6月10日、産業競争力会議に出席した財務相・麻生太郎は、某ベンチャー企業の技術が軍事技術に繋がることを理由に東大が協力しなかったために、同企業がグーグルに買収された事例に触れて、「このような問題が今回改革されるとのことで、期待している」と語ると、6月19日には防衛省が「防衛生産・技術基盤戦略」(新戦略)を決定し、国内軍需産業の強化・支援方針を打ち出した。これまでの武器の「国産化方針」に代えて国際共同開発と輸出を基本指針とすることで、「乗り遅れ」「米国などに大きく劣後する状況」にあった日本の軍需産業の「維持・強化」が可能になると寿いだのである。

時制は前後するが、5月下旬アジア太平洋地域の各国国防相がシンガポールに集まったシャングリラ会議では、解禁される日本製の高性能武器に対する関心が高まったという。加えて6月中旬にパリで開かれた陸上兵器の国際展示会「ユーロサトリ」には、三菱重工業、川崎重工業、日立製作所、東芝などの日本企業13社が出展した。

首相A・Sは世界各国に次々と外遊しているが、その際には常に、経団連会長を含めた大規模な経済ミッションを引き連れていることにも注目しておきたい。7月のオーストラリア訪問に際して合意に至った「防衛整備品及び技術の移転に関する協定」に見られるように、どの国とも「防衛協力の強化」が謳われている。同行している経済ミッションの主流をなしているのは、いままで自衛隊の装備品の生産を担うことで防衛調達上位20社に入ったことのある軍需メーカーである。その幾社は、政府が進める原発輸出を歓迎している原発メーカーとも重なり合っている。

武器輸出解禁は、政府開発援助(ODA)の領域にまで及ぼうとしている。経団連はODA見直し論を主導しているが、その論理は「民生目的、災害救助等の非軍事目的の支援であれば、軍が関係しているがゆえに一律に排除すべきではない」というものである。そこでは「テロ対策、シーレーン防衛、サイバーセキューリティ」などを「国際公共財」と呼んで、それへの参画を提唱している。それは、まぎれもなく、ODAその他の公的資金の軍用活用をめざすものであろう。『ダイヤモンド』誌が、自衛隊将官の天下り先トップの10社が防衛大手と完全に一致していることを暴露している事実にも注目したい。

「金のなる木」=軍需産業の「魅力」は、兼ね備えた論理と倫理において日本の現首相とは雲泥の差のある、非凡なる政治家のこころも捉えて離さない。1994年、アパルトヘイト廃絶後の南アフリカの大統領に就任して間もないネルソン・マンデラは、国連による対南ア武器禁輸が解除された事実に触れて、南ア軍需産業は「もはや秘密の幕に隠れて行動する必要はなくなり、国内外の完全な合法性を得るだろう」と語った。7万人の雇用を生み出している国有兵器公社アームスコールが、「平和と安全に貢献する武器輸出」を保証する自主技術を開発したことを称賛したのである。マンデラですらが、国を率いる政治家としてはこの陥穽に陥ったことを思えば、人類がたどるべき「武器よさらば」の道が、いかに長く厳しいそれであるか、ということがわかる。それだけに、それぞれの時代を生きる人間に、その時代の諸条件に制約されながらも、「軍需と軍隊」の論理から抜け出る努力が要請されるのである。

(8月2日記)