子どもに関する事件・事故【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
041224 教師の
傷害事件
2009.1.21、2009.11.17更新
2004/12/24 神奈川県横浜市の市立奈良中学校で、柔道部の男性顧問(26)が練習中、男子部員Kくん(中3・15)に背負い投げや一本背負いなどの技を繰り返しかけ、急性硬膜下血腫や脳挫傷などのけがを負わせる。高次脳機能障がいなどの後遺症がのこる。
経 緯 Kくんが帰宅しようとしたところを、校門で顧問教師に捕まり、練習に参加させられた。
顧問は格技場で、7分間にわたって連続的に高速で巴投げ、大外刈りや背負い投げ、一本背負いなどでKくんを投げ続けたあと、絞め技で落とした。
ビンタで覚醒させ、意識がもうろうとしているところを休憩も与えず、再度、乱取り稽古を続け、再び絞め技をかけた。
Kくんは、帯を締め直していた際に意識を失い、救急車で救命センターに運ばれる。
症 状 Kくんは、外傷性急性硬膜下血腫と診断され、緊急開頭手術を受ける。一命はとりとめたが、ラベ静脈裂断、前頭葉脳挫傷、錐体骨損傷、頚椎ねんざ、などの重傷を負った。直後は記憶も、言葉も失っていた。

高次脳機能障がいにより記憶障害、唇のまひ、右手のしびれなどの後遺症が残り、リハビリを続ける。

主治医は、外傷性急性硬膜下血腫が生じた原因を「頭が高速で回転した際に起こる」と説明。
加害教師 2002/ 講道館杯日本体重別選手権男子73キロ級で、優勝。サンボの世界選手権にも出場。
絞め技が得意で、よく部員を絞め技で落としていた。

事件後、市教委の調査に対し、「生徒に柔道の技術的指導をしていただけで、しつけや懲罰的な意図はまったくなかった」と答えていた。

2007/7/ 顧問教師を傷害容疑で書類送検。
「態度が悪かったので、矯正しようと思った。指導のつもりだった」と供述したと新聞に書かれたが、奈良中学校校長は、生徒朝会や緊急父母会の席で、「顧問教諭はそのような発言は一切していないと言っている」と否定した。


2007/2/ 県警の書類送検直後に教壇を離れ、大学に通って、「学校の安全管理」などを学ぶ。

2009/4/ 横浜市立の別の中学校で教壇に立つ。
被害者 Kくんは柔道経験1年あまりの初心者だった。

高校3年生になっても記憶障がいが残る。暗記しても翌日にはすべて忘れる。道順が覚えられない。階段などの立体的なものが平面に見える。後遺症で動作が鈍くなった。
大学進学を断念。

事件の話になると精神状態が不安定になった。

2007/ 警察官から話を聞かれて、Kくんは突然、記憶を取り戻す。

目撃者 練習中に周りにいた柔道部の生徒たちは県警の聴取に、「明らかに指導の範疇ではなく、やり過ぎだと感じた」と話した。
学校・ほかの
対応
2005/1/ 両親が「何があったか調べてほしい」と市教委や学校に申し入れるが、市教委はほかの生徒への聴き取りに応じなかった。

半年後に、市議を通じて調査を求めて初めて、生徒への聴き取りをする。

2005/12/ 市教委は、「絞め技とけがの明確な因果関係は認められない」とする最終報告をまとめる。
その席で市教委の担当者は、「電信柱に頭をぶつけてから登校したのではないか」などとKさんに発言。

乱取り稽古や絞め技でKくんが気絶したことは認めたが、それぞれのけがの発症原因については、「判断できない」とし、「不適切な指導や体罰はなかった」とした。

市教委は、顧問教師の行為を「適正な指導計画に基づく指導」と判断して、奈良中柔道部の顧問を続けさせていた。

2007/7/2 横浜市教育委員会小中学校教育課児童・生徒指導担当課長は、「市教委の調査では教諭に傷害や業務上過失傷害などは確認できなかった。警察は違った判断をしたがいまも教諭に不法行為などはなかったと認識している」とコメント。
4時間後に、児童・生徒指導担当部長が記者会見を開き、「捜査権限を持った警察が十分に調べた結果なのだから、その通りなのだろう」と前言を撤回。司法判断が出るまで、顧問教師を担任から外し、柔道部顧問として生徒指導をさせない方針を発表。処分は、司法判断を待って対応するとした。

2007/7/3 校長は朝の定例集会で、「今回の問題を重く受け止めている。迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪。
顧問教師を当面、自宅謹慎とし、司法判断が出るまで障害者施設で研究させる予定。
その他の対応 教育長は、横浜市議会での質問で、「顧問教師の指導計画は運動部活動指導の安全手引きにのっとり、適正とみている。病院で治療にあたった医師は、疾病の原因について絞め技と傷病発生の因果関係はないとの見解。生徒の問題行動への懲らしめとしてのしごきのような過度の練習が行われた事実の把握はない」と回答。

市議会録で、教育長の発言を読んだ主治医が、「『けがは投げ技による可能性が高いが、断定はできない』と市教委には説明したのに都合のよい部分しか取り上げていない」と、朝日新聞の取材に答える。
事故報告書 2005/1/ 学校は横浜市教育長に事故報告書を提出。
「柔道部の練習と傷病との間には直接の因果関係はない、と保護者から聞いている」と書いてあった。
両親はのちに内容を知り、そんな話をした記憶はないと、削除を申し入れた。
背 景 2004年度以降、横浜市教委が体罰を理由に懲戒処分した事例は13件。
内、6カ月の停職処分1件、停職2〜3カ月4件、減給1〜6カ月5件、戒告3件。
(2007/7/3朝日新聞)

2003-2007年度のデータを愛知教育大学教育学部の内田良講師が分析した結果、高校生の柔道競技者10万人あたりの死亡者数は3.417人。中学生は1.980人。陸上、野球、バレーボールなどではいずれも1人以下。
(2009/11/13朝日新聞)
警察の対応 2006/2/ 市議会で取り上げられたことで、新聞記事となり、その記事がきっかけで神奈川県警が独自に捜査を開始。

2007/2/ Kくんと両親が、明らかに柔道でない技を使って傷害を負わせた」として、教師を傷害罪で告訴。

2007/7/2 神奈川県警は、教師が稽古に乗じて生徒を痛めつけようとしていた疑いが強いと判断して、業務上過失傷害容疑ではなく、傷害容疑で送検

2009/10/27 横浜地検は「嫌疑不十分」で不起訴処分になったことを両親に伝える。
けがの原因は教師の投げ技としたが、@教師はKさんの頭を畳に打ち付けていない、AKさんの頭部に目立った外傷はない、ことなどから、「技をかける時点で傷害を負わせる意図までは認められない」「部活動の一環」「指導が目的で、社会的常識を逸脱した違法性はない」とした。
業務上過失傷害についても、「回転だけで脳に障がいが出るとまでは予測できなかった」とした。

2009/10/30 Kくんと両親は処分を不当として横浜第一検察審査会に審査の申し立てを行った。


2009/12/12 検察審査会は、業務上過失傷害容疑で再度捜査の上、処分を再考するよう求める「不起訴不当」の結論。

2009/12/17 検察は再び不起訴決定。
裁 判 2007/12/14 両親が、男性教師と市、県ら慰謝料や介護費用など計1億8600万円を求めて提訴。
市教委は、教師の投げ技とけがとの因果関係を否定。全面的に争う。
裁判内容 Kくんが救急搬送された病院の医師が、「投げ技による高速の回転が原因で脳の静脈が切れた」との意見書を提出。
教師側は、「経験則上、投げ技のスピードだけで脳の血管が切れることはありえない」などと反論。
判 決 2011/12/27 横浜地裁で、被告横浜市及び被告神奈川県は、原告Kに対し、連帯して、8919万8958円を支払うよう命ずる判決。
森義之裁判長は、顧問の行為と障害の因果関係を認め、顧問に事故の予見は可能であったとして顧問の安全配慮義務違反を認める。

○判決理由の要旨
1 被告Tの故意又は過失
(1) 原告Kは、平成16年12月24日当時、横浜市立奈良中学校の中学3年生であった者であり、同中学校の柔道部に所属していた。
 被告Tは、同中学校の教諭で、同柔道部の顧問をしており、柔道の各種大会で優勝した経験を持つ、当時26歳の男性であった。
 被告Tは、同日の柔道部の部活動で、原告Kと乱取りを開始し、その途中で、絞め技をかけた。これにより、原告Kは、「半落ち」の状態(頸動脈を一過性に閉塞させ、脳虚血が生じ、意識障害が発生している状態)となった。
 被告Tがほほを平手打ちにするなどすると、原告Kは意識を取り戻したので、被告Tは、原告Kとの乱取りを再開し、小内刈り、背負い投げ、一本背負い、体落とし等の柔道の技をかけ続けた。
 原告Kは、上記乱取りの最中に意識を失って倒れ、救急搬送されたところ、急性硬膜下血腫が認められたため、直ちに開頭手術が行われた。原告Kは一命を取り留めたが、高次脳機能障害の後遺症害が残った。

(2) 上記急性硬膜下血腫の原因は、上記乱取りにおいて、「半落ち」となった後、被告Tから技をかけられる中で、その頭部に急激な回転力が加わったことにより、脳内の静脈が損傷したことにある。

(3) 「半落ち」となった後は、たとえ意識を取り戻しても、完全に意識は回復していないため、通常時よりも受け身がとりづらく、また、首の固定が十分でないため、頭部に回転力が加わりやすい状態にあるから、そのような状態で乱取りを続ければ、重大な傷害の結果が生じる危険性があり、そのことを柔道の指導者である被告Tは認識することができた。
 原告Kが中学3年生であることに照らすと、教師である被告Tにおいては、乱取りを中止したり、休憩を取らせるなどして、原告Kの意識が正常な状態に回復するのを待つべき義務を負っていた。しかるに、被告Tは、そのような措置を取らず、そのまま乱取りを再開し、原告Kに傷害を負わせたのであるから、上記義務を怠った過失がある。被告Tが、原告Kの傷害に至る厳密な機序まで予見することができなかったとしても、そのことは、上記の過失があるとの認定を左右しない。

(4) 原告らは、「被告Tは、日常的に体罰を行っており、原告Kが高等学校への被告Tの推薦を断ったことや原告Kの態度に対して立腹して、制裁を加える目的で原告Kを負傷させたのであって、故意がある」と主張する。
 しかし、被告Tが現実に日常どのような行為を行っていたかは、本件証拠からは明らかでない。上記推薦が断られたことや原告Kの態度に対して、被告Tが立腹した可能性はあり得るものの、制裁を加えようとした意図があったとまでは認められない。その他、被告Tが制裁目的で故意にKを負傷させたとまでは認められない。

2 後遺障害の程度
 原告Kの高次脳機能障害は、労働者災害補償保険の障害等級認定基準の第5級の1の2及び自動車損害賠償責任保険の認定基準第5級の2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当する。

3 結論
 治療費、遺失利益及び慰謝料など、相当因果関係の認められれる損害の総額は、8919万8958円であり、原告Kは、被告横浜市及び被告神奈川県に対して、それぞれ同額の賠償を求めることができる。
 公権力の行使に当たる公務員が、その服務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合なは、公務員個人はその責を負わないから、被告Tは、損害賠償責任を負わない。
 原告Kの後遺障害の程度などに照らすと、原告父及び原告母の慰謝料請求は認められない。
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参考資料 2006/2/28神奈川新聞、2006/2/28朝日新聞、2007/7/2讀賣新聞・夕刊、2007/7/3朝日新聞、2007/7/4神奈川新聞、2007/12/8神奈川新聞、2009/10/28讀賣新聞、2009/10/31讀賣新聞、2009/11/13、14朝日新聞、裁判の傍聴ほか
      
                          検察審査会の皆様へ                      2009年10月30日 
2009/10/30
Kさんの両親が検察審査会に提出した文章
(許可をいただいて掲載しています)

 今回下された検察の決定には、深く落胆いたしております。

 検察は、「息子が倒れる数分内に脳損傷の原因がある」つまり「柔道顧問が、息子に怪我を負わせた」ことは認めました。しかし「予見可能性はない」「故意性の証拠がない」ので不起訴だそうです。

 柔道経験1年足らずの15歳に、7分間で2度の絞め技を行って1度は落とし、休ませもせずに投げに投げればどういう結果が生まれるか、講道館杯で優勝するほどの実力者でも「予見」することは不可能、と検察は結論づけました。全日本柔道連盟や文科省は、「技能差・体力差がある場合は危険が増すから、体力にまかせた無理な技はかけてはならない」と手引書に明記しています。危険が予見可能だからこそ、注意を喚起しているではないですか。

 「故意性」がないのであれば、なぜ現在に至っても「自分より前に乱取りをした生徒二人が原因」と、民事裁判においても主張し続けるのでしょうか。他人に責任を擦り付ける必要がなぜあるのでしょうか。

 急性硬膜下血腫で切れる血管は通常直径1mm程の架橋静脈で、柔道の場合、回転加速度のかかった頭部を畳にぶつけて発症します。しかし息子の場合は、ラベ静脈という脳の表面にある主幹静脈を切断しました。これは脳が挫滅して出血した結果発症します。回転運動のある柔道の特異性から考えて、架橋静脈切断ならば事故の可能性もありますが、挫滅出血など、通常の練習では絶対にありえません。

 そしてびまん性軸索損傷は、よほどひどい交通事故にでも遭わない限り発症いたしません。通常練習で挫滅出血やびまん性軸索損傷が発症するならば、柔道そのものが非常に危険であると声を大にして言わざるを得ません。びまん性軸索損傷のために、息子は高次脳機能障害という重篤な傷害に一生苦しむのです。息子には脳挫傷まであります。これは硬膜下血腫よりも重い脳損傷です。これが普通の練習と言えますか。

 「怪我を負わせたのは柔道顧問である」と検察ははっきり認めているにも拘らず、それでもなぜか柔道顧問には全く責任はないそうです。2007年息子の記憶が戻り、暴行時の様子を詳細に証言したにも拘らず、障害者だということで証言は取り上げてはもらえませんでした。

 部員達は、柔道顧問が行なっていた暴行を、「サマーバケーション」と呼んで恐れていました。
 顧問の支援者達は、「強くするための練習を、楽しくやるためにサマーバケーションと名付けた」と擁護します。サマーバケーションは、さあやるぞと意気込むような言葉でしょうか。これは柔道部の生徒達がつけた暗号です。顧問にやられている間、何の抵抗もできない長い時間というイメージから、せめて名前はハッピーにと自嘲的につけたのです。サマーバケーションなどという呼び名が生まれるには、いったい何人の生徒が犠牲になったのでしょうか。

 柔道で命を落とした中学生高校生は、この25年間でなんと110人もおられます。毎年2〜3ヶ月に1人、中高生が命を落とし続けている計算になります。今年も5・7・8月で既に3人の犠牲者が出ています。
 これは捜査機関が目をつぶってきた結果ではないのですか。柔道連盟が毅然と暴力を排除しなかった結果ではないのですか。息子の怪我の異常性を証明できる医学的論文や根拠を複数提出いたしましたが、検察はまったく取り上げようともせず、科学的・合理的な捜査はなされませんでした。
 検察審査会での、厳正で中立な捜査を切にお願い申し上げます。


   




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