『湾岸報道に偽りあり』(34)

第三部:戦争を望んでいた「白い」悪魔

電網木村書店 Web無料公開 2001.4.1

第六章:謎の巨大政商とCIAの暗躍地帯 3

不勉強なマスコミと日本の政治家

 ブッシュとCIA、そしてCIAとアラブ諸国との関係については、ありあまるほどの材料がある。筆者の手元にも、日本語で書かれた十数冊の単行本と、数十本の雑誌や新聞の記事ファイルがある。日本人の研究者による文章もたくさんある。

 だが、日本のマスコミは今回まるでCIAの動きを報道しなかった。なぜだろうか。

 確かに、CIAの活動の目玉は秘密工作だから、日常的な報道の対象にはなりにくい。だが、マスコミの現場にいる友人知人に問いただしたところ、意外な事実がわかった。いや、考えてみれば少しも意外ではなかったのだが、彼らは異口同音、CIAに関する単行本を読んだことがないというのである。雑誌や新聞の記事は見たような記憶があるが、コピーやファイルなどはしていない。資料室やデータ・バンクで調べようと思ったこともない。要するに、外電や衛星中継で送られてくるのを、受身で垂れ流しているに過ぎない状態だったのである。

 それにしても、いかにミニコミ状況とはいえ、単行本は、何千冊かは売れなければ商売にならない。翻訳にしろ日本人が書いたものにしろ、日本国内に何千人かの読者がいたはずなのである。そこでハハーン、やはりそうか、と思い出したのは「通産省の中堅官僚がひそかにCIAを研究中」という「霞ヶ関情報」であった。日本でいちばんCIA情報を知る必要に迫られているのは、海外でアメリカと摩擦関係にある「業界」なのだ。役所なら通産省、民間企業なら商社。その中堅幹部だけでも優に数千人の読者は確保できる。マスコミや政治家が一向に勉強しなくても、中小出版社の商売は十分に成り立つのである。

 報道のきっかけが全然なかったわけではない。クウェイトとCIAの対イラク工作密約文書があった。『週刊ポスト』(91・1・4/11)では、写真報道家の広河隆一が詳しいスクープを放っている。だが、大手マスコミばかりか、雑誌でもこれを追わなかった。少なくとも真偽論争ぐらいはすべきだったのに、皆、腰を引いてしまった。ケネディ大統領の報道官だったサリンジャーが『湾岸戦争 隠された真実』(日本語訳発売は91・4・12)に収録したので、やっと取り上げた雑誌が二、三冊。その頃には、日本国民は百数十億ドルもぎ取られていたし、戦争も終わっていた。急場の役に立たない、とはまさにこのことである。


(35) CIAとアメリカの中東政策