岡崎哲くん 殴打死事件 ( 事例No.981008 )
水戸地方裁判所土浦支部 判決 (2002年5月15日判決言渡)


 ここでは、加害者をはじめ関わった生徒・教師の氏名はすべて匿名としています。また、スペース等の事情により判決の要旨のみを掲載しています。事件詳細に関する双方の主張及び事実認定については、いじめに関する事件の事例及び、「わたしの雑記帳」バックナンバーでの裁判傍聴報告をご参照ください。
                                                               S.TAKEDA



平成12年(ワ)第82損害賠償請求事件 (平成14年3月25日口頭弁論終結)
 原  告 :  岡 崎  后 生  和 江

 被  告 :  牛 久 市
 
主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第1.請 求
 被告は、原告らに対し、それぞれ金1200万円及びこれに対する平成10年10月8日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2.事案の概要
 本件は、同学年の生徒から暴行を受けて死亡した中学生の両親である原告らが、中学校の設置者である被告に対し、同校の教師らには生徒に対する安全配慮義務を怠った過失があると主張して、また、教師らには前記事件について調査を行い、その結果を説明する義務があるのにこれを怠ったり、原告らに対して不当な対応や印象を悪くするような誤った情報を提供したり、警察官に対して死亡した原告らの子の印象を悪くするような誤った情報を提供してり、警察官に対して殊更に原告らの否定的側面を強調する供述をしたりして、原告らの名誉を毀損したり、原告らを侮蔑したりして、原告らに精神的苦痛を被らせたと主張して、国家賠償法に基づいて損害賠償金の支払いを求めた事案である。

1.争 点 1
(1) 教師らの安全配慮義務
 一般に、教師には、学校における教育活動及びこれと密接に関連する生活関係において、生徒の生命、身体等の安全確保に配慮すべき義務があるものと解されるから、生徒間の喧嘩等により、生徒の生命、身体が害されるといった事態の発見を予見できるように努めるとともに、そうした事態の発生を予見することができた場合には、その発生を未然に防止するための措置を講ずべき具体的注意義務を負うものと認められる。
 したがって、教師が故意又は過失によってそうした事態の発生を予見せず、或いは、そうした事態の発生を予見しても、何ら防止措置をとらなかった場合には、安全配慮義務違反の責任を負うものと認めるのが相当である。
 そこで、以下、検討する。

(2) 前提となる事実  (*詳細は省略)

(3) 哲とHの学校での普段の生活状況、かねての同人らの関係、本事件に至る経緯、本件事件の状況等によれば、確かに、本件事件に至るまでには、哲とHとの間にトラブルがあり、本件事件当日の放課後には、M(*女子生徒)、S、N、Y、O(*男子生徒)のほか、当時3年3組に居合わせた何人かの生徒らが、哲とHとの間で暴力を伴う喧嘩が発生しそうな状況を認識し得ていたことは認められるが、他方、本件記録を精査するも、哲が3年3組の教室にやって来て、「今日放課後やっかんな。逃げるんじゃないぞ」などと言った際に、クラス担任S2が居合わせていたとか、Hと哲が連れ立って校舎を出て行くのを教師らが目撃していたとか、Hと哲が喧嘩をするらしいといったことについて、前記生徒や他の生徒から報告や話を聞いていたとかいった、教師らが、哲とHが殴り合うなどの喧嘩に及ぶ危険があることを知っていたというような事実を認めるに足りる証拠はない。
 そうだとすれば、教師らが、本件事故の発生を具体的に予見することは不可能であったと認めざるを得ないのであって、教師らが、哲とHの殴り合いの喧嘩や、哲の死亡という重大な結果の発生を防止できなかったことをもって、教師らに過失(安全配慮義務違反)があったものと認めることはできない。
 したがって、被告が本件事件につき国家賠償法1条1項に基づく責任を負うとの原告らの主張は理由がない。

2.争 点 2 及び 3
(1) 前提となる事実  (*詳細は省略)

(2) 

ア 争点2について
 教師らは本件事件の発生を事前に予見することはできなかったこと(前記1)、本件事件発生直後は、Hが混乱した状態にあり、間もなく同人が逮捕されるなどしたことから、教師らは本件事件の発生後間もなくは、本件事件について詳しい事情を十分に認識し得る状況にあったとはいえないこと、教師らは、本件事件発生後間もなくから警察が捜査を開始していたので、本件事件の解明はまず警察の捜査に委ねることとする一方で、教師らとしても本件事件の詳しい事情を知るために、S(*教頭)が本件事件発生の翌日に竜ヶ崎警察署に事情聴取に赴いており、また、原告らからの「本件事件について詳しい事実を知りたい」との強い要望を受けて、Y(*校長)らは、本件事件の経過等について、関係生徒からの事情聴取を行ったり、生徒らに対し情報提供を呼びかけたりして、教師らとしても独自の調査を行い、その結果知り得た事情を原告らに面談して説明していることからすれば、教師らが原告らに対し、本件事件についての調査を行い、その結果を説明する義務を怠ったとは認められない。なお、Y(*校長)が、他の教師らに対し、遺族や報道関係者に個別に対応することを控えるように指示していたことがあるとしても、教師らが不確実な情報に基づいて個々に対応することによる混乱や誤解を招くことを防ぐための措置として、それ自体不適切であったとは言えない。


イ 争点3について
 前記(1)イのとおり認められる事実経過をみても、教師らにおいて、被告に慰謝料を支払わせるのを相当とするほどの不適切な言動や対応があったとは認められない。
 なお、原告らは、前記2の2(3)のとおり、「原告ら方を訪れた教師らの態度、言動、原告らが学校を訪れた際の教師らの態度、言動、KとN(*共に教師)が原告(*母親)の『話を聴きたい』との求めを断ったこと、教師らが哲のアルバムや記念品を原告ら方に宅配で届けたこと、卒業式の際、哲の遺影が飾られなかったことなどによって、精神的苦痛を被った」旨主張するが、証拠上は、前記(1)イのとおり認められる事実中に原告らが問題視する教師らの言動や対応があったとしても、そういうことがなされた具体的経緯、状況、意図等は必ずしも明らかでなく、さらに、証拠上窺える原告ら側にみられた言動等をも併せ考慮すれば、教師らにおいて、被告に慰謝料を支払わせるのを相当とするほどの不適切な言動や対応があったとは認められない。

3.争 点 4
 (1)(2) 前提となる事実  (*詳細は省略)

 (3) したがって、「哲がHに対し喧嘩を挑発した」旨の同月10日付け東京新聞紙上の記事や、「Hは担任に『岡崎君と違うクラスにしてほしい』などと要望していた」旨の同日付け産経新聞及び常陽新聞紙上の各記事を含めた前記(1)イのような記事の内容が、哲の印象を悪くするもので、その結果、原告らの社会的評価を低下させ又はその名誉感情を害するようなもので、現実に社会的評価が低下し名誉感情が害されたとしても、S(*教頭)の加害行為が認められない以上、これについての不法行為の成立を認めることはできない。

4.争 点 5
 (1) 前提となる事実  (*詳細は省略)

 (2) 以上の事実によると、S(教頭)は、警察官に対し、哲や原告らの否定的側面を供述していることが認められる。
 しかしながら、前記の事実からは、S(教頭)は、交番において、警察官から、捜査上の必要性及び供述内容が外部に漏れることはない旨を告げられた上、警察官の質問に答えて供述をしたこと、捜査報告書は、警察官がS(教頭)の供述内容を要約して作成したものであるが、専らHを被疑者とする傷害致死事件の捜査及び少年審判の資料として使用されることが予定されているもので、原告らを含めて不特定又は多数の一般人の目に触れることは通常考えられない書類であること、また、S(教頭)が原告らの名誉を毀損し又は原告らを侮辱するために、殊更に哲や原告らの否定的側面を強調した供述ょしたものとは認められないことを指摘することができるのであって、そうした点を考慮すると、S(教頭)が警察官からの事情聴取に応じて、捜査報告に記載された主旨の供述をしたことをもって、S(教頭)が故意又は過失によって原告らの名誉を毀損し、或いは、侮辱したものということはできない。

5.結  論
 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文とおり判決する。

                          水戸地方裁判所土浦支部

                               裁判長裁判官  川島 貴志郎

                                    裁判官  出口 博章


一審判決が出たあと控訴審に向けて、岡崎さんからの依頼で生まれて初めて『上申書』(「お上にもの申す」と書くのですね)なるものを書きました。ただし、私は法律の専門家ではありませんので、あくまで一般市民としての立場で思うところを書かせていただきました。この裁判にどれほど効果があったかは疑問ではありますが。
S.TAKEDA




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