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女性2000年会議、日本NGOレポート
by NGOレポートを作る会, 1999.08.13
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B 教育

1 概観

2 阻害する要因

  1. ジエンダーに敏感な視点の欠落
  2. 男女平等教育を推進する担当(組織・担当官)の設置
  3. ジエンダー・バイアスを再生産する教科書
  4. 性別による進路の違いー学習、専攻領域の男女比のアンバランス
  5. 職域の性別分離につながる進路・職業指導
  6. 女性にとってのモデル不在―教職員構成の男女アンバランス
  7. ジエンダー学習の機会が少ない教員研修・教師教育
  8. 女性のエンパワーメントにつながらない生涯学習
  9. 縦割り行政で分断される教育機会

3 将来へのビジョン

  1. ジエンダーに敏感な視点を含んだ積極的施策の必要
  2. 男女平等教育を推進する担当(組織・担当官)の設置
  3. ジェンダーに敏感な教科書の編集、検定、採択
  4. 教師の学習機会の確保
  5. 新たな教育の必要
  6. 人権やジエンダーに配慮した人間形成の場とする
  7. 制度改革による見直し
  8. 教育における決定過程への女性の参画

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1 概観

 北京行動綱領の教育の領域においては、初等・中等教育のジエンダー格差の解消、教育への平等なアクセスといった、具体的かつ緊急を要する取り組みの必要性が強調されている。学校をジエンダーに敏感なシステムにすることにより、女性自身が「自分で選び、自分で決定する力をつけること、差別を見抜く力をつけ、変革の主体になる」ことへの強い期待が読み取れる。そのためには、職業教育、専門教育の充実による「女性の経済的自立支援」が不可欠であるとの指摘がなされている。

 日本の教育の実態は、女子差別撤廃条約の批准、北京女性会議など世界的な動きからく る外圧、及び国内の女性たちを中心とした運動の高まりによって、家庭科の男女共修など 男女同一カリキュラムという制度的平等だけはある程度整備されたと言える。政府の回答 もこの点を評価してはいるが、現実には家庭科共修は性別役割打破という本来の主旨が徹 底しているとは言い難い。回答は、行政によるジエンダーの視点を組み込んだ学校教育にたいする具体的な変革への取り組みを欠いたものとなっている。

 例えば、文部省による1998年の「教育改革プログラム」には「男女平等の意識を高 める教育の充実」を掲げながら、その後、その目標に向けて具体的に「何を、どのようにおこなうのか」が示されないままになっている。 また教育の分野において、いまだ根強く残る性差別状況の実態分析が欠如しており、現 状改革への具体的な教育政策が記述されていない。

 しかし、1985年のナイロビ会議以降、女性を中心とした市民、現場の教員、研究者 などによるさまざまな実践活動や行政への働きかけが盛んになり、教育慣行にみられる性 による区別の撤廃が全国地域格差はあるものの除除に実現しつつある。男子が先とされて きた名簿は男女別名簿を改め、両性を区別しない混合名簿の導入は良い具体例である。現 在、小学校では25.4%、中学校では3.4%(東京都1998)が実施している。い わゆる「隠れたカリキュラム」への取り組みのように、一部地域によっては、前進や改善 に結びついているところも見られるが、多くの学校や地方自治体レベルではいまだ問題意 識は薄い。

 また政府の回答には全体として日本の学校教育、社会教育現場においては、男女の特性論、固定的性役割意識は依然として強く、特に学校が「性差別再生産の場」となっている点は緊急な改善が必要である。

 なお、日本において非識字の問題は解決しているという認識は誤りである。被差別部落の女性は貧困ゆえに教育を受ける権利を奪われてきた。100人のうち5人の女性が未就学であり、「22万人の非識字者」がいる。(ユネスコ、1989)

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2 阻害する要因

(1)ジエンダーに敏感な視点の欠落

 教育制度の機会均等は達成されてはいるが、教員、保護者をはじめとする人々の意識 におけるジエンダーに敏感な視点の欠如が、性別による能力形成や進路選択の違いや偏り を生み出している。また施策においても、教育課程改善に当っての対応でも重要事項として位置づいてはおらず、教育委員会のみならず、男女平等教育に対する国、及び文部省の消極的な姿勢が不充分な取り組みしか行わない状況を生み出す要因となっている。

(2)男女別を基本とする学校慣行

 学校生活の中で、名簿を始めとし、並び方、持ち物、グループ編成、係り担当、部活動 など、男女別を基本とする学校慣行が様々な場面に存在している。毎日繰り返されるこう した事柄は「隠れたカリキュラム」としてジエンダーを再生産し、性別特性論をもとにし た「女らしさ」「男らしさ」の定型化につながる。学校全体がかかえる男女別を基本とす るこうした慣行を存続させることは、能力形成、進路形成の男女分けにもつながり、ジエ ンダー・バイアスの是正と両性の平等意識を形成するうえで大きな障害となっている。また、固定的性別役割は教師間の活動およびPTA活動においてもいまなお残存している。

(3)ジエンダー・バイアスを再生産する教科書

 学習内容にかかわる教科書の問題は、これまでにもNGOや教師グループなどから多くの批判がなされているが、依然としてジエンダーに配慮したものにはなっていない。また家族の多様化や女性の自立を基本とした教科書が検定制度で不合格にされたこともある。教師やNGOグループによる教材開発も行われているが、学習内容の基本となる教科書を両性の平 等、女性の自立の立場から変革する姿勢は政府にはみられない。

(4)性別による進路の違いー学習、専攻領域の男女比のアンバランス

 4年制大学進学率は女子27.5%、男子44.9%(1997年)であり、女子 の進学率が高まっているとはいえ依然として男女の差は大きい。また高校の学科・コース、 大学の専攻領域でも、男女別構成比のアンバランスが依然として目立つ。高校の普通科で は理数系に男子、文系は女子が多く、専門学科では工業(機械、電気、技術)は男子、商 業、文化、デザインは女子の比率が高い。こうした性別による進路の違い・男女のアンバ ランスの実態は、社会生活や職業における性別分離に連動してしまう。入学定員の男女同 数化も一部では議論されているが、こうした学校の男女構成比のアンバランスを是正する ことを積極的に行う必要がある。

(5)職域の性別分離につながる進路・職業指導

 男女雇用機会均等法が改正され、職業における性別分離が解消に向かっている。こうし て職業社会が門戸を開いても、それにつなげる学校の進路指導の体制がとれていない場合 が多い。これまでのような職域の性別分離につながる進路指導・職業教育では、ジエンダ ー・バイアスを再生産する進路をつくりあげ、女性の経済的自立を阻害する状況を生み出 すものとなる。

(6)女性にとってのモデル不在―教職員構成の男女アンバランス

 生徒にとって身近なロールモデルである教員集団が、構成においても役割においても男 女が対等に働く場とはなり得ていない。小学校教員では6割が女性であるのに、校長は女 性が1割程度と管理職の女性の登用は著しく少ない。全体をみても実習教員、非常勤教員 に女性が多いが、管理職、主任に少ない。また教科別では、養護教諭や家庭科、国語、英 語は女性が多いが、理数系、保健体育などは少ない。

 また中学の「技術・家庭科」の担当教員は、免許法が「技術」と「家庭科」を別にして いるため、多くの場合技術は男性の教員、家庭科は女性の教員が交替で教えている実状が ある。教員集団の性別役割分業を生み出すこうした制度が検討されることなく存続してお り、今後制度改革を必要とする事柄である。こうした学校の教職員構成は、教師にとって も男女平等な職場とは言えず、また生徒にとっても男女平等のモデル不在といえる。

(7)ジエンダー学習の機会が少ない教員研修・教師教育

 ジエンダーに配慮した教育を実施するためには、教師自身がそうした学習の機会を充分 にもつ環境が必要である。しかし、人権や男女平等教育に関する研修、教員養成段階での 学習も充分とはいえない。前述の(2)にみるように男女別学校慣行の打破として男女混 合名簿が実施されても、名簿をきっかけにクラス運営や学校生活をどのようにジエンダー に配慮して変えていく必要があるのか、とまどっている教師もあるという。教師自身がジ エンダーについての学習機会をもてないことが、男女平等教育、男女共同参画社会の基本 となる教育の進展にとって、大きなマイナスとなっていることに注目する必要がある。

(8)女性のエンパワーメントにつながらない生涯学習

 生涯学習政策の促進によて、成人女性の学習機会はかなり充実しており、講座の受講者 数の性別比は、女性が男性の2倍となっている。しかし、自治体の社会教育主事の女性比 率は10%に満たず、「指導は男性、受講者は女性」という構造になっており、「女性の エンパワーメント」につながりにくい。こうした構造の中で、ジエンダー・バイアスを再 生産してしまう学習内容と方法になりがちである。「ジエンダーに配慮した視点」ですべ ての学習活動を推進することが求められ、学習に携わる者が「ジエンダーに配慮した視点」 を形成するための研修が課題となっている。

(9)縦割り行政で分断される教育機会

 女性が変革の主体となり、また経済的自立が可能となるよう支援する教育が必要であ るが、職業教育については、文部省ではなく労働省の所管となっているため、成人女性の生涯学習機会に、職業教育が位置付きにくくなっている。縦割り行政の在り方が、女性の学習機会の統合性を妨げることにつながっている。

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3 将来へのビジョン

(1)ジエンダーに敏感な視点を含んだ積極的施策の必要

 具体的に学校教育、社会教育の基本姿勢として男女平等を明確に位置づけることと同時に、教育における男女のアンバランスを是正する積極的施策(男女の新たな能力形成、進路の開発につながる施策)を打ち出す必要がある。例えば、科学分野への女性の進学を 奨励する制度的措置をとることなどが、早急に望まれる。また進路指導においても、男女の性別分離を解消するために、積極的施策が展開されることが急務である。

(2)男女平等教育を推進する担当(組織・担当官)の設置

 個々の教員の活動だけでなく、学校全体による取り組みが「ジエンダーに配慮した教育 システム」づくりにつながる。東京都、大阪府、神奈川県等ではすでに男女平等教育の実 践指定校が置かれている。こうした活動を活発化するためにも、推進する担当(組織。担 当官)を教育行政組織、学校現場に設置することが、問題解決のアクセスにつながる重要 な点となる。

(3)ジェンダーに敏感な教科書の編集、検定、採択

 教科書に登場する人物の性的偏り、性別の固定的イメージを撤廃していくために教科書の編集,検定、採択の決定過程に女性を半数採用すること。

(4)教師の学習機会の確保

 人権や男女平等教育に関する研修も充分とはいえない状況であり、教育委員会が初任者 教員をはじめとし現職、管理職研修に男女平等教育の実施に関するプログラムを準備する 必要がある。それと同時に、教員養成大学においても教師教育の基本として女性学などを 必修とし、また教員研修で入学した場合もジエンダーについての学習が行えるよう学習機 会を確保することは、実際にジエンダーに配慮した教育を推進する上で大きな力となる。

(5)新たな教育の必要

 今後の社会においては、これまで見逃されてきた新たな教育が求められる。人権を基本 とする、自分のからだを大切にした性教育を含めた総合的なリプロダクティブヘルス教育、 社会的公正や平等、ジエンダーの視点に立ったメデイア・リテラシー、法識字教育、第3世界の女性たちと私たちの関係を理解するためのジェンダーの視点に立った地球市民教育 などの必要性が認識され、新たな教育として明確に位置づけられねばならない。こうした 自立や自己決定の力を高める教育が、新たな社会の女性・男性をエンパワーメントするこ とにつながる教育として大いに取り組まれる必要がある。

(6)人権やジエンダーに配慮した人間形成の場とする

 学校は人権やジエンダーに対する配慮がなされているとはいいがたいこともある。「セ クシャル・ハラスメント防止ガイドライン」を作成し教職員の理解を高めている自治体も あるが、まだ全国的にひろがってはいない。また、学校の日常的な生活の中で、性の商品 化や固定的な性別役割意識を変革する力を、教師も生徒ももてる環境作りが必要であり、自尊心をもって活動できる人間形成の場として学校が機能するよう、充分な配慮必要であ る。また、多様な家族の状況を理解し、これまでのように学校と係わるのは母親という性 別役割分業社会を前提とする見方を変えて、生徒の家族と係わることが望まれる。

(7)制度改革による見直し

 公立学校に残存する男女別学について(宮城県、福島県、群馬県、栃木県、埼玉県など に存在)、女性行動計画の指摘から男女共学化を推進する動きが戦後50年を経てようや く生まれている。福島県では、県立高校の男女共学計画を現在推進中である。しかしここ でも、男子(校)を中心とする形式的な男女共学となり、ジエンダーに配慮した基本方針 を持たないため、問題点は多い。男女共学を形骸化させないためにも、ジエンダーの視点 に配慮した教育が実現するよう、制度改革による新たな見直しが必要である。

(8)教育における決定過程への女性の参画

 教育委員会を構成するメンバーにジェンダーの視点に敏感な女性を半数採用するととも に教育委員に女性を登用すること。

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