米軍用地強制使用裁決申請事件

同  明渡裁決申請事件

  意見書(三)


 [目次


第九 普天間飛行場

 一 普天間飛行場の概況及び機能

 1 普天間飛行場は、県中部の宜野湾市の中央部に位置し、現在、米軍普天間航空基地 隊の管理の下に海兵隊の飛行場として使用され、その面積は四八三万平方メートルで、同市の全面積の実に約二五・三パーセントを占め、施設周辺は住宅地域となっている。 本施設は、一九四五年米軍の占領と同時に接収され、直ちに本土決戦に備えた飛行場として建設されたが、一九五三年には滑走路の延長やナイキ基地の建設など、基地の拡張強化が図られた。その後、米空軍から海兵隊へ移管され、一九七二年五月一五日の沖縄の施政権返還に際し、普天間海兵隊飛行場、普天間陸軍補助施設、普天間海兵隊飛行場通信所が統合され、普天間飛行場として提供施設となり、現在に至っている。

 本施設は、第三海兵遠征軍の第一海兵航空団隷下第三六海兵航空群のホームベースとなっており、ヘリ部隊を中心として六四機の航空機が配備されているといわれている。在日米軍基地でも有数のヘリコプター基地として、駐留各部隊が任務を円滑に遂行できるよう後方支援体制をとっている。このため施設内には、滑走路(長さ約二八〇〇メートル、幅四六メートル)、格納庫、通信施設、整備・修理施設、部品倉庫、部隊事務所、消防署があるほか、PX、ゴルフ場、クラブ、バー等の福利厚生施設等の設備があって、航空機基地として総合的に整備されている。

 第三六海兵航空群は、本施設に各中隊を配置し、上陸作戦支援対地攻撃、偵察、空輸などの任務にあたる航空部隊として、本施設内で離着陸訓練を頻繁に行っている。

 2 普天間飛行場は、一九九六年四月に発表された「沖縄米軍基地の整理・統合・縮小に関する日米特別行動委員会(SACO)」の中間報告及び同年一二月二日に発表された「普天間飛行場に関するSACO最終報告」において、今後五年ないし七年以内に、十分な代替施設が完成し運用可能になった後、全面返還されることが決定された。 SACOにより移設条件付とはいえ全面返還が決定されたのは、本施設が市街地の中央部に所在し、地域振興を阻害しているのみならず、市民の生命・身体、平穏な生活に著しい危険を及ぼしているからに他ならない。

 このことは、本施設の代替ヘリポートの沖縄県内における建設のために、日本政府が一九九七年一一月五日に発表した「海上ヘリポート政府基本案」においても、政府自らが指摘しているところである。

 また、他ならず本件強制使用手続を申請した那覇防衛施設局長の嶋口武彦氏自身も、次のように述べて、本施設の危険性とその早期返還を強く求めているのである。

 「中南部を中心として多すぎる基地を整理・縮小したいというのが政府の基本的な考え方です。そのためにSACOで最終合意をみました。これはあくまでも基地を整理・縮小したい。そのためには手順・順番が必要。その最大の返還が普天間基地でございます。

 私は七年前、東京から出張しまして、あの嘉数台から普天間基地をみました。われわれはこの基地は絶対だめだと思いました。といいますのは、私はもともと出身は防衛庁でございまして、もう二〇年以上前になりますけど、昔の参謀本部の部員という形で航空自衛隊の作戦・運用をしてきました。そのさい半年間、徹底的に航空事故の調査をしました。そのあと施設庁で騒音対策にとりくんできました。

 その経験からてらして、これはとんでもない飛行場だと思いました。同時に、あの町のなかを広大な飛行場が占め、ひしめくように人家がある。同じ日本人として許しがたいと思いました。そういうこともあって私は普天間基地の返還というのは七年前からずっと追求してきたテーマでありました。」

(一九九七年一二月二一日に実施されたキャンプ・シュワーブ沖での海上基地建設の是非を問う、名護市民投票の選挙運動期間中に、名護市在の宮里公民館において開催された建設賛成派主催の農民決起集会において挨拶した同局長の発言)。

二 駐留目的を逸脱した海兵隊施設のための本件使用認定の無効性

 普天間飛行場は、前記したように第三海兵遠征軍の第一海兵航空団隷下第三六海兵航空群のホームベースとして、在日米軍基地でも岩国と並ぶ有数のヘリコプター基地として、在日米軍の海兵隊施設の中核的役割を担っている。

 海兵隊は、独自の航空機で相手陣営を攻撃しながら、上陸部隊をヘリコプター等で相手方へ深く進入させるための水先案内をする部隊で、もっぱら攻撃や侵略をその本来的任務とする軍隊であり、我が国の防衛とは無縁であること、従って、安保条約の駐留目的を逸脱する存在であるから、海兵隊施設のために土地等を提供するための使用認定は、米軍用地特措法に違反し、重大な瑕疵が存する場合として無効であることは、既に指摘したところである(意見書(一) 、第五、三参照)。

 従って、海兵隊施設である普天間飛行場の用地へ提供するための本件使用認定は重大な瑕疵が存する場合として無効であるから、これらの各土地に対する本件裁決申請は違法として却下されるべきである。

三 有機的一体性の欠如による本件使用認定の無効性

 有機的一体性を欠如する土地を提供するための使用認定は、客観的必要性を明白に欠く場合として、それが無効であることは意見書(一) 、第五、二において述べたところである。

 本施設内の土地のうち、安里義弘所有地、桃原富徳所有地、天久仁助所有地、一坪反戦地主ら所有地は、いずれも飛行場地区の保安緩衝地帯用地として使用され、その使用目的を継続するために本件使用認定がなされたものである。保安緩衝地帯とは航空機の運行に伴う安全を図るために、建造物等の高度制限がなされる区域のことをいうとされている。

 確かに、航空機の運行に伴う安全を図るため、ある一定区域にわたり建造物等の高度制限がなされることは首肯しうるところであるが、右各土地と着陸帯との位置関係(着陸帯の延長線上か側面か)及び距離関係(着陸帯からどのくらいの距離にあるか)を考慮すれば、保安緩衝地帯用地として右各土地を使用認定する客観的必要性はないといわざるをえない。

 すなわち右各土地のうち、安里所有地は着陸帯の北東側に位置し、着陸帯の長辺の外縁から約七二〇メートルの距離で、施設内外を区分するフェンスの内側約一五メートルの位置に所在している。桃原所有地は、本施設内の南西側に位置し、着陸帯の南端から約二三〇メートルの距離で、フェンスから約一〇メートルの位置に所在している。天久所有地及び一坪反戦地主ら所有地は、いずれも尻尾状となった本施設内の南先端部で滑走路の延長線上に存し、着陸帯の南端から約五三〇メートルの距離で、フェンスからわずか約二メートルの位置に所在している。

 ところで、一九六二年以来、本施設に属する土地の一部が地主に返還されてきているが、一九六二年六月三〇日に返還された土地は滑走路の延長線上に存し、着陸帯の北端から約三〇〇メートルの距離しかなく、また一九六三年八月一五日に返還された土地のなかには着陸帯の側面西方に位置し、着陸帯の長辺の外縁からわずか約一七〇メートルの距離しかない土地も存している。これらの土地も返還前は本施設の保安緩衝地帯用地として使用されていたものである。それにもかかわらず、地主に返還されたということは、それらの土地が保安緩衝地帯用地としての客観的必要性に欠けていたからに他ならないことを意味している。

 このように既に返還された土地が保安緩衝地帯用地としての客観的必要性を欠如していたというのであれば、これらの返還地と着陸帯との位置関係及び距離関係との対比から言って、右各土地もまた保安緩衝地帯用地としての客観的必要性を欠如するものといわざるをえないのである。

 従って、右各土地が返還されたとしても、普天間飛行場の基地機能にはほとんど影響はなく、施設全体としての機能が必然的に喪失状態に陥ることは到底ありえないことである。

 よって、右各土地に対する本件使用認定は、有機的一体性を欠如した土地に対する使用認定として重大な瑕疵が存する場合であるから、無効だといわざるをえない。

四 適正且つ合理的要件の欠如による本件使用認定の違法性

 1 使用認定の要件である米軍用地特措法三条にいう「適正かつ合理的」とは、土地等 の提供の必要性が高く、かつ右提供により得られる公共の利益がこれにより失われる利益に優っていることを意味するものであることは、意見書(一)、第五、一において述べたとおりである。

 普天間飛行場は、宜野湾市の中央部に位置していること、同市の全面積の約二五・三パーセントを占めていることは前述したとおりであるが、人口約八万二〇〇〇人からなる宜野湾市は、本施設を取り囲みドーナツ状に市街地が形成され、三万人以上の住民が本施設に隣接して居住し、大学、小中学校の文教施設も隣接して存在している。

 このように住宅密集地域に存する本施設は、以下に述べるように航空機騒音、航空機墜落事故、道路交通網の遮断による市民生活上の不利益、地域振興上の障害等によって、地域住民に多大な被害を蒙らせているばかりか、宜野湾市の健全な地域開発を著しく阻害し、公共の利益に重大な危害を及ぼしているのである。

 2 航空機騒音

 在日米軍基地でも有数のヘリコプター基地となっている本施設は、昼夜を問わないヘリコプター等の軍用機の離着陸及び住民地域上空の飛行に伴う爆音によって、身体的・精神的な深刻な被害を地域住民に恒常的に与え、生活環境を著しく悪化させ、受忍限度を越える騒音被害を発生させている。

 沖縄県環境保健部で実施している一九九一年度の調査結果によると、概ね本施設の進入表面となっている字野嵩で平均値八〇・五WECPNLを記録し、基準値の七〇WECPNLを大幅に上回っている。

 また、本施設と隣接している普天間第二小学校においても平均値七八・三WECPNLが測定されている。特に一九九二年七月の宜野湾市の調査結果によると、一月間で七〜一九時の間に七〇デシベル以上の発生回数が一三四七回も記録され、学校の授業及び住民生活に大きな支障をきたした。

 周辺住民は常に騒音被害に悩まされており、その解消のため住民地域上空の飛行及び夜間飛行を禁止する等の騒音緩和措置をとるよう、あらゆる機会を通して働きかけているところである。

 ちなみに、前記した「海上ヘリポート政府基本案」(以下、政府案という)において、本施設の航空機騒音に関して、「密集した市街地に囲まれていることから、飛行場周辺の約一〇、〇〇〇世帯が『航空機騒音に係る環境基準』(環境庁告示)に定める基準値を超えるWECPNL七五以上の騒音の影響下にある。」と述べられており、被害の深刻さ、規模の大きさを、政府自らが認めているのである。

 3 航空機事故

  本施設における航空機の飛行回数は、土曜日、日曜日、祝祭日を含めても、一日平均で一三六回に達しており、所属部隊の航空機の墜落及び不時着等の事故が多発し、住民地域と密接しているため危険極まりないものであり、いつ大惨事を招くかわからない状態にある。

 本施設に所属する航空機事故等の発生件数は、復帰以来一九九二年一〇月末現在で固定翼機五件、ヘリコプター四四件、計四九件にものぼっており、県内米軍航空機事故等発生件数一〇六件のうちの約四六パーセントを占めている。

 施設内でも一九七二年一二月四日、沖縄国際大学の校舎建設現場におけるOV−ブロンコ観測機からの燃料タンクの落下事故、一九八〇年一〇月二日のOV−ブロンコ観測機の滑走路における墜落・乗員死亡一名、一九八二年八月一九日のUH−1ヘリコプター機の飛行場内部における横転大破、一九九二年一〇月二〇日のUH−46ヘリコプター機の滑走路における横転大破と、これまでに固定翼機二件、ヘリコプター二件、計四件の事故が発生している。

 このように地域住民は、常に戦闘性を優先させ安全性を軽視された軍用機の墜落事故の不安に脅え、危険にさらされた生活を余儀なくされているのである。

 政府案において、「航空機の運用に係る安全性」の項目のもとに、本施設は「航空機の場周経路及び飛行場への出入経路を住宅地域上空を避けて設定することができないため、事故発生時の危険性は大。」との指摘がなされている。

 4 市民生活上の不利益

  本施設は、宜野湾市の中央部に位置するため、周辺集落間の道路交通網が遮断され、そのため周辺道路は交通渋滞が常態化し、住民及び県民は時間的、経済的、精神的に大きな不利益を蒙っている。

 政府案において、「市民生活への影響」の項目のもとに、本施設は、「飛行場が市街地の中央部に位置するため、道路、公園、下水道等の都市基盤施設の適正配置ができず、都市機能が分断され、効率的で均衡のとれた街づくりに大きな支障。基幹道路の不足による交通渋滞や、大きく迂回することによる市民の負担も大。」との指摘がなされている。

 5 地域振興上の障害

  宜野湾市の中央部に位置し、同市の約二五・三パーセントという広大な面積を占める本施設は、同市の健全な都市開発の最大の障害となっており、地域振興の上でも重大な支障をきたしている。

 このことは、政府案において、「飛行場が所在する宜野湾市は、沖縄本島中南部地域の中心部に位置し、地域開発上重要な位置を占めている。北の宜野湾市中心街、南の住宅街、南東方の学園地域を分断している飛行場は、開発可能な貴重な空間を占めており県の国際都市形成構想においても中核的な位置づけ。」と述べられていることからも明らかである。

 6 全面返還の決定と跡利用計画の策定

  宜野湾市及び市議会では、本施設から発生する基地被害に対してその都度抗議を行うとともに本施設の返還を強く求めており、沖縄県としても数度にわたる知事訪米はじめあらゆる機会を通して、日米両政府に対し、早期返還を要請していた。その結果、前記のとおりSACOの中間報告及び最終報告において二〇〇一年から二〇〇三年以内に本施設の全面返還が決定されたものである。

 宜野湾市においては、一九九〇年一〇月に跡地利用市民フォーラムを、一九九二年二月には青年フォーラムを開催し、このフォーラムの分析に基づき、現在、跡地利用基本構想の策定作業を進めている。

 また沖縄県は、夢のある自立できる沖縄を創ることを目指して、二一世紀のグランドデザインである国際都市形成構想を策定しているが、本施設の跡地利用はその中核的位置を占めている。

 宜野湾市及び沖縄県の跡利用計画は、右全面返還の決定に伴い、その具体化がなされつつある。

 7 以上のように、本施設は、日本政府や那覇防衛施設局長も認めているとおり、危険 極まりない飛行場として地域住民及び県民に多大の被害を与え、地域開発の癌となって住民及び県民福祉を著しく侵害している。右全面返還の決定は、とりもなおさずその証左であり、まさに本施設の除去こそが公共の利益を増進せしめる途である。

 従って、本施設内の各土地をこのような本施設の使用に供することは合理的な土地利用とは認められず、本件使用認定が「適正かつ合理的」要件を欠如した違法なものであることは明らかであるから、本施設内の各土地に対する裁決申請は却下すべきである。


出典:反戦地主弁護団、テキスト化は仲田。


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