『アウシュヴィッツの争点』(65)

ユダヤ民族3000年の悲劇の歴史を真に解決させるために

電網木村書店 Web無料公開 2000.9.9

第4部 マスメディア報道の裏側

第8章:テロも辞さないシオニスト・ネットワーク 3

広告担当幹部に「ユダヤ民族の真の価値の学習」を提案したSWC

 話を広告の問題にもどすと、サイモン・ウィゼンタール・センターは、日本経済新聞社宛てにファックスで抗議文をおくり、謝罪をもとめると同時に、その抗議の内容をアメリカと日本での記者会見で同時発表した。

 日本で報道したのは産経新聞だけだったようだが、わたしの手元には日本経済新聞社で事情を聞いたさいにもらった各種英字紙の記事コピーがある。通信社のAPが世界中にながしたA4判で二ページにわたる長文の通信全文。『ロサンゼルス・タイムズ』の約百行分の記事。以下の記事は若干みじくなるが、『インター・ナショナル・ヘラルド・トリビューン』、『アジアン・ウォールストリート・ジャーナル』、日本製の英字紙では『ジャパン・タイムズ』、『アサヒ・イヴニング・ニュース』といったところである。日経側は、世界中でさわがれたという受けとめかたをしている。

 日本語による唯一の大手紙報道、産経新聞(93・7・31)の記事は、「ワシントン三十日=古森義久」発である。その一部を紹介しよう。

「抗議したのはユダヤ系米人の権利を守り、ホロコースト(大虐殺)の教訓を正しく伝える活動などを世界規模で続ける『サイモン・ウィゼンソ(ママ)ール・センター』。(中略)書簡はこの広告掲載にはユダヤ人として『衝撃と怒り』を果てしなく感じたとして、日本経済新聞社側がユダヤ人への謝罪を紙面で表明することと、広告担当幹部が『ユダヤ民族の真の価値』について学習することを要求している」

 この記事を発信者のワシントン支局長、古森義久には、湾岸戦争のさい、意図的と思わざるをえない誤報をいくつかながした前科がある。停戦直後には、「見通しを誤ったニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストは紙上で謝罪した」と称して、日本の「湾岸戦争評論家よ、丸坊主になれ!」(週刊文春91・3・14)とまで息まいた。だが、アメリカの両紙のどこにも、わびの一言もなかった。だから、今回もわたしは、この記事の裏づけに念をいれたのだが、今回は一応、誤報ではなかった。「広告担当幹部が『ユダヤ民族の真の価値』について学習することを要求している」という部分は、サイモン・ウィゼンタール・センターのラビ(教師)、アブラハム・クーパーが日経宛てに直接だした手紙の内容の一部とほぼ一致している。「ほぼ」というのは、「要求」とある部分の原文は「サジェスト」なので、おだやか、またはインギン無礼に「ご提案」と訳すほうが適切だからである。

「反ユダヤ主義」批判は妥当か、五年前に来日して実態調査

 日経は、問題の全五段広告掲載の二週間後、『英文日経』と通称される『ニッケイ・ウィークリー』(93・8・9)の論説欄の最下段に、縦二四センチ、横一九センチの「手紙」という二重線のかこみをもうけ、実質的な謝罪文を発表した。大見出しは「反ユダヤ主義と広告」である。すでに紹介したサイモン・ウィゼンタール・センターのラビ(教師)、アブラハム・クーパー名による抗議のほかに、「日本ユダヤ人協会」などからの抗議の手紙を三通のせ、それにこたえるかたちの『英文日経』副編集長(国際第二部次長)勝又美智雄の名による文章で経過を釈明し、「日経が今後、反ユダヤ主義に対して今まで以上に気を配ることを改めて確認します」とむすんでいた。

 ひるがえると産経新聞の記事にも、「島正紀・日本経済新聞広告整理部長の話」という事件直後のみじかい談話記事がそえられていた。「日本経済新聞では、出版物の広告については、表現、出版の自由を尊重し、そのまま掲載することを原則にしている」という態度表明だった。

 つづけて、「第一企画出版社長の話」という、つぎのようなみじかい談話記事もあった。

「著作の内容は、ある特殊な大財閥の計画について書いたもので、ユダヤ人全体に対する批判ではない。今のところ抗議はない」

 たしかに第一企画出版の本は、いわゆる「おどろおどろ」型である。わたしの好みではない。しかし、ロスチャイルド財閥の死の商人としての歴史は、日本人にもくわしく知ってもらう必要がある。

 藤井昇の著書『日本経済が封鎖される日』からの再引用になるが、ユダヤ人ジャーナリストのレニー・ブレナーは『現在のアメリカのユダヤ人』という近著で、「ユダヤ人は世界の人口の三パーセント以内だが、百万長者の四人に一人はユダヤ人である」と書いているそうだ。「財閥」やら「百万長者」やらについての情報は、もっともっとくわしく報道されるべきだ。その意味では、今後もおおいに「表現、出版の自由を尊重」してもらう必要がある。その日本経済新聞の「原則」が、なぜ、たった二週間で一変したのだろうか。

 日経幹部や関係者の話を総合すると、「不買運動」を恐れたという可能性が高い。わたしの手元には、SWCの「予約購読部(ニューヨーク)」の責任者が八月二日づけで英文日経社長あてにだした手紙のコピーがある。手紙の主旨についてはみずから、「予約購読のキャンセル」と「迅速な予納金の日割り計算によるはらいもどし」をもとめるものとしているが、その理由として、問題の広告が「ナチス・ドイツの殺人的政策にみちびくもの」とし、日経に「ジャーナリズムの義務」を問いかけている。この文句は、クーパー名による公式の抗議よりもてきびしい。

 わたしの手元にある「予約購読キャンセル」の手紙のコピーは、たったの一通分である。だが、ほかならぬ日経が事件の約五年前にのせていた記事(88・6・21)によると、SWCは、「ニューヨーク、ワシントンなど北米五カ所に支部を持ち会員が三十六万人いる」。アメリカのユダヤ人が金融界に強い支配力を持っていることは、これも「周知の通り」の事実であり、その国際的な金融界こそが『英文日経』にとっての最大の客層である。たったの一通でも、三六万人の組織の代表からの手紙だから、これは相当におどしのきく一通だったのではないのだろうか。

 しかも、日経の編集部サイドでこの問題を担当し、署名いりで実質的な謝罪文を書いた国際第二部次長の勝又美智雄は、すでに一部を紹介した約五年前の[ロサンゼルス二十日=勝又記者]発の記事(88・6・21)の執筆者でもあった。つまり、相手の組織力と対日戦略をいちばん良く知っていたわけである。記事の大見出しは「反ユダヤ本はブームだが悪意・反感は少ない」なのだが、サブタイトルのほうが重要である。「米ユダヤ教教師、来日し実態調査」なのだ。


(66)「経済大国日本の国際世論への影響」を重視し「交流」を予定