『湾岸報道に偽りあり』(46)

第三部:戦争を望んでいた「白い」悪魔

電網木村書店 Web無料公開 2001.6.1

第八章:大統領を操る真のアメリカ支配層 2

資金豊富な政権共和党と議員数でまさる民主党

 もうひとつ、アメリカの政治を語る際、絶対に無視できない問題は、共和党と民主党の熾烈な政権争いである。特に、裏面の謀略とカネの動きは日本と同様、もしくはそれ以上に凄まじい。

『パワー・ゲーム』(副題・変貌するアメリカ政治)によると、より保守的で反動的な「共和党のカネ遣いは民主党政権を着実に上回っている」。一九八六年の連邦議会選挙で共和党は二億五四二〇万ドル使ったが、民主党は六二七〇万ドル。共和党の資金は民主党のおよそ四倍である。ところが、一九五五年以来の議員数を見ると、一九八一年から一九八七年の間だけ上院で共和党が優勢だが、その六年間以外は上下両院とも議員数では民主党が優勢である。つまり、共和党政権にはトップだけ確保という無理があり、それを金権政治が支えているのだろう。

 アメリカでは十八歳から選挙権があるものの、住民登録で自動的に選挙権の手続きが行われる日本と違って、自分で有権者登録手続きをしないと、実際には選挙権を得られない。黒人の「公民権運動」が報道されたのはつい最近、一九六〇年代のことだったが、当時は、有権者登録への暴力的な妨害が白昼公然と行われていた。今でも様々な妨害、事務的な不便さがあるようだ。そのため、あれほど世界中に「民主主義」を押し売りする国にもかかわらず、有権者登録は七割以下で、しかも少数派や低所得層ほど登録率は低い。投票率も五〇%前後。つまり、有権者全体の三五%前後の投票率である。

 その上、大統領選挙はまず代理人を選ぶという方式だが、これが州ごとの小選挙区制で、一票でも多い方が州の定員のすべてを確保できる。いきおい、豊かで人口の多い大都市を抱える大選挙区の票が、決定権を握ることになる。たとえばニューヨーク州では、人口比率は約一割で高所得のユダヤ系市民が、有権者登録では約二割、しかも選挙熱心で政治献金の太いパイプを握っているといった具合。意外にも、非常に歪んだ金権的政治支配になっているのだ。

 ブッシュ大統領再選に向けて、「ユダヤ・ロビー」との対決姿勢が伝えられているが、陰ではすさまじい暗闘が続いているに違いない。

 もちろん、献金には日本と同様、裏街道がある。元共同通信ワシントン支局長の仲晃は、『アメリカの選択 ジョージ・ブッシュの挑戦』で、こう書いている。

「選挙資金規制法を縦横にかいくぐって個人や組織からの献金が行われる……このカネは政界やジャーナリズムで『ソフトマネー』(柔らかいカネ)と呼ばれているが、ニューヨーク・タイムズの社説は怒りをこめて『こんなものをソフトマネーなどと(上品ぶって)呼ぶのは止めよう……。スーアーマネー(くさいカネ)と呼ぶのがもっともふさわしい』ときめつけている。スーアーは下水道の意味である。……ソフトマネーを一番気前よく出したのが八八年は石油業界……」

「八八年」というのは、ブッシュが大統領に初当選した年のことである。ブッシュが副大統領候補でレーガンが大統領に初当選した一九八一年にも、似たような献金状況があったらしい。というのは、翌年の春に、「スーアーマネー」の氷山の一角があらわれたからである。

「石油・天然ガス業界の主要企業が結成した『政治行動委員会』が、昨年の議会選挙で六百万ドル以上の政治献金を行い、″ヒモ付き議員″の当選に奔走していた事実が、民間団体の調査で明るみに出た。……昨年秋の大統領、議会選挙では、特定利益を代弁する特定議員当選のため献金活動を全国的規模で展開する政治行動委員会のハデな動きがかつてなく目立ったが、石油ガス業界の政治行動委は中でも際立っていた、という」(『日経産業』81・4・13)

「石油業界」または「石油ガス業界」、別名「石油マフィア」、ベクテルが行動部隊、軍隊でいえば工兵隊の役割を勤める業界である。「裏議会」ことボヘミアン・キャンプでの決定は、こうした形で実践されたのだ。


(47) ベクテル出身閣僚が四人も出た裏に原子力利権