木村愛二の生活と意見 2000年6月 から分離

ガス室で絡む半可通の医者はドイツだけでなく日本にもいるのだ

2000.6.26(月)(2019.6.7分離)

 以下、本日に至るまでの数日間に展開されたネット「本多勝一研究会」退会の経過である。とてもマニアックな脱線の多い同研究会で、天然痘による原住民衰滅の問題が出たので、ついつい助言してしまった。それが、密かに夢見ていた退会に繋がり、ああ、実に清々してしまったのである。なぜ密かな夢だったかというと、この研究会発足には、私の『週刊金曜日』、実質的には本多勝一に対する名誉毀損の損害賠償の訴訟が、誘因として大いに関わっていたから、簡単に抜けるわけにはいかなかったからである。以下、若干の校正、通信情報を省略の他は、原文のまま再録する。

 木村愛二です。

 私が『古代アフリカ・エジプト史への疑惑』(1974.鷹書房)の続編として、ほぼ書き上げ、周辺事情の変化で寝かせたままの原稿では、つぎのようになっています。

「コイ民族 [註:ヨーロッパ人がホッテントットと名付けた遊牧が中心の民族]の敗北……ケープ地方へのオランダ人の侵入は容易になった。……『天然痘……それらの病気に対して彼らは何も抵抗できなかった』。しかし、ここにも疑惑……。南アフリカについては、決定的な材料はない。ところが、全く同時代に、ポルトガル人、フランス人、イギリス人が、原始的な細菌戦争をくりひろげていた事実がひろく知られている。ポルトガル人はブラジルで、フランス人はケベックで、イギリス人は北アメリカで、天然痘菌をしみこませた毛布やハンカチ、布地をプレゼントして、征服地を拡大していた。時には、天然痘がなおったばかりの宣教師を、神の名の下に原住民の村に派遣していた」

 私はいつも、文献リストや索引を仕上げの段階でつくるので、今押し入れから出した原稿には、出典が記されていませんが、いわゆる定説による記述です。以上。

 これに対して、次のmailが届いた。

差出人 : 西村 有史 "pwaaidgp@poem.ocn.ne.jp"
宛先 : "hondaken@freeml.com"
件名 : [hondaken:1697] Fw: [hondaken:1692] Re: 天然痘
送信日時 : 2000年 6月 20日 (火) 4:58 AM

 どこの誰がいった「定説」かは知らないが、このような歴史も医学も無視したような仰天のうわごとはいわない方がいい。
 天然痘の病原体はウイルスである。「天然痘菌」なるものはこの世に存在しない。ジェンナーが「牛痘の原因と効能に関する研究」を執筆したのが1798年、スペインによるインカ帝国の征服が1500年代半ばだ。どうすればこの世に存在しない菌を使って、ありもしない知識を駆使した細菌戦争をする能力が当時のヨ-ロッパあったというのか。それとも天然痘の病原体が細菌だという「定説」を持ち出すのか。一応私も医者の端くれだから、万が一他のメンバーが勘違いをされると困るのでコメントさせていただく。西村有史。

 これに私は、一応、穏やかに答えた。

 木村愛二です。

 出典の資料は、おそらくウィルスをも「菌」として記したものではないでしょうか。天然痘の患者の「オデキ」に感染力があることは、ウィルスの発見を待たずに知り得たはずです。冷静に御考え、お調べ下さい。以上。

 実は、この「冷静に御考え、お調べ下さい」には、相手の出方を熟知した皮肉が潜んでいたのだが、案の定、次のmailが即座に出現した。

「天然痘菌」はウイルスのことだとは気がつきませんでしたね。失礼ながらウイルスと細菌の区別をご存じでしょうね。こんないいかげんなことをいう人の「定説」を私なら信じませんが。

 ところで19世紀初頭にすばらしい仕事をしたゼンメルワイスという医学者のことを知っていますか。かれは産褥熱が人から人に感染する病気であること、予防可能な病気であることを発見した先駆者ですが、生きているあいだは、患者の膿に感染性の物質が含まれていることを認めない医学界から無視されて、失意のうちに死んでいます。

「天然痘の患者の「オデキ」に感染力があること」を知りうる立場には、16世紀当時の人間はなかった。これは以上より論証し得たものと考えます。

 なお天然痘は密接な人と人との接触で感染するものであり、毛布などを通じた感染は成立しません。

 与太をとばす前に「冷静に御考え、お調べ下さい」。 西村有史

 そこで、しめたとばかりに、返事と同時に退会を申し出た。

 木村愛二です。

 西村さんが医者であることと、本多勝一と同様に、非常に感情的な言い掛かりを付ける趣味の方であることは、ガス室問題で熟知しております。私は医は算術者などではないのですが、常識的に医学の歴史ぐらいは知っています。アレルギーで裁判もやりましたが、ほんの少し古い文献でも、チリダニの糞が原因物質と判明しない時期には、ハウスダストを黴と記したりしています。その揚げ足を取る人は知りません。

 一応、平凡社の百科事典を見ると、濾過性病原体(ウィルス)を普通の細菌から分類するようになったのは、1930年代からのようです。それ以前には、天然痘菌と記していても間違いとは言えません。

 瘡蓋の件では、子供の鼻に患者の瘡蓋を入れて早めに感染させた方が軽くて済むという方法があったということでした。もともと、なぜ、どうやって、天然痘が伝染したのでしょうか。私が中国からの引き揚げの時期に読んだ『大地』という中国のことを書いた小説には、「あばた」の渾名の男がでてきますが、この方法が効きすぎて「あばた」になったと説明されていたと思います。

 なお、管理人の方にお願いしますが、このところ多忙なので、枝葉末節の議論は時間の無駄でもあり、このmailinglistの御努力には感謝しつつも、退場の手続きをお願いします。以上。

 本日、プロヴァイダーから退会手続き終了の知らせが届いた。そこで、管理人に御礼を申し上げると同時に、一応のコメントをした。

 木村愛二です。

 本日、本多勝一研究会からの退会手続き終了の知らせを受けました。これは、その受領確認のお知らせの目的と同時に、失礼ながら、わがホームページの「日記」に入れる予定で記します。

 実は、私、今年の初めにも、aml,pmnを退会しました。ともに参加者が数百人、合わせて毎日数十のmailが届くMLで、ガス室問題で執拗にからむオタクが多くて困っていました。愚者と言うよりも狂人を相手にするのは時間の無駄と思いつつも、他の若い友人に失礼と思われてはと考えてズルズル付き合っていたところ、実に無礼な「返品」などと称する物理的攻撃を受け、35万円の玩具が壊れ(幸い2万円そこそこで修理完了)たのを好機として退会し、大変気楽になっていたところでした。今回も管理人をやられた皆様には深く感謝しつつ、都合の良い退会の理由ができたので、安心しています。

 なお、西村さんは、このML以前に、「あの」『週刊金曜日』の投書欄で、私に噛み付いてきたので、軽くいなして置いたのでした。今回、「菌」とは何ごとか、「ウィルス」を知らぬかとばかりに笠に掛かって襲ってきたのは、その宿怨のなせる業なのでしょうか。もともと、ガス室問題で騒ぐインターネット・オタクには、この種の半可通の威張り屋、口喧嘩マニア、17歳ならバスハイジャックの類が多いのです。手許の研究社の英和辞典には、virus warfare 細菌戦争、同じく研究社のラテン語辞典のvirusの項目には、種痘液、~vaccinosum 痘菌、とあります。「菌」は現在も決して禁句 [これはワープロ駄洒落] ではないのです。私が見た資料は、多分、当時何冊か出た「アメリカ侵略」問題の本でしょう。そこに「天然痘菌」と訳されていたのでしょう。多分、私は、そのまま引き写していたのです。

 伝染経路の件では、専門的に調べるまでもありませんでした。平凡社の『世界百科事典』の「種痘」には「天然痘患者の膿を予防接種する人痘接種法が、世界各地で行われだした」、「ジェンナー」には「それまでは人痘をうえつけて」、「天然痘」には「空気感染のほか、汚染衣類などを介する間接感染もある」と明記されています。

「医者の不養生」と言いますが、「医者の不勉強」の方は患者にとって恐るべきことです。ドイツでも、この手の「不勉強」医者たちが、ガス室神話の守護神になっています。私は、腰痛とアレルギーで、医者の言うことには素直に従わない方が良いことを悟り、それ以来、健康を増進しています。呵々。皆様も、お元気で。

 さあ、これから就寝前の散歩に出掛ける。時間の無駄を省くことが、長生きの秘訣なのである。