わたしの雑記帳

2010/6/17 全国柔道事故被害者の会、第1回シンポジウム「柔道事故と脳損傷」(2010/6/13)

2010年6月13日(日)TKP東京駅日本橋ビジネスセンター2階にて、全国柔道事故被害者の会(http://judojiko.net/link 参照)、第1回シンポジウム「柔道事故と脳損傷」が開催された。
当初、100人の部屋を予定していたが、申込者が多く、200人の部屋に変更になった。
130人の申し込みがあったが、当日参加も多く、ほぼ満席状態だった。

講演者は内田良氏(国立愛知教育大学教育学部講師)、野地雅人氏(神奈川県立足柄上病院脳神経外科部長・日本体育協会公認スポーツドクター・ほか)、山田不二子氏(NPO法人子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク理事長・内科医)、そして被害者家族2名。各人50分程度とコンパクトな時間配分だったが、とても濃い内容だった。
柔道事故を専門家がさまざまな角度から検証する。それも机上の空論ではなく、現実とリンクさせながら。今までにない画期的な内容だったと思う。

以下は、あくまで私が理解した範囲内での報告であり、文責はTakeda個人にある。
録音しているわけでもないので、あいまいな部分もあることをご了承願いたい。

内田良氏 「柔道はなぜ危険なのか? ―学校リスクの視点から考える」

「リスク」の考え方。
内田氏は死亡率の研究を行ってきたという。
たとえば、「危険」というものをAとB(CとD)とを比べたときに、どちらのほうが事故がおきやすいか、比較の結果に求める。

事故の「比較」に有効な数字は、「死亡」など重大な事態。
たとえば軽微な事故・事件は関心の度合いによって、発見されたりされなかったりする。死亡などの重大な事態は関心の度合いに左右されにくい。客観的な発生件数が得られやすい。ただし、死に至る経緯、事故なのか、事件なのかについては問えない。

中学校や高校で起きた学校管理下における死亡事故と障がい事故の件数(通学中の事故を除く)に関して、学校生活でのさまざまな活動を比較してみると、死亡事例の47.2%、障がい事故の69.7%が、運動中の事故。
運動中の事故が大半を占める。


中学・高校の部活動における死亡事故の発生件数(1983-2008年度発生・26年分)

1983-2008年度発生(26年分)
部活動における死亡件数
順位 部活動 中学 高校  合計
1位 野 球 32 66 98
2位 柔 道 31 60 91
3位 バスケットボール 43 36 79
4位 サッカー 37 38 75
5位 陸 上 17 27 44
6位 バレーボール 20 19 39
7位 テニス・ソフトテニス 27 11 38
8位 剣 道 9 23 32
9位 卓 球 11 4 15
10位 ソフトボール 3 4 7
    合 計 231 341 572
※内田氏の表を多い順に武田が並び替えています。


死亡事故の発生確率(1998-2007年度発生・10年分)
    中学 高校
    人数 部活参加者 発生確率 人数 部活参加者 発生確率
  ラグビー - - - 11 304,190 3.616
  柔 道 12 531,170 2.259 11 356,280 3.087
  剣 道 2 1,225,260 0.163 11 593,820 1.179
  野 球 9 3,135,200 0.287 15 1,541,750 0.973
  陸 上 4 1,853,690 0.216 7 928,600 0.754
  バスケットボール 10 3,487,530 0.287 11 1,956,330 0.689


死亡事故の発生件数だけを見ると、野球が多い。また、野球は障がい事故が多い。とくに目に当たることが多い。
しかし、発生確率見ると、参加人数の多い野球の死亡事故発生率はぐっと下がり、柔道は高校ではラグビーに次ぐ第2位、中学では第1位となっている。ラグビーと柔道は、他の部活に比べても突出して確率が高いことがわかる。
死亡件数が多く、死亡確率が高いという面で、柔道は最も危険な部活動となり、最優先で安全対策を考えるべきものとなる。


27年間で109件の柔道死亡事故の分析
27年間で109件の柔道死亡事故を学年別にみると、中学校では1年生が54.1%(20人)、2年生が37.8%(14人)、3年生が8.1%3人)。高校では1年生が63.9%(46人)、2年生が27.8%(20人)、3年生が8.3%(6人)と、1年生、初心者の死亡が目立つ。
なお、柔道死亡事例のうち、中学校の94.6%(35人)、高校の81.9%(59人)が部活動中に発生。ただし、部活動と体育授業では時間数が圧倒的に異なる点に注意。部活動は年間通して、しかもほぼ毎日行われるところも多数。一方、体育授業は限られた時間。しかし、それが必修化となると、時間的に増大する。

柔道事故の死に至る経緯は、中学で81.1%(30人)、高校で56.7%(48人)が柔道特有の動作(主に投げ技、大外刈り、背負い投げ等)により死亡しているのが特徴。


●2012年度から武道必修化に向けての注意事項
2012年度から、中学校1、2年生で武道(柔道・剣道・相撲のいずれか)が必修になる(年間13時間程度)。
「選択」授業での全国的傾向は、柔道が約6〜7割、剣道が2〜3割。
これまでは「選択」だったのが「必修へ」、つまり 「一部から全員へ」(女子生徒を含む)。
参加生徒数が増えると、死亡確率に応じた分の死亡事故が発生する可能性がある。

武道必修化に向けて、
@ 指導者の育成の必要性。
柔道事故の実態や発生機序(メカニズム)を十分に踏まえたうえで、安全な指導を行うことができる「専門家」が必要。
単なる「経験者」ではだめ。

A 施設や環境の整備が必要。道場の広さ、畳、床。

B 学校の授業に特有の問題
限られた時間数のなかで、楽しい授業を行おうとすると、受身の軽視につながる危険性がある。試合(乱取り)重視になりやすい。


「柔道は危険」である真の理由
これまでほとんど注目されることのなかった109の命。
柔道は死亡件数、確率ともに高いから危険なのではない。私たちが柔道事故から目を逸らしてきたから危険なまま放置されている。


【資 料】
内田氏は、独立行政法人日本スポーツ振興センターの『学校管理下の死亡・障害事例と事故防止の留意点』をもとに
学校管理下の柔道死亡事故110件 (1983年度から2009年度の27年分+2010年度の情報)と、
学校管理下の柔道障害事故261件 (1983年度から2008年度の26年分)を一覧表にしている。
ウェブサイト「学校リスク研究所」(管理者:内田良氏) http://www.geocities.jp/rischool_blind/sports.html
から無料ダウンロードすることができる。


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○Takeda私見
本来、こうした分析は、全国柔道連盟や独立行政法人日本スポーツ振興センター(http://www.naash.go.jp/)が行い、安全対策を講じるべきなのだと思う。27年間も放置されてきた結果が、110人もの死につながっている。


独立行政法人日本スポーツ振興センターの目的 (独立行政法人日本スポーツ振興センター法による)
(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO162.html 参照)
第三条  独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「センター」という。)は、スポーツの振興及び児童、生徒、学生又は幼児(以下「児童生徒等」という。)の健康の保持増進を図るため、その設置するスポーツ施設の適切かつ効率的な運営、スポーツの振興のために必要な援助、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、高等専門学校、特別支援学校又は幼稚園(第十五条第一項第七号を除き、以下「学校」と総称する。)の管理下における児童生徒等の災害に関する必要な給付その他スポーツ及び児童生徒等の健康の保持増進に関する調査研究並びに資料の収集及び提供等を行い、もって国民の心身の健全な発達に寄与することを目的とする。

なお、日本スポーツ振興センターの一覧表が柔道事故のすべてではないと、私は思っている。他の学校事故でも、教師が日本スポーツ振興センターに申請していないことがあったり、事故内容が(恐らく意図的に)変更されいることがあるからだ。
柔道に関する、あるいは柔道にかこつけた死亡事故は現実にはもっと多いのではないかと推察する。
そして、原因解明をしようとするとき、現在の学校関係者のみが書類を提出でき、内容の正しさを誰もチェックするものがないやり方、したがって学校や担当教師にとって都合の悪い原因や結果は伏せられるやり方では、真の原因はつかめないのではないかと懸念する。

一例として、柔道死亡事故一覧のj096 部活、高1男子の事例は、全国柔道事故被害者の会のメンバーの事例だが、死因は「不詳」となっている。しかし、その後の民事裁判での過程で再鑑定が行われた結果、死因は顧問の絞め技による窒息死であることがわかっている。してもいない「酸素吸入」を「した」と書いてある。裁判は和解で終わったが、そこで認められた内容に日本スポーツ振興センターの情報が書き換えられることはない。
ほかにも、被災者と話すと、明らかに事実とは違うことが、この日本スポーツ振興センターの紙面には書かれていることがある。


柔道の必修化に当たって、内田氏は単なる経験者ではだめで、安全な指導を行える「専門家」が必要だとしている。
しかし現実には、必修化にあたって、まず柔道の経験者さえ足りない。全く柔道経験のない体育教師たちが数時間の講習を受けただけで、授業に臨むことを余儀なくされる。とくに女子は男子以上に経験のある先生がいない。
そして、柔道の経験者であっても、日本のスポーツ学そのものが、いかにして勝つか、成績をあげるかが中心で、安全面がずっと疎かにされてきた。多くのプロ選手さえ、根性主義のなかで育ち、スポーツを科学的な視点でみることに欠けている。

柔道の必修化が始まれば、柔道部の生徒が中心になって、柔道の経験のない体育教師は生徒の言いなりになってしまうのではないか。その結果、地道な受身より、試合形式になって、受身がとれずに事故が多発するのではないか。
また、授業のなかで、とくに評価、点数をつけなければならない関係上、受身の授業を休んでいた生徒が、ほとんど受身の練習をしないまま、次の段階に進まされるということも起きてくるのではないか。
教師がちょっと目を離したときに、決められた柔道技ではなく、ゲームなどで仕入れた格闘技を相手にかけたくなる子どもたちも多くいるのではないか(実際に柔道部においてさえ、プロレス技で相手を暴行する事件が起きている)。
心配の種はつきない。しかも、それが現実となったときの代償はあまりに大きい。


野地雅人氏 「コンタクトスポーツと脳損傷」

頭部外傷の機序(メカニズム)による分類 ―どのようにして脳は傷つくのか―

頭部外傷には、@直撃損傷、A対側損傷、B加速損傷の3つの分類がある。
このうち、@直撃損傷とA対側損傷は力が一直線上に働く。
@直撃損傷は、強い外力が加わったことによる陥没骨折による脳挫傷や急性硬膜外血腫など、ぶつかった部分の脳が直接、損傷する。これは、比較的回復しやすい。

A対側損傷は、よく脳は水をはった鍋の中の豆腐に例えられるが、外力が加わると脳が直線上に移動し、反対側の壁(骨)にぶつかって損傷する。または、外力が加わった結果、脳内の圧力が低くなり、空洞化現象が起きて、脳の反対側が損傷する。

B加速損傷が、ボクシングや柔道における脳損傷の鍵となる。
急激な外力が加わっても、脳はその場にとどまろうとする慣性の法則が働く。結果、頭がい骨と脳との間にずれが生じ、両者の間の橋渡しの静脈(橋静脈・きょうじょうみゃく)が過度に引っ張られることで破綻し出血する
橋静脈は硬膜の内部に存在するため、「急性硬膜下血腫」の形をとる。
よく、柔道の乱取りなどで、「頭はぶつけていません」と言うが、頭をぶつけていなくても、加速損傷は起きる。
これは、直撃損傷や対側損傷の何倍もの強いダメージを受ける。

これらは激しく脳が揺さぶられ、橋静脈がひっばられるときに出血が起こりやすい。たとえば、ボクシングのフックやアッパーカット。柔道の体落とし、大外刈り、スノーボードの逆エッジ現象。それから、赤ん坊の「揺さぶられっこ症候群」。

セカンドインパクトシンドロームというのがある。橋静脈が引っ張られて亀裂が入っも、傷口が小さければかさぶたができて出血が止まる。
しかし、そこに第2の外力、セカンドインパクトが加わると大きな出血がおきる。

急性硬膜下血腫により、今までなかったものが増えると、脳の中が圧迫される。
血腫の増大により脳ヘルニア(本来ないところにはみ出る)が起こり、人間の生命維持に必要な脳幹部(意識・呼吸・血圧などをつかさどり、生きていくうえで大切な部分)が損傷されると死に至る。
脳がはれた場合、骨をはずして、脳を外に逃がしてやる。


脱水と脳損傷の関係について

柔道事故は、夏合宿に多い。理由のひとつに、脱水によって脳が縮む。外力が加わったときに、影響が出やすい。
ボクシングではかつては計量のあとにすぐ試合を行っていたが、脱水が脳に与える影響を考慮して、計量から1日たって、脱水を解消してから試合を行うようになった。

コーチが部員に、練習時に水分をとると疲れるから水分をとらないようにと言うことが、いまだにある。
水分をとるとなぜ疲れるのか。脱水になると、水分だけでなく、塩分も出てしまう。そこで水をがぶ飲みすると低ナトリウム血症になる。120-130だと、軽度の虚脱感、疲労感を感じる。110-120になると、精神錯乱、頭痛、悪心になる。
なお、スポーツドリンクでは全然、塩分が足りない。最近ではマラソンの選手などは飲み物の種類が変わっているはず(OS1ドリンク?)。

(シンポジウム最後の質問コーナーで)
ドリンクも、1本飲ませたら回復するなどという単純なものではない。
脱水を疑ったら、きちんと医療機関を受診させるべき。水を飲ませて回復させようと考えるのは間違い。


脳震とうの予防が、重症事故を防ぐ

意識障害が見られた時点で、正しい処置がとられていたら、死ぬことはなかった。

アメリカンフットボールでは
、1960年代、死亡率が非常に高かったが、事故を分析し、脳震とうの発生率を抑えるようにしてから、死亡数をゼロにまで下げることができた。
脳震とう」とは、頭部打撲直後から出現する神経機能障害であり、それが一過性で完全に受傷前の状態に回復するものを言う。脳震とうで起こる可逆性神経障害の詳細な機序はいまだ明らかになっていない。

■脳震とうの症状
認知機能 意識消失、・記憶消失、錯乱・興奮
自覚症状 頭痛・頭重感、平衡感覚障害、めまい、吐き気、ぼーっとする、目の症状(光が見える、二重に見える)・耳鳴り
他覚症状
※観察でわかる
意識消失、意識内容の変化、協調運動や平衡感覚の障害、歩行の不安定性、けいれん、質問・支持に対する反応が遅い、集中力・落ち着きがない、視線があわない、嘔吐、運動能力の明らかな低下


■脳震とうの重症度
重症度 意識消失 症状
(失見当識ほか)
競技復帰時期の目安
1回目 2回目
軽 症 なし 15分未満 無症状になったら 1週間後
中等症 なし 15分以上 1週間後 2週間後
重 症 あり 数秒     病院で診察 2週間後 専門医の判断
1カ月後
あり 長い 病院で診察 1カ月後

脳震とうの症状は自覚症状があるもの、周囲が観察してわかるものがある。
コーチがよく観察し、復帰のめどをどうすべきか決める。


(アメリカンフットボールにおける)脳震とうの予防法から
@フルコンタクトの練習(回数)を減らす
 柔道の場合、「フルコンタクト」というのを「乱取り」と置き換えるとよい。

A初心者のフルコンタクトの練習には、特別な配慮をする
柔道事故の6割は初心者。指導者の配慮を欠いた無謀な指導が引き起こしている。

Bフルコンタクトの練習は、疲労が少ない状況で行う
疲労が強いと事故が多発するする。合宿で事故が多発するのは、練習付けで疲労が蓄積しているから。

C水分は充分にとる

D脳震とうを起こしたらすぐに競技を中止する
中止しないと、セカンドインパクトになる。

E脳震とう発生率をチーム内で認識し、評価、対策を講じる


「安全」を目指してきたアマチュアボクシング

アマチュアボクシングでは、安全性を重視してきた。

体重別による階級制

年齢制限と試合形式
   年齢制限 試合形式
高校生  ジュニアは15歳以上18歳未満  2分 3ラウンド制    
大学生・社会人  シニアは18歳より35歳まで  3分 3ラウンド制

レフリーの権限大

「スキャットカード」(The SCAT Card)の活用 : 表面は競技者への脳震とうについての説明と自覚症状の質問、裏面にはチームドクター、トレーナーなどが確認すべき事柄と復帰の指針が記載されているカード。

用具の安全性
 ただし、ヘッドギアは、直接・対側損傷に対してはある程度の予防効果があるが、加速損傷の予防はできない。
 マウスピース(ガムシールド)は、噛むことで、首の力を強くする
 グローブの大きさ。アマは8〜12オンス、プロは6オンス。ただし、最近、見直しの論議がある

スポーツ医学の関与
 医学的健診(メディカルチェック)
 試合前後リングドクターによる診察
 緊急時の後方支援病院との連携 (緊急時は手術しか救命方法はない。脳神経外科に予め連絡を入れておく)
 指導者に対する安全講習会・AED講習会。とくに急変時に対する知識に力を入れている。

@頭部CTとA頚椎X線単純撮影などの放射線学的メディカルチェックを、
 2003年10月からは高体連に所属する選手に対しては100%の実施を達成、
 2007年4月より連盟に所属する全ての選手(大学生・一般)に義務化

・リングサイドでのチェック項目
 意識レベル、瞳孔、対光反射、眼球運動、腹部所見、深部腱反射、クローヌス、血圧、脈、体温
 バレー兆候の有無(目をつむり、前へならえをして手の平を上にする。軽い脳震とうがあると手が落ちる)、


●結 論

 頭部外傷10か条の提言 〜日本臨床スポーツ医学会学術委員会脳神経外科部会

@意識障害は脳損傷の程度を示す重要な症状である
A頭を打っていないからといって安心はできない
B意識状態を見極めて、経過を観察することが重要である
C見かけ上、意識が回復したからといって安心はできない
Dどのような時に脳神経外科専門医に診てもらうか
E受診する医療機関を日ごろから決めておく
F搬送には厳重な注意が必要である
G体調がすぐれない選手に練習や試合をさせない
H練習、試合への復帰は慎重に
I頭部外傷の頻度が高いスポーツでは脳に対するメディカルチェックを

(「頭部外傷10か条の提言」/日本臨床スポーツ医学会・学術委員会脳神経外科部会/小学館スクウェア 500円 参照)


・どれだけ脳震とうに注意を払えるかが、事故防止の鍵
・選手の安全を守るためには経験のみでなく、スポーツス額的根拠に基づいた理論的指導が必要である


そのためにも、
@頭部を含めたメディカルチェックの推進
A指導者への医学的教育、安全指導
B事故発生時の迅速な救急搬送体制の構築等の徹底
が重要であるとした。


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○Takeda私見

内田氏の「なぜ柔道は危険なのか?」「私たちが柔道事故から目を逸らしてきたから」。まるでそれを受けたかのように、同じように頭部外傷の危険性を内包しながら、事故をきちんと分析し、対策をとってきたラグビーとアマチュアボクシング。
対応さえとれば、死亡事故はなくせることが実証された。

セカンドインパクトについては、急性硬膜下血腫による外傷性遷延(せんえん)性意識障害で、植物状態のまま今に至る斉野平いずみさん(S020731)の事故がまさしくこれだった。

そして今回、夏合宿中に頭を打って、外傷に基づく急性硬膜下血腫・脳腫脹により死亡した草野恵さん(030729)の事故が、単に頭を打った事故だけでなく、脱水とも関係していたことがはじめてわかった。
恵さんが倒れたのと同じ日に、同じ体育館のなかで熱中症で救急車で運ばれた他の学校の生徒がいた。当初、私は恵さんの状態を聞いたときに、熱中症による死亡ではないかと疑ったくらいだったが、はじめて得心がいった。
シンポジウムには、恵さんのお母さんもいらしていて、「やはり頭を打ったという不幸な事故」ではなく、不適切な指導による事故だったということが、今日、はっきりとわかったと話した。学校にも、今後の事故防止のために、改めて今日の結果を伝えたいという。

頭部外傷10か条の提言。これが、守られていたら、恵さんは亡くなることはなかっただろうし、いずみさんもまた今も元気でいたと思う。せめて、これ以上の犠牲は出したくない。


山田不二子氏 「“厳しい練習”と“しごき”との境」

山田氏は児童虐待問題の専門家であり、医師でもある。とても理論的に説明してくれた。
子ども虐待・ネグレクトの定義や判断と、しごきや安全管理不行き届きの状況を比較することで、私たちの思い込みを廃してくれた。
児童虐待は昔からあった。しかし、20年前には認識されていなかった。同じ状況に、指導者によるしごきや安全管理不行き届きの不適切な指導がある。

また、加害者は自らの行為を正当化し、周囲もその不適切さをなかなか理解しないことも、共通している。
しかし、幼児の揺さぶられっこ症候群を、きちんと解明していくことで、単なる過失や偶然ではおき得ないと科学的にわかってきたように、スポーツにかこつけた暴力も、あらゆる方法を用いて実態を解明していくことで、その責任を追及し、予防の可能性へとつなげることができる。

以下、山田氏の話と資料から、私なりに、「子ども虐待・ネグレクト」と「不適切な指導」とを対照表にしてみた。

   子ども虐待・ネグレクト 不適切な指導
定 義 子ども虐待とは、子どもにすべきでないことを行うこと。

ネグレクトとは、子どもにすべきことを行わないこと。

養育者の養育が原因・理由となって、子どものWell-being(良好な状態:健康・福祉)が侵されたり、危機に陥っている状況を「子ども虐待・ネグレクト」とみなす。

日本の児童虐待防止法では「加害者は保護者」。
米国はじめ多くの先進諸国では、子ども虐待・ネグレクトの加害者定義は、「子どもを守る責任を有する者」。教師や保育士を含む。
しごき + 安全管理不行き届き = 不適切な指導

防ぎえる怪我を防ぐ対応をとらないことを“しごき”とは呼べない。しかし、スポーツ指導者による「監督不行き届き」である。

知っているべきこと知らなかったために子どもを守れなかったのであれば、ネグレクト。

故意に暴力を振るえば、身体的虐待。

常軌を逸したトレーニングや安全性が確立していないトレーニングを実施し、その結果、子どもに危害が及んだら、それも子ども虐待。
行為者の言い分 養育者は「しつけのため」「子どもの教育のため」「子どもの将来のため」と言って正当化することが多い。 指導者は「うまくなるため」「強くなるため」「子どもの将来のため」と正当化することが多い。
見逃されてきた
理由
「親は子どもを愛するはず」という固定観念にとらわれたり、養育者の言い分を聞きすぎた。 「スポーツ指導が子どもたちにひどいことをするわけがない」という性善説に基づいて対応すると、大人より弱い立場にある子どもたちの被害は見逃されやすい。
判断基準 子どものWell-being(良好な状態:健康・福祉)に危害が加えられているかどうか、
もしくは子どものWell-beingが侵されれる危険性が高い状態に陥っているかどうかが判断基準。

養育者の意図(子どものため)や無知(その行為が子どもにとって有害だと知らない)を勘案しない。
不適切な指導を判断する要件

○安全管理責任を果たしていたか?
○立場の優位性を悪用していないか?

○故意があれば当然、「不適切」だが、
 故意でなかった場合、
・指導方法や指導内容は適切であったか?
・子どもたちの体調や疲労度など、危険な出来事が発生し得る状況を把握していたか?
・結果の重大性は予見可能であったか?
責 任 「結果の重大性を知らなかった」「予見できなかった」という理由は許されるか?

→周知の事実を知らなかった場合は責任を問われる。

知っているべきことを知らなかったために、子どもを守れなかったのであれば、グローバルスタンダードに従えば、ネグレクト。
部長、監督、コーチといったスポーツ指導者は、自分が子どもを守る責任を有していることと、子どもたちに対して優位な立場にあることを十分に認識しなくてはならない。

自分の監護下で子どもに致死的重症外傷が発生したら、安全管理責任が問われる。

立場の優位性を利用し、スポーツ競技や“技”にかこつけた故意の暴力は決して許されない。
ケース・
マネジメント
子ども虐待もしくはネグレクトと判断された後は、子どもの状態だけでなく、養育者の意図やその家庭が有するリスク・ファクターも十分に勘案し、配慮の行き届いたケース・マネジメントを計画しなくてはいけない。 致死的外傷などの重大な結果をもたらす事象がくり返されている場合、その事象の発生メカニズムを追求する努力を怠ってはならない。

「不運」の一言で片付けてしまうのは、被害を被った人に対して極めて不誠実である。

「死因」という言葉が存在する利用をもっと真摯に受け止めるべき。人が死亡するには、「死因」がある。
検 証 以前は、頭部に頭皮下出血や頭蓋骨骨折などの直達外力(インパクト)の証拠がないのに、乳幼児に重篤な神経学的症状を伴う硬膜下血腫が出現する発生機序がわからなかった。

加害者の多くが暴力を否認するなか、ノーマン・ガスケルチという医師は、乳幼児を暴力的に揺さぶると硬膜下血腫が引き起こされることを突き止め、1971年に論文発表した。

こうして、揺さぶりの危険性が解明された後、欧米では、子どもを養育する人や保護者に関わる人に揺さぶりの危険性を啓発することが社会の責務となった。
ありとあらゆる方法を用いて、重症外傷が生じる発生機序を追求する。

故意を否定している場合は特に、
・客観的データや状況証拠を基に、発生事実の尋常性・非尋常性を検証する。

・犯罪性の立証が難しくても、起こった事実の検証(現場検証、関係者からの事情聴取、実況検分、証拠収集、医学的情報の収集、死亡例では司法解剖)を怠ってはならない。

事故防止・不適切な指導防止
・このように蓄積された知識をスポーツ指導者が習得し、指導方や指導内容に生かしていくことが大切。

・スポーツ指導者の所属団体や監督官庁は、危険情報の周知を制度化することが大切。

なお、山田氏は、以下のように述べている。

確かに、スポーツにケガはつきものである。しかし、人間が死亡したり、頭部外傷によって重症の後遺症を負ったりするには、それ相応の理由があり、単に「不運だった」で済まされる問題ではない。

本当に、柔道の練習だけで、脳実質損傷やラベー静脈の断裂といった高エネルギー外傷で起こるような所見が出たり、強い遠心力が発生する速い角速度の回転運動に慣性力を引き起こすような急激な減速運動が加わった回転性加速度減速度運動により橋静脈が剪断されて硬膜下血腫が起こったりするとしたら、柔道の練習方法そのものを見直さなくてはならない。

しかし、通常の練習ではそのようなことが起こらないのに、脳実質損傷、ラベー静脈の断裂、橋静脈の剪断による硬膜下血腫が起こったとすれば、それ相応の原因があるはずである。すなわち、高エネルギー外傷もしくは高エネルギー外傷に匹敵するような回転性加速度運動が起こっていたと考えるのが合理的である。

その場合、「結果の重大性を知らなかった」とか「柔道を上達させてあげるためにやった」という言い訳は通らない。
そのような危険な練習を止めるよう指導しないとするなら、それは明らかに安全のネグレクトである。


また、教育目的であろうと何であろうと、何らかの意図を持って故意にそのような危険な練習をしたのであれば、もはやそれは“練習”ではなく、不適切な“しごき”とみなすべきである。


(シンポジウム最後の質問コーナーで)
競技別に体罰アンケートをとった結果、柔道は下位だった。
また、学生と保護者の76%は体罰を肯定しているが、という質問があった。

柔道の場合、投げる、絞めるなど、競技の延長だから、体罰が目に見えにくい。
それが不適切な指導であるかどうか、指導者も、受けている者もわかりにくいので、訴えにくい。
柔道にしても、他のスポーツにしても、しごきの実態そのものがわからない。まずそこから始めなければならない。
体罰を受けている側が肯定するというところが、日本と他の国とで大きく違うところ。それだけ体罰が常態化し、容認されている。
不適切な指導は虐待と同じであるというところから、認識を改めるべき。
体罰を正しい、悪いと議論するべきではない。体罰は、暴力の行使が、人をコントロールするのに最も有効であるということを教えている。そのメッセージ性の劣悪さを考えるべき。
体罰で、毎年、子どもが死んでいる。重症者が出ている。植物状態になったり、障がいを負ったりしているこの事実をどう考えるか。アンケートをとっても、この事実は出ない。だからこそ、原因究明しなければいけない。
放置すれば、マイナスの働きが増幅。対策すれば、被害は減る。今、一歩踏み出さなければ、柔道も衰退する。
一歩踏み出せば、海外と同じように、死者が出ないですむ。出さなければ、必ず死者は出る。


******
○Takeda私見

児童虐待にしても、今だ正当化して考える大人は多い。その結果、虐待死事件は増え続けている(平成18年度は126人)。
スポーツでのしごきの根は深い。指導者が「うまくなるため」「強くなるため」「子どもの将来のため」と正当化したり、「危険性を知らなかった」といえば、免罪されてしまう。そして、その結果、「責任が問われなかったのだから問題はなかった」として、同じやり方を続けていくことになる。

野地氏が説明した加速損傷。それが通常の柔道の練習で起きるのであれば、練習方法そのものが問題であり、そもそもは通常の練習では起こり得ないこと。
通常の練習では起こり得ないことがおきるというのは、何らかの原因があり、それはどんな理由をつけようと虐待やネグレクトの一種であること。

3人の講演者たちは、直前の打ち合わせではじめて顔合わせをしたというのに、バトンを渡すかのようにピタリと息が合っており、段階を踏みつつ、同じ方向に進んでいた。


村川弘美さん  柔道部の部活中に亡くなった村川康嗣(こうじ)くんの母親の話

2009年7月29日、16時20分頃、滋賀県愛荘(あいしょう)町立秦荘(はたしょう)中学校の柔道部の部活動中に、新入生であった村川康嗣くん(中1・12)が、柔道部の顧問(柔道3段、当時27歳)との乱取りで、大外返しで投げられた直後に意識不明となり、救急搬送された。病院で、急性硬膜下血腫と診断されて、緊急手術をしたが、脳内の損傷が激しく、意識が一度も戻ることなく、8月24日に亡くなった。

康嗣くんは、喘息があり、スポーツ経験もなかったため、母親は何度も顧問と副顧問に、「喘息があり、スポーツ経験も乏しいので、他の生徒と同じような練習はできないと思う。別メニューなどで配慮してほしい」とお願いをしてきた。
しかし、正式入部して10日目には、ふくらはぎが筋断裂を起こし、何ら配慮されていないことがわかった。

受身の練習は8日のみで、柔道経験がわずか28日程度の康嗣くんに、乱取り26本を課した。
それも、声が出ていないなどの理由で、康嗣くんを一人残して、力差のある上級生との乱取りを合計で50分以上連続で続けるなど、懲罰的な、しごきのような練習をさせたことが後に判明した。

当日の康嗣くんの様子について、同級生たちは、15本を境に様子がおかしかったと話している。
「何度か頭を打っていた」「ふらふらだった」「ふにゃふにゃだった」「握力がなかった」「立っているのもやっとという状態だった」と話した。

そのような状態であるにもかかわらず、最後は顧問自らが相手となり、2分以上にわたり、経験者でも受身がとりづらいとされる返し技や絞め技を繰り返し、最後の大外返しで投げられた直後に、康嗣くんは意識消失した。
顧問は意識のない康嗣くんを平手打ちにし、意識を回復させようとした。

また、翌日以降行われた聞き取り調査や家族の調査で、「(絞め技を)落ちるまで(気絶するまで)絞め続けろ」と指導するなど、中学生の部活動の指導内容として適切とは思えない指導を顧問が日ごろからしていたこと、日常的な暴力が顧問により行われていたこと、事故の前年に、生徒の骨折事故を放置したままにしていたことなどがわかった。
多くは家族が調べてはじめてわかった。学校や行政は何も調査しない。

事故には必ず原因がある。究明されなければ、対策を講じることはできない。徹底究明が必要。

校長は保護者会で、「練習には問題がなかった」と発表した。どのような機関が、どのような調査をしたのか?うわべだけの調査で柔道との因果関係を否定した。

公平公正にといって、6カ月以上もしてから、町が第三者委員会を立ち上げた。
しかし、一方的にメンバーを選出し、理由も明確にしない。メンバーも、理由も見つからない。
事故にはさまざまな要因がある。原因は日常の練習の中にある。日常の練習内容にまで及ぶべき。細かく、科学的に検証すべき。
事故が起きたとき、どのような内容について調査すべきか、指標がつくられるべき。調査手法の確立し、公正公明な第三者機関が必要。

校長は頭に外傷がなかったから、柔道部の練習とは関係ないと言った。回転加速度で脳が損傷するのは常識。
開口一番、顧問は「引き手を引いていたので、頭は打っていません」と言った。
頭を打たなくても血管は切れる。
顧問は最近起きた柔道事故を知らなかった。事故情報が共有されていない証拠。
徹底した原因究明が必要。


柔道指導者は、初心者に対して、安全に対して、配慮がなかった。しごきや日常的な暴力が行われており、教育者としての資質も欠ける。事故後の対応、処置さえ適切にできない。
全柔連は指導者への手引きを作って安全配慮をしているというが、けがをさせないことこそが、正しい柔道だ。
意識障害が現れた時点で正しい処置がされていたら、死ぬことはなかった。
柔道事故の6割は初心者。指導者の配慮を欠いた無謀な指導の結果だ。

意識消失した人間の頬を打って、頭部を揺らすことの危険性さえ知らない。
全柔連の指導書は理想で、単なる努力目標なのか。正しい指導方法をしない人はやめるべき。排除すべき。
現場の指導者に行き渡らせる。全ての児童者が共通認識を持たなければ自己はなくならない。

顧問はある日突然、姿を消し、どこにいるかわからない。息子はまだまだ生きたかったと思う。息子の成長を見守りたかった。


なお、村川康嗣くんの事件の詳細については、
 「滋賀県愛荘町立秦荘中学校柔道部事件」 http://judojiko.blog58.fc2.com/ にて。

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康嗣くんのお母さんの坦々とした話方が、かえって会場の涙を誘った。
康嗣くんの場合も、真夏の柔道場。初心者にも、安全にも配慮しなかった顧問は、水分補給はどのようにしていたのか、野地氏の話を聞いて、気になった。

そして、「引き手をしたから、頭は打っていない」。柔道事故で、顧問が必ずのように言う言葉。
おそらく、岩手県国立一関工業高等専門学校の小野寺勇治くん(高1)が、課外活動の柔道で教官に投げられた後意識不明となり、急性硬膜下血腫で植物状態になった事件(S730522)で、教官が「内股は引き抜だから頭部を打つことはない。大内刈で勇治を崩したが投げてはいない」と証言し、医師は「外見上頭部に外傷の所見はなかった」と証言。
高等裁判所は、勇治くんが畳に頭部を打ち付けたかどうかの目撃証言が得られないことをもって、投げとの因果関係を否定し、最終的に自然発生的な発病に置き換えられ、原告敗訴となったことが、今に至るまで学校を守る判例として伝わっているのだろうと思う。保険会社や弁護士、あるいは教育委員会から入れ知恵されたのかもしれない。


脳医学が発達した今なら、小野寺くんの事件も、顧問の不適切な指導の結果であると立証できたかもしれないと思う。


小林恵子さん(奈良中柔道事件被害者母親)の話。 欧米の柔道における「未成年者の事故」と「安全への取り組み」

2004年12月24日、神奈川県横浜市立奈良中学校で、小林さんの三男(当時15歳)は、講道館杯優勝の柔道顧問より休みなしに7分間の乱取りを受け、急性硬膜下血腫を発生。
しかも、通常の急性硬膜下血腫は架橋静脈を切断して発生するが、同男子生徒の場合は、架橋静脈が集まった脳表面にあるラベ静脈を切った。
命は助かったが、脳のなかのシナプス(いろいろな情報を伝達する神経)がズタズタにされ、記憶できないなど重篤な高次脳機能障がい者になった。

日本でこれだけ柔道による死亡事故が多いのだから、海外でも当然、柔道事故で子どもが亡くなっていると思っていた。
海外ではどれだけの子どもたちが亡くなっているのかと思い調べた結果、驚くべき結果が判明した。
(一覧表は資料や話の内容をもとにTakedaが作成)

柔道事故に関する論文や問い合わせの回答から
日 本 27年間で109件の柔道死亡事故発生。/柔道人口は約21万人。中学の柔道部活531,170人、高校の柔道部活356,280人

2010年7月 全日本柔道連盟は、学校の部活動や授業で死亡事故や後遺症のある事故が絶えないため、東京と大坂で指導者対象の講習会を開く。

2010年4月29日、全日本柔道連盟の医科学委員会は、初めて、脳神経外科医を委員に迎えた。
それまでは、36名の委員に1人も脳神経外科医はいなかった。
フランス 南仏のPyrenees地域の救急病院での事例 / 競技人口 60万人(日本の約3倍)

論文で発表された内容
■調査期間 2006/5/1 - 2008/5/31
■対象 15歳以下
怪我の総数 173例 (打撲・脱臼なども含む)
脳損傷者     0例
死亡者      0例

※2009年には頭部外傷が3例あったが、脳損傷はなかった。
過去の15年間で、柔道による脳損傷は扱ったことがない。
柔道での15歳以下の死亡報告はないと確信している。
イギリス イギリス柔道連盟(Britishu Judo Association)への問い合わせ

柔道事故による青少年の死亡報告はない。0例。

■イギリス常道連盟が出しているガイドラインに記載されている内容
 成長期の選手の身体能力の未熟さを軽視した
 @「過度の訓練」
 A「不適切な訓練」
 B「過度の競争」
  は、虐待(Abuse)である。


※子どもの訴えを聞いたり、見たひとは、どこに連絡して、相談や対処、改善したらいいか、
方法が細かく書いてある 
カナダ カナダ柔道連盟(Judo Canada)への問い合わせ / 競技人口2万人

1990年代後半に死亡事故が2例。
   ↓
■柔道連盟が立ち上がって、施策を実施。
 原因究明を行い、脳震とうが危険の大切なシグナルであることを解明。
 @徹底して現場に「脳震とうの認知教育」(脳震とうをくり返す危険性)をした。

 A脳震とうの症状がある選手の管理マニュアル
 ・脳震とうの症状を示している選手を一人にして放置してはいけない
 ・帰宅後に、脳震とうの症状が出た場合、選手の状態は重症と考える
  ただちに病院に行かせる

 B一旦、脳震とうをおこした子どもの復帰マニュアル

ステップ1 活動せずに完全に休む。
まる1日症状がない場合はステップ2に進む。
ステップ2 軽い連続する練習。たとえばウォーキング。エアロバイク。
症状が観察されなければ、ステップ3に進む。
ステップ3 軽い接触のない柔道の活動。
症状が観察されなければ、ステップ4に進む。
ステップ4  マット上の練習。接触のない中程度の運動。
症状が観察されなければ、ステップ5に進む。
ステップ5 体の接触を伴うマット上の練習(強し投げ、衝撃はなし)
症状が観察されなければ、ステップ6に進む。
ステップ6 通常の練習・試合・競技に復帰

※選手、コーチ、医師が正直であること。これは非常に大事なことである。
 症状が再発しているのに開示しな場合、選手が恒久的な障害を負うことになるかもしれない。

   ↓
この10年では死亡事故0例。
アメリカ アメリカの柔道連盟

■つい先日、この10年間の柔道の事故を集計し終わる。
 18歳以下の柔道事故による、脳損傷、死亡症例、重傷者の報告はない。0例。

小林さんは、イギリスでは不適切な指導のことを虐待(Abuse)と書いてあることにまず驚いたという。
そして、子どもの頃、不適切な指導を受けた人が、今、その指導者がまだ続けているのを大人になって訴えたら、きちんと受け止めなさいとまで書いてあるという。

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最後の質問のなかで、会場に来ている全国柔道連盟(全柔連)の方や教育委員会の方への質問があった。
マイクを向けられて、全柔連の方は、毎年事故が起きていることにショックを受けていると話した。6月に安全指導プロジェクトを立ちあげるという。
学校現場での事故の多さは、調査が難しいが取組んでいきたい、原因究明を踏まえて、安全指導を注意喚起したい。十分、やってきたつもりだが、協力してやっていきたい、浸透をはかっていきたいと話した。

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○Takeda私見

柔道事故による死亡は、けっして避けられない事故ではなかった。大人たちが対応を怠ってきたことの当然の結果だったと、改めて思った。
私は、全柔連の方が「学校での柔道事故の多さにショックを受けている」と話したこと自体にショックを受けた。これほど重大なことを今まで、把握していなかったという。おそらく、把握できなかったのではなく、しようとしてこなかった。目を背けてきたのだと感じた。それは、国も同じだ。

そして、安全対策を講じれば、死亡事故を限りなくゼロにできるのにしてこなかったのは、まさしく国の、ネグレクトであると思った。さらに、それをそのまま、「日本の心」を教えるため、すなわち、子どもたちのためと言いつつ、安全対策をとられないまま、武道を必修化することは、虐待であり、それで子どもが障がいを負ったり、亡くなったりすれば、国による虐待、虐待死であると思う。

家庭内虐待が長く見過ごされてきたように、顧問によるしごきも見過ごされてきた。
柔道事故の被害者たちはみな、警察にさえ、「柔道場で、柔道技を使ってけがをさせても、責任は問えない」と言われている。
問えないのではなく、きちんと検証さえしてこなかったのではないか。指導者である大人の言い分のみを入れて、現場を見ていた子どもたちから話を聞かない、日常的な暴力的体質について追求しない。これだけ脳科学が発達している時代に、医学が発達している時代に、きちんと科学的に検証することさえ怠ってきた。

柔道事故だけではない。全ての学校事故事件は、何があったかきちんと検証して、実態にあった対策を真剣にとれば、確実に犠牲者をなくせる。私たちはそのことに気づいている。あとは実行するしかない。



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