『読売新聞・日本テレビ グループ研究』(1-6)

第一章 ―「現状」「現状」 6

―正力家と読売グループの支配体制はどうなっているか―

電網木村書店 Web無料公開 2008.4.25

小林社長の無血クーデター

「『ヤットルとは聞いていたが、メカケの金まではとは許せない!』という声もある。『いままで重役というのは人格者だ、エライ人だと思いこんでいだ。これほど腐敗しているとはおどろいた。これからはまず疑ってかからなくては……』という若者の憤りの声もある。『だいたい株式会社のテイをなしていないんだ。正力会長のカゲにかくれて自分のフトコロをこやすことしか考えなかった連中に、経営ができるわけがない」という部長クラスの絶望的な怒りの声もある。

 ……(略)……重役陣の腐敗、背任行為追及の新たな火の手が上ろうとしているようだ。五月の株主総会では『アーさん」『イーさん」それに『ウーさん』『エーさん』『オーさん』などのクビがとぶとかとばぬとか、ローカトンビのうるさいこと」(『闘争ニュース』一九七一年三月一八日号)

 この年の五月の株主総会では、予想通り、専務取締役の保田宗一、常務取締役制作本部長の安達鉄翁(ペンネームは阿木翁助、前芸能局長)、同編成局長の磯田勇、同大阪駐在の佐野英夫、同前経理局長の柳原承光、同相談役前社長の福井近夫、以上六名の、いわば正力松太郎子飼いの日本テレビ生えぬき重役が、バッサリ解任となった。

 すでに前年の一一月には、常務取締役経営企画室長に元読売新聞記者の松本幸輝久、取締役経理局長に前読売テレビ経理部長の高井秀雄が就任していた。そして、松本は専務、高井は常務に昇格した。

 まず、経理面から攻める、これが小林新社長の作戦であった。正力ワンマン体制の下で、われ勝ちに社内汚職に走り、接待費で飲み食いしていた連中には、「伝票」という証拠物件が残されていた。

 「あばかれた伝票

 某局に『審査課』がもうけられたのは最近のことである。中年の男数名がダークスーツに身を包んでうろつきまわる。つねに何事かを探るような目付、うしろめたさがしみこんでいる一挙手一投足。すぐに『ゲシュタポ課』の異名がつけられた。

 審査課には、この数名のほかに、特別嘱託として元会計士の小松がやとわれている。小松は『粉飾決算』を見逃がして、免許停止、会計士仲間からは敬遠という目にあっている。この小松に、今度は細大もらさず、伝票を審査させているのだ。

 目的は何か。ある人は、『不正はなくさなければいけない』という。しかし、それを誰がやるのか、が問題である」(『週刊サインペン』一九七一年一二月一三日号)

 審査課の実物は、社長直属の審査室で、そこでの審査の状況は、なぜか、社内の噂話として広められていった。そして、噂話の中で判決がくだされ、バッサリやられた重役もいるし、配置転換やら処分やら、段々と上の方から締めつけてきた。このやり方は、のちにふれるように、正力松太郎が読売新聞に乗りこんだ時のやり方そっくりなのである。しかも、“首切り浅右衛門役”さえ使っている。

 それが、経営企画室長の松本幸輝久であった。前掲の教宣シリーズは、「フハイ追及がファシズムでは……」という小見出しで、この動きを「大先輩であるヒットラー」の政権獲得への道と比較している。そして、こう警告していた。

 「『ハテナ?』ときてほしい。小林社長と松本専務しか経営者らしいのはいないとか、本人がいっているのではアテにならないとか、イロイロいわれているこの二人を例にとってみよう。二人ともいままでの経営陣にきびしく、しかも不当労働行為、すなわち労働組合の努力で確立されてきた民主的権利をふみにじる行為に熱心である」(『闘争ニュース』一九七一年三月一八日号)

 「粉飾決算」の始末と称して、小林社長による旧経営陣追及は、ファッショ型の権力確立を強力にすすめた。松本幸輝久は、戦後の第一次読売争議の時には富山支局長をしており、組合の「『反組合分子』の首脳たちにたいする追放決議」(増山.『読売争議』一八八頁)にも名前が挙がっていた人物である。小林は、この古手のヤクザ記者を、露払いに使った。松本に対しては、なかなかまとまりにくい芸能局の労働組合員さえ怒り、.バカヤローといわないこと」など、前代未聞の職場要求をつきつけたほどであり、その口汚なさは天下一品であった。


(第1章7)日本テレビ版・国民精神総動員