原子力汚染 vs 超々クリーン・マグマ発電(その10)

遂に発見!『週刊朝日』高温岩体発電記事

1999.10.18.mail再録。

 本日、1999.10.18.月曜日、午前11時51分、電力中央研究所の広報部から、FAX通信で『週刊朝日』(1993.2.19)掲載の記事、「21世紀の新エネルギーになれるか/高温岩体発電スイッチオンへ」が送られてきました。

 古い雑誌記事のコピーの入手、と一言でいえば、何ほどのことでもないようなのですが、この記事の存在を知った経過が、非常に象徴的なのです。記録はないのですが、多分、1995~1996年、民衆のメディア連絡会のスタッフ会議が、少し交通の不便な板橋区向原のビデオプレスで開かれていたころ、一度だけの参加ですが大変に印象深い、高年の元原子力発電建設技師がいました。原子力発電の危険を訴えて、全国を行脚しているとのことでした。その元技師が、最も有望な代替エネルギーとして、高温岩体発電を語り、その後、わが家に、電力中央研究所が制作した宣伝ヴィデオを送ってくれたのでした。

 ビデオプレスで、その元技術者が語った主旨は、「高温岩体発電は非常に有望なのだが、電力会社が開発にブレーキを掛けている。成功すると原発が不要になるからだ」ということでした。さらには、『週刊朝日』の記者が現地取材をして良い記事を書いてくれたのですが、その記者が「左遷された」というのでした。大いにあり得る話なのですが、その記事を掲載した日付は分かりませんでした。以来、ずっと気に掛かりながらも、記事そのものを見てはいませんでした。まったく探索の努力をしなかったわけではありません。朝日新聞の広報部と『週刊朝日』編集部に聞くと、キーワードで検索できるデータベースを作っていなかったのです。『週刊朝日』編集部は、朝日新聞記者の持ち回りで、交替が激しく、少しでも古い記事のことは聞いても、まったく分かりません。

 今度は、武蔵野市の中央図書館に行って、評論家の故大宅壮一が残した書籍を基礎に運営されている大宅文庫の雑誌項目リストの「電力」を検索しました。ところが、「高温岩体発電」は、全くないのです。しかし、私は、これまでの経験から、大宅文庫の雑誌項目リストには、かなりの脱落があることを知っていましたので、先週末、電力中央研究所の広報部に電話をして、関連記事の切抜きをしていないかと聞きました。その返事が今朝あり、続いてFAX通信で記事のコピーが送れられてきたのです。

 以上、前置きが長くなりましたが、以下の記事を読めば、上記の「裏」の事情が、ほんのりと薫ってくるでしょう。執筆者本人とも電話で話すことができましたが、その内容は、個人的会話として公開はしません。[ ]内は本誌編集部の注。年度の92などはY2K問題にも鑑み1992などに書き換え、数字は比較しやすいように、1,000などと3桁で区切ります。


『週刊朝日』(1993.2.19)

21世紀の新エネルギーになれるか
高温岩体発電スイッチオンへ

[題字の背景の見開き写真]:[高い鉄の櫓の中に太いパイプなどが見える実験現場]

[その他の写真の説明]:
1)「ことしの夏にはぜひ」……新エネルギーへの夢は広がる[実験場の技術者たち]
2)「この道を選んでよかった」と語る海江田秀志さん

[図の説明]:[本シリーズ(その1)の図と同じもの]
3)浅部地熱発電(現在の地熱発電方式)/高温岩体発電(新地熱発電方式)

[ゴシック文字のリード]

 原子力はもういらない。国産で、それも安全な電気がこんなにたくさん創れるのではないか。日本はエネルギー大国になれるかもしれない……ふと、そう口走ってみたくなるような試みが、電力中央研究所(電中研)によって、秋田県雄勝町の山中で進められている。高温岩体発電という、まだ赤ん坊だが、将来性豊か、と見た。

[以下、本文]

 あかつき丸が日本に持ち帰ったプルトニウムは、原子力発電推進論者が“夢の燃料”と期待する逸品。だが、使いようによっては原爆もつくれる物騒な代物だけに、不安と懸念と疑惑の目を浴びながらの帰国となった。

 私は昨年暮れ、プルトニウム積み出し国のフランスで人々の話を聞いて回ったが、「ヒロシマ、ナガサキの体験を持つ世界で唯一の被曝国が、なぜプルトニウムにご執心なのか」と問われ、返答に困った。

 高温岩体発電の存在は、私自身、「その日本がどうして?」と考えながら、プルトニウムを取材する過程で知った。地球が長い間、地底に蓄えてくれた高温の熱を取り出して電気を起こす。原発より、こっちの方がずっと分かりやすそう。早速、実験現場を訪ねることにした。

 奥羽本線横堀駅で下車、目的地の雪の状態を確かめて車に乗り込む。国道108号線を左折し、黒沢林道を慎重に上っていく。

 小さい雪崩の跡を2ヵ所ほど見る。雪がいちだんと深くなる。また空が暗くなる。雑木林の一角に突然、鉄の櫓が現れる。標高650メートル、晴れていると鳥海山がはるばると見渡せるはず。だが、いまは厚い雲の中だ。

 高温岩体発電の誕生地は、原発の堂々たる偉容に比べると、拍子抜けするくらいミニかつ素朴。激しい音を立てるボーリングマシーンを操り、屈強な男たちは、雪に埋もれた大地のはるか底に眠るエネルギー源を手さぐりする。山麓の湯治場で合宿生活しながらの作業が昨年夏以来、もう半年以上も続いている。

 このプロジェクトの存在を知り、そこに接近する。そして、大事な可能性を信じて歩き続ける人間に出会う。

 海江田秀志さん、電中研主査研究員。まだ30代。雄勝町の実験現場の研究グループの一員。海江田さんは言う。

「私は鹿児島の出身なんです。桜島のお陰であそこの人がどれだけ困っているか、子どものときから思い知らされてきた。あのエネルギーを人間にとって助けになるほうに使えないもんだろうか。そう考え続けてきたのです。そして大学で高温岩体と出会った。これだっ、と思いましたね」

 修士課程を終え、電中研に入る。11年前のことだ。すでに発電が始まっているアメリカ・ロスアラモスへ留学し、経験を積む。

 この人の夢は、地下数千メートルのマグマにまで及ぶ。マグマが無理やりエネルギーを放出するのが噴火。あれを上手に制御できないか。あの高熱で蒸気をつくり、タービンを回せないか。そうすれば桜島や普賢岳で困る人が減る。おまけに電気を無尽蔵に創り出せる。本気でそう考えている。

 高温岩体発電のメカニズムは、原発に比べるとはるかに分かりやすい。井戸を2本掘る。一方の井戸が高温の岩盤にたどり着く。思いっきり水圧を上げた水を噴射し、岩盤にひび割れをつくる。できた亀裂部分に水を注いでやると、激しく蒸気を噴き上げる。もう一方の井戸から蒸気を取り出す。その力を使ってタービンを回す。蒸気とともに戻ってきた水を、再び第1の井戸から注ぎ込む。この回転を続けていくのだ。

 現在、電中研が雄勝町で行っている実験では、まず直径78ミリの鉄管を990メートルの深さまで埋め込んだ。セメントで岩盤に固定する。注水井戸である。次いで280気圧という強力な水圧(土木用ウォータージェット削岩機のほぼ2倍の力)をかけた水を注いで、岩盤に深さ数十ミリ程度の多数の亀裂をつくることに成功する。

 さらに今度は270メートルほどの上部の、深さ711メートルから719メートルの間の鉄管に切れ目を入れ、そこから注水を行って第2の亀裂をつくることにも成功した。1本の注水井戸を使って複数の亀裂箇所がつくれると経済性がグーンとアップするとあって、“電中研方式”は高温岩体発電先進国アメリカの研究者からも注目されている。

 さらに今度は、生産井戸と呼ばれる第2の井戸を掘らなければならない。こちらは深さ1,100メートルまで掘っておいて、700メートルまでは鉄管を埋め込み、その先は掘ったままのむき出しの状態にした。こうしておけば、亀裂が広がってきた場合、ここでガッチリ水蒸気をキャッチできるという寸法。

 従来の地熱発電は高温の水たまりをたずね当てるのがなかなか厄介だった。温泉の水脈を掘り当てるのに似た困難さがつきまとった。

 しかし、高温岩体発電の場合、水はなくていい。高温の岩が存在すればそれでいい。火山国日本は、高温岩体だらけだ。電中研が全国地質調査結果などを参考に試算したところによると、全国で7,000万キロワットの発電が可能だという。

 1992年1月現在、全国で稼働中の原発は42基、発電可能量は3,240.4万キロワット。もし、ことがうまく運んで高温岩体発電がフル稼働する日がやってきたら、原子力発電の分を使ってなお、おつりがどっさりくる。

 では、公害問題を起こすことはないのか。従来の地熱発電は、地中の水が硫化水素など有害物質を含んでいる恐れがあった。これが水蒸気や高温の水に混入し、地表に出てきたらえらいことになる。だが、「岩体」のほうは河川、湖沼の水や雨水を使用するから、あらかじめチェックを入念にしさえすれば、毒入り蒸気を大気中にまきちらす心配は少ない。

地震計も使いよう
地底の岩盤の様子が見える

 では、技術面ではどうか。研究者たちがいちばん苦労したのは、亀裂の状態の把握。潜って見てくるわけにはいかない。ファイバースコープでも役立たない。そこで先進国アメリカが着目したのが、岩が割れるときの音を高感度地震計でキャッチする方法。地表に何台もの地震計を設置し、時間を追って、音源をたどっていく。亀裂を生じた箇所が把握でき、地底の状態を示す絵が描ける。

 電中研の技術陣は、いまアメリカが気がついた方法に改良を加え、精度を高めつつあるところだ。

 これ以外の技術は、たとえばボーリングにしても削岩にしても、従来、多方面で使用されてきたテクニックの応用ですむ。新しく技術を開拓していかなければならない原発に比べずっと楽だ、と研究者たちは言う。

 秋田県雄勝町の実験場は先月末。作業を終えて冬ごもりに入った。

 2本の井戸を掘り、2ヵ所に割れ目をつくり、初期のお膳立てを整えての小休止である。今年7月か8月には、いよいよ注水開始だ。めでたく蒸気が噴き出してくれるかどうか、結論がこの夏には聞けるはずである。

 電中研の役目は、実はここまででおしまい。あとは個々の電力会社がどう出るかだ。研究の成果を電中研から譲り受け、実用化に踏み切るかどうか、注目されるところ。

実用化するにはコスト高が問題

 実用化に向けて障害があるとすると、一つはコストだろう。諸設備の耐用年数を考慮に入れた1キロワット当たりの原価は、12円70銭と試算されている。水力発電なみだが、原発の9円程度という原価に比べると少々高くつく。

 電中研は、9電力、電源開発会社、日本原子力発電株式会社が資本・資金を出し合って設立した機関。したがって、「原発はもういらなくなる」などとはだれも言わない。

「火力、水力、原子力の3つがメーン。そこへ風力、太陽熱、地熱を組み合わせ、バランスのとれたエネルギー対策を進めるのが望ましい」

 これが公式見解だ。

 だが、さきほど紹介した海江田さんたち技術者の打ち込み方を見ていると、そして、日本という国の地の利を考え合わせると、思いがけないエネルギー革命がやってくるかもしれないと、ふと夢を見てしまう。

 高温岩体発電に関しては国も不熱心ではない。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が山形県大蔵村で井戸掘りを進めており、こちらのほうはすでに蒸気を噴出させるところまでこぎつけている。だが、発言はきわめて慎重。「適地の発見は容易でない。コストの克服も困難。10万キロワット規模の発電所ができたとして、1キロワット時当たり20円から30円を達成できるかどうか。原発とは実力が違います」(通産省担当者)

 しかし、海江田さんは意に介さない。もう夢中だ。亀裂がうまく入れられたといっては目を輝かし、どうやらアメリカに追いつけそうだと声をあげて喜ぶ。

 その目に火山灰を噴き上げる故郷・桜島の姿が映っているようだ。

本誌・村上義雄


以上で:10終り。:11に続く。


11)「コスト高」で足を引っ張る向きに逆転パンチ!
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