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女性2000年会議、日本NGOレポート
by NGOレポートを作る会, 1999.08.13
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C.女性と健康

1. 進展の見られた点: Innovative policies, programs, projects, and best

2. 直面した課題及びその克服: Obstacles and how they are being overcome

  1. 女性の健康に関する予算の配分
  2. 女性の健康に関する法体系の不備
  3. 女性を取り巻く脆弱な医療状況
    a. インフォームド・チョイスの欠如
    b. 出生率の低下と不妊治療
    c. 乳がんその他の女性に特有ながん
    d. 子宮内膜症と子宮筋腫
    e. 避妊法の選択肢
    f. HIV/エイズの感染の拡大
    g. 精神面のケアの不備
    h. ヘルスサービスの地域格差の拡大と医療費の問題
  4. 思春期・若者
  5. 高齢者
  6. 障害をもつ女性
    a. 障害をもつ女性の健康と性と生殖に関する権利
    b. 日本の隔離、分離された教育制度
  7. 女性に対する暴力
  8. 女性と労働
  9. 地球環境の悪化
  10. 下がりゆく出生率
  11. 国際協力

3. 将来への展望: Visions for the future

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1. 進展の見られた点: Innovative policies, programs, projects, and best practices

 国連女性の地位向上部が北京行動綱領の実施に関して行った質問に対し、日本 政府が1999年4月に提出した回答書に照らして、女性NGOの視点からは以下の3点 が挙げられる。

 第1に、1996年12月の内閣総理大臣官房男女共同参画室による『男女共同参画 2000年プラン』において「第2部 施策の基本的方向と具体的施策」の一環とし て「9. 生涯を通じた女性の健康支援、(1) リプロダクティブ・ヘルス/ライツ に関する意識の浸透」が初めて盛り込まれた。

 第2に、人工妊娠中絶と不妊手術の許可条件を規定した1948年制定の「優生保 護法」の1996年における「母体保護法」への改正は、障害者に関する部分を削除 した点について歓迎できる。

 第3に、1994年カイロで開かれた国際人口・開発会議(ICPD)において、日本政 府は人口とHIV/AIDS関連のGlobal Issues Initiative(GII)を提案し、さらに1995 年、第4回世界女性会議では、女性と開発に関してWID Initiativeを提案し、国 際協力を推進している。また、この領域における政府とNGOとの連携はICPD以降、 ある程度形成されてきている。

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2. 直面した課題及びその克服: Obstacles and how they are being overcome

(1)女性の健康に関する予算の配分 

 『男女共同参画2000年プラン』に対応し、厚生省の予算案の項目として「生涯 を通じた女性の健康支援」が含まれるに到った。しかし、母子保健、なかでも子 どもを中心とした予算配分が続いている。その他には、高齢女性の骨密度検査に 予算が配分された程度で、北京行動綱領が充分に反映されていない。加えて、1997 年の母子保健法の改正と地域の保健所の統廃合により、地方自治体に主な予算の 配分が任せられることになったため、地域間の受益格差をうみだしつつあること は、女性にとり一種の施策の後退であると言える。

(2)女性の健康に関する法体系の不備

 1996年の優生保護法の母体保護法への改正は、日本政府による北京行動綱領の 採択後であった。しかし、母体保護法では、女性が人工妊娠中絶を行うにあたり、 夫またはパートナーの了解を得なければならないとした部分の修正が行われな かったのみならず、女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツに基づく生涯にわ たる女性の健康に関する政策の法制化は実現していない。さらに、出生前診断等 の生殖技術の拡大で、胎児に異常が発見された場合は、妊婦が中絶を選択せざる をえない状況があり、障害者への差別と優生思想が社会一般に根強く残っている。 なお、刑法第29章堕胎罪は1880年制定、1907年一部修正であるが、人工妊娠中絶 に関し、女性と医師等の施術者が処罰される規定を含んでおり、それが今なお存 在している。

(3)女性を取り巻く脆弱な医療状況  

a.インフォームド・チョイスの欠如

 医師の力が患者に勝っており、さらに医師は男性患者に対するよりも女性患者 に対して、より優位に立つ場合が多く、インフォームド・チョイスが充分に保障 されていない。  

b.出生率の低下と不妊治療

 合計特殊出生率の低下に伴い、日本政府は出生率増大対策として不妊治療を推 進している。不妊治療その他の生殖医療関連の領域では、医師と患者の間のイン フォームド・チョイスが保障されない場合が数多くある。「女は、子どもを産ん で一人前」という社会通念が未だに強く、不妊に悩む女性たちに不妊治療を「押 し付ける」状況が存在する。  

c.乳がんその他の女性に特有ながん

 ある統計によると、日本には3万人の乳がん患者がおり、毎年7千人が死亡して いるという。1970年代に比べて、この数字は3倍に増えている。また、日本はが んの発生率の最も低い国の一つであるが、乳がんの発生率の増加率は世界第1位 である。女性に特有ながんの早期発見を促すためにも、政府は増加の原因と治療 方法に関して、さらに研究と対策を推進すべきである。  

d.子宮内膜症と子宮筋腫

 急増している子宮内膜症の患者の多くは、腹腔鏡や試験開腹術による的確な診 断ではなく、超音波診断のみを受けており、頭痛や性欲減退等の有害な副作用が あり高価なGnRH-aによる薬物療法を受けている。また、子宮内膜症の治療に有効 とされる低用量ピルは、健康保険の適用外となっている。子宮内膜症を子宮筋腫 と診断される場合も多く、研究と治療の進展が望まれる。

e.避妊法の選択肢

 日本では、避妊法の選択肢が極度に制限されてきた。1999年6月、その認可申 請から9年を経てようやく低用量の避妊薬ピルが認可された。同時に、銅付加IUD も認可された。それまでコンドームへの依存が高く、望まない妊娠をした場合に は、女性の心理的・身体的負担の大きい人工妊娠中絶により、子どもの数を調節 せざるをえなかった。日本の女性の間では、ピルの使用は女性のホルモンのバラ ンスを撹乱するとして女性の身体に犠牲を強いると主張するものが多い。一般男 性の精子量の可逆的調節を目指す薬の早期開発を望む声もある。なお、強姦や望 まない性交の後の緊急避妊に関して多くの女性が正しい認識を持っていない。さ らに、一般的に性感染症の予防に関する態度が弱く、コンドームの使用の推進が 必要であることの周知徹底が急務である。

 避妊に関する選択肢の拡大のみならず、個人差の大きい副作用に関する適確な 情報を含む情報の提供、インフォームド・チョイスの推進、及び相談所を含むサ ービスの充実が強く望まれる。  

f.HIV/エイズの感染の拡大

 HIV/エイズの感染の拡大に関する研究と対応の推進が急務である。  

g.精神面のケアの不備

 乳がんその他の、主として女性に特有な病気や暴力被害者等の精神面のケアと 健康に関する教育及び情報とサービスの提供の充実が必要である。  

h.ヘルスサービスの地域格差の拡大と医療費の問題

 地域分権政策の推進により、人口の少ない地域の保健施設は閉鎖となり、身近 な医療機関の不足と医療関連支出の増大が生じてきている。不景気の影響も加わ り、特に高齢女性を含む弱い立場にある女性が大きな不利を被っている。さらに、 被差別部落、母子家庭、在日外国人女性等の中に健康保険に加入していない人や 自己負担分を払えないため受益者となりえない人の比率が高いと推測されてい る。

(4)思春期・若者

 思春期・若者の望まない妊娠と性感染症、性教育、薬物乱用、喫煙、及び子どもへの商業的、性的搾取に関しては多くの課題が存在している。この報告書の「L. 女児」 の項を参照されたい。

(5)高齢者  

 1997年の日本人の平均寿命は女性83.82歳、男性77.19歳。65歳以上の高齢者が 全人口に占める割合は16%を超え、2000年には17.2%、そのうち女性は6割を占 めると予測される。高齢女性に対する健康施策は特に劣っている。急増する要介 護高齢者を在宅介護する家族の85%は女性で、なかでも「嫁」の負担が大きい。 家族介護者自身の高齢化と介護の長期化・重度化によって介護者自身の健康が脅 かされている。家族以外のヘルパー等の介護職者は不足している。 2000年4b月に施行される介護保険法によれば、介護サービスを受ける高齢者は、 要介護認定を受けてサービス費用の1割を自己負担しなければならない。高齢男 性に比べて女性の多くが経済的に貧しい立場にあり、“貧困の老女化”が進む恐 れがある。1人暮らし高齢者の8割が女性であり、介護保険を含め、女性に偏る高 齢低所得者対策をたてる必要がある。女性が寝たきりや痴呆にならず健康に寿命 を全うするための研究や福祉政策は、現状では不充分である。

(6)障害をもつ女性  

a.障害をもつ女性の健康と性と生殖に関する権利

 障害をもつ女性は他の女性に比べてさらに弱い立場にあることを、政府は理解 すべきである。障害をもつ女性は子どもを産むべきではないとされ、不妊手術や 子宮の摘出を強要される例が数多くある。社会が優生思想を保持し、障害者を他 と区別して扱う限り、障害をもつ女性の性と生殖に関する権利は保障されない。 さらに、精神障害では男性の罹患率が高く、女性が作業所等の施設利用者定員か ら外されてきている場合がある。  

b.日本の隔離、分離された教育制度

 多様な身体のあり方と、多様な生活のあり方を実感しつつ子どもが成長するこ とによって、女性は自分のあるがままの身体を自分のものとして認め、大切に扱 うことが出来るようになる。この点の克服すべき課題は大きい。

(7)女性に対する暴力

 この報告書の「D. 女性に対する暴力」にあるように、日本では、DVを含め女 性に対する暴力に関する適切な方策はとられてきていない。女性被害者たちは、 経済的自立の手段や適切な治療を受ける方途を見い出せず、彼女たち自身の性と 生殖に関する権利と健康の侵害に対して無力な状況に陥っている。

(8)女性と労働

 自営業・農業等の家族労働を担っている女性、及び臨時・パート等の非正規雇 用の女性、離婚女性、女性移住労働者等の長時間労働と健康の問題は深刻であり、 彼女たちへのヘルスケアサービスは不充分である。さらに、労働環境の変化に伴 う女性労働者の健康に関する研究が進められるべきである。また、性別役割分業 意識により、家庭での子どもの世話や高齢者の介護を担っている女性も長時間労 働と健康の問題に直面している。

(9)地球環境の悪化

 食循環及び生態系の崩壊とそれらに関連する諸事象により生起してきた地球 環境の悪化は、多くの健康問題を惹き起こしている。例えば、多くの合成化学物 質は、内分泌システムと生殖機能を破壊し、正常な性的成熟を妨げているという 研究報告が出ている。女性の子宮内膜症、乳がん、子宮がん等の病気や胎児の異 常とEDCs、内分泌撹乱物質との間の関係について、研究を進める必要がある。大 量の化学肥料と殺虫剤の使用、劣悪な廃棄物焼却施設による、大気中のダイオキ シン値の上昇は、母乳を与えたいと望む多くの女性に、母乳汚染の不安を抱かせ ている。同時に、大量の遺伝子組み換え作物が輸入されており、その安全性は未 だ立証されていない。

(10)下がりゆく出生率

 日本の合計特殊出生率は下がり続け、1998年度の厚生省の発表では過去最低の 1.38を示した。政府は、結婚年齢の上昇と女性の就業率の増大が原因であるとし、 急激な高齢化の進んでいる日本の人口構造の観点から、社会の活力の減少と社会 保障の維持の困難を危惧している。この対策として、子どもの数を増やすため、 女性の子育てと仕事が両立するよう、労働時間の短縮、育児休業の充実、多様な 保育サービス、意識改革等を主唱しているが、どれも不充分である。政府及び地 方自治体は、親に対する経済的援助も試みているが、教育費の上昇、景気の低迷 等の諸状況の下で、いずれも不充分である。一方、女性が子どもをもつことに対 する社会的圧力が強い中で、不妊治療のための医学的研究予算は増加してきてい る。しかし、若者たちや20歳代の夫婦は、子どもがいても今までと同様に生活が 楽しめ、子どもにより良い未来が期待できない限り、子どもを産まずにいる可能 性が高い。女性やカップルが安心して産み育てることができるためには、子ども をもつことが人生のマイナスにならないようにする社会的支援が必要である。

(11)国際協力

 特に、1996年5月に採択されたOECD/DACの「21世紀にむけて:開発協力を通じ た貢献」では、2015年までに可能な限り早急に適当な年齢に達した全ての人が基 礎保健システムを通じてリプロダクティブ・ヘルス・サービスを享受できるよう にすること、妊産婦死亡率を4分の1にすることを目標としている。日本政府は、 母子保健のみならず幅広いリプロダクティブ・ヘルス・サービスの充実を目指し た国際協力を推進すべきである。

 さらに、国際協力分野での政府とNGOの連携を強化し、NGOが女性の健康に関連 する分野でのプロジェクトの準備から評価に至るまでの諸段階及び、大局的な方 針の策定過程における検討や論議に参加していくことが必要である。

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3. 将来への展望: Visions for the future

 男性と比較して女性は不利な状況にあることを認識した上で、リプロダクティ ブ・ヘルスと女性の権利に重点をおいて、生涯を通じた女性の健康という課題に 関する法的整備、医療・福祉サービスの充実、情報提供の拡大、医療従事者に対 する教育の刷新を含む包括的な行政の取り組みの一層の推進が必要である。すな わち、思春期の少女への避妊サービス、乳がんや子宮内膜症等、女性固有の疾患 に関する予防と治療、更年期障害、高齢者介護をめぐる女性の健康、労働環境の 変化に伴う女性労働者の健康に関する研究調査と予防等、女性の健康に関する包 括的な施策が殆ど展開されていないのである。

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