『読売新聞・日本テレビ グループ研究』(2-7)

第二章 ―「背景」 7

―国会を愚弄するテレビ電波私的独占化競争の正体―

電網木村書店 Web無料公開 2008.4.25

国会答弁のオリンピック競争

 一九八○年モスクワ・オリンピック競技大会の放送権問題に関する件、という議題で、参議院逓信委員会が開かれた。

 モスクワ・オリンピック大会の放送権を、テレビ朝日が獲得したため、NHKは面目まるつぶれ。ほかの民間テレビ・ラジオ局も、面白かろうはずほない。

 参考人は一三人よばれたが、まさに呉越同舟、それぞれの答弁が相手を意識していて、皮肉もまじる。民放テレビからは、民放連(業者団体)代表として日本テレビの小林社長、テレビ朝日からは三浦常務が出席した。集中砲火は、テレビ朝日(NET)の三浦常務にあびせられている。

○案納勝君 ……(略)……わたしは、NETの企業のエゴで、まさに電波を私物化している、企業競争ということだけしか頭にない。この中には放送界の自律性も、秩序も、モラルもない、こういわざるを得ないと思うんです。その背景は、まさに放送の独占集中化、系列化、この一連の中で、視聴率を上げるためには手段を選ばないという、たとえばアメリカの映画でネットワークという映画が問題になっています。殺人までやるという。このNETの今回の独占劇は、わたしにいわせるならば、まさに、本質的に同じストーリーだと思うんです。……(略)……

 その背景に朝日新聞があり、あなたは関係ないというけれども、ここに役員名簿や出資の額やらありますが、表向きは一○%になっていても実質は二○%を超しているじゃないですか。また、わたしは全国紙五紙にも同じことがいえると思います。四八年一〇月のチャンネルプランの変更から、あるいは一一月一日の再免許処理の問題をめぐって、民放の系列の再編成という事態を迎えて、そしてNETの全国朝日テレビという社名変更等をネックにして、いま視聴率の合戦や、シェアの拡大競争、広告費の争奪戦というのが、実は日を追って激しくなる中で、今回のモスクワのオリンピック放送権という問題をめぐってNETが独占をし、抜け駆けをし、相手方のまんまとした分裂工作の上に乗って、価格のつり上げをやる。国民の利益を裏切るような、わたしは行為になってきたというように、噺理解をせざるを得ないのであります。……(略)……

○参考人(三浦甲子二君) ……(略)……ネットワークというお言葉がございましたが、民間放送の私どもには、ネットワークというようなものは認められておりません。したがって、これからのことですが、(「きれいごとをいうんじゃないよ」と呼ぶ者あり)きれいごとだというふうに御理解願ってもしようがないですが、私は信念にもとづいて1新聞社とは違います。独立した放送会社です。免許をされている放送会社でございます。その点はひとつ、皆さんにも御理解いただきたい。株の数、それから役員のことで、朝日新聞の何か、要するに下部組織みたいなもののいい方は、非常に迷惑な話で、私に対する、テレビ朝日の全社員に対する侮辱です。そういう意味で、私が契約してまいりましたのは、放送法にも、それから放送の免許基準にも合致しておるというふうに、深く信念を持って考えています。(『参議院・逓信委員会議事録』一九七七年四月一九日、一八-二四頁)

 このように、テレビ朝日の三浦常務は、もっともらしい答弁で逃げた。しかし、逃げながら認めざるをえなかった点も、いくつか挙げられる。

ひとつは、さきにもふれたが、「ネットワークというようなものは認められておりません」というタテマエである。これは、法的には、番組の販売という形式しか認められていない点を指しているのである。

 もうひとつは、「新聞社とは違います。独立した放送会社です。免許をされている放送会社でございます」という点である。免許の条件からして、そうでなければならぬということを認めているのである。

 ここまでは、それでも、いわゆる国会答弁としては、ごまかし上手のうちにはいる。ところが、三浦常務のプライドは、大変に傷つきやすかったらしい。そして、こののちに『週刊文春』のインタビューで、憤懣をぶちまけてしまったのである。

○阿部未喜男君 ……(略)……たとえば週刊誌などのインタビューなどで、この委員会でなかったようなことまで敷衍をされるということになりますと、国会の権威の上からもきわめて不名誉でございます。……(略)……週刊文春が三浦常務にインタビューをなさっておりますが、そのインタビューの記事はおおむね間違いございませんか。

○参考人(三浦甲子二君) 間違いありません。

○阿部未喜男君 ……(略)……特に、最後の方にこういうところがございます。「だから、よっぽど参議院の逓信委員会で、社会党の議員にいってやろうかと思ったよ。『ここにいる小林民放連会長は、日本テレビの社長だけど、NTVがどのくらい読売の支配下にあるのか、説明してもらいましょう』とね。実際、シャクにさわったから二度ほど怒鳴ったんだ。いまの言葉はテレビ朝日社員に対する侮辱だと心得ておく――と」とお述べになっておられます。……(略)……

○参考人(三浦甲子二君) どなったというあたりは、要するにその記事の書き方だと思います。(同前一九七七年一一月一六日、六頁)

 ここでもやはり、テレビ朝日の本音がでている。三浦常務は、質問者の議員だけでなく、委員会での「呉越同舟」の相手である小林社長に対しても、きっと、「シャクにさわった」にちがいないのである。読売新聞と日本テレビの関係の方が、朝日新聞とテレビ朝日の関係よりも、数段とすすんでいるのだし、それを棚上げしたまま、自分だけが責められるのでは、不公平だと感じたにちがいないのである。

 その憤懣のとばっちりは、その上、NHKに対しても、とんでいた。

 「ぼくのところはこれからは、まったくNHKのお世話になってないから、受信料値上げや、不払い運動の実態もやるよ。……(略)……NHKの受信料のとり方は憲法違反だと思っているからね。公平じゃないんだよ」(『週刊文春』一九七七年五月一九日号、三五頁)

 この三浦放言は、しかし、政治的にはシロウトというそしりを免れない。

 小林与三次は、その点、さすが元内務官僚である。さきの逓信委員会の席上では、当の三浦甲子二の鼻先で、この問題を官僚上りの答弁技術により、柳に風と受け流してしまったのである。それは、二院クラブの青島幸男議員からの質問に対する答えであり、要点はつぎのとおりである。

○青島幸男君 ……(略)……現在のような争い事ができたのは、もともとはといえば、ネット系列化ということが大変深刻になってきた一つのあらわれだというふうに、感じておりますけれども、……(略)……理想の姿というのも、あわせて承れれば、大変理解が行き届くと思いますけれども、お願いします。

○参考人(小林与三次君) あんまりむずかしくて、何とも答えようがありません。(『参議院・逓信委員会議事録』一九七七年四月一九日、三九頁)

 ああ、なんと、簡潔かつ完壁な官僚答弁であろうか。なにが、「あまりむずかしくて」、であろうか。

 小林与三次にとって、これほどしゃべりでのある題材は、またとなかったのである。ほうっておけば、何時間でも、しゃべりまくるネタなのである。ここでは省くが、いずれ、国会に全証拠を提出せねばなるまい。それほど大量の演説の記録が、『社報日本テレビ』などに溢れているのである。

 象徴的な記事だけを紹介しておこう。

 小林与三次の日本テレビ乗りこみの半年後、『社報日本テレビ』は、小林と読売テレビ社長岡野敏成(元読売新聞人事課長)の「新春放談“N・Yよ、もえろもえろ”」を特集した。Nは日本テレビ、Yは読売テレビの略称である。

 そして、組合ニュースは、この放談を六名の重役クビキリと結びつけて、つぎの記事にしていた。

 「六人の社内役員、それも日本テレビのたたきあげ重役が一挙にクビをきられる。そして、さらに……?……(略)……

 この目前の大ドラマ、または『時代錯誤の田舎芝居』の演出者はダレか? このドラマの成功によって利するものはダレか? その背景と法則は?

 A N・Yよ、もえろ、もえろと○○いい

岡野 ……大きな読売コソツェルンの中の一環としての企業のあり方……
小林 ……日本テレビ、読売テレビと東西の読売新聞が一緒になる。……
岡野 ……まずN・Yで足固めをして進まなかったならば、必ず紛議を起しますよ。……日本テレビ系列の中には、なかなかうるさいのが多いから…… (社報・日本テレビ、一月二〇日号より)

 この新春放談なるものをよく読むと、YTV岡野社長がNTV小林社長に対して、『なにごとも先輩の俺に相談しろよ」、と釘をさしている雰囲気が強い。ガタピシとはいえ、よこぐるま型の労務政策でもYTVは先輩である。YよりNへ、逆ネットされてくる『反動の炎』の色は何色か」(『闘争ニュース』一九七一年五旦三日号)

 以来数年が経過。読売グループは、着々と系列支配の実質を固め、しかも、より露骨なネット協定、よりはげしい一体化の発言が積み重ねられてきたのである。


(第2章8)隠然たる第四勢力“財界テレビ”