『湾岸報道に偽りあり』(49)

第三部:戦争を望んでいた「白い」悪魔

電網木村書店 Web無料公開 2001.6.1

第八章:大統領を操る真のアメリカ支配層 5

地球改造を計画する日米連携開発財団「GIF」

 ベクテルは、オフィス・オートメーションでも世界の先端を走っている。強力なコンピュータ・システムで全世界の支店網を掌握し、最新データの集積につとめている。しかもベクテルは、会社機能を越えたブレイン集団を駆使している。シンクタンクとして世界的に有名なスタンフォード研究所はベクテルが中心になって創立したものであり、ベクテルのためにアルジュベールの開発可能性だとか、インドネシアの工業化のための青写真作成だとか、すでに数多くの調査を行なった実績を誇っている。

 建設業だから、もともと青写真は商売道具である。その上たとえば、一九九〇年三月には日本でも、新宿にインフォメーション・テクノロジー部門のアジア支部を開設し、コンピュータ設計のデータによる三次元アニメのソフトまで売り出している。通称「三次元キャド」の一種だが、なんと、三二〇万から七二〇万円もする超々高級ソフト。アニメの建物や町の中を歩き回って、あらゆる位置から眺める感覚のシミュレーションができる。画面を見ながらの設計変更も自由自在だという。「未来戦略」の研究は、まさにお手のものといわなければならない。コンピュータ・グラフィックスによる「地球改造計画」が、あたかもSFの多元宇宙の未来物語のように、あらゆる可能性を折り込んで作られているに違いない。

 同じく一九九〇年には、一件で百億ドル規模の超大型開発事業の実現を目指し、日本国内に「日本GIF(グローバル・インフラストラクチャー)研究財団」が発足した。米国ではカナダの産業界も参加する「北米GIFクラブ」が規模を拡大し、日米の提携を強化する計画だが、このクラブの会長はベクテルの副社長にほかならない。

 ベクテルは「反共」だが、「親アラブ」で「反イスラエル」の立場を取っていた。しかし一方では、「レーニンも親友だった」と称するユダヤ系の富豪アーマンド・ハマー(故人)と組んで、シベリアのパイプラインを手掛け、そのためには米ソの雪どけ工作にまで資金を投じた。アラブが求めに応じたイスラエル・ボイコットへの協力では、法務省から告発を受け、妥協の姿勢を示した。中国での原子力発電所建設にも乗り出した。ナポレオン以来の夢だったユーロトンネル、新パナマ運河計画、マレー半島を横断する第二のマラッカ海峡、などなど、ベクテルと日本企業が一緒に関係する巨大プロジェクトも、枚挙にいとまがない状況だ。日本のカネも大いに動いている。

 ポスト冷戦、ポスト湾岸ともなれば、これから先も、まだまだ意外な政治的展開が見られるであろう。たとえば元米上院議員で上院外交委員会委員長だったJ・W・フルブライトは、「私の履歴書」(『日経』91・5・24)の中で、ジョンソン大統領との「訣別」前後の事情を、こう語っている。

「ジョンソンがベトナムの早期決着を図るつもりだったのは確かだ。米国が南ベトナムを支え、北からの侵略をはね返す。北が降参したところで直ちに米国がメコン川の治水事業に巨額の資金を投じて、流域一帯の地域開発を促す。米国で進めている『偉大な社会』づくりを輸出し、インドシナ半島の安定を目指す・・・そんな夢物語を何度か聞かされた」

 ブッシュ大統領の湾岸戦争に関しても、いつの日か同じような有力者の回想を聞きたいものだ……などと夢想していたところ、実際に、次のような巨大アドバルーンが打ち上がり、いささか驚きを禁じえなかった。


(50) 中東和平会談の裏に潜んでいた砂漠の「水争い」