領域外での武力行使=交戦権行使の最後の制約を取り払う
自衛隊海外派兵恒久法の危険
−−集団的自衛権行使に踏み込み、米の戦争に占領軍として全面的に協力をするための侵略法−


[1]急浮上した自衛隊派兵恒久法の危険

(1)政府・支配層の強い衝動

 自民党は2月13日に自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法を検討する「国際平和協力の一般法に関する合同部会」の初会合を開いた。27日にも自民・公明両党合同のプロジェクトチームを設置し法案の今国会提出を目指すため急ピッチで準備をし始めている。
 自衛隊派兵恒久法急浮上の背景には、支配層が今回のテロ特措法騒ぎに業を煮やしたことがある。来年の1月には再度新テロ特措法の延長が、そして5月にはイラク特措法の延長が問題になる。その都度にこんな騒ぎになってはたまらない。イラクであろうとアフガンであろうとどこであれ、日本の自衛隊が米の戦争に海外派兵するのが当たり前であるような法律を作る−−それが支配層の意図である。
※自民党:自衛隊派遣「恒久法部会」を発足
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080213k0000e010069000c.html
※日本経済新聞の1月15日付け社説は、この意図を露骨に表現した。「再可決は当然ではあるが、異例である。新給油法には1年の期限がある。いわゆる恒久法をめぐる合意を1年以内につくる必要がある」

 しかし恒久法は突然出てきたのではない。憲法改悪と併せて、アフガニスタン派兵当初からの日本支配層の強い衝動としてある。安倍政権の崩壊によって改憲が当面の政治日程から後景に退いたことによって、派兵恒久法が一層重視されることになった。
 政府支配層が派兵恒久法を急ぐ理由は、アメリカの軍事・外交戦略とも深く関わっている。米海軍、海兵隊、沿岸警備隊が昨年秋に合同でまとめた『新海洋戦略』は、「世界の海全体の安全を1カ国だけで確保できる国はない」とし、アラビア海やインド洋など貿易の要衝での同盟国との協力の強化の必要を強く打ち出している。また、同じ時期に米支配層の超党派でまとめられたアーミテージ・ナイ報告『スマート・パワー戦略』は、従来の軍事一辺倒を見直し、軍事覇権の強化と政治的外交力の強化との結合、一国行動主義から同盟国や協力国、国連などとの関係改善・協調を打ち出している。とりわけ対中戦略から日米同盟を重視する。イラク・アフガン侵略による軍事展開能力の限界とアメリカ帝国主義の世界支配、ヘゲモニーの後退が背景にあるこのアメリカの戦略転換によって、日本のより一層の対米軍事協力が求められると見ているのは間違いない。
※Smart Power(HuffingtonPost)
http://www.huffingtonpost.com/joseph-nye/smart-power_b_74725.html
※米軍 新海洋戦略を発表(産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/world/america/071018/amr0710180036000-n1.htm

(2)すでに自民党が条文化 批判と暴露を強める必要

 ところが派兵恒久法の危険性は、マスコミなどでもほとんど全く取り上げられていない。せいぜいPKO法やテロ特措法、イラク特措法の単なる寄せ集め、時限立法の恒常化、イラクやアフガンからの地域的拡大にすぎないもの等々と理解されている。だがそれは全く違う。
 アメリカがイラクで行っている住民弾圧・治安活動と掃討作戦、インド洋やペルシャ湾で行っている臨検活動−−米の侵略戦争と占領支配そのものに自衛隊が直接武装部隊として前線で関与できるような体制を作り出していこうという極めて危険な法律なのである。
 派兵恒久法による海外派兵のさしあたってのイメージは、米英軍のように他国に対して戦闘機・攻撃ヘリによる空爆や戦車部隊による大規模戦争を直接仕掛けることにまでは当面踏み込まないが、米軍が軍事制圧した地域での占領支配を分担して引き受ける占領支配、治安維持活動全般には参加し日本の自衛隊が担うというものである。イラクでのオランダ、ポーランド軍等、アフガニスタンでのドイツ、カナダ軍の派兵スタイルである。それはまた大規模戦闘終了後に米英軍が行っている占領・治安維持活動に他ならない。現実を見れば簡単にわかるようにこれらの諸国軍は占領地で住民に直接銃を向け、占領反対のゲリラ部隊と直接交戦し、その殲滅活動を行っている。れっきとした占領軍として行動するというものである。それは派兵条件、派兵地域、自衛隊の任務、武器使用基準等々、政府自身が従来の派兵法に課していた諸制約を根本的に取り払うことを意味する。
<シリーズ憲法改悪と教育基本法改悪 その2>9条2項改憲の欺瞞と危険を批判する−−最大の狙いはイギリスに次ぐ「派兵国家=武力行使」国家造り−−

 自民党は、小沢を引きづり込むために、あえて「アフガン復興支援」民主党案を廃案ではなく継続審議にした。恒久法は、小沢の国際治安支援部隊(ISAF)容認論でにわかに現実味を帯び、自民党・公明党にとって狙い目になってきている。
 派兵恒久法は、2002年の国際平和協力懇談会(明石康座長)の提言を皮切りに、経済同友会や経団連など財界からも改憲とともに提言され、2006年8月、当時防衛庁長官であっ た石破を委員長とする自民党の防衛政策検討小委員会ですでに条文化されている。この条文そのものは公表されておらず、メディアなどが断片的に報道しているものを通じて知る以外にないが、政府内ではこの自民党の条文案をもとに検討が開始されるのは間違いないことから、その限りでこの条文を批判し派兵恒久法の危険性を明らかにしたい。
「恒久法」と日本軍国主義の新しい危険−−国際平和協力懇談会の「提言」について(署名事務局)
※自民党防衛政策小委員会 「国際平和協力法案」の分析(自由法曹団通信1218号)
http://www.jlaf.jp/tsushin/2006/1218.html#02


[2]従来の派兵法が持っていた諸制約を根本的に取り払う危険

(1)アメリカの要請だけで日本が海外派兵できる仕組みを明記

 まず恒久法は従来の自衛隊派兵法とは、派兵に当たっての条件が根本的に変わっている。一言で言えばアメリカの要請だけで日本が海外派兵できる仕組みがこっそりと忍び込まされているのだ。
 これまでの自衛隊の海外派兵は、あくまで「国連主義」を前提にし、国連決議などを条件としていた。それらの決議は実際にはイラク攻撃を自動的に承認したり、アフガン攻撃を認めたものではなかったが、日本政府が「国際協力」や「国際社会の一致」などを掲げる限り国連決議に基づいた活動であるかのように強弁せざるを得なかったのである。もちろん我々は、国連がアメリカ帝国主義の軍事覇権の隠れ蓑になる危険性を過小評価しているわけではない。それでも日本政府がアメリカの軍事行動への支援をむき出しの形で大義として持ち出すことは出来ないという意味で、大きな制約を課してきたのである。
※PKO法では、海外派兵は国連平和維持活動への協力であって、紛争当事国からの要請などが必要であった。また、テロ特措法は国連決議1368号、1378号などを受け、小沢が延長反対を強行して主張してからはさらに決議1776号を持ち出して正当化に苦慮するなどあくまで国連の枠組みにこだわらざるを得なかった。イラク特措法は国連決議678、687、1183などで正当化して
いる。

 しかし、条文化された派兵恒久法では、派兵条件として「国連決議」や「国連安保理の決定」「国連に準ずる国際機関の要請」などを列挙しながらも、なんと「決議又は要請がない場合に・・・国連加盟国の要請」というのが付け加わっている。つまり単に国連に加盟しているある一国が「自衛隊を出してくれ」と一言言えば、それが国連決議に匹敵する自衛隊海外派兵の根拠になってしまうのである。この「国連加盟国」がアメリカを想定していることは明白である。しかも最後には「我が国として・・・特に必要と認める事態」という条文まである。何でもござれだ。法律案の冒頭から、アメリカの侵略戦争に何の条件整備もすることなく協力できる仕組みが組み込まれているのである。

(2)国会での承認はあいまい 重大な海外派兵が閣議決定だけで次々と可能?

 国会での承認は全くあいまいだ。「国会の承認を得なければならない」と書いているが、「国会閉会中」は「実施後最初に招集される国会で承認を求める」など、閣議決定だけで派兵し国会の事後承認でお茶を濁すことも可能と読める。しかも、国連決議などに基づかない自衛隊派兵は1年ごとに国会承認が求められているが、国連決議などに基づく活動は、完全に国会の枠を外し、エンドレスに継続が可能となっている。石破は03年10月の国会答弁で「本当に(事前承認の)一つの網をかぶせることができるかどうかも含めて、今後とも議論していただきたい」と語っているように、事前承認の網をいかにかいくぐるかに関心が集中している。

(3)「国際的な武力紛争の一環」でなければ、「戦闘地域」でも派兵が可能

 派兵地域の規定から「現に戦闘行為が行われておらず」という文言が削除され、「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為が行われておらず」に変えられている。「自爆攻撃」やいわゆる「テロ活動」が個人的な恨みや個別攻撃と見なされれば「国際的な武力紛争の一環」ではなくなる。それどころか内戦や反占領武装闘争、あるいは民族解放闘争が闘われていようとお構いなしで派兵できる。戦闘が行われているかどうかは関係がないのだ。銃弾が飛び交い、爆撃が加えられていたとしても、「国際的な武力紛争の一環」でなければそこは派遣可能地域になってしまうのだ。小泉のように「非戦闘地域」を絶叫してごまかさなくてもすむようにしようというわけだ。
 テロ組織、テロ活動は便利な言葉である。「国または国に準ずる者同士の武力紛争でない」などとごちゃごちゃ言わず「国際的な武力紛争」でなく「国内的な武力対立だ」とさえ言えばいいのである。フセイン政権に対するブッシュ政権の戦争はさすがに「国際的な武力紛争」であるにしても、フセイン政権崩壊後のスンニ派旧バース党やサドル派・マフディ軍に対する米軍の掃討作戦も、アフガニスタンにおけるタリバン「残党」に対する攻撃も、ましてや姿の見えない「アルカイダ」の捜索活動などは「国際的な武力紛争」でないと米軍が主張するから、自衛隊は、大手を振って最前線で掃討作戦・殺戮作戦に参加できることになるだろう。
しかも、そもそも地域が限定されていないことから、アメリカのグローバル安保政策に基づいて、インド洋からアジア中東、さらにはアフリカや中南米であろうと大手を振って重武装の自衛隊を派兵し、戦闘を行うことが可能となってしまうのである。
6/24−6/27国会論戦から−−メモと参考資料−−「イラク特措法」:政府答弁ののデタラメ、矛盾、危険(署名事務局)
小泉首相のファルージャ虐殺支持発言糾弾!自衛隊派兵延長反対! 即時撤退! 集会決議

(4)「安全確保活動」「警護活動」「船舶検査」が海外任務に追加 武器使用基準の大幅緩和によって集団的自衛権行使に踏み込む 

 自衛隊が海外に派兵されて行うことのできる任務が大幅に拡大・強化される。現在認められていない「安全確保活動」「警護活動」「船舶検査」の3つの活動が「人道復興支援活動」などに追加されている。「安全確保活動」=治安維持活動とは、軍事占領であり、住民への制圧や抵抗に対する弾圧、パトロール・監視活動、巡回活動、行為の制止などを行う活動である。「警護活動」は、人や物品、施設の警護を行う活動であるが、米軍施設や石油施設の警護、占領当局や傀儡政権の要人警護、攻撃に対する反撃などが想定されている。そして大砲や武力で威嚇して行う事実上の戦争行為である「臨検」が海外任務として付け加わっているのである。これらの活動は、武装と武力による威嚇・行使そのものである。
 このような活動を自由に行えるように武器使用基準が飛躍的に緩和される。現在自衛隊員が武器使用を認められているのは「自己又は自己と共に現場に所在する他の自衛隊員」「自己の管理の下に入った者」の正当防衛時のみである。治安活動や「テロリスト」の捜索、掃討はもちろん共同作戦を行う米軍の防衛や施設の防衛なども一切含まれない。海外任務の拡大と武器使用基準の大幅緩和は、米軍との共同行動を意味し、集団的自衛権行使に一挙に踏み込むものとなる。
 イラクへの陸上自衛隊派遣では佐藤隊長の「駆けつけ警護」発言は「いざというとき」は憲法など無視するという重大な問題であった。オランダ部隊などが危険に直面した場合に現場に駆けつけて警護活動に関与し武器使用を行うというのは、イラク特措法の海外任務規定をも、武器使用規定をも大きく逸脱するものである。佐藤は武器使用の基準が満たされる「正当防衛」状態を作り出すために、「あえて巻き込まれる」ことまでを想定したという。だが、派兵恒久法が想定しているのは、このようなレベルではない。


[3]武器使用基準大幅緩和によって、自衛隊は完全な侵略軍として振る舞えるようになる

 いま問題になっている恒久法では米軍の掃討作戦への参加などのリアルな状況設定の下に大幅な基準緩和が行われてようとしている。以下が条文から想定される武器使用の具体例だ。

−−市街のパトロール。現地住民の平和デモに対する治安弾圧、武器使用
 「安全確保活動」で、「多衆集合して暴行もしくは脅迫をし」あるいは「しようとする明白な危険がある」とき武器の使用がみとめられる。これは相手が武器を保有したり使用するかどうかは関係ない。たとえば何百何千もの群衆が反日デモを繰り広げた場合、自衛隊の撤退要求や反戦の行動を行った場合、あるいは何十人かでも職を求めて自衛隊の宿営地に押しかけた場合等々。その治安弾圧活動だけでなく、沈静化のために武力行使することが可能となる。「デモ」対策、「暴動」対策を口実にした地域制圧が可能となる。現に2005年12月、当時の大野防衛庁長官がイラクを訪問した翌日にイラク市民が自衛隊の装甲車に対して撤退を求めるデモがおこり、自衛隊車両を取り囲んで激しく揺さぶり、投石を繰り返すという事件が起こっている。派兵恒久法では、大野の警護はもちろん、このような事態での武器使用が可能となる。
 しかも要人の警護はもちろん、建造物への破壊の防止など、自らの身が危険にさらされていない状況での武器使用について極めてあいまいである。「建造物の破壊の防止」「警護」をテコに、地域の制圧などが可能となってしまうのだ。

−−検問や、物品の没収、人の拘束も可能
 自衛隊員は、「異常な挙動」を行う者に対して、質問し、制止し、拘束することができる。また、「武器と疑われる物」を強制的に「保管」することができる。要するに検問所を設け、手当たり次第に検問し、「不審者」「不審物」をでっち上げて拘束し、没収することができるようになる。「危害が加えられる可能性」があるときは武器を使用することができる。現在、米兵はイラクで自分が危険と感じたときは好き勝手に発砲し、住民を殺しても責任さえ問われない。このような活動を自衛隊もしようとしているのだ。
 「安全確保担当自衛官」は、破壊活動などの「行為者」を拘束できる。その行為者とは、「行為者として追呼されているとき」や「逃走しようとするとき」だ。つまり「みんなが犯人だと言っている」「現場から逃亡している」という事実が、拘束や、銃撃の立派な根拠となるのである。

−−住民の居住地からの排除と家屋への立ち入り
 自衛隊員は、治安維持活動や警護活動において、危険な状態にある場所から人々を避難させることができる、また「他人の土地、建物または船車の中に立ち入ることができる。」これらは、居住地域から住民を強制的に排除させること、また住民の家屋などに強制的に立ち入ることができることを意味する。さらに、市民を車から追い出したり、無理矢理乗り込んだりもできる。朝だろうと夜だろうと関係ない。まさに米兵たちがやっている住居への急襲作戦である。

−−一連の臨検活動。
 臨検は、国際法では戦争行為の一部である。派兵恒久法は船舶停止、立ち入り、乗組員の出入りの禁止、書類から積み荷までの検査、物品押収、乗組員の拘束と引き渡し、関係機関への移送までを自衛官に認めている。武装艦と武装自衛隊による強制措置である。現在、自衛隊はこのような活動について領海内でしか、しかも海上保安庁の警察活動の手に負えない場合にしか認められていない。ましてやテロ特措法に基づいてインド洋に派遣された自衛艦には当然認められていない。恒久法の下では臨検活動を行う米艦船等への補給活動ではなく、自衛艦による臨検活動ができるようになる。この一点だけ取っても、テロ特措法の恒常化でないことは明かである。

−−要するに、米軍がイラクやアフガニスタンで行っている軍事作戦全般の遂行が可能
 以下のような条文は、自衛隊の任務も武器使用も限りなく拡大し、歯止めがきかなくなる危険性をもっている。
○「小銃、機関銃、砲、化学兵器や生物兵器などを所持し、あるいは所持している疑いがある者が暴行や脅迫などをする高い蓋然性がある時」に武器使用がみとめられる。

 つまり、武器を所持しているのではなく、所持している疑いがある者が、暴行や脅迫をしているのではなく、する可能性が高い場合??「『テロリスト』が潜んでいる可能性が高い」家屋に、「武器が保管されている可能性が高く」、「襲いかかってくる可能性も高い」−−このような場合には武器を使用してもよい。こんなめちゃくちゃがまかり通ればどうなるのか。向こうから走ってくる車には、「武器を持った『テロリスト』が乗っている可能性が高く」、「攻撃してくる可能性が高い」、また「検問所を突破し逃亡する可能性もある」。だから攻撃される前に攻撃する。逃亡される前に銃撃して拘束する。
 これはファルージャなどでの米軍の掃討作戦そのものではないか。またアフガニスタンなどでは住民が護身用に小銃などを携行しているのはいわば日常である。でっち上げでしらみつぶしに家がつぶされ、人々が殺され、拘束されていっているではないか。
 臨検も同様である。インド洋への派遣が派兵恒久法に基づいてやられてしまうならば、軍事作戦を行う米艦船への補給活動ではなく、海上自衛隊の艦船自身が軍事作戦を、不朽の自由作戦をやることが可能となる。我々は米強襲揚陸艦ペリリューなどを舞台にして行われた臨検、拘束活動への自衛艦による給油を批判したが、自衛隊がやろうとしているのは、ペリリューの活動そのものなのである。しかも、こんな活動は自衛艦が単体でできる訳がない。米の遠征攻撃軍の一部に組み込まれて、臨検活動をやりだすことになるだろう。それはまた、拘束施設としてのグァンタナモやバグラム空軍基地、アブグレイブに直接責任を負うことになる。テロ特措法成立以降インド洋では自衛隊が補給した米艦船によって14万回の無線照会と1万1000回以上の臨検が行われ、多数の「不審船」乗組員が拘束され、その幾人かは「アルカイダ」とされて、‘拘束施設’に移送されている。恒久法で想定されているのは、まさに米艦がおこなうこれらの活動なのである。


[4]憲法9条交戦権禁止規定の最後的な廃棄=解釈改憲の総仕上げを許すな!

(1)アフガン、イラクで培った経験を最大限利用 

 この法律案はこれまでの政府答弁や憲法解釈などとあまりにもかけ離れているように見える。だが少なくとも実態面では、アフガン、イラクにおける派兵経験が元になっているのは間違いない。陸上自衛隊はイラク派兵に連動して国内に「ミニサマワ」を作り実戦戦闘訓練、市街戦訓練、銃撃訓練などを行ったり、イラク駐留を通じて占領支配のための硬軟を使い分けた住民懐柔と弾圧の情報収集と教訓を導き出すなど、戦える軍隊に向けた変貌を図ってきた。また、海上自衛隊はインド洋派遣を通じて、とりわけイージス護衛艦を派遣することで米軍などと情報共有し、いわゆる不安定の弧における海象や気象、砂塵対策、多数の船舶や航空機が航行する緊迫した状況下で常時「不測の事態」に対応できる態勢を維持する訓練を行ってきた。テロ特措法、イラク特措法で培った経験をふんだんに取り入れ、新たなステップにしようとしているのだ。
NHKスペシャル「陸上自衛隊 イラク派遣の一年」から透けて見えるもの−−イラク派兵を利用し市街戦訓練。自衛隊の侵略軍化を図る(署名事務局)

(2)解釈改憲で事実上の交戦権行使に踏み出す危険

 警察予備隊から自衛隊が発足し憲法の「戦力不保持」を否定して以降も、政府は「専守防衛」なる概念を作り出し、軍隊ではなく自衛隊であると強弁し続けてきた。1992年PKO法によって日本は戦後初めて自衛隊の海外派兵を強行したが、憲法が禁じた「交戦権」行使につながらないようにするために、武器使用の基準を「自己防衛」に限るという厳格な基準を適用した。1997年周辺事態法では、「周辺事態」という領域外での対米支援に踏み込んだ。このとき政府支配層が新たな概念として持ち出してきたのが「前線」と「後方」の区別である。つまり兵站や補給といった活動は後方支援であり、直接の戦闘行為、戦闘地域とは切り離されているから「交戦権」の行使にはあたらないという詭弁である。
 さらに2001年テロ特措法では、自衛隊の領域外派兵は「周辺」から「インド洋」「ペルシャ湾」にまで拡大し、戦時下での派兵であったこと、また同年のPKO法の改悪では、「PKF」本体業務への自衛隊の参加を可能にしたこと、武器使用の防衛対象が「自己」に加え「自己の管理下に入った者」が加えられたこと、イラク特措法では「非戦闘地域」が、「自衛隊が活動するところは非戦闘地域」(小泉首相)などとメチャメチャな答弁が行われたこと、クウェートからイラクまで武装米兵の輸送を行うなど前線との区別がさらに曖昧になったこと等々、憲法9条のさらなる堀崩しが進行した。だがとにかく、派兵地域は「非戦闘地域」、領域外で行う活動は「後方支援」、そして武器使用の基準は「自己防衛」=正当防衛、この3つの基準によって、領域外の戦場における前線での武器使用という最後の一歩に踏み出すことに歯止めをかけてきたのである。
 ところが現在検討されている派兵恒久法は、これらの制約を一切取り払い、憲法9条の「交戦権」の禁止を最後的に廃棄するものである。絶対に成立させてはならない。
憲法第9条と有事法制 有事法制は憲法「交戦権放棄」条項を最後的に葬るもの
 以上のような一連の海外派兵法の流れと合わせて、武力攻撃事態法、国民保護法など有事法制=国民戦争総動員法がある。これらは朝鮮民主主義人共和国(北朝鮮)や中国を仮想敵国とし、「わが国に対する武力攻撃」だけではなく、「武力攻撃のおそれのある場合」「武力攻撃が予測されるに至った事態」に対して、予防攻撃=先制攻撃を可能にする条項があることから、領域外での武力行使に踏み込む危険性を持っている。しかし現時点では、これらの法律は地方自治体の有事体制への取り込みや有事を想定した訓練の積み重ねなどによる国民への戦争準備意識の植え付けという側面が強い。解釈改憲を通じての憲法9条第2項交戦権放棄の最後的堀崩しという点では、派兵恒久法がよりいっそうリアルに問題になる危険性がある。

2008年2月20日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局