日本経済再生への提言(その2)
首都圏『情報通信』整備計画への基本的な心構え

 日経(1999.2.26)の1面に「情報通信特区/2001年度にも整備」が載った。これは「情報通信各社と自治体、大学など産官学」の動きである。同じ日の33面には「国土庁が首都圏基本計画/環状拠点都市を整備」が載った。こちらには、わが武蔵野市の南隣の三鷹市が第3セクターを立ち上げている「SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)」などの「具体的な施策」への言及がある。

 本来ならば、個人税収日本1と言われる武蔵野市が先頭に立つべき計画なのだが、そこは別途、『武蔵野市民オンブズマンの城』の中心テーマ、「塩漬け用地」問題による借金火達磨の不始末が祟り、中央図書館でさえも、長年要求し続けているインターネット予算が許されないという実に情けない状態にある。

 この提言は、この武蔵野市ばかりか、全日本、全世界の経済再生をめざす政策提言(その1)「土地問題」の延長線上に予定しながら、なかなか時間が取れない状況下、現状への「基本的な心構え」を示すために、『エコノミスト』1996年5月20日号への寄稿の順序を少し入れ替え、冒頭に新しい見出しを1つ加え、以後も基本的な状況が変わらない日本の「大艦巨砲主義」への緊急警告とするものである。

 以下で簡単に紹介する「CIA委託報告書『日本2000年』」や「米国重要技術報告書/復活へのカルテ」には、日本語訳があるにもかかわらず、日経新聞紙上や経済専門誌上でさえ、これらに言及する論文を見掛けないところを見ると、骨惜しみ上手のアカデミー業者こと大学教授や著名な経済評論家などが、意外にも、いや、何時もの通りかな、はてさて、ともかく見落としているのではないかと思えるのである。

 この問題の詳しい論評は、拙著『電波メディアの神話』(緑風出版、1994、当ホームページの「インターネット個人書店」にて特価販売中)の第7章「日米会談決裂の陰に潜む国際電波通信謀略」を参照されたい。

 なお、私自身の、いつもながらのわが太っ腹の獲得目標は、接続時間を気にせずに使える高速のインターネット回線のみである。呵々。

 以下、後半の国際的状況の部分を先に示す。

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日米サイバースペース戦争にアメリカ側は長期の準備

 今回の日米サイバースペース戦争は、「情報ハイウェイ」の建設を主要な公約に掲げ、情報通信業界の強力なバックアップを受けて2期の政権を握ったクリントン大統領と、この政策の推進者、ゴア副大統領を頂くアメリカという超大国との全面的な総力戦なのである。いわば一国の社会・文化的な水準が、すべて問われる戦いである。まずは、その基本的条件を押さえておかなければならない。

CIA委託報告書『日本2000年』に
垣間見る長期展望のアジア市場戦略

[後出:郵政省通信政策局が作成した]「情報通信21世紀ビジョン」の「中間報告」の冒頭には、突如として、「アジア地域の情報通信市場規模」の右肩上がりグラフが登場する。つまり、当然のことながら、輸出を狙い、国内市場の開拓による大量生産でコストダウンを図ろうとしているのだ。

 ところが、その日本を背後から狙っているのが、「情報ハイウェイ」構想を世界戦略とするアメリカなのである。

 湾岸戦争直後にリーク発表と騒がれたCIA委託報告書『日本2000年』の「謝辞」に曰く、「本書は本来、『テレコミュニケーション・アジア2000年』と題した学術論文として記述されたものであり、[中略]『テレコミュニケーション・ヨーロッパ2000年』の続編である。[中略]アジアや太平洋沿岸地域には、最も重要で圧倒的支配力を備えた国、すなわち日本が存在する[中略]。国際社会における日本の潜在力は非常に絶大であるため、本論文の焦点および題名は『日本2000年』と変更することになった」(『CIA委託報告書/日本2000年』)

 CIAが委託した研究グループは元大統領補佐官のロバート・マクファーレン以下8名だが、テレコミュニケーション業界の代表は、モトローラ社情報部長のティム・ストーンだけだった。モトローラは、日米携帯電話戦争の立て役者である。

 レーガンの後継者ブッシュは、湾岸戦争直後に「『国家重要技術』報告書」を議会に提出した。日経産業新聞はその概略を、「米国が優位を維持すべきハイテク分野・産業を明確にした」というリードに始まり、「米国重要技術報告書/復活へのカルテ」と題する10回の連載特集(91.5.21-6.3)で報じた。その内の3回は「情報・通信」であった。

「ソフトウェア」などの小項目のいずれにおいても「日本」の動向が注目されていた。

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[『エコノミスト』誌への寄稿では、ここからが記事の冒頭部分]

「マルチメディア社会の落とし穴」3

「総合デジタル網の利権争い」観戦記

「データ通信元年」はハルマゲドンか?

木村愛二(きむら あいじ)時事分析家。1937年生れ。防衛大学校中退。東京大学英文科卒。日本テレビ編成局勤務を経てフリー。近著に『電波メディアの神話』『読売新聞・歴史検証』など。

来年末に決戦の山場が設定された
国際・国内のサイバースペース戦争

 今年から来年末のサイバースペース決戦を、大阪夏の陣と比較しつつ、専門紙誌から中心的な問題点を拾い、教訓を探ってみよう。

 城内に立て籠るのはNTTやNHKなどの日本型ガリバー勢。対する包囲側のマードック、マイクロソフト、AT&Tグループ他の3つのテレコム・グローバル連合などの多国籍企業には、旧太閤方の一部ならぬ日本企業も加勢している。国籍抜きの白兵戦である。

 実質上の勝敗を決した天下分け目の戦い、関ヶ原の合戦に比較できるのは、パソコンの世界を一変させたマイクロソフトのウィンドウズの登場であろう。以後、日本のパソコン業界は、徳川家ならぬアメリカ系多国籍企業の前にひれ伏し、ひたすら生き残りを図る。

「パソコン次世代/白熱、米企業の主導権争い/カヤの外…日本メーカー、両にらみ」(日本工業新聞97.4.22)などと、情けない落ち穂拾い体制。渦中にあれば切歯扼腕の場面もあろうが、こちらは観覧席でスコアを付けるしかない。

 関ヶ原の合戦の一場面を振り返ると、放送のアナログからデジタルへの転換も、そこで決した。あとは時間の問題となる。

 3年ちょっと前の日本経済新聞(94.1.6)のスクープ記事の大見出しは、「地上波テレビを有線化/光ファイバー通信網利用/電通審提言へ」だった。「電通審」は郵政相の諮問機関、電気通信審議会のことである。

 同日の記者会見で神崎郵政相は、「2010年にはマルチメディア市場が123兆円規模に成長し、240万人の雇用が創出される」と発表した。一斉に、「マルチメディア元年」の見出しが経済紙誌に溢れたが、実態は、それほどは進まなかった。

 その折にまとめた拙著、『電波メディアの神話』の縁で、今回、「マルチメディアを巡る政・官・財の利権争い」のテーマを与えられたのだが、この間に、携帯電話が急速に普及し、インターネット・ブームが巻き起こった。一見、目まぐるしい変化のようだが、海中・地中の光ファイバー、地上波、放送・通信の衛星電波を総合するデジタル通信網建設という基本的戦略目標には変わりはない。

 大阪城攻め冬の陣以後の外堀・内堀の埋め立てに当たる作戦の第1は、その時からの懸案、NTTの分割だが、これはすでに法案が国会に上程されている。第2は、衛星放送のデジタル化であり、これも、のちに述べるように、ほぼ解決済みである。

 最近の資料を漁り始めた途端、4月3日に、アメリカの連邦通信委員会(FCC)が、来年の1998年末に全米10都市で地上波放送のデジタル化を開始すると発表した。つまり、短期的な意味での国際的なゴールが、来年末に設定されたのである。

 4月12日には、またもや日本経済新聞が、「電通審『21世紀ビジョン』中間報告案」が「明らかになった」と報じた。横大見出しは「2010年に総合デジタル網」である。その5年前に、アナログの地上波放送のデジタル化を始めて、追い付かせるというのだ。

 電通審の通信政策部会の名で4月17日に正式発表された「中間報告」の実物は、114頁の分厚い「情報通信21世紀ビジョン」。副題は「21世紀に向けて推進すべき情報通信政策と実現可能な未来像」となっている。

 標題からして「抽象的で分かりにくい官僚的作文」の典型だが、所管は通信政策局。

 同じ郵政省の放送行政局が5週間前の3月10日に出した3頁の方針書の標題は、放送関係向けだから具体的である。「地上放送のデジタル化に向けた取組みについて~2000年以前の開始を可能に~」となっていた。翌11日の日経産業新聞では、これを「地上波/デジタル化前倒し」の見出しで報じた。

 すでに通信衛星(CS)放送の方は、大口のパーフェクTV、ディレクTV、マードックのJスカイBなどがデジタル実施および予定。2000年に打ち上げ予定の放送衛星(BS)も事実上デジタル化が決定している。残るは地上波のみである。

価格破壊の「超大量生産」方式に遅れた
日本企業の「大艦巨砲主義」

 決戦の最終兵器、または今世紀末の個人別「神器」は、テレビ受像機とパソコンの結合商品である。ヨーロッパではパソコンの普及が遅れたので、デジタルテレビに同じ機能を加えた「セット・トップ・ボックス」が主力だという。この「神器」の「価格破壊」競争は凄まじいばかりで、テレビ側とパソコン側が、ジリジリと間合いを詰めている。

「デジタルテレビの価格は当初2000ドル[中略]、アナログテレビの普及価格帯である300~400ドルからすると高すぎる」(日刊工業新聞97.4.17)という記事以前に、全米放送事業者連盟の大会では、「地上波放送を画面で見られるパソコン」の価格の目標が、「現在のパソコンより100ドルだけ高い」(日本経済新聞97.4.7)と発表されていた。

 別口の変種には、「500ドル・パソコン」を売り文句にする「ネットワーク・コンピュータ」(NC)、船井電機が発表した「3万円を切る」テレビ利用の「インターネット端末」(日本経済新聞97.4.17)、映像信号の隙間を使うテレビ朝日の「データ放送」など、まさに雨後の竹の子並の商戦である。

 日本経済新聞の「経済教室」(97.4.23)で根本忠明は、この種の低価格の大量生産を、トフラーらが「マス・カスタマイゼーション」と名付けたと紹介し、「超大量生産」の訳語を提唱している。従来の大量生産に顧客ごとの要求に合わせた組み立てを可能とする方式であり、根本は、これに「遅れる日本企業」に「活発な議論」を呼び掛けている。

 一時は心配になったほどの「経済大国日本」の驚異的発展には、太平洋をはさむ永遠のライバル、アメリカが、朝鮮とヴェトナムでの戦争で疲弊する間、逆に戦争特需で潤うという因果関係があった。生産体制の基礎には、戦後のアメリカ民主主義のお仕着せがあり、昔陸軍、今総評といわれた労働運動の前進によって実現した高能率高賃金があった。その惰性が薄れ始めた時期、アメリカは逆に、レーガンの「強いアメリカ」からブッシュの湾岸戦争を経て、クリントンの情報ハイウェイへと、「アイ・シャル・リターン」の反撃に移ったのである。下手に大国に戻った日本では、昔の大艦巨砲主義までが復活したようである。その全局面を見直す必要がある。

 戦前の日本では、いい加減な精神論がまかり通っていた。威勢の良い参謀将校は多かったが、クラウゼヴィッツの『戦争論』を読み通した軍人は、ほとんどいなかったらしい。太平洋の日米戦争は、開戦前から負けが決まっていたようなものである。

[『エコノミスト』誌への寄稿では、ここに本稿冒頭の「日米サイバースペース戦争]

「業界の腕をひねりあげる」FCC
(アメリカ連邦通信委員会)という存在

「業界の腕をひねりあげる綱渡りがぎりぎりで成功した」(日経97.8)というワシントン発の記事が、今回の事態を象徴している。

 続くリード部分は「4月3日。米国の『地上波放送のデジタル化ルール』正式決定の場となった連邦通信委員会(FCC)の公開理事会の席で、委員会の中堅幹部が周りに聞こえないように小声で明かした。FCCはデジタル化で『最後までカネに絡んだ利害調整に全力投球した』という」となっている。

 タイミングとしては、直後の4月7日に全米放送事業者連盟の大会があった。来年末のゴールは、クリスマス・セールでの高額商品購入という習慣を当て込んだ設定である。

 注目すべきキーワードは、「FCC」「公開理事会」「カネ」である。

 日本にはFCCを単に「独立行政委員会」と理解している向きが多い。NHK発行『放送研究と調査』によると、与党委員以外にも「野党の中から自己の政策の支持者を選んで委員に任命」できるし、「委員長には例外なく大統領の腹心が選ばれ」、「相当数のFCC委員や事務局の幹部が、被規制業界[放送界]に、重役として、あるいは顧問弁護士として天下っている」。常勤職員は1995年度の数字だが、2271名もいる。

 共和党のレーガン大統領時代にも、FCCは規制緩和政策遂行の先頭を切ったが、民主党のクリントン政権になると、ATT&TやCNNのターナーらが出資し、共和党のギングリッチ下院議長が司会するケーブルTVの政治討論番組を提供したりする「進歩と自由財団」が、「FCCの廃止」と「大統領府コミュニケーション局」の設置を提唱したりしている。公然たる政争の場なのである。

 しかも、その議論が「公開」されている点が、日本の郵政行政の大奥風な有様とは大違いである。「双方向」などと銘打って「デジタル化」を推進する当局自身が、シャンシャン総会の諮問委員会の陰に隠れて、情報公開に不熱心なようでは、今やSOHO(スモール・オフィス&ホーム・オフィス)にまで狙いを広げつつあるパソコン市場の、需要の刺激を指導できるはずがない。方針発表の演出は、不足というよりも、知らしむべからず型の頬かむりに等しい。タイミングは例年のごとく、予算国会にしか焦点が合っていない。

 日本は戦前のラジオで「1地域1局」の官僚支配方針を貫いた。広告および複数の放送局並立による競争を許すアメリカの自由放任政策と、日本の厳重監督主義とでは根本思想が違っていた。結果として日本は、八木アンテナなどの創意的な発明を生かすことができず、通信技術の発達に関してアメリカに遅れを取り、それが太平洋戦争における敗北の決定的な要因にもなった。遠因は、放送の出発点における言論統制、言い換えれば、生産様式と支配構造の未熟さの表われでもあった。最近では、冷戦構造の崩壊に果たしたメディアの役割が議論の対象になっている。ソ連の電波管理は、多元化や多様性どころか、まるで自由でも民主主義的でもなかった。これが経済の発展にも大いに影響していた。

 情報通信機器と情報ハイウェイの発達は、その内容としてのコミュニケーションの発達に正比例すると考えるべきである。同じ愚を繰り返してはならない。アメリカ式の草の根文化を育てる暇はないから、明治維新と同様に、啓蒙君主型で上から刺激するしかない。

[『エコノミスト』誌への寄稿では、ここに「CIA委託報告書『日本2000年』]

遅きに失したISDN「価格破壊」?

 さて、原稿締切り間際に、「ISDN2800円で敷けます/NTTが新タイプ/施設設置負担金無料に」(日本経済新聞97.4.23)という小さな囲み記事が出た。ただし、「月額料金は割高」なのだ。締め括りには、「パソコンの通信需要を見込んだISDNも伸び悩んでおり、初期負担の軽減で巻き返しを図る」とある。

 3年前の拙著では「30万円前後のマルチメディア専用パソコンが必要」としていたが、この方は3分の1ぐらいに下がりつつある。光ファイバーによるケーブルテレビの方は、契約料と工事費の「合計約8万円」だったが、「加入時に支払う7万2000円の施設設置負担金を無料が不要なISDN(総合デジタル通信網)を導入」と称して、実際には月賦で回収するらしい。来年末のゴール、またはハルマゲドンに向けての、なりふりかまわずのダッシュのようだが、遅きに失してはいないのだろうか。

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 以上


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