子どもに関する事件【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA


S020731 学校災害 2008.7.25 2013.7.21 2013.10.29更新
2002/7/31 埼玉県の県立越谷総合技術高校の柔道部夏季合同合宿で、女性顧問に投げられた斉野平(さいのひら)いずみさん(高1・16)が、背中から落ち、意識不明になる。
その後、急性硬膜下血腫による外傷性遷延(せんえん)性意識障害で、植物状態となる。
2013年9月、27歳で亡くなる。
合宿中の経緯 2002/7/27-31 柔道部の夏季合同合宿が、入間高校で行われる。

  保護者が調べたいずみさんの主な言動 (顧問は、頭痛の訴えは一度も聞いていないと主張)
7/27
(1日目)
いずみさんは、足払いによりできた、くるぶしあたりの痛みを顧問に訴え、冷やすようにと指示を受ける。
7/29
(3日目)
起床時、頭が痛いと副部長に告げる。

朝練習、午前練習、午後練習の中で、準備運動ランニングなどの軽い練習には参加するが、それ以外は、顧問に「頭が痛い」と訴え、「休んどけ」の指示により、柔道場の入り口付近で、柔道着を着たまま横になり、休む。
7/30
(4日目)
前日からの頭痛が治まらず、その旨を顧問に伝える。「休んどけ」の指示で、軽い練習は参加するが、前日と同様の形で休む。
2回、頭痛薬を服用。(1回目は同校持参の薬箱から、2回目は他校の生徒からもらう)
打ち込み練習前、整列したときに泣き出す。それを見た顧問が、「休んどけ」の指示。

夕食時、「食欲がない」と言って、出されたカレーライスは食べず、みかんだけ食べる。
7/31
(5日目)
前日からの頭痛が治まらず、その旨を顧問に伝える。「休んどけ」の指示で、軽い練習は参加するが、前日と同様の形で休む。
I女性教師(副顧問)に、「最後だから参加しないか?」と声をかけられ、いずみさんは乱取りに参加。
I教師に投げられ、背中から落ちる。そのまま立ち上がれなくなり、I教師に支えられながら、道場外に出る。途中で、膝から崩れ落ちる。
涼しい場所を探し移動させるが、ますます悪変し、救急車を要請する。

防衛医大病院へ搬送。緊急手術を行い、命はとりとめるが、意識は戻らず、植物状態になる。

背 景 いずみさんは、柔道を高校に入学してから始めており、初心者だった。
練習中も受身をうまくとれず、しばしば後頭部を打っていた。
顧 問 顧問、副顧問とも黒帯。
学校ほかの対応 学校から詳しい説明や謝罪は一切なかった。
その後の
保護者の対応
2004/3/8 保護者は、学校が適正な指導を怠ったとして、学校を運営する埼玉県を相手どって、慰謝料など計約520万円を求める民事訴訟をさいたま地裁に起こす。
頭痛を訴えているのに危険な練習に参加させられ、投げられた衝撃で硬膜下血腫が一気に悪化した。早く病院に連れて行けば、被害は防げた」などとして、学校側の注意義務違反を指摘。 
被告の言い分 学校側は、「頭が痛い」の訴えは、一度も聞いていない。「休みたい」という申し出は初日の足のけがと理解して、練習を休ませたと主張。
証 言 2007/ 事故から5年後に当時の部員2名を証人尋問。
いずれも、「頭が痛いと言ったのは記憶にあるが、泣いたのは覚えていない。顧問への頭痛の訴えも覚えていない」と証言。
※この証言により、裁判所は、事故後4ヶ月に聞き取りを録音した内容の「頭痛」「泣き出した」という証言は信憑性がないとして、事実認定しなかった。
裁 判 2008/3/26 さいたま地裁で、学校側に過失はないとして敗訴。原告控訴。
裁 判 2009/12/17 東京高裁で逆転勝訴。渡邉等裁判長は埼玉県に、約1億741万円の支払いを命じる。

事実上の主な争点

@事故の発生原因はどの時点か。
合宿2日目の平成14(2002)年7月28日の午前中、乱取り中に投げ技をかけられ頭から落ち、頭部を打撲した。この時に軽度の急性硬膜下血腫を発症し、出血が始まっていたと認定。
そして、7月31日の合宿最終日、女性顧問教諭から体落としで投げられたことにより、頭部に回転加速度が加えられ、この加えられた回転速度により伸展された状態にあった架橋静脈(ラッベ静脈)が破綻し、大量出血を起こし、重篤な急性硬膜下血腫が発症したものと判断。

Aいずみさんが指導教諭に頭痛を訴えていたか。
高裁判断は、救急搬送に付き添ったI教諭が、救急隊員に「昨日午前中、投げられた際、頭部から落ち、午後から頭痛及び嘔吐(1回)が続き、休んでいたが、本日(合宿最終日)体調が少し良くなったため(頭痛は有り)練習に参加し、投げられた際、背中から落ちた後、意識障害及び強直性の痙攣を起こしたもの」と説明したことやその後の医師への説明や警察での事情聴取においても同様の内容を説明したこと。
本件柔道部においては、生徒の健康管理等は生徒の自己申告によって行われていて、生徒に対してもその旨の指導がされていた」「本件合宿においても同様に、練習を休むときは「どこどこが具合が悪いので休みます」というように理由を教諭に説明して休むことになっていたこと、理由を言わずに休むことを告げた場合には、逆に教諭から聞き返されたこと」。
「現に、控訴人が7月27日(合宿1日目)の夜に、教官室を訪れてS教諭に対し、足のくるぶしに痛みがあると申し出て、S教諭から氷を渡されて患部をこれで冷やすように指示されている」「このような控訴人が、頭痛や嘔吐の事実などの自分の身体に現れた体調の明らかな変化について、S教諭又はI教諭に申告しないということは容易に考え難い」こと
などから、いずみさんが指導教諭らに頭痛を訴えていたと認定


Bいずみさんがに嘔吐したとか、練習中に泣き出したりしたという状況があったのか。
東京高裁は、いずみさんが、7月30日午前中、嘔吐もし、打ち込み練習中に激しい頭痛に襲われて泣き出したこと、夕食は食欲不振を訴えみかんを食べたのみで、他のものを食べることができなかったこと、S教諭は、柔道部員の食事摂取量を確認しており、いずみさんの上記食欲不振を認知ししていたことを認定。


顧問教諭らの注意義務違反について
「学校の管理下の災害―19」(独立行政法人日本スポーツ振興センター刊)によると、体育的活動中の運動種目別の負傷発生割合については、高等学校における武道(柔道、剣道、相撲、その他)による負傷発生人数は1万4600人、そのうち柔道による負傷発生人数は1万0050人であり、武道全体の68.8パーセントを占めており、高等学校なおける武道に分類される運動種目中、柔道による負傷発生数が際だって多いこと」、「学校管理下の死亡・障害事例と事故防止の留意点〔平成16年度版〕(独立行政法人日本スポーツ振興センター健康安全部刊)によると平成14年度の体育的活動の柔道の課外指導中の死亡事故件数が3件(中学校2件、高等学校1件)であって、教育活動中の事故の他科目と比較して最も死亡事故の発生件数が多いことが報告され、「負傷による死亡の事例」と題する項目において、柔道による死亡の事例について3件とも急性硬膜下血腫による死亡である旨報告されている」ことなどから「柔道の危険性」を指摘。

さらに高等裁判所は、「学期中の部活動においては、生徒は部活動終了後に保護者の下に戻るものであるが、本件合宿期間中においてはこれと異なり、控訴人ら生徒は家庭における保護者の保護を離れ、顧問教諭を指導者として、昼夜の集団生活に入るものであるから、顧問教諭であるS教諭及びI教諭に求められる注意義務は、学期中に要求される注意義務程度よりも決して低いものではないことは明らかである」と、合宿中の顧問らの注意義務をより高いものとした。

このことから、「合宿2日目に頭部打撲したこと及びその後に頭痛と悪心を訴え、嘔吐までした事実を把握したのであるから、頭蓋内に軽度の急性硬膜下血腫等の病変が生じている可能性を認識することが可能であったといえ、これによる死亡その他死亡に類する重大な結果が生じる事態を予見することが可能であった」と予見可能性を認定。
「死亡その他死亡に類する重大な結果が生じる事態を予見することは可能であったというべきであるから、これを防止するため、(7月27日に頭を打った時点で)直ちに練習を休ませて、医師の診察を受けさせ又は受診を指示するとともに、以降の本件合宿の練習への参加を取りやめさせるべき」だったとした。

なお、文部科学省の「学校体育実技指導資料第2集 柔道指導の手引き(二訂版)」(平成19年3月文部科学省刊)は、150頁に及ぶ手引き書であるが、教育活動としての柔道の練習又は試合において、生徒が頭部打撲により急性硬膜下血腫を発症して死亡又は重篤な後遺障害を負う事故が発生する危険があることについて注意喚起する記述や対処方法についての記述が一切ないことが認められるが、そのことから、S教諭及びI教諭が上記注意義務を免れるものではないことはいうまでもない」と言及。

また、31日の「午前練習において、準備体操と補強運動には参加したものの、それ以後の練習には参加せず、柔道場の外の廊下の真ん中で仰向けに横たわったが、I教諭は、今までに横たわって休んだことのない控訴人が上記のような状態で仰向けに横たわっていることに気付いたのであるが、そのような状態で横たわる控訴人の状態は見るからにして、我が国の伝統的な運動文化である柔道の場において求められる態度としては失格というべき態度であり、控訴人がそのような状態で横たわらざるを得ない程の身体的不調に見舞われていることを示すものであったと考えられる」ことから、遅くとも同月31日に控訴人が柔道場の外の廊下の真ん中で仰向けに横たわって休んでいるのに気付いた時点で」直ちに救急車の出動を要請し、病院に搬送して医師の診察を受けさせるべきだった」「しかるに、I教諭は、控訴人に対し、「こんな真ん中で寝てはだめよ、寝るなら端の方で休みなさい。」と指示するのみであっただけでなく、立ち技乱取りが行われるときに、控訴人のところに行き、「最後の練習なので、参加してみてはどうか」。と話して立ち技乱取りに参加させ、2本目に控訴人と組んで立ち技乱取りを行い、体落としで控訴人を投げ、控訴人に重篤な急性硬膜下血腫を発生させて本件事故を発生させているのである」として、「S教諭及びI教諭は、上記注意義務義務に著しく違反したとの評価を免れない」とした。

※ 雑記帳バックナンバーme091218 参照
参考資料 2004/4/20埼玉新聞(サイト)、裁判の傍聴、「泣いてなんかいられない」http://blog.livedoor.jp/sai0918/  ほか
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