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女性2000年会議、日本NGOレポート
by NGOレポートを作る会, 1999.08.13
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I 女性の人権

  1. 女性の人権
  2. 法識字の強化
    (1) 女性差別撤廃条約
    (2) ILO条約など
    (3) 国内法
  3. 高齢女性
  4. 女性障害者
  5. 外国人女性,在日韓国朝鮮人女性
  6. その他の差別
  7. 「人権教育のための国連10年」
  8. 女性の人権保障の強化に向けて

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1. 女性の人権

 「女性の人権」は,法的な権利のみではなく,宗教上や慣習上の差別の撤廃などの文化的・社会的な権利をも含むものである.

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2. 法識字の強化

(1)女性差別撤廃条約

 国連女性差別撤廃委員会は1982年の発足以来,女性差別撤廃条約の履行確保のため,たゆみない活動を続けている.

 日本政府は『「北京行動綱領実施状況に関する質問状」への回答』では,女性差別撤廃委員会の報告会を毎回行っているとしているが,対象のNGOはかなり限られた範囲である.日本政府の同条約の第1次レポート,第2・3次レポートに対する同委員会のコメント等をこれまで日本語に翻訳して,広報していない.前述の同委員会の報告会も常に概要のみであり,全容はわかりにくい.また,女性差別撤廃条約(和文)のリーフレットの存在は全く知られていないし,ポスターも配布しただけであり,日本の幅広い人々への広報とはなっていない.しかも,総理府男女共同参画室が行った「世論調査」において,女性差別撤廃条約の認知度は1995年は27.8%で,1992年の39.9%よりも低くなっている.これらの結果からもわかるように,日本では今後は女性差別撤廃条約をもっと積極的に広めていく必要がある.

 女性差別撤廃条約の研究・普及を行っている国際女性の地位協会(日本の女性のNGO)では,1996年から同条約をわかりやすく広めるための「出前講座」を開発し,条約の紙芝居を作成したり,条約のエッセンスのトークパフォーマンスを演じたり,条文毎の「ジェンダー・チェック」を行ったりして,参加者が楽しみながら同条約を知ることのできるよう,日本全国で啓発活動を行っている.

 また,国際的な人権条約は,女性差別撤廃条約のみではない.国際人権規約(A・B規約),子どもの権利条約など,女性や女児の権利と関連する重要な条約があることを,学校教育や社会教育などを通じてもっと広めていく必要がある.とくに,日本政府は国際人権規約に関する規約人権委員会の勧告等を日本語に翻訳して広報する努力を怠っている.

 以上の勧告等の内容を明確に把握し,政府とNGOがパートナーシップを組んで検討し,人権問題への取組みを前進させるべきである.さらに,日本政府は「個人通報制度」に関する国際人権規約(自由権規約・B規約)の第一選択議定書を早急に批准すべきである.

 女性差別撤廃条約の選択議定書が国連総会で採択される見通しだが,日本政府は同条約の選択議定書を批准し,かつ「個人通報制度」がどういうものなのかについて積極的に広報に努めるべきである.そのためにも,「個人通報制度」に対し,日本政府は一刻も早く消極的態度を改めるべきである.さらに,裁判官は,実際の裁判において日本がすでに批准している国際人権条約(女性差別撤廃条約や子どもの権利条約など)を軽視ないし無視している態度を改めなければならない.

(2)ILO条約など

 上記の国際人権条約のみならず,ILO条約も,女性の労働権の保障のためには重要である.しかし,現在,日本は181ある同条約のうち,42のみ批准しているにすぎない.雇用機会均等法や労働基準法は改正されたが,対象は正規労働者に限定され,派遣などの非正規労働者には適用されず,非正規労働者は厳しい労働環境に放置されている.また,すでに批准しているILO条約の中でも,ILO100号条約の「同一価値労働同一賃金原則」を誠実に履行しているとは言いがたい現実があり,日本政府はILO条約に関してももっと熱意をもって積極的に取組んで欲しい. 日本政府は「女子差別撤廃条約実施状況 第四回報告(仮訳)」(1998年7月)で,平均賃金の男女格差は100対63.1と報告している.しかし,女性の非正規労働者が増大しており,この数値には女性の非正規労働者が含まれておらず,男女の賃金格差が正確にとらえられているとはいえない.国連のUNDPの『ジェンダーと人間開発』(『人間開発報告書』・1995年)の男女の賃金格差の調査には,日本政府から報告が出されていない.また,1997年『貧困と人間開発』の「女性は低賃金労働力に従事する率が高いー低賃金労働者の割合 1993―1995年」で見ると,日本の低賃金労働力に従事する同比率は,男子に関してはスウェーデンに次いで低いが,女性については調査対象の5カ国中最も高くなっている.

 女性が権利を侵害された場合に,裁判を受ける権利はあるが,弁護士費用などを補助するための「法律扶助制度」の一層の充実が,とくに弱い立場の女性にとって望まれる.

(3)国内法

 日本では,ナイロビ将来戦略50項の課題である女性に対する差別となる「法律の廃止および改正」がなされていない.なかでも,民法(家族法)の改正は急務である.現行の民法750条での「夫婦同姓強制」の結果,実際には約98%の夫婦が夫の姓を夫婦の姓としているが,「選択的夫婦別姓」の早期導入が望まれる.婚外子の相続分の差別もまだ残っており,婚内子と同等にすべきである.また,離婚法改革として,離婚後,妻が再就職など新たな生活基盤ができるまでの生活補償や財産分与の確保,子どもの成長発達権を保障する養育費の履行確保制度を法律で規定する必要がある.離婚した父親に養育費の支払いを約束させても,実際には14.9%(1993年)の父親しか支払っていないという実態がある.この問題は日本人男性と外国人女性との国際結婚でも問題となっている.

 日本の国内法の適用において,女性差別撤廃条約や国際人権規約,子どもの権利条約などの国際人権条約およびナイロビ将来戦略や北京行動綱領などの国際人権文書の諸規定を誠実に履行出来るように,日本の国内法に充分その内容を反映させるべきである.また,裁判が長期化する中で,もっと迅速に対応出来る女性の人権保障のための救済機関の設置が求められる.そのために,女性のための国内人権救済機関について,政府とNGOが協力して調査・研究を行うことが必要である.

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3. 高齢女性

 2000年4月から公的介護保険介護制度が実施されることになっているが,日本の高齢者保健福祉政策は施設福祉と在宅福祉との二本柱で行われている.在宅の家族介護者は男性が少し増えてきたが,女性が約85%を占める.低賃金のホームヘルパーなどの保健福祉労働者も女性が大部分を占めている.平均寿命は男性より女性が長い.高齢者の人権を守ることは女性の人権を守ることである.一人暮らしの高齢者が「孤独死」しないこと,家族介護者が長年の介護に疲れ果てて高齢者を虐待しないこと,公的介護保険制度の要介護認定から外れたボーダーラインの人々を地域が支えること,さらに,ホームヘルパーなどが密室である訪問先でセクシュアル・ハラスメントなどの性暴力の被害者とならないことなど,公的介護保険制度の実施に向けては課題が多い.とりわけ,高齢女性障害者に対する介護・介助サービスの低下を阻止し,現状の水準以上となることが求められる.以上のような課題解決への議論を尽くさず,公的介護保険制度が導入されることになるが,実際の運営主体は各々の地方自治体である.公的介護保険制度は,住民(とりわけ女性)の参画と国・地方自治体・住民との十分なコミュニケーションの下で運用されるべきである.

 今年1999年は国連国際高齢者年である.高齢者の人権の確立のために,「自立・参加・ケア・自己実現・尊厳」などの原則が提起されている.高齢者,とくに,高齢女性の「自立」の問題への総合的取組み(例,独居女性の住居の確保など)が必要である.

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4. 女性障害者

 女性障害者に対する施策を充実するために,障害者施策へのジェンダーに敏感な視点の導入が求められる.障害者や先天性の遺伝疾患の人々に対し差別的であった優生保護法が1996年に改正され,母体保護法となった.しかし,日本の厚生省は優生保護法の下で女性障害者に対して行われた「強制不妊手術」を適法とみなし,補償に応じていない.また,施設入所の女性障害者に対しては,月経の介助が大変であるという理由で病気でない正常子宮摘出手術が行われていた.

 1998年の国連規約人権委員会の勧告でも,「強制不妊手術」への補償の必要性を指摘している.1999年に障害者のNGOが中心になって,「強制不妊手術」の被害者のためのホットラインが全国で設けられ,被害の実態調査が始められている.日本の法システム上の時効や「遡及効(遡って適用すること)」を認めないという壁を乗り越えて,日本政府が被害者の救済に取組むべきである.

 また,女性障害者の中でも,精神障害者や知的障害者に対する施策等をもっと積極的に推し進めるべきである.同施設での「異性介助」や性暴力の撤廃を求める.

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5. 外国人女性,在日韓国朝鮮人女性

 外国人女性の問題の第1は,人身売買同然に日本に連れてこられて性産業で働かされている「無資格滞在」の女性の問題である.第2は,農村や都市部などでの「嫁」不足のため,国際結婚斡旋業者により日本人男性と結婚するために日本に来る外国人女性の問題である.この場合も仲介に斡旋業者が入り,金銭が介在しているので,人身売買の疑いがある.具体的には,「写真と書類での見合い結婚」と「結婚ツアー」がある.外国人女性の「生活の糧としての結婚」という側面は否定できないが,このような国際結婚の場合,文化的問題,言語,気候(寒さ)などで,外国人女性が精神的,心理的,肉体的に追いつめられてしまう.例えば,日本で日本人男性と結婚したフィリピン女性の場合,約85%が離婚している.外国人女性が日本に来て5年以内の場合,夫に離婚されてしまうと「無資格滞在者」になってしまうなど,非常に弱い立場になり,子の養育費や就学などの問題にもなっている.これら外国人女性への総合的支援体制の整備が必要である.

 日本政府が女性差別撤廃条約を批准するために,国籍法を改正したが,この改正は「国際結婚」を法的にした夫婦の間に生まれた子どもの国籍に関しての「父系血統主義」から「両系血統主義」への改正のみであった.子どもの父親が日本人で母親が外国人の場合,その子の両親が法律婚をしていないと,出生後父親が認知をしても子は日本国籍を取得出来ない.この場合,父親が「胎児認知」をしておかないと,日本国籍が取得できないのである.しかし,婚姻していないカップルの場合,外国人の女性が妊娠中に相手の日本人男性に胎児の認知を求めることは極めてむずかしい.国籍法が明治時代につくられた法であることによる限界があるため,早急に改正する必要がある.この問題は日本にいる外国人女性と子どもの問題にとどまらず,「日比国際児」など外国でも生じている問題である.

 「移住労働者・家族保護条約」の早期批准も求めていかなければならない.

 在日韓国・朝鮮人女性の差別の問題も根深いものがある.日本人も,国籍法や外国人登録法,入国管理法の問題を十分に知る必要がある.

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6. その他の差別

 日本には,先住民であるアイヌに対する差別の問題や同和問題などがあり,これらの問題に今後も取組んでいかなくてはならない.そこでは,各々の差別と女性差別とが二重差別・複合差別になっている.

 意識されにくい差別に「年齢」差別がある.北京行動綱領では「年齢差別」も差別であるとして問題にしている.日本では,募集・採用などにおいて年齢で差別があり,中高年女性には門戸が閉じられている.女性はより若いほうが価値があると社会的にも本人自身にも信じられていて,これにより女性の人生の選択肢が狭められている.被疑者・被告人や被害者の女性,また多様な性的指向を持つ人たちの人権ももっと保障されるべきである.

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7. 「人権教育のための国連10年」

 「人権教育の国連10年」と「北京行動綱領」で述べられているように,日本で今最も人権教育が

 必要なのは,「司法関係者,行政関係者,学校教育関係者」である.それは,裁判官,検察官,弁護士,司法修習所の教官,法務省をはじめとする公務員,警察官,刑務所や拘置所の職員,小・中・高校・大学の教員などである.なかでも,法曹三者である,裁判官,検察官,弁護士に対しては,その養成課程である「司法修習所」のプログラムに「人権教育」を盛り込むべきである.そして,女性差別撤廃条約をはじめとする各種の国際人権法に関しても相当の時間を費やして教育すべきである.

 さらに,「学校教育関係者」,文部省,教育委員会,教職員組合,教職員などに対する,「女の

 人権」に関する研修等が不可欠である.その他,医療や福祉関係者への同様の「女性の人権」に関する教育・研修等の拡充が急務であり,専門家・専門職に対する「女性の人権」,つまり,ジェンダーに敏感な視点からの人権教育が必要である.

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8. 女性の人権保障の強化に向けて

 日本は識字先進国であるにもかかわらず,法識字にはさまざまな問題があり,「人権後進国」となっている.政府とNGOが協力し合って,あらゆる分野での人権向上と女性の人権保障への取組みを強めるべきである.

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