Political Criminology

I 初期システム論

 オートポイエーシス論が登場するまでのシステム論は、主に化学、物理学を中心に展開された。特に初期システム論は、全体の性質をその要素に還元し得るとする要素還元主義への批判として表れた。その特徴は、外部との交通を確保する開放系の要素相互間の関係に着目する点である。

ホメオスタシス論

 システム論は、要素還元主義を乗り越えるために有機構成(Organisation)の概念を持ち出したことで、その独自の意味を持ちはじめた。すなわち有機体は「各要素の独特の構成関係を示しつつ」「開放系として、外界と物質代謝、エネルギー代謝をおこないながら自己を維持する」。これが動的平衡システムであり、システムを外界との入出力、内部の恒常性という二つの面で語ろうとしている。

 生命システム論の草分であるキヤノンは、「ホメオスタシス」の概念によって(「からだの知恵」1932)生命システム(当初は人間システム)には「恒常性維持」の機能があり、これによって生命体は「変化はするが相対的に定常的な状態」を保ち得ると考えた。

 すべての複雑な組織だった系が、多かれ少なかれ効果的な自動的補償機構を持っており、組織にひずみが生じたときに、その機能がとまったり、その部分が急速に分解するのを防いでいることがきっと明らかになるだろう(「からだの知恵」1932)

 キヤノンはこの着想の淵源をヒポクラテスの体液論に結び付けているが、ヒポクラテスやガレノスがもとづいたとされる体液論(黒胆汁、黄胆汁、血液、粘液のバランスによってからだが保たれているという説)は彼らの症状観察主義を根拠づけるための作業仮説であり、はたしてギリシャの先賢たちが「自己治癒力」を強調していたかどうかは疑問である。さらに、最近のヒーリング(自己治癒)ないしホロニック医学の論者(主に米国を中心とする)が、精神や環境の身体に対する影響を強調し、その淵源をヒポクラテスにまでさかのぼらせる傾向があるが、いささか牽強付会の感想をぬぐい得ない(例としてロック=コリガン、池見訳「内なる治癒力」創元社 1986:ただし著者たちが提案している中枢系の免疫系に対する影響力というPNI−精神神経免疫学−のテーマそのものは、神経薬理上の問題として検討に値する)。

ホロン

 要素還元主義に対する批判としてのシステム論は、全体主義にも組みし得ない。システム各構成要素の相互関係、各システム相互の関係こそがシステム論の考察対象だからである。本来、システム論は関係性を問題にするのであって、その点では全体主義と要素主義の対立にはしばられない。しかし、伝統的な全/個視点での立論にとらわれた場合、各システム相互の関係がいかに全体と結びつくかという問題に直面することになった。

 例えば、ケストラーが提案した「ホロン」という概念は、次のように説明される。

 全体論者は「全体」または「ゲシュタルト」という語を完璧でそれ以上の説明は不要なものとして用いる傾向がある。だがこのような絶対的な意味の全体や部分など、生物の分野であれ社会組織の分野であれどこにも存在するわけがない。われわれが見いだすのは順次複雑性を増していく一連のレベルにおける中間的構造であり、そのそれぞれが逆方向に向けた二つの顔をもつ−下位のレベルに向けた顔は自律的全体であり、上位に向けた顔は従属的部分である。私は別のところでこのヤヌスの顔をもつ亜集合体に対し、全体を意味するギリシャ語のホロスに粒子や部分を示す接尾辞のオンをつけた「ホロン」という語を提案した。(「還元主義を越えて」)

 上位、中位、下位のシステムを構想し、そこに関係性を認める限り、中位のシステムには全体と部分の両者の面がある。自明である。現実にはシステム論はさらに複雑な階層性を前提とするから、このホロンはほぼ全てのシステムに共通の性格となる。したがってケストラーのいうホロンという概念は、システム論の立場からいえば、システム相互間の関係、ということの表現にすぎない。問題は、実際にどのような関係が結ばれているかである。しかし、初期のシステム論では、この関係性を解明する手段は乏しいといわざるを得なかった。各システムの入出力による相互作用と恒常性維持による現状追認では、システム自体の変容を説明しきれるものでもなかった。そこで次には、システムの自己組織化に着目した説明が登場する。

 自己組織化という理解は、システム論を関係論としてよりもむしろシステム生成論として位置づけた。一定の確率で発生するゆらぎが新たなシステム構成を生む契機となるとするものである(特にプリゴジヌ)。あるシステムで発生した変容は、相互に関連し合う各システムにも広がる。これによって平衡性システムは崩れ、システムは自己自身の変容をシステム自体の性質として内部に持つことになる。このシステムが自己のうちに自己の変容の契機を持つことという発想が、次の自己言及というシステムの理解に連なっている。

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    Criminological Theory Autopoiesis and Law

    「オートポイエーシス論」の法学分野への応用

  1. 初期システム論
  2. 自己言及:論理学の立場
  3. 法の自己言及性
  4. オートポイエーシス論
  5. まとめ:法学分野でのオートポイエーシス論の可能性
  6. 引用、参考文献
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