<シリーズ憲法改悪と教育基本法改悪 その2>
戦争ができる国造り、グローバル企業のための国造りに反対しよう!
憲法改悪と教育基本法改悪に反対する5・1討論集会[基調報告] 第U部
9条2項改憲の欺瞞と危険を批判する
−−最大の狙いはイギリスに次ぐ「派兵国家=武力行使」国家造り−−


[1]支配層最大の狙いは9条改憲で「戦争のできる国家」造り、イギリスに次ぐ「派兵国家=武力行使国家」造り。

(1)改憲派が戦略目標を確定。自民党=経団連が発案し公明党、民主党が相乗りした“最小限綱領”=9条2項改憲を通じた9条全面破棄。

@ 自民党の改憲戦略−−9条2項改憲という“最小限綱領”。その欺瞞とまやかし。
a)自民党の「新憲法要綱」、9条2項改憲戦略を打ち出す。
 政府・自民党・財界が推し進める現在の憲法改悪の本質、狙いは憲法9条の全面的廃棄、平和主義の全面転換にある。それは自民党や財界、右派マスコミだけでなく、公明党や果ては民主党まで、改憲の中心点を9条、特にその第2項の削除と全面書き換えにおいていることで明白である。
 自民党は4月4日の新憲法起草委員会の小委員長会議で「新憲法要綱」を取りまとめた。要項は9条について−−@1項「戦争放棄」は残す、A2項の「戦力不保持」「交戦権否定」は削る、B「自衛」と「国際平和と安定」のための「自衛軍の保持」を加える、C集団的自衛権行使は容認されるとした上で、「安保基本法」「国際協力基本法」で集団自衛権行使の条件を規定する、というものである。
※自民党新憲法起草委員会要綱 http://www.kyodo-center.jp/ugoki/kiji/jimin-youkou.htm

第2章 戦争の放棄 
 第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

b)そもそも9条2項は、9条1項を担保する前提条件
 しかし、そもそも9条2項は、9条1項を担保する前提条件である。「前項の目的を達するため」とわざわざ記述しているのもそのためである。9条2項の「戦力不保持」と「交戦権否定」を否定しながら、1項の「戦争放棄」「武力不行使」条項だけを残すという論理は詐欺的なやり方に過ぎない。「戦争放棄」まで削ると国民の反発を買って改憲そのものが破綻しかねないから、ただそれだけの理由で、目くらましで残しているのである。自民党は、「軍隊の保持」を認めさせ、軍を「国際平和と安定」のために海外派兵できるようにし、更に集団自衛権を行使できることを前提としている。米軍と海外において共同で、自由自在に侵略行動、武力行使を遂行することを真の狙いとしているのである。「戦争放棄」など吹っ飛ぶことは明白だ。9条2項の削除によって1項をなし崩しで骨抜きにし空文にする。姑息な意図、だましと薄汚い魂胆が見え見えである。たとえ文言上で9条1項が残っていても、PKOやPKFで武力行使を行い、多国籍軍に参加して集団自衛権に基づき他国を攻撃し、米軍の下請け部隊として世界中でイラク型の侵略戦争をする権利を認めれば、「戦争放棄」や「武力不行使」の文言は何の意味も持たない。

 9条2項の「戦力不保持」条項を削除するということは、単に現状を追認するだけではない。それはすでに解釈改憲でズタズタにされている。だから今この条項を削除することは、2項のもう一つの「交戦権否定」条項を削除することとワンセットなのである。すなわち、日本が正式に交戦権=侵略戦争をする権利を持つことを明示することで、侵略戦争を遂行する正真正銘の侵略軍を持つということなのである。

c)「個別的自衛権」の危険と歴史の教訓
 憲法改悪を目指す部分はすべて「個別自衛権は行使できる」と主張する。しかし、「自衛権」「自衛のための戦争」は、本来的に帝国主義侵略戦争の常套句である。戦前・戦中の天皇制日本の侵略と植民地支配の歴史を振り返れば分かることだ。古今東西、侵略をすると宣言して侵略戦争をやった実例は皆無に等しい。
 しかも冷戦終焉後の今日の日本について言えば、「自衛権」は、侵略戦争以外の何物でもない。なぜなら政府防衛庁自らが分析するように「日本が攻撃される危険性がほとんどない」状況の下では、自国領土の防衛ではなく、世界各地に進出する日本のグローバル企業の海外権益、海外資産、グローバル企業の工場やネットワーク、海外に派兵された自衛隊そのものを「防衛」するための戦争が、要するに海外におけるグローバル企業と国家の「国益」の軍事的確保が「自衛戦争」であるとして「自衛権」概念が拡大解釈されるようになっているからである。
 これはもはや日本の帝国主義的軍国主義の復活である。かつて19世紀末から20世紀初めにかけて西側帝国主義列強は「自衛」の名の下に植民地と「勢力圏」奪取のための侵略戦争を始め、大量殺戮、大量破壊のやりたい放題をやった。天皇制軍国主義日本も中国や朝鮮、アジア太平洋全域で大量殺戮、大量破壊をやりまくった。改憲によって「自衛のための戦争」という名の帝国主義戦争を認めるということは、21世紀に再びこの時代錯誤の軍国主義を復活させることである。

d)「集団的自衛権行使」を巡る姑息なごまかし
 集団的自衛権行使をどこまであからさまに書くかについてはまだ自民党内でも、まとまっていない。もちろん、自民党内では集団的自衛権の行使は認めるという点では共通している。対立点はそれを露骨に明記すべきかどうかにある。“理念派”は露骨に明記すべきだと主張し、“現実派”は改憲への支持を取り付けるために憲法には明記せず、代わりに「安保基本法」や「国際協力基本法」に記すべきだというものである。
 しかし、これは単なる“理念派”と“現実派”との条文記述をめぐる対立ではない。実は、憲法で集団自衛権行使を認めてしまえば、法理論的には無制限に米軍との共同作戦行動やグローバルな部隊展開が可能になり、現在の米軍のように世界中のありとあらゆる戦争や紛争に関与しなければならなくなる。世界中に侵略し軍事介入している米軍がどこかで攻撃されたら、それを即、同盟国日本への攻撃と捉えて、攻撃できるということだ。
 イラクを例にとるのが分かりやすいだろう。イラクでは現に毎日占領軍である米軍が攻撃されている。集団的自衛権行使に則れば、米国の敵は日本の敵となり、今すぐにでもイラクの武装抵抗勢力に対するに武力行使が可能になるのである。サマワに籠もっているわけには行かないのだ。そこまで無制限に一気にやってしまえという部分と、自衛隊の力量を踏まえて徐々に制約の撤廃を追求する部分に分かれているのである。
※「憲法 新しい国のかたち 封印解ける9条 国際貢献『身の丈』探る」日経新聞2005/04/16

 しかし、上述した自民党内の“現実派”は少しも現実的ではない。現在の9条の1項、2項が完全にそろって、かろうじて“首の皮一枚”で制約が課せられているのが現状である。明記するしないにかかわらず、どんな形であっても一旦集団的自衛権の行使を認めてしまえば、無制限の行使容認にエスカレートするのは目に見えている。小泉政権と今の自民党・公明党・民主党を見ている限り、米国の猛烈な圧力に抵抗する部分が存在するとは思えないからである。明記せずとも、米国及び米国と結託したグループ、あるいはすでに米軍への従属的性格を強めている自衛隊が、勝手に動くはずだ。

A 財界の司令塔奥田・日本経団連、自民党案と同様の改憲戦略を打ち出す。
 憲法9条と平和主義を葬り去るために改憲を追求しているのは自民党だけではない。現在の改憲の推進力の最大の中心勢力の一つは財界である。特にトヨタの会長をトップに頂く日本経団連がグローバル企業の利害を露骨に前に押し出して改憲に動いている。
 経団連は今年1月に財界の司令塔として異例な形で露骨に改憲提言を行った。「我が国の基本問題を考える」である。
※「わが国の基本問題を考える〜 これからの日本を展望して 〜」2005年1月18日
(社)日本経済団体連合会 http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/002/honbun.html#part4

−−まず提言のほとんどは軍事外交問題、改憲問題で占められている。「基本問題の第一は、全ての活動の前提となる安心・安全の確保のための安全保障であり、国際社会への積極的な関与、信頼の獲得に向けた外交である。第二に、これらの理念・目標を具体化するためには、国の基本法である憲法の見直しが避けられない。」「我が国の基本問題」とは軍国主義復活と改憲なのである。

−−提言では、露骨に「テロ」や朝鮮半島など旧来の対立関係は「グローバルな活動を進める我が国企業や国民にとって、これらの脅威は他人事ではなく、自らに対する直接の脅威である」と決めつけた。そしてこれまで憲法下で行われた外交、安全保障政策では、「国益をふまえた戦略的な主張や、主体的な関与、貢献が不足していた」「一国平和主義と呼ばれる無責任な主張が通用」したと批判する。「資源に乏しく、通商に大きく依存するわが国の繁栄は、国際社会の平和と安定、また他国との協調なくしてはありえない。企業にとっても、内外の平和と安定は全ての活動の大前提である。」−−「グローバル企業の脅威は日本の直接の脅威」=「世界防衛」論。従来の「専守防衛」論からの根本的転換である。

−−その上で9条2項改憲と96条改憲の先行実施戦略を打ち出す。96条については「改正要件が厳格に過ぎたこと」は「民主憲法にそぐわない」と言うわけである。「9条第2項は現状から乖離し、我が国が今後果たすべき国際貢献・協力活動を進める上で大きな制約」となっている、自衛権を行使するための組織として自衛隊の保持を明確にし、国際平和への寄与を明記すべき、集団自衛権行使を明記するべきと書いた。
 要求はPKO・PKFなど国連主導の武力行使だけでなく、米を盟主とする有志連合型の武力行使も含む。日本企業の海外進出の地均し、進出企業の現地資産や人員の安全保護が衝動力である。

−−提言は「日本が目指すべき目標としての国家像」を3つ挙げる。「国際社会から信頼・尊敬される国家」(対米従属的日米同盟、派兵国家=武力行使国家など)、「経済社会の繁栄と精神の豊かさを実現する国家」(新自由主義的構造改革、差別選別教育など)、「公正・公平で安心・安全な国家」(自己責任、自由競争、警察国家など)。財界は、軍国主義的で強権的な国家像を追求しようとしているのである。

−−提言の露骨さはそれだけではない。わざわざ「緊急的な対応の必要性」と題して、「何時発生するかも知れない予測不能な多様な事態への対処を憲法改正に委ねてはならない。例えば、緊急事態への対処や自衛隊の国際活動の拡大、集団的自衛権の行使などは、昨今の国際情勢の変化を踏まえれば、一刻を争う課題である。現在の憲法解釈が制約となっているもの、新たな立法により措置が可能なものなどについては、内外諸情勢の大きな変化を踏まえ、憲法改正を待つことなく、早急に手当てすべきである。」と、改憲準備と併せて侵略行為、違憲行為を既成事実化して推し進めるよう要求しているのである。

 図に乗った奥田・経団連は、軍国主義の復活と併せて軍需産業の復活をも要求する。日本経団連の副会長である三菱重工を先頭に、財界はミサイル防衛(MD)を突破口に、武器輸出三原則のなし崩し的緩和・撤廃を要求、対米下請け化で軍需産業の復活・生き残りを追求し始めた。財界の軍国主義化、右傾化は、日本経団連だけではない。経済同友会は、武力を背景に企業の海外進出や「復興ビジネス」を目論む驚くべき提言を行った。
新「防衛大綱」「中期防」閣議決定批判:シリーズその5−−経済同友会イラク問題研究会・「恒久法」意見書−−武力を背景に企業の海外進出や「復興ビジネス」を目論む驚くべき提言−−自衛隊警護の下、途上国で市場・投資拡大狙う日本型『民軍協力』(CIMIC,Civil-Military Cooperation)なる超危険な政策−−(署名事務局)
新「防衛大綱」「中期防」閣議決定批判:シリーズその4 −−ミサイル防衛(MD)を突破口に、武器輸出三原則のなし崩し的緩和・撤廃へ−−自民党・財界は武器輸出の全面解禁、対米下請け化で軍需産業の復活・生き残りを追求−−(署名事務局)


(2)民主党も自民党の9条2項改憲に便乗。改憲での「自公民3党体制」の危険性が現実に。

 “小泉改憲”が一気に加速した背景には、民主党タカ派の改憲要求と民主党全体の右傾化がある。護憲の立場を捨て、「論憲」から「創憲」へ、従って事実上の改憲容認にズルズルと後退したことである。野党第一党が、平和主義の放棄と9条改憲に動き始めたことが、自民党を図に乗らせているのだ。改憲の条件である両院の議員の2/3の賛成は民主が屈しなければ極めて厳しい。それを逆に自分の方から自民党と改憲勢力の側にすり寄って加担しているのである。民主党の責任は重大である。
 民主党が「創憲」の立場をとるのは、内部に矛盾した部分を含み、改憲反対では党が分裂するという事情からだ。彼ら民主党も自民党と全く同様に、9条2項を改悪して国連の軍事活動に参加する方向で憲法を改悪しようとしている。ただ、今は党内事情の思惑からできるだけ自分からは憲法論議は前に出さないと一歩引き下がっているに過ぎない。
 先日4月21日、民主党憲法調査会の第5小委員会(安全保障担当)は、9条の「改正案」について素案を示した。その中では、@自衛権に基づく米軍との共同軍事作戦は「日本に直接脅威がある場合」に限る。A国連安保理決議に基づくPKOや多国籍軍への参加は軍事的な海外派兵を認める。B国連安保理決議があっても多国籍軍の先制攻撃など攻撃的な出動には参加しない、とある。
 結局、民主党の基本姿勢は、従来の9条と平和主義の放棄にある。海外派兵と武力行使を原則として認めながら、国連中心のその特定の形態に限定しようとしているだけである。しかし、一旦、海外派兵や武力行使を認めれば、歯止めがなくなるのは言うまでもないことだ。「戦力の保持」も「個別自衛権」も「交戦権」も「武力行使」も、憲法に明記する方向では自民党・財界と変わらないのである。



[2]小泉の2正面改憲路線−−アフガン、イラクで戦後初の本格海外派兵。解釈改憲と明文改憲準備の同時推進

(1)小泉首相主導でアフガン戦争、イラク戦争に相次いで参戦。戦後初の本格海外派兵をテコに、明文改憲準備を援護するかのような9条蹂躙・解釈改憲。

 小泉首相の登場で、自民党政権の解釈改憲は全く新しい段階に入った。それまで政府自身が認めてきた憲法上、安保条約上の制約を次々と投げ捨て、憲法で禁じられた軍事行動をギリギリまでエスカレートさせた。PKO以外で自衛隊が海外派兵するのは戦後初めてである。アフガン、イラクへの海外派兵を通じて、歴代自民党政府ではあり得なかったような突出した違憲行為を連発したのである。また、米の要求に応えるために「テロ特措法」「イラク特捜法」など憲法を根底から掘り崩す違憲法を次々と作りだした。この間、憲法調査会は改憲作業を淡々と続けた。−−小泉の改憲路線は、解釈改憲と明文改憲準備の2正面作戦である。
 真剣な国会論戦をあざ笑い、国会答弁で「それは憲法の隙間だ」とふざけたり、「自衛隊のいるところが非戦闘地域だ」と暴言を吐いたり、小泉首相ほど露骨に、そして平気で憲法を弄び蹂躙し空洞化させた人物など見たことがない。以下、具体的に検討しよう。

a)アフガン戦争への派兵・参戦、「テロ特措法」の違憲性は明らかである。
 小泉政権はブッシュ政権のアフガニスタン戦争に加担・参戦するために急遽「テロ特措法」を作った。この戦争は国際法違反の「報復戦争」、侵略戦争であり、タリバン政権に対して圧倒的戦力を投入してのせん滅戦争であった。小泉政権はこの戦争に警戒部隊としてイージス艦を派遣し、米空母・艦隊を中心に多国籍軍に給油活動を行った。侵略戦争への派兵に先鞭をつけたのである。
@ 侵略戦争であるアフガン戦争への参戦・派兵は、9条1項「戦争放棄」を踏みにじるものである。
A 海上部隊、兵站(後方支援)の任務とはいえ、現実に侵略戦争が行われている戦地、戦域に初めて自衛隊の部隊を海外派兵したのである。空爆を行う空母機動部隊への給油はそれ自体武力行使と一体である。
B このアフガン戦争を利用して従来の地理的制約を突破した。主たる自衛艦の活動範囲はインド洋であり、ペルシャ湾付近までその範囲を拡大した。これまでの日米安保の協力範囲である「極東」をはるかに超えて、世界中で米軍に軍事協力する突破口となったのである。当然のことだが9条には「地理的範囲」は書かれていない。しかし解釈改憲の中で「専守防衛」「日本領土防衛」を認めさせるための「自己限定」すら自ら破ったのである。

b)自衛隊のイラク派兵、「イラク特措法」の違憲性も明らかである。
 イラク戦争も国際法違反の侵略戦争である。国連査察の継続を主張し平和的解決を追求した国連安保理多数派の支持さえ取り付けられない米英の一方的な侵略戦争であった。そして最近、遂に「大量破壊兵器の脅威」は米国自らがウソ・でっち上げであることを認めざるを得なくなった。小泉はこんな「大義名分」も何もない戦争を公然と支持し、果ては自衛隊の地上部隊を戦後初めてイラクという遠く離れた紛争地、戦場に送り込んだのである。9条の1項、2項全ての蹂躙である。
@ イラクを侵略する米英などの「有志連合」軍に対するインド洋での給油活動は、違憲であり、また同時に「対テロ特措法」違反でもある。
A イラク戦争加担の最大の問題は、ゲリラ戦争が吹き荒れる戦場であるイラクに陸上自衛隊を派兵したことである。戦闘がまだ全土で続いているイラクでサマワを「非戦闘地域」と称して陸上自衛隊部隊を「復興支援」名目で派兵した。海自艦船のインド洋派兵とは比較にならない武力行使との紙一重である。
B また航空自衛隊の輸送機部隊を米英軍に協力させた。事実上、米兵や武器・弾薬を輸送するわけで、ミサイルの攻撃対象になることは十分あり得ることだ。「武力不行使」「交戦権否定」を破るものである。
C 陸自は銃撃戦、都市ゲリラ戦に対処するための訓練を事前に行って出兵している。自衛隊が攻撃されれば、「自衛」を口実に武力行使ができるように、初めて銃撃戦を前提にした重装備の戦闘部隊を送った。つまりある意味で武力行使を前提に派兵し続けているのである。

c)国内での戦争動員体制=有事法制体制の確立
 アフガン戦争、イラク戦争への派兵で武力行使に限りなく近づき、現地の住民から反撃されればそのまま武力行使に移行しかねない危険極まりない違憲状況に突き進んだ小泉政権は、国内でも戦争を遂行する体制を造るために有事法制を整備した。米国の侵略戦争と軍事介入を自衛隊だけでなく国全体、国民全体が支援し、交戦権を行使できる体制を作ることが追求されているのである。
 有事法制=「武力攻撃事態法」は、「日本が攻撃される場合」というフィクションを前提にして組み立てられているため、「日本防衛」のためなら、9条1項の「戦争放棄」条項も「武力不行使」条項も、また2項の「交戦権放棄」条項も一挙に否定する何でもありの法律になっている。しかも、「武力攻撃予測事態」という曖昧な概念を滑り込ませ、ブッシュばりの先制攻撃戦争が可能な法解釈を堂々と組み込んだ。日本の領土だけではなく、海外に展開する自衛隊への攻撃をも、発動条件に加えるかのような答弁を行った。等々。−−有事法制は、適用範囲や発動条件を徹底的に曖昧にした違憲の悪法である。

 この4月からいよいよ有事法制の中でも最も危険な「国民保護法」の「国民保護基本指針」の具体化が本格化する。「平素からの備え」を口実に、都道府県、市町村、公共機関、学校、病院から国民一人一人までを日米の軍事行動のために動員する訓練・演習が始まるのである。防衛庁と自治体の連携を強化し、防災訓練と防災組織、ボランティア団体、自治会など既存の組織をそのまま戦争準備に利用する動きが、恐らくは「自然災害訓練」とワンセットで、反対しにくい理由をこじつけて強制されようとしている。
戦争への国民総動員と“銃後”体制確立を図る「国民保護基本指針」に反対する
−−中国との核戦争まで視野に入れ“戦争する覚悟”と戦争準備訓練を国民に押し付け義務化する−−
(署名事務局)



(2)残るは、「武力行使」のみ。9条をギリギリまで蹂躙し骨抜きにした小泉の解釈改憲。

 “小泉改憲”はやりたい放題の解釈改憲、憲法蹂躙を繰り返し、憲法9条は、ギリギリのところまで、ほとんど全面否定寸前のところまで来ている。“首の皮一枚”残っているだけである。もはや残っているのは、「武力不行使」と「交戦権の否定」のごくごく一部だけとなった。
 現在の9条が押しとどめている最後の一線を越えれば、待ち受けるのは武力行使である。イラク戦争で言えば、イギリスのように最初から武力行使を目的に参戦し、殺戮と破壊の限りを尽くすことなのである。
@ 最初から直接武力行使する目的で海外派兵をすること
A 武力行使をちらつかせ、公然と武力による威嚇を行うこと
B 直接の武力行使

 
 冷戦終焉後、とりわけ1994年の北朝鮮の核開発疑惑と朝鮮半島危機をきっかけとして、朝鮮半島有事の際の自衛隊の軍事支援体制と日本戦争総動員体制が整備されていないことにクリントン政権は危機感を持った。対北朝鮮戦争を想定して自衛隊を参戦させること、在沖・在日米軍基地はもちろんのこと、日本の国土と国民全体を対北朝鮮戦争に総動員する有事体制作りを軍事面と憲法・法律面の両方で整備することが、日米同盟を維持する上での、双方の合意点となった。
 米国は従来の日米安保の枠組みを変えることを要求、これが、「日米安保共同宣言」(1996)に始まる一連の動き、「日米ガイドライン」(97)、「周辺事態法」(99)、「武力攻撃事態法」(2003)だった。政府はそれまで「個別自衛権」を理由に制限していた対米軍事協力の制限を取っ払らい、朝鮮半島危機には米軍と並んで自衛隊を後方支援に出すことまでは決断した。そしてそのために必要な有事法制を整備した。

 日本政府が金融危機対応に忙殺させられ、とても日米同盟どころではなかった時期、2000年8月には米国の安保関係者(後のブッシュ政権の安保担当者が中心)が「アーミテージ報告」を突き付け、公然と改憲と集団的自衛権行使容認をごり押ししてきた。「日米同盟を米英同盟に」「バードン・シェアリングからパワー・シェアリングへ」という要求に、その狙いが集約されていた。 
 小泉政権は「非戦闘地域」「復興支援」というフィクションで国民をごまかして自衛隊を送った。しかしそのことで逆に現行憲法では何が出来ないか、9条が武力行使そのものにとって直接の障害であることが最後的に明らかになった。米側は武力行使、武力行使を辞さぬ更に危険な軍事行動、「パワーシェアリング」を要求し、「不安定の弧」に対する派兵と朝鮮半島での対北朝鮮戦争、将来のライバルとしての中国に対する軍事的牽制などで、日本が武力行使を恐れずに軍事的貢献をするよう求めている。小泉政権は、最後の一線を越えるよう求める米国に応えるためにも、明文改憲の準備を加速しているのである。
※米日合作の改憲追求、解釈改憲の歴史は長い。すでに憲法発布直後から始まった。9条の解釈改憲の歴史について私たちは有事法制批判に即して3年前にまとめた。「憲法第9条と有事法制 有事法制は憲法「交戦権放棄」条項を最後的に葬るもの−「後方支援」から一足飛びに「先制的武力行使」が可能に、しかも「領域外」で−」(署名事務局)



[3]最後の一線を越えるとどうなるか。9条改憲が指し示す無制限の武力行使、無制限の集団自衛権行使の危険。

(1)条文改訂があればいつでも米軍とともに侵略行動に打って出れる状況に。イラク派兵、インド洋派兵を通じて、海外派兵・武力行使体制が着実に構築されつつある。

 すでに自衛隊の海外派兵は一時的なものではなく恒常的な体制に入っている。インド洋派遣艦隊は4年目、イラク派兵も1年以上が経った。なし崩しで出兵し続けているのである。このこと自体、かつてなかったことである。すでに日米共同演習の歴史が長い海上自衛隊の対米従属的な指揮命令系統の調整と訓練は、インド洋派兵で更に強化されている。

 問題は、米陸軍・海兵隊との共同訓練を急速に実戦化させている陸上自衛隊の著しい変貌である。イラクへの陸自派兵の恒常化の中で、一挙に日米の陸軍部隊の調整と共同訓練が加速し、陸自自身が戦場での疑似戦闘訓練を積み上げるという危険な本質が明らかになった。自衛隊は国内各地に「ミニサマワ」を造り、「復興支援」の訓練ではなく、何と旧日本軍の戦史(あの“三光作戦”が含まれたものだ!)を参考にして、市街戦の戦闘訓練、治安維持、対テロ攻撃、民衆弾圧の訓練とノウハウを身につけていたのである。これは、今までの平和維持活動(PKO)のきれい事をかなぐり捨て、武力行使と占領訓練を徹底しようとするものである。しかも、それを3ヶ月交替でローテーションさせ、全国各地の部隊を逐次派遣し、各部隊に戦地での海外派兵の経験を積ませているのだ。イラク派兵の本質は明らかだ。それは防衛庁・自衛隊が海外での侵略行動・軍事行動の体験とノウハウを研究し蓄積する場であった!
NHKスペシャル「陸上自衛隊 イラク派遣の一年」から透けて見えるもの−−イラク派兵を利用し市街戦訓練。自衛隊の侵略軍化を図る」(署名事務局)

 イラク戦争・占領への加担・参戦は軍事的にもっと大きな効果をもたらしている。海自だけでも陸自だけでもない。空自を含め自衛隊全体が、米軍全体、有志連合軍全体との共同作戦・協同能力を高めることとなった。最高司令部レベル(中央軍、イラク派遣軍)からイラク現地レベルまで、実際の戦争の中で共同して任務を遂行する訓練となった。米軍と統一運用・指揮が可能なように自衛隊自身の統合運用体制も進められ始めた。スマトラ沖大地震では、3自衛隊を単一の指揮の下に米軍指揮下の「救援部隊」に送り出した。
 イラク派兵を通じて防衛庁・自衛隊は、一方で絶えず撃つか撃たれるかの冒険主義的な危険を冒しながら、従って明文改憲なしの武力行使の危険を冒しながら、他方で海外での侵略的軍事活動と米軍との共同活動に自信をつけた。明文改憲で条文を変えるだけで、実態面ではいつでも侵略行動に打って出れる既成事実を積み上げているのである。しかも翼賛化した日本のマス・メディアがこの真実をほとんど調査することも、報道することもないまま、従って日本の民衆がこの真実をほとんど知ることのないまま。
※「被災民救済」の名の下、米軍指揮下で「対テロ戦争」を想定した日米軍事演習 日本政府によるスマトラ沖大地震の軍事利用に反対する(署名事務局)

 憲法9条は最後の決定的な一線である。これが生きている限りいくら解釈改憲を進めても、いくらイラク派兵の経験を積んでも、日本の軍事行動、自衛隊の行動は決定的に制約される。とくに、アメリカやイギリスのように武力行使ができないことは帝国主義軍隊として米軍と一緒に行動する際の最大の制約になっている。現にイラクには戦後初めて地上の戦闘部隊を送ったが、サマワは「非戦闘地域」、目的は「復興支援」というフィクションを設定しなければならず、武力行使はできない。米軍が最も望んでいる治安維持の任務を遂行することはできない。多国籍軍に入り占領統治には参加したが、治安維持や武力行使を含む、ますます高まる米軍の軍事的要求に応えることはできない。それはオランダ軍の撤退後にサマワ周辺の治安部隊としてイギリス、オーストラリア軍の増援を仰がねばならないことで明らかである。
 小泉がやったように解釈改憲を極限まで推し進めることと、明文改憲でこれを突破することは根本的に異なる。武力行使ができないことが政府自民党と財界の苛立ちを募らせ、とうとう9条の明文改憲という形で最後の一線を正面突破しようという衝動が出てきた。−−これがイラク派兵後の最新の局面である。


(2)日本の新軍事戦略:新「防衛大綱」・中期防で米軍指揮下での海外派兵と武力行使のエスカレーションを追求。「海外派兵の本務化」

 もしこのまま自民党・財界の9条改憲が実現すれば一体どうなるのか。明文改憲後の情勢や動向を予測するには、日本政府、防衛庁・自衛隊や米政府・国防総省、米軍が何を考えているかを捉えることである。以下、改憲後の軍事情勢を日本と米国の軍事戦略を分析することで概観してみよう。

@ 海外派兵を正当化する2つの論理。「自衛権」概念の拡大解釈と「軍事力の役割の多様化」。
 政府は、従来の日本の軍事外交戦略を転換し、特に自衛隊の海外派兵への一切の制約を取り去る動きを急速に強めている。そして理論武装を進めている。
 支配層による海外派兵の正当化の論理は2つある。「自衛権」概念の拡大解釈と「軍事力の役割の多様化」である。これらの論理は、従来の個別自衛権か集団的自衛権かの枠組みを大きく踏み外すものである。これらを無制限に認めると、日本と自衛隊は、もはや日米同盟によるグローバルな「永久戦争」全てに関与する滅茶苦茶な論理となるだろう。

−−まず「自衛権」概念の拡大解釈について。下記に見るように、もう露骨に「安保防衛懇談会報告」や「新防衛大綱」で記述されている。今やこの論理は、支配層全体のコンセンサスになっていると言っても過言ではない。先に紹介した日本経団連の「我が国の基本問題」にも記述されている。
※防衛研究所ではすでに2003年9月に、「我が国の安全保障上の国益」と題して、研究レポートが作成されていた。ここでは、「三層の同心円構造」の「国益」論を主張、「日本本土防衛」「周辺地域における対米協力のための後方支援」に加えて、最外円の「国際安全保障」(国際秩序形成・維持)までをも「国益」に含めた議論をしている。http://www.nids.go.jp/dissemination/briefing/2003/pdf/200309.pdf

−−もう一つ、「軍事力の役割の多様化」も「安保防衛懇談会報告」「新防衛大綱」で明確に打ち出された。その最たるものは「戦争以外の軍事行動(MOOTW)」概念である。元陸上幕僚長の冨沢氏は「米国中心の世界秩序を維持する」「集団安全保障行動」が日米安保と自衛隊の任務であると主張、武力不行使や個別自衛権の制約にとらわれることなしに、このMOOTWを今後の日本の軍事戦略の中心に据えるよう提言している。彼は、「もともと集団安全保障における武力行使は自衛とは全く関係のない話である」と言い放ち、内閣法制局を批判する。
 また、防衛庁内部では、公然と軍事力の役割の多様化・強化を論議している。「日本は持てる力を統合的に結集することが出来れば、国際社会においてかなりの影響力を持つことが出来るはずである。日本は、超大国・米国のような国際的影響力は持ち得ないが、国連安全保障理事会の常任理事国である英国やフランスの3倍以上の経済力を誇る存在である。」「近年、軍事力の役割の多様化が進んでいる。新防衛大綱も、軍事力は、武力紛争の抑止・対処に加え、紛争の予防から復興支援に至るまで多様な場面で積極的に活用されていると述べている。その結果、日本が国際安全保障環境の改善に関わることの出来る余地も拡大している。このことは、最近の自衛隊の海外での活動ぶりを見れば明らかである。」等々。
※「日米安保の目的は一極秩序、世界平和の維持」(冨澤 暉『世界週報』2005/04/26号)
※「荒木レポートにおける日本の安全保障戦略と安全保障政策研究防衛研究所統括研究官 」近藤重克 防衛研究所ニュース 2005 年 1 月号 http://www.nids.go.jp/dissemination/briefing/2005/pdf/200501.pdf

A 昨年末に出された「安保防衛懇談会報告」、「新防衛大綱」・中期防から読みとれる改憲後の無制限の海外派兵像。
 昨年秋の小泉首相の諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告、それを受けた12月の「新防衛大綱」に即して、改めて海外派兵正当化の論理を見てみよう。
 まず、「安保防衛懇談会報告」は海外派兵を次のような恐ろしい情勢認識で説明する。世界中を侵略する米国の「死活の利益」論と全く同じである。「日本は、資源やエネルギーの大半を海外に依存し、グローバルな通商活動により繁栄を維持している世界第二位の経済大国である。毎年1,000 万人を超える日本人が海外を訪れ、約100 万人の日本人が海外で生活している。このように、日本は世界的な相互依存の上に今日の繁栄を築いているが、そのことは逆に世界各地の混乱から日本が影響を受けざるを得ないことを意味する。冒頭で述べた地球大で進む安全保障環境の変化は、このような世界的に行われる日本と日本人の活動に大きな影響を与えている。日本の近くでの脅威に加え、遠方での脅威についても考慮しなければならない所以である。国際安全保障は、かつてなく地域的限定をこえて一体化する傾向を示している。」

 その上で、今日「統合的安全保障戦略」の大きな目標は2つあるとして、「日本防衛」と「国際的安全保障環境の改善」の2本柱を打ち出す。これまでの安全保障戦略は自国努力と日米同盟によって「日本防衛」だけを追求する「狭い戦略」であるとし、これだけではダメで「国際的安全保障環境の改善」のための海外派兵を自衛隊の本務にすべきだと提言した。「ある国を国際テロ組織の聖域となるような状況を防ぐことは日本の国益」とした。いわば「世界防衛が日本防衛」という目標で、日本の防衛とは関係のない世界中の紛争への対処、派兵にまで「自衛権」の対象を広げるという、「自衛権」概念のとんでもない概念崩し、拡大解釈を行った。そして現行憲法の下では国連安保理決議の下での自衛隊の参加を提起しながら、同時にわざわざ「憲法の検討」=事実上改憲の提起を行ったのである。

 「安保防衛懇談会報告」は、「軍事力の役割の多様化」に関しても、冒頭、座長である東京電力の荒木氏の「はじめに」で語られる。「21世紀の安全保障と防衛においては、『ソフト』の重要性がますます高まっていく」「広く外交、文化交流や経済協力も脅威の発生を防ぐ一翼を担っている」「防衛・治安組織、さらには政府全体としての総力発揮に加え、国民全体が国を思い、平和と安全を守るため、我が国のハード、ソフト両面のパワーを結集することが大切」等々。
※「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei/dai13/13siryou.pdf

 この「安保防衛懇談会報告」に基づき「新防衛大綱」が決定された。「大綱」は「報告」をふまえて更に、「国際テロ組織」を脅威と認定し、「北朝鮮」を不安定要因、「中国」を要注目と規定し、これら全てを事実上の「仮想敵」として扱うことを決めた。さらに「テロ組織は抑止が効かない」とブッシュと全く同じ論理で「先制攻撃の容認」さえ示唆した。また、海外派兵に関連して、「軍事力の役割の多様化」をとりあげ、戦闘だけではなく、「紛争の予防から復興支援まで」「さまざまな場面で積極活用」を提起し、「権益確保」や「国家再建」などでの利用を初めて打ち出した。
※「血まみれのブッシュの侵略戦争と軍事覇権に全面奉仕する愚挙」(署名事務局)

B 改憲後の海外派兵=武力行使の4つのケース。
 このまま9条が変えられ武力行使や集団自衛権に道を開いた場合、日本の軍国主義のもたらす危険は計り知れないものになる。以下の4つのケースが考えられる。

a)国連の枠組みの下で、安保理の決議などに基づくPKF、PKOとしての海外派兵に益々頻繁に出兵することになる。しかし、これまでと異なり武力行使を前提として、武力行使基準などの条件なしに「普通の軍隊」として出兵する。当然自衛隊員に犠牲者も出る。派兵先の人民に武器を向けること、殺すことも前提になる。これがこれまでと全く異なる点である。
 「世界の平和は日本の平和」である。紛争地に米を覇者とする帝国主義の秩序を強制することが重要なのだ。それが現地住民の利害にかなうかどうかではない。政府は、このケースが一番国民の抵抗が少ないと考えている。国連に対して常任理事国入りをアピールするためにも派兵が加速される可能性が高い。すでにスーダンのダルフールが候補に挙げられている。

b)次に可能性が高いのはイラク戦争型の米主導の有志連合軍方式である。途上国で紛争が起こった場合、国連の枠組みにとらわれず、有志連合軍に派兵することへの米の圧力が益々強まる可能性がある。
 しかし改憲後、有志連合軍に参加するとなれば、イラク派兵とは根本的に異なる形になるだろう。イラク派兵は「非戦闘地域」「武力不行使」「自衛のためだけ発砲できる」などフィクションを作って自らの行動を「制限」した。そのため幸運なことにまだイラク民衆を虐殺したり自衛隊員に犠牲者が出ていない。ところが、改憲後、自衛隊はイギリス軍と同様の役割が求められる。米軍とともにイラク戦争に最初から参戦したイギリスはすでに87人の戦死者と大勢の負傷者を出している。米軍と並んでイラク人民を大量に殺戮し南部一帯を破壊した。

c)さらに、湾岸戦争の時のように、国連安保理決議の下に多国籍軍が組織される場合にも当然出兵するだろう。国連のヘゲモニーは米国が握っている。イラクとは違い、場合によってはハイチのように米仏が共同軍事行動を起こすこともあり得る。ともに未だに新旧の植民地、従属国を抱えた帝国主義国なのである。国連の旗の下の軍事活動と言っても米を覇者とする西側帝国主義諸国の支配秩序維持のための活動に他ならない。まして米国を旗手として集まった有志連合は米と自国のための活動に他ならない。

d)別格で可能性が高いのは、朝鮮半島有事である。対北朝鮮戦争への参戦は、改憲後、先制攻撃する米軍の「後方支援」にとどまらない。直接の武力行使を求められるだろう。
 米国が最近急速に神経をとがらせている対中国政策の緊張、とりわけ台湾海峡危機への対応がある。台湾危機に際しては、「集団自衛権」の行使が認められれば、直接の戦闘に同盟国として参加するということになる。米軍とともに自衛隊を武力行使、武力による威嚇の手段として使うこともあり得る。そしてそれが中国との極めて危険な緊張激化に突き進むこともあり得る。
 対北朝鮮の場合も、対中国の場合も、最初から最後まで、軍事外交戦略の全てのシナリオ、全ての展開の決定権は米政府が持っている。対米追随しかやってこなかった日本は、いざという時、右往左往するだけで米政府に振り回され、その一挙一動に付き従うだけである。たとえ、日本が戦場になろうと。

C 海外での武力行使は国内での抑圧体制、警察国家、監視国家を惹起する。改憲は全般的な反動的国家改造につながっていく。
 改憲が行われれば、事は軍事だけにとどまらない。改憲は国家の改造そのものである。9条を改訂するということは、戦後の国家のあり方を精算し、全面否定し、新しく戦争のできる国家、武力行使のできる国家に変えていくということである。

 戦争と武力行使を遂行するためには国内の体制も変える必要がある。有事法制はすでにこの体制作りに向けて着手し出したが、、自治体・学校・病院・民間企業への強制、マスコミ統制、治安体制強化などがますます露骨な戦争遂行体制に変えられていくであろう。
 とりわけ戦争遂行の国家改造の柱の一つは教育である。日の丸・君が代強制に加えて、改憲によって「憲法は軍の保持を認めた」「武力行使は許される」「国際平和のためには自衛隊を海外派兵させるべき」「国民には国を守る義務がある」等々の考えを子どもに注入するイデオロギー的洗脳装置として学校と教員への国家統制が強化されるだろう。


(3)第二期ブッシュ=ライス戦略の「不安定化戦略」。「有志連合主義」的な軍事戦略を前面に。機動性・迅速性・効率性を狙いとする世界的規模での米軍再編・基地再編。

@ 「単独行動主義」から「有志連合主義」へ。日本など同盟国を巻き込んで米の軍事覇権を維持する。
 第二期ブッシュ政権の軍事戦略は、3月に発表された2つの文書、「国家防衛戦略」(国防総省)と「国家軍事戦略」(統合参謀本部)によく表れている。この2つの文書は、今年中に作成されるQDR(4年毎戦略見直し)の中心部分であり、今後4年間の軍事戦略の基本線となるものである。
 両文書は、2002年9月にホワイトハウスが発表した「国家安全保障戦略」(NSS)を基本的に引き継ぎ、その後の情勢の変化に併せて更に修正されたものである。「対テロ戦争」での先制攻撃主義、予防行動主義、単独行動主義、同盟国との連携など。
 しかし2年前のNSSと今回の文書との最大の違いは、同盟戦略を決定的に重視していることである。明らかにイラク戦争に参戦したイギリス、オーストラリア、これと並んで事後的に参戦した日本を米国の次の世界戦略、軍事戦略の中に大きく位置付け、相応の軍事的役割を果たさせようとしている。
 「国家防衛戦略」の「戦略目標」を見れば、米が今何をしようと目論んでいるのが一目瞭然である。「本土防衛」を別にすれば、「グローバルな行動の自由へのアクセスと保持を確保する」として、「主要地域、通信ライン、地球的共有財産(the global commons)へのアクセスを確保することによって、米国とそのパートナー諸国の安全、繁栄、行動の自由を促進する」を最優先目標に掲げ、「同盟とのパートナーシップ強化」「有利な安全保障状況の確立」がそれに次いでいる。世界覇権、軍事覇権の追求である。
※「The National Defense Strategy of The United States of America」http://www.globalsecurity.org/military/library/policy/dod/nds-usa_mar2005.htm (付属翻訳資料参照)
 
 米軍はこうした、新しい軍事戦略に沿って米軍再編=トランスフォーメーションを進めている。一つの柱は「対テロ戦争」の名の下に、中東の産油地帯をはじめ石油資源を米の軍事的支配秩序の下におき、中東からアジア全体の地域=「不安定の弧」に短時間で緊急即応で米軍部隊を送り込める体制を作ることである。もう一つの柱は、従来型の対立関係が残る朝鮮半島、台湾海峡に対する米軍の軍事態勢を強化し、将来の軍事的ライバルとして、急速に台頭し大国化する中国を牽制し、その影響力を抑え込むことである。

 イラク戦争での兵力不足=過剰展開、米軍の危機の下で、米国の同盟諸国、特に日本に対する要求はますます高まっている。従来の「役割分担」(バードン・シェアリング)から「軍事力分担」(パワー・シェアリング)へ、日米同盟を米英同盟へと質的に高めるよう、対日要求は益々強まっている。
 座間への第1軍団司令部移転はアジア全域を対象に米陸軍・海兵隊と陸上自衛隊を一体のものとして運用する体制の布石だ。横田基地の日米共同管理と航空自衛隊の航空総隊移転も米空軍と空自を一体化して普段から運用するものに他ならない。すでに共同の海外派兵について体制作りが始められている。この体制は現行憲法の枠組みでいけば、「自衛隊を米軍の後方支援部隊として運用する」ことを巡る国内での論争となる。しかし、改憲された場合には、米の要求によってイラクにおける英軍と同じように、あるいはアフガンにおけるドイツ軍のように、戦闘そのものに参加したり、治安維持部隊として住民に武器を向ける役割を負わされることになる。
※米軍の過小兵力・過剰展開、米軍の危機については、「ベトナム戦争以来のゲリラ戦・市街戦、二巡目の派兵をきっかけに顕在化した過小戦力、急激に深刻化し増大し始めた損害」(署名事務局)参照。

A 第二期ブッシュ=ライス戦略の「不安定化戦略」。中東、中央アジアで相次いで政権崩壊に関与。

 さらに、第二期ブッシュ=ライス戦略はもう一つの危険性を持っている。それは世界中を不安定化する戦略である。
 フィナンシャル・タイムズ(2005/03/29)オンライン版は、米国で新設された「再建および安定化」局が、不安定化し米が介入すべき25カ国のリストを作成した、とすっぱ抜いた。それによれば、外交部隊、民間請負会社(いわゆる民間の“傭兵部隊”)やNGOが総掛かりで、政権転覆を図るというもので、もちろん軍事力の行使も含まれている。
※「米国は『不安定な国家』をリストアップし、介入を準備する」アルジャジーラ2005/03/29 http://www.globalresearch.ca/articles/ALJ504A.html (付属翻訳資料)

 すでにブッシュ・ライスはこの戦略を進めている。レバノンのハリリ前首相爆殺をきっかけにしたシリア軍撤退圧力、イランの核施設をめぐる圧力と空爆の恫喝。中央アジアでも、ウクライナ・クチマ政権の崩壊に続き米国が関与したと言われるキルギスのアカエフ政権の崩壊。最近、アゼルバイジャンのアリエフ政権に米が「軍事協力か『民主化』か」の圧力を加えたと言われている。アジアでは、6カ国協議を見限る動き、対韓国政策の微妙な修正、対中国政策での警戒姿勢の強化。中南米ではキューバと結合を強め反米反帝民族民主革命「ボリーバル革命」を急進化させつつあるベネズエラに猛烈な圧力を掛けている。そして世銀と国連へのネオコンの送り込みで資金援助と国連外交を使った不安定化工作。等々。

 このライス戦略は、「安保防衛懇談会」で言う「ソフトパワー」「総合安全保障」「軍事力の役割拡大」に通じるものである。ブッシュは、自己の軍事力の限界を逆手にとって、しかしあくまでも世界覇権を追求するために、同盟国を巻き込んで、また世銀や国連援助を活用して、外交的にも帝国主義的支配を強化する政策を強化しようとしている。ありとあらゆる手段を通じて、標的とする地域を不安定化し、自己に有利な政権と支配体制を押しつけようとしているのである。このような状況の下で改憲すれば、米の世界支配、世界覇権のための戦争と軍事介入に正真正銘の軍隊として参加し加担することになるだけではなく、米の「不安定化戦略」全体に加担することにもなりかねない。



[4]9条改憲論批判の幾つかの視点

(1)9条2項改憲の欺瞞を徹底的に批判する。([1]参照)
(2)現実の軍事情勢、日米の軍事外交戦略と日本の軍国主義復活に即して、9条改憲の危険性を具体的に暴露・批判する。([2][3]参照)
(3)もしすでに9条改憲が実現されておれば一体どうなっていたか。米の戦後侵略史との関わりで暴露・批判する。
−−イラク戦争
−−アフガン戦争
−−湾岸戦争
−−ベトナム戦争
−−朝鮮戦争

2005年5月1日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


戦争ができる国造り、グローバル企業のための国造りに反対しよう!
憲法改悪と教育基本法改悪に反対する5・1討論集会[基調報告] 第U部




米国家防衛戦略
National Defense Strategy of United States of America
米国防総省 2005年3月
http://www.globalsecurity.org/military/library/policy/dod/nds-usa_mar2005.htm

エグゼクティブ・サマリー
 米国は、戦争中の国である。我々は、様々な安全保障上の課題に直面している。それにもかかわらず、我々は今もなお、優位と好機の時代に生きている。
 「国防戦略」は、国家とその利益の防衛へのアクティブで重層的なアプローチの大要を述べる。それは、諸民族の独立と、自由、民主主義、経済的機会に適した安定した国際秩序に通じる条件を作り出すことを追求している。この戦略は、これらの目標に関与する世界中の他の諸国との密接な協力を促進する。それは、成熟した、あるいは新たに出現した脅威に取り組む。

戦略目標
直接的な攻撃から米国を守る。我々は、米国を直接的に損なうことを追求する者たち、とりわけ大量破壊兵器を持った極端な敵を思いとどまらせ、抑止し、打破することを最優先にしている。
グローバルな行動の自由へのアクセスと保持を確保する。我々は、主要地域、通信ライン、地球的共有財産(the global commons)へのアクセスを確保することによって、米国とそのパートナー諸国の安全、繁栄、行動の自由を促進する。
同盟とのパートナーシップを強化する。我々は、原理と利益を我々と共有する諸国のコミュニティを拡大する。我々は、パートナー諸国が防衛能力を高めることを支援し、我々の共通の利害に対する挑戦に、共同して対抗する。
有利な安全保障状況を確立する。米政府内の他の諸機関と協同し、我々の安全保障義務を全うし他の諸国と協同することによって、有利な国際システムの状況を作り出す。脅威に対する共通の認識、これらの脅威から防衛するのに要求される諸段階、そして広範で安定した永続的な平和をもたらすために。

いかにして我々の目標を達成するか。
同盟諸国と友好諸国の安全を保障する。我々の協定とその他の防衛上の公約を果たし、共通の利益を守ることを支援するという我々の決意を示すことによって安定を提供する。
潜在的な敵対者を思いとどまらせる。我々は、潜在的敵対者が脅威を与える能力、手段、野望を採用することを思いとどまらせるために力を尽くす。特に我々自身の主要な軍事的優位を発展させることによって。
侵略を抑止し、圧政を迎え撃つ。我々は、有能で急速に発展させることのできる軍事力を維持することにより、必要なら戦闘を有利な条件で決定的に解決する意思を示すことによって、抑止する。
敵を打破する。大統領の命令により、(将来の安全の条件を作るために)我々の望む時、場所、やり方で、敵対者を打破する。

実施のためのガイドライン
4つのガイドラインが、我々の戦略的計画立案と意思決定を体系化する。
積極的で重層的な防衛。我々は、我々の国家、我々の利益、我々のパートナー諸国を積極的、前進的、重層的に防衛する軍事計画、姿勢、作戦、能力に焦点を当てる。
継続的なトランスフォーメーション。我々は、課題に接近し立ち向かう方法、ビジネスを護衛する方法、他者とともに働く方法を、継続的に(状況に適合させ)改造する。
能力に基礎を置いたアプローチ。我々は、この戦略を、対抗能力の内に優先度を置くことによって、成熟したあるいは新たに出現した課題に取り組むために運用できるようにする。
リスクを管理すること。我々は、資源と作戦に関連する全範囲のリスクを考慮し、国防省内のトレードオフを明確に管理する。




米国は「不安定な国家」をリストアップし、介入を準備する

アル・ジャジーラ 2005年3月29日
http://www.globalresearch.ca/articles/ALJ504A.html

 ブッシュ政権は、中東の米国への敵意がその政策のためであることを否定している。フィナンシャル・タイムズによって公表された記事によれば、米国の諜報専門家は、不安定であると見なされ、したがって介入すべき候補である25国からなるリストを現在準備している。
 戦略的計画に必要とされる情報を集める国務省の部局である国家情報会議(The National Intelligence Council)は、秘密リストを準備し、6か月ごとにそれを改訂する、とフィナンシャル・タイムズは火曜日に報道した。

 元大使で今は新しく設置された部局「再建および安定化」の長であるカルロス・パスクアルは、優先順位を明確にし、かつ資源を配分するために国家情報会議が「最も大きな不安定と危険性」の国々を特定するだろうと語った。
 彼の目標は、米軍が介入しなければならない時、素早く反応する準備をすることであると、パスクアルは言った。戦後の作業は、「市場民主主義」の法と制度の形成に集中する、と彼は言った。
 彼は言う。計画には、専門家文民チームの「予備部隊」を組織すること、また民間会社とNGOと再建請負契約を前もって計画することを含んでいる。

 他方では、米国国務長官コンドリーザ・ライスは、国内の安定に配慮しない急速な政治的変革を奨励する新しい米国のアプローチを示唆するコメントとともに、数人の改革派アラブ人に警告を与えた。
 先週のワシントン・ポストのインタビューで、国務長官は、中東地域が安定していないと主張し、それがまもなく安定するということも疑わしいと付け加えて、アラブ諸国の政治的事情に米国が一層介入することを暗示した。

 ワシントンは、モデルを提示することなく、結果がどうなるか知らないまま、「自由」のために遠慮なく発言する、と彼女は言った。ライスはさらに、「民主主義の制度」が地域に「緩やかな影響力」を持つことに、ワシントンは進んで賭けると言った。
「我々はそれを確信できるか。ノー。しかし、中東がどうしても安定に向かわないだろうという強い確信があると私が考えているか。イエス。そして、現状がもはや擁護できないことが分かったなら、喜んで別の方向に動かなければならない」と彼女は言った。

 カイロ大学の政治学教授で緩やかな変化を主張者しているハッサン・ナファは、ライスの発言を評して次のように言った。「これは、非常に危険なスキーム。混乱は管理できなくなるだろう。」「彼らは、民主主義をもたらすことを口実として、混乱と不安定を助長しているように思われる。しかし、人々は、例えば米国人がモデルとして売り込むイラクのような無秩序な状況の中でよりも、非民主的な支配の下でむしろ生きたいと思っている。」とリベラルなアラブ人の外交官が匿名で語った。

 独裁政権のホスニ・ムバラク・エジプト大統領に挑戦した自由主義者であるモハメド・エル・サイド・サイードは、ライスが示唆するような改革に言及して、アラブ人の社会は急速でチェックされない変革に対して準備ができていない、と言った。彼は、アラブ諸国が完全に崩壊するかもしれないと警告した。
 「我々は、ライス博士が示唆する大きな危険を、とても冒すことはできない。我々は、できる限り国外の平和と同様に国内の平和も守ろうと決意している。しかし変革を抑えるということではない。」サイードは付け加えた。彼は、カイロのアル・アハラーム政治戦略の研究センターの次長だ。

 サイードはさらに、アラブの政府および社会を不安定にすることを好むイスラエルの右翼的思考の傾向に、ライスが接近していることを関連づけた。 
 「我々は、破壊が重視されているのを知っており、イスラエルが安定を気にかけることなく、喜んでアラブの社会を深い淵に突き落とすことを知っている。我々は、こうした考えがイスラエルから生じたものではないかと考えている」と、彼は付け加えた。

 ブッシュ政権は、中東のアメリカへの現在の敵意が、国内の抑圧の結果であり、米国の外交政策とイスラエルへの支援──イスラエルとパレスチナの紛争を深刻にし、アラブ人の不満の中心になっている──のためではない、と主張している。そしてこれは、アラブの国々の政治的変革に対する、米国大統領ジョージ・W・ブッシュのキャンペーンの、主要な議論である。