『古代アフリカ・エジプト史への疑惑』第1章2

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近代ヨーロッパ系学者による“古代史偽造”に真向から挑戦

異常乾燥期

 つい最近、日本語訳が出版された著作に、『アフリカ創世記/殺戮と闘争の人類史』という物騒な題名のものがある。著者のアードレイは、アメリカ人。本職は劇作家で、生物学を学んだことがあるという人物である。原著は欧米でベストセラーになったらしい。一読して、なかなか面白いといえる。

 ただし、この著作の取り扱い範囲は、オーストラロピテクスまでなので、本書のねらいとは、相当にへだたりがある。とくに参考になるのは、図表である。

図表 2000万年前から現在までのアフリカの降雨量

 アフリカ大陸には、はげしい気象変化があった。アードレイは、アフリカ大陸の異常乾燥期における猿人同士の縄張り争い、とも喰いに、主要な関心をよせている。そして、生き残った猿人が、新しい進化の道を歩みはじめたと主張している。動物の習性学[エソロジー]をあてはめた解釈は、大変に説得力がある。

 もっとも、アードレイがこの習性学を現代社会にも及ぼそうとしている点には、若干の異論がある。実は、この点こそがベストセラーの要因になっているらしいのであるが、やはり、現代社会に強力にはたらいている経済法則を軽視するのは、誤まりであろう。

 それはそれとして、アフリカ大陸の自然環境と人類進化を結びつけるアードレイの所説は、傾聴に価する。しかも、異常乾燥期と人類進化の対応関係は、その後もつづいている。

 まず、気象と自然環境の変化を、地理・歴史学者であるシュレ=カナールの『黒アフリカ史』にもとづいて、要約してみよう。カタカナの個有名詞は、地名に由来するもので、とくに意味はない。

(1) 約100万?~70万年前以降……第1カゲリアン雨期。それにつづく乾期。
(2) 約45万年前以降……第2カマジアン雨期。つづいて、後カマジアン乾期。アフリカ大陸の半分が居住不能となった。
(3) 約10万~9万年前以降……第3ガンブリアン雨期。
(4) 紀元前1万年以降、8000年まで……後ガンブリアン乾期。アフリカ大陸の半分が居住不能となり、サハラの沙漠化は、現在よりも広範囲に及んだ。
(5) 紀元前8000年以降、2000年まで……後ガンブリアン湿期。サハラには、森林、草原、河川、湖水があり、好適な気候。こののち、乾期にはいり、現在も進行中。

 これに対して、人類進化、初期の人類文化の年代を、最近のデータや仮説にもとづいて、わたしなりにまとめてみると、つぎのようになる。

(1) ピテカントロプスの発生……約100万年前?
(2) ネアンデルタール人の発生……約30~45万年前?
(3) ホモ・サピエンスの発生……約7万~10万年前?
(4) 農耕民の発生……紀元前約8000年
(5) オリエント・地中海文明史の開幕……紀元前約2000年

 この年代が、アフリカ大陸の異常乾燥期と、見事に対応していることに注目したい。異常乾燥期を生きのびた人類とその文化が、そのあとの湿潤期に主流をしめたと考えればよい。もちろん、のちの時代になれば、別の経済法則がはたらきはじめることはいうまでもない。

 さらに、異常乾燥期のもたらした劇的な事件のひとつに、サハラ先史美術の再発見がある。サハラ沙漠の真只中から、かっての湿潤期にさかえたアフリカの黒色人文明の証拠が、ぞくぞくと発見された。では、サハラ先史美術には、何が描かれていたのであろうか。また、それらは、どういう歴史を秘めていたのであろうか。

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