わたしの雑記帳

2016/1/31 鹿児島県出水(いずみ)市の中村真弥香さん(中2・13)自殺(110901)の調査アンケート開示(アンケート・作文開示訴訟一覧あり)

 2015年12月15日、鹿児島地裁で、遺族が開示を求めていた学校が自殺の背景調査のために全校生徒対象にとったアンケートの開示請求に対し、一部、開示を認める判決が出た。
 この真弥香さんの出水市立米津中学校では、 1994/10/29に舩島洋一くん(中3・14)が自殺し、調査のためにとったアンケートを遺族に見せることなく処分した。結果、いじめ自殺かどうかもあいまいなまま終わらせることができている(参照941029)。

 また、翌年1995年5月31日には、同じ鹿児島県の鹿児島市立中学校の池水大輔くん(中3・14)が自殺(950531)。この時も遺族には生徒のプライバシーを盾にアンケートを見せない一方で、文教委員会やメディアには配られた。遺族はマスコミを通じて、アンケートのコピーを入手している。
この時には、1994年11月27日に、愛知県西尾市立東部中学校の大河内清輝くん(中2・13)が長文の遺書を残して自殺(941127)し、いじめ自殺がセンセーショナルに取り上げられ、全国各地のいじめ自殺事件にスポットが当たっていたことも影響してか、この鹿児島市の事案は、両親からたびたびの抗議を受けて、いじめと自殺には関係があったと認めている。

 これら、過去のいじめが疑われる鹿児島県内の中学生の自殺の教訓はどうやら、いじめの防止ではなく、いじめの隠ぺいだったらしい。


【経 緯】

 2011年9月1日、鹿児島県出水(いずみ)市の市立米津中学校の吹奏楽部の中村真弥香さん(中2・13)が、鉄道自殺した。
 真弥香さんは、数人の女子生徒から、所属していた吹奏楽部で使っていた学校の楽器を壊されたうえ、弁償を強要されたり、文房具を壊されたりしたという。
遺族は、いじめが原因で自殺した可能性があるとして、学校に調査を依頼した。

 市教委は、@教委や学校関係者を中心とした調査委員会と、A外部専門家からなるいわゆる第三者調査委員会の2つの調査委員会を設置。 

 事故調査委員会は2011年9月7日、全校生徒対象に、記名式アンケート実施した(欠席者27名を除いた368名の生徒が回答)。
 アンケートには、 「去る9月1日に亡くなられた、2年生の中村真弥香さんのことについて、アンケートに協力してください。このアンケートは、中村さんのつらさを無駄にせず、二度とこのような悲しい出来事が起きないようにするための手がかりを得ることと、自分の子どもに何があったのか、真実を知りたいという家族の願いにこたえるために実施するものです。 みなさんがこのことを真剣に受け止め、知っていることを正しく誠実に答えてくれるよう願っています。」と書かれていた。

 一方、市教委が設置した事故調査専門委員会 、いわゆる第三者委員会は、メンバー5名の氏名を非公開。
 ・ 事故調査委員会の報告書案を見て、評価を行った。
 ・ 独自に追加して、アンケートや生徒の聴き取り、遺族への聞き取りも一度も行っていない。
 ・ 3回の会合を開いただけで報告書をまとめた。
 このようなやり方をした理由は、「知らない人だと生徒が身構えてしまって本当のことを言わない、遠方から来ている委員がいたので物理的にも生徒と接触を持つのは難しかったから」とする。

 2011年11月末  3か月後、専門委員会は13頁の報告書を提出。
 生徒への聞き取りの結果、「吹奏楽部の部員が離れて座っていた」「ノートがなくなって泣いていた」「楽器を掃除するスワブがなくなって、あとで下駄箱から見つかった」などが挙がったとしながら、いじめを認定せず、学校での出来事が自殺のきっかけか確認できなかったとした。



【アンケート不開示取り消し訴訟】

 当初、校長が遺族に見せると約束していたアンケートを1枚も見せてもらえないことから、遺族が出水市情報公開条例に基づき、事故調査委員会が同中学校の全校生徒を対象に実施したアンケート調査の回答用紙及びアンケートをまとめたものの各写しの開示請求。

 出水市教委は、「開示により、特定の個人を識別することができ、又は特定の個人を識別することはできないが、なお個人の権利利益を害するおそれがあること、及び個人の生命、身体、生活、名誉等の保護に支障を生ずるおそれがあることを理由として、全部不開示とする旨の決定。

 2014年4月4日、遺族が、アンケートを全部不開示とする処分の取り消し及び本件文書の開示決定の義務付けを求め、提訴。

 2015年12月15日、鹿児島地裁、一部認容判決(確定)

【主文】

1 出水市教育委員会が平成26年3月7日付けで原告に対していた別紙請求文書に関する不開示決定のうち、同目録2記載の公文書(ただし、別紙不開示部分目録1及び2記載の部分を除く。)を不開示とした部分を取り消す。

2 出水市教育委員会は、原告に対し、別紙請求文書目録2記載の公文書(ただし、別紙不開示部分目録1及び2記載の部分を除く。)を開示する旨の決定をせよ。


3 本件訴えのうち、別紙請求文書並びに同目録2記載の公文書中別紙不開示部分目録1及び2記載の部分の開示決定の義務付けを求める部分を却下する。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。


【請求文書目録】
1 米津中学校において平成23年9月7日に実施された全校生徒対象のアンケートの回答用紙の写し(ただし、固有名詞をマスキングしたもの)

2 米津中学校において平成23年9月7日に実施された全校生徒対象のアンケートの結果をまとめたものの写し(ただし、固有名詞をマスキング処理したもの)

武田私見

2014年1月15日付けの雑記帳(me140115)でも取り上げたが、生徒向けアンケートは学校や教育委員会が事実調査のためによく使う。
しかし、その結果について、遺族にはほとんど開示されないできた。

それが、大津の第三者調査委員会や、2013年9月28日に施行された「いじめ防止対策推進法」(以下「防止法」)
http://www.jca.apc.org/praca/takeda/pdf/20130921boushihou.pdf
以降は、遺族が見られることが増えてきた。
NPO法人 ジェントルハートプロジェクトの『学校等事件事故の調査・検証委員会についてのアンケート』 詳細版 http://npo-ghp.or.jp/wp-content/uploads/2016/01/GHP_report.pdf
P30 調査委員が特に参考になった資料ベスト5にも、児童生徒へのアンケートがあがっている。

出水市の自殺事件は、2011年9月1日なので、防止法以前ではあるが、教委や学校関係者中心の調査委員会と、外部の専門家からなる第三者委員会を設置する、自殺後間もない時期にアンケート調査を実施するなど、形のうえでは背景調査をきちんとやっているように見える。

しかし、内容はむしろ、第三者委員会が事件に終止符を打ち、ブラックボックスのなかで出した結論だけを遺族に押し付ける昔ながらの「隠ぺいのための第三者委員会」のやり方を踏襲していた。
すなわち、設置に遺族の意見をきかない、委員の氏名を非公開、遺族に聞き取りを行わない、学校や教委の言い分をそのまま認める内容だった。
(雑記帳me141218 参照)

今回のアンケート不開示取り消し訴訟判決で、生徒のアンケート結果をまとめたものの写しは、固有名詞などをマスキング処理したうえで、開示するよう判示された。
開示を認められたこと自体は評価するが、正直、まだ足りない。裁判長は学校・教委の隠ぺいの歴史を知らない。自分たちにとって都合の悪い事実は隠し、差し障りのないものだけを開示してきた。あるいは、平気で言い換えや改ざんをしてきた。学校・教委が一覧としてまとめたものが、果たして本当に正しく生徒の回答を移したものか、原本と照合してみなければわからない。
民事裁判でも必ずのように、原本との照合作業が行われる。それは、改ざんしていないかを確認するため、あるいは自分たちに都合のよい部分だけを出し、不都合な部分を隠していないかを調べるためだ。

出水市は控訴せず、年が明けた2016年1月8日、市教委は、アンケートの回答者の氏名や学年、部活動名など、個人が特定される部分を黒塗りにして、パソコンで打ち直した全校生徒300人分のアンケートを、遺族に手渡したという。
遺族は、改めて自殺の原因はいじめだったとして、第三者による調査委員会の設置を求めている。


なお、子どもの自殺に真摯に向き合ってこなかった鹿児島県では、

2014年1月8日、3学期の始業式の日、鹿児島市立中学校の女子生徒(中2)が登校中に学校近くの集合住宅4階から転落し、頭や腰の骨を折る重傷を負う。転落現場には「もう限界」などと書かれたノートが残されていた。
女子生徒は、担任教師に「クラスメートが見て笑っている」「ちょっかいを出される」など、いじめの被害を受けていることを訴えていた。また保護者も、「集団で悪口を言われた」「座っている椅子を蹴られた」と聞いたと学校側に相談していたという。

2014年8月20日、鹿児島県鹿児島市の県立高校の男子生徒(高1・15)が自殺。
遺族の要望でアンケート調査を行った結果、「かばんに納豆を入れられていた」「(男子生徒の)棚にゴミが入れられていた」「持ち物を隠されていた」などの回答が複数寄せられた。
しかし、学校は「いじめがあったかどうかは分からない」とした。
2015年6月、保護者が「いじめによる重大事態が発生したと思われる」と申し立て、12月17日になってようやく県が第三者調査委員会を設置した。

今度こそ、被害者や遺族の思いに寄り添い、きちんと事実が出てくるような調査を実施してほしいが、すでに不安材料が出ている気がする。 


事件事故後の作文・アンケートの開示をめぐる裁判        2015/12/   武田さち子 作成


【ケース1】 

1991/9/1 東京都町田市立つくし野中学校の前田晶子さん(中2・13)が、母親あてに外から「明日、どうしてもつくし野中学へいかなきゃいけない?」と電話した数10分後、自宅最寄り駅の線路に身を横たえて鉄道自殺。

1993/1/22 学校が生徒たちに書かせた作文の公開をめぐって、遺族が提訴。

1997/5/6 東京地裁で、原告の訴えを棄却。
東京地裁は、「作文は生徒の個人情報」とし、生徒との信頼関係がこわれることを理由に非開示処分。
原告は「この作文は、いじめの実態調査のために書かせた文書だ」と主張したが、裁判長は「そう言い切れない」とした。
一部「作文」の不存在認定。学校が「作文」の開示請求を知りながらそれを廃棄し、その事実を偽って報告したことに対して、裁判所は「極めて遺憾」とした。

1999/8/12 東京高裁で、控訴棄却。
(理由は一審とほぼ同様)

(上記、民事裁判で棄却判決後)
2002/8/13 父親が作文の開示請求を出したあと、母親が作文を処分されないための保険として、作文の開示請求を申請していたことに対し、町田市情報公開・個人情報保護審査会は、「筆跡などから執筆者本人が特定される可能性がある」ことを理由に、請求を棄却する答申を市教育委員会に提出。
一方で審査会は、残っていた作文289点の内容を整理した別紙を答申書に添付して、遺族に示した。
別紙の内容は、筆者が特定される恐れがある部分や真偽がわからない箇所は要約や削除。
「事件、自殺に関して知っていること」「学校の対応についての感想、意見」などの6項目を整理。
審査会は、「自殺から相当の時間が経過したことや両親の心情に配慮して例外的に作成した」と説明。


参照: http://www.jca.apc.org/praca/takeda/number/910901.html


【ケース2】 

1997/1/7  長野県須坂市常磐中学校の前島優作くん(中1・13)が、自宅の軒下で首吊り自殺。「あの4人にいじめられていた」「ぼうりょくではないけど ぼうりょくよりも ひさんだった」などと書いたメモがズボンのポケットに入っていた。

1999/3/2 父親が長野地裁に、公文書非公開非開示処分取り消しを求めて提訴。「学校側は親に対する説明義務があり、個人情報であってもプライバシー侵害のおそれのない本人や親に対する開示は認められるべきだ」と主張。

2000/12/21 長野地裁で全面棄却。
佐藤公美裁判長は、市教委側の主張をほぼ全面的に認め、「情報公開の範囲は地方自治体が自主的に決めるもので、非開示とした処分に違法性はない」として原告の訴えを棄却。
また、開示要求のあったすべての資料を「個人が識別される個人情報」と結論づけた。その上で「市の条例は市民が自己情報を取得する制度ではない。公開にあたってプライバシーの侵害を考慮する規定もない」とした。


参照: http://www.jca.apc.org/praca/takeda/number/970107.html


【ケース3】 

1998/7/25 神奈川県横浜市港南区で、神奈川県立野庭高校の小森香澄さん(高1・15)が、吹奏楽部でのいじめを苦に自宅で首吊り自殺。両親は市青少年相談センターに相談し、香澄さんの生前、カウンセリングなどを受けていた。

民事裁判のなかで、遺族は学校側が女子生徒の死の直後に書かせた「生徒の作文」を請求。
神奈川県は提出できない理由を3つ上げて拒否。
1.作文作成の主旨は、いじめの事実関係を調査する目的にはない。今後の教育指導に役立てるための内部資料として生徒に書かせたもので、主旨が違うから出せない。
2.生徒との信頼関係のもとに教育効果を得る目的で作文を書かせている。元々、第三者に見せることを想定していない。生徒が安心して書けるような配慮をしなければ今後、作文を書かせることができなくなる。
3.作文は作成した生徒のプライバシーにかかわることで、勝手に公開できない。

地裁は生徒の作文の開示請求を却下。原告側が不服申立。
作文の開示のみ独立して高等裁判所で審議。
高裁も、生徒たちのプライバシーや学校との信頼関係を壊すことを理由に非開示決定。ただし、生徒本人の同意があるものに関しては、証拠提出するよう裁判所が命じた。(遺族が個別に手紙で連絡をとって、同意書を送ってもらうことのできた生徒が7名。その中には「いじめ」があったという記述もあった。)

横浜地裁で原告一部勝訴の判決後、東京高裁で、県側が作文の開示を和解条件として出す。「生徒らに書かせた作文について、これらに含まれる女子生徒に関する情報を集約した文書(ただし、個人名及び作成者について判別できないようにしたもの)を作成し、一審原告らに公布する。一審原告らは、この文書の内容を口外しないこと及び第三者に開示しないことを約束する。」という内容を和解条項に入れて、和解成立。
しかし、和解後に開示された作文は、約束していた条件とはかなり異なっていた。


参照: http://www.jca.apc.org/praca/takeda/number/980725.htm


【ケース4】

2007/10/27  青森県八戸市の八戸工業高校の男子生徒(高1・16)が、自宅で自殺。
所属していたラグビー部でのいじめとそれに関連した同部顧問教諭の不適切指導により、睡眠障害や抑うつ症状を発症していた。
2004/4/ 男子生徒はラグビー部顧問の勧誘で同校に入学し、ラグビー部に入部。しかし入部直後から、部内でいじめを受けるようになり、5月には退部を決意。顧問教師に相談したが、「退部するなら退学しろ」と言って引き留めていた。

2011/4/ 両親は、校長やラグビー部の顧問の教師を相手に、慰謝料と逸失利益約7500万円の損害賠償を求めて提訴。

2014/11/ 遺族が県を相手に起こした民事裁判の仙台高裁で、裁判長はプライバシー侵害の恐れはないことと、自殺の動機につながる証拠調べの必要性を認め、県側にアンケートの開示命令。全851枚のアンケート回答のうち、自由記述欄に記載のあった34人分197枚を開示。内15枚について県は「原本を失くした」と説明していたが、その分も含めて開示された。
アンケートの自由記載欄には、「女子がいじめていた。ラグビー部のこもんの先生もいじめていた。自殺した生徒がラグビー部をやめたいと言ったのに、先生はラグビー部をやめるなら学校をやめろと言っておどしていた」「校長先生ももみ消そうとしています」「家に遊びに来た時、『死にたい』と言っていて理由は『部活がやっかい』と言っていた」など、クラスや部活で男子生徒がいじめにあっていた事実や、部活に悩んでいた様子について書かれていた。(2007年に閲覧したときには、いじめについて書かれたものはなかった)


参照: 「先生がいじめていた」いじめの存在示唆するアンケート見つかる 07年の青森県立高生自殺で」
加藤順子さん
http://bylines.news.yahoo.co.jp/katoyoriko/20150515-00045738/


【ケース5】

2011/9/1 鹿児島県出水市で、市立中学校の女子生徒(中2)が自殺。
事件直後に学校側は、全生徒を対象にアンケートを実施した結果、学校・教育委員会は「直接のきっかけとなる出来事は確認できなかった」と結論。
一方、遺族が独自調査をおこない、いくつものいじめの情報を得ていた。
学校の調査でも、遺族側の調査と同様の内容が記載されていたというが、「断片的な情報や憶測・伝聞情報が含まれている」などとして、二次被害を防ぐためにアンケートを非開示にするという。

2014/4/4 遺族がいじめに関するアンケート内容を開示しないとした教育委員会の決定の取り消しを求め、鹿児島地裁に提訴。

2015年12月15日、鹿児島地裁で、アンケートの結果をまとめたものの固有名詞をマスキング処理したものの不開示を取り消す一部認容判決(確定)。

参照: http://www.jca.apc.org/praca/takeda/number3/110901.html


【ケース6】

2011/10/11 滋賀県大津市のマンションから、市立中学校の男子生徒(中2・13)が自殺。

2012/9/7 父親が、男子生徒の自殺後、中学校が行ったアンケート調査の結果をまとめた書面の交付を求めたところ、
@学校長が父親に同書面の内容を部外秘とする旨を確約する書面の提出を求めたこと、
A開示請求対象文書の一部を不開示とする旨の処分をしたこと、
B一部の資料についてその存在すら明らかにしなかったこと
について、慰謝料を求めて、提訴。

2014/1/14 大津地裁で、原告の主張を認める判決。
@原告に対し、安易にアンケートで得た情報の一切を部外秘とする旨を約束させ、原告の予定していた調査を事実上不可能とした
A不開示とすべき事項を限定すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、ほぼ全面非開示とした
B開示すべき資料を開示せず、存在を明らかにすることもしなかったことが個人情報保護条例違反に当たる
として、大津市に慰謝料の支払いを命じた。


参照: http://www.jca.apc.org/praca/takeda/message2014/me140115.html




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