白陵中学校・うつ自殺事件

保護者の陳述書


平成21年10月6日    


              
 

 神戸地方裁判所  御中

原告意見陳述書


 

原告   父A ・ 母B   


 第1回弁論に際し、遺族の思いを申し上げる機会を与えていただき、ありがとうございます。

 私共の次男Rは、平成18年10月3日、4限目終了後の昼休みに学校を出て行き、JR曽根駅のホームから、通過中の新快速電車に身を投げて亡くなってしまいました。
 ホームに残されていた補助かばんの中には、4限目の授業中に書いた遺書、身分証明書の入った生徒手帳、そして中身の詰った弁当箱と抗鬱剤、汗で濡れた体操服、空のペットボトル、美術の教材が入っていました。

 Rは4限目終了のチャイムが鳴ると同時に教室を出て、大きな補助かばんを肩から懸けて、校門へ続く通路をまっすぐに歩いて行きました。
 その姿を何人かの人たちが見ていたそうでした。しかし、Rの事情をよく知っておられるはずの担任と元担任の先生さえ、声をかけて止めて下さいませんでした。

 その日の1限目は体育で、新体力テストが実施されました。
 それまでから、体育と柔道の授業は、Rにとって、精神的にも肉体的にも大変、負荷の大きなものでした。自分の体力以上の、厳しい運動の内容に心身共に疲れ果てることもあったようでした。
 そうして、1年生の途中より体育と柔道の授業がある前日の夜と、当日の朝は過敏性大腸症候群による下痢と腹痛に苦しみ続け、1限、2限にあった体育と柔道の授業の欠席が続きました。

 あの日、Rは持久走をへとへとになりながら走ったようでした。無理をしてはいけないことは、Rも十分解っていたと思いますが、目の前でクラスメートが「足が痛くても走れ!」とT先生に言われているのを見て、仕方なく走ったのだと思います。
 Rの異常な、あえぎ方、それを見ていた生徒でさえ、その限界を悟ってくれていたのに、普段の体育の授業さえ、あまり出席できていなかったRに、T先生は、いきなり1500mを走らせました。さらに、一人だけ、3日前に体調不良で休んでいた時の分の全力疾走の50m走を走らせました。
 断りきれなくて走ったRに更に、「もう1本走るか?」と言い、その後、立ち幅跳びまでさせました。1時間の授業の間、Rは、ずっと走ったり跳んだりしていたようでした。

 「体育と柔道の授業は、見学での参加として下さい」という医師の診断書を提出しておりましたのに、「頑張れ、しっかりと、励まさないように」というカウンセラーの要請書まで学校に提出してお願いして来ましたのに、それらをことごとく無視され、文部科学省の新体力テスト解説書に何ヶ所も違反した指導が行われたことに、私共はどうしても納得できません。

 亡き次男、Rは長男が生まれて、8年ぶりに誕生した第2子で、母親のBが不妊治療を続け、やっと授かった、かけがえのない子供でした。
 小さい頃から病気もせず、おとなしくて、利発な子供でした。友達付き合いがよくて、J小学校時代は卓球部の部長をしたり、6年生の時の運動会では校旗を掲げて入場してくる生徒代表の大役も頂きました。
 中学受験のために通っていた塾でも、先生方に大変、可愛がって貰っていたそうでした。Rが慕っていた塾の恩師は「君は真面目だし、性格も良く、学問に対する素質も良いものを持っています」「自分の存在を認めてあげて、自信を持って、前へ進んで行きましょう」と、手紙を下さいました。

 私共は、Rの病状について、学校にいつも報告し、診断書を提出して来ました。 しかし、患者にとって、命綱とも言える診断書や情報が、担任と主任の先生の所で止められてしまっていたようでした。
 事件後、私共は不審に思い、各先生方にお聞きしましたところ、多くの先生方が、それらの存在をご存知ありませんでした。
また、「見たように思う。聞いたように思う。」と言われた先生方も、その内容はご存知ありませんでした。

 私共を含め、保護者達は、思春期の大切な6年間を、良い環境の中で、良い教育を受けさせてやりたいと、中高一貫の白陵を選ばれていると思います。しかし、白陵では毎年、かなりの人数の生徒が退学しています。
 Rの通夜の際に、同級生の方々から頂いたメッセージには、「僕も自殺しようとしたことがある。」「僕も自殺を何度も考えた。」「私もリストカットをしたり、頭痛薬を十数錠も一度に飲んだこともある。」という心の叫びを書いている生徒さんが何名もおられました。
そして、過去には、私共のように子供さんを亡くされた方もおられます。

 亡くなっていった子供達の無念、退学して行った子供達の心の傷、白陵の理事長、校長、先生方は、それらを真摯に受け止めて頂きたいと思います。
 私共は、この裁判を通じて、Rが亡くなるに至った原因の究明がなされること、ならびに、二度とこのような悲劇を繰り返さないように、再発防止の実現を望むものであります。



   





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