「ガス室」裁判 訴状全文 その5

訴状全文 5 詐欺的引用

請求の原因(続き)

第2、本件に関する被告・本多勝一の編集による『週刊金曜日』の記事掲載状況等(続き)

三、『週刊金曜日』における原告に対する誹謗・中傷・名誉毀損掲載等の事実経過(続き)
4、原告の著書からの詐欺的な趣旨を歪める引用に基づく 誹謗・中傷・名誉毀損の事実

(この事実に関しては複雑な比較対照と説明を要するので、のちに詳述するが、被告・本多勝一本人に対しては、すでに概略を指摘済みである。本訴状では、主要な問題点の該当箇所と『アウシュヴィッツの争点』の記述のみを列挙する)

1997年[平9]1月24日号・50~53頁「同前講座」9(1)……「『外国語、外来語のカタカナ表記は、慣用に拘らず、原則として原音にちかよせる』のが木村の『主義』だそうだが」

「[前略]原音にちかよせるのがわたしの主義だが、本書では読みやすさを優先するために慣用化した表記を一部採用した」(『アウシュヴィッツの争点』32頁)

1997年[平9]1月31日号・50~53頁「同前講座」9(2)……「そこから直ちに『ドイツ語の原文があやしい』」

「訳者の序文には『全訳』とあるが、そうだとすればその元のドイツ語の原文があやしい。[中略]この件はまだ追跡調査が必要である」(『アウシュヴィッツの争点』73頁)

同右……「(最後のアウシュヴィッツ収容所司令官、ベアーの)証言を紹介するに留めている。[中略]ベアー証言についての言及がある著作として木村が利用しているのが、クリストファーセンという怪しげな老人[中略]の書いたものであることを考えると、その信憑性を疑わざるをにはいられない」

『アウシュヴィッツの争点』の91~97頁の長文の記述をまともに読めば、推理小説的なきっかけとしてクリストファーセンのパンフ程度のものを「利用」してはいるものの、フランスのフォーリソン博士に国際電話を掛け、ドイツ人のシュテーグリッヒ判事の本の記述などを、かなり長く引用していることが一目瞭然のはずである。しかも、被告・金子マーティンは、この項目で原告が中心的なテーマとしたベアーの「獄中暗殺」の疑惑を、完璧に避けて通っている。フランクフルト大学の法医学研究所に残されているベアーの検死報告には、つぎの箇所があるはずなのだ。

「無臭で非腐食性の毒物の服用の、……排斥は不可能である」(前出『イスラエルの政策の基礎をなす諸神話』から再引用)

同右……「『収容所での死亡者の総数を、ピペルは約20万人と算定している』[中略]と木村は『紹介』している」

「犠牲者の概数の 110万人のうち、『登録されていない収容者』は90万人になっている。さしひき、のこりの20万人のみが『登録された収容者』のなかの犠牲者である。つまり、記録で確認できる『犠牲者』、または収容所内での死亡者の総数を、ピペルは約20万人と算定しているのである」(『アウシュヴィッツの争点』56頁)

 被告・金子マーティンは、このことがピペルの著書の「英訳本に……含まれていない」と断定し、前述のごとく、原告が「細工(資料改竄)なしに自分の主張を維持できない」などと誹謗中傷しているのであるが、これも完全に間違っている。『アウシュヴィッツの争点』の参考資料9頁に、56頁の記載は原著の52頁の記述によるという意味の数字を明記してある。

「未登録の収容者」に関しては、ピペルの注記にも、「一般に流布されている資料と文献(リテラチュアだから『小説』も含まれる漠然とした表現)」によるとあり、それこそ「根拠」がはっきりしないものなのである。

1997年[平9]2月21日号・28~31頁「同前講座」9(5)……「(クリストファーセンについて)『親衛隊員などではなかった』とも木村は読者を惑わそうとする」

「ヒトラーに忠誠を誓う親衛隊員などではなかった。中尉の位はあるが、[中略]収容所の管理には責任のない農場の研究者」(『アウシュヴィッツの争点』 157頁)。原告の文章の重点は、いわゆる「親衛隊」のバリバリではなくて、「農場の研究者」という立場だったことの強調にある。

1997年[平9]2月28日号・20~24頁「同前講座」9(6)……「『オーストリアのナチズムの大物』[中略]と木村も紹介する『ゴットフリート・キュッセル』」

『アウシュヴィッツの争点』では、「オーストリアのナチズムの大物」を、NHKの「解説」として紹介して、いわゆるカッコ付きの留保を強調し、原告が見た映像による判断として「大物どころか、そこらのいきがった『街のあんちゃん』程度でしかない」(同書 279頁)と記している。全く逆である。

5、事実の認定及び解釈を間違えた上での独断に基づく 誹謗・中傷・名誉毀損の事実

  (右4項と同じ)

 原告は、基本的には「ガス室」が証明されない以上、「ガス室」の存在を記す記録には、疑いの目を向けるべきであると主張する。ただし、それだけでは不十分なので、基本的な矛盾点だけを指摘する。

『アウシュヴィッツの争点』で簡単な紹介をしているが、当時すでに、家畜運搬の貨物列車を丸ごと消毒する巨大な建物があった。チクロンBに温風を吹き付けて室内を循環させ、最後にはシアン化水素を完全に蒸発させてチップを無毒にする装置も輸出商品になっていた。「巨大なガス殺人工場」物語のすべては、この技術水準と合致しない。その点を同書では詳しく記し、「核心的争点」として、「ガス室」の実在証明を求めている。被告・金子マーティンは、この点を完璧なまでに逃げている。

1997年[平9]1月24日号・50~53頁「同前講座」9(1)……「改竄主義者」

「歴史改竄主義者」という用語は、被告・本多勝一も追認しており、従来から「改竄」という用語を攻撃的に使用している。「改竄」の典型的な使用法、「文書改竄」は、それ以前に誰かが作成した固定的な「文書」を、自分の都合に合わせて書き改める犯罪行為を指す。前述のように、「歴史」は誰かが作成した固定的なものではない。常に新しい発見によって書き改められるものである。

 特に、この場合、被告・金子マーティンが「歴史」に祭り上げる「ニュルンベルグ判決」の問題点は、前述の通りである。

「ナチがカチンの森でポーランド将校数千名虐殺」という「ニュルンベルグ判決」を覆す告白をしたゴルバチョフは、「歴史改竄主義者」なのか。「ニュルンベルグ判決」ではドイツのダッハウなどにも「ガス室」があったと判定されていたが、「ドイツにはガス室はなかった」と新聞発表したミュンヘン現代史研究所の所員、のち所長のブロシャットは、「歴史改竄主義者」なのか。アウシュヴィッツ記念碑の「犠牲者」の数を、「 400万人」から「150万人」に書き改める決定を下した国際委員会のメンバーは、「歴史改竄主義者」なのか。被告・金子マーティン自身も、それらの訂正を追認しているから、もしかすると、やはり、「歴史改竄主義者」なのだろうか。このように、「改竄」は実に滑稽至極な怒号でしかないのである。

同右……「多い少ないを論争しても水掛け論」

「多い少ない」には、単に数の問題だけではなくて、質的な問題がはらまれている。

第1は、「ニュルンベルグ判決」の権威の崩壊である。

第2は、「自然死」の数字への限り無き接近である。

 南京大虐殺の場合とは違って、数年間の収容所生活の中での病死、老衰死などの「自然死」がある。現在までのところ、アウシュヴィッツの場合、絶滅政策の存在を主張するプレサックの説では、「400万人」が「60万人」にまで減っている。前出の「20万人」という数字は、「登録された収容者」中の「死亡者」であり、当然、「自然死」である。カナダで見直し論者が最高裁で勝利した事件、通称「トロント裁判」における火葬場の技術者の証言などによれば、プレサックは火葬場の処理能力を数倍も過大に見積もっている。それを計算に入れると、いわゆる「犠牲者」の数字は、限りなく「自然死」の数字に接近中なのである。だからこそ、被告・金子マーティンは、「水掛け論」とか「生産的な議論になるとは思えない」と逃げを張っているのである。

1997年[平9]2月7日号・66~69頁「同前講座」9(3)……「殲滅計画を裏付けるナチス文書いくつかを紹介しておく」と力むのが、何事かと期待して読み進むと、「おそらくは存在もしないだろう」「ユダヤ人殲滅のヒットラー命令があったのか無かったのか、それはさほど重要な問題でもないとか考える」とある。自らの文章によって、自らの主張の矛盾を暴露しているのである。

1997年[平9]2月14日号・66~69頁「同前講座」9(4)……「自称『エンジニア』の人文科学修士ロイヒターが、実際には自然科学系の大学を卒業などしておらず、『エンジニア』の称号を不法に使用していたことが91年に発覚」

 被告・金子マーティンは、アウシュヴィッツ等の「ガス室」の法医学的に調査した『ロイヒター報告』が『誤った前提」に立つものだと決め付ける文脈で、この「科学的・法医学的」な鑑定の結果を簡単に記しているだけである。被告・金子マーティンが、『ロイヒター報告』の信憑性を傷つけるために「発覚」などと威嚇するロイヒターの「学歴」問題は、トロント裁判の反対尋問で出されたものだが、「エンジニア」を名乗って営業することは「不法」でもなんでもない。「エンジニア」は「称号」ではなくて一般名称にすぎない。いささかもアメリカの法律を犯してはいない。人文科修士が「エンジニア」を名乗るのが「不法」だというのなら、高卒や中卒、さらには昔は沢山いた学歴の無い叩き上げの技術者たちは、何と名乗れば良いのだろうか。原告の下には、歴史見直し研究会の会員で技術系専門学校卒の「エンジニア」経験者から、「文系卒業の『エンジニア』が、日本の産業界に多数ゐる事を私は知ってゐます」とし、被告・金子マーティンの乱暴な誹謗中傷の仕方を、「名も無き彼らへの侮辱と私は捉えます」とする長文の手紙が届いている。


その6:直接の侮辱の間に進む