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女性2000年会議、日本NGOレポート
by NGOレポートを作る会, 1999.08.13
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D 女性に対する暴力

 第4回世界女性会議行動綱領は冒頭で、「女性に対する暴力」は、女性の人権及 び基本的自由の享受を侵害するとともに、これらを減じ、又は無にする」と述べ ている。さかのぼればナイロビ以来、とりわけ北京会議以降、「女性に対する暴 力」への女性たちの取り組みにはめざましいものがある。

 1999年5月に男女共同参画審議会は、答申「女性に対する暴力」のない社会を 目指して」を発表した。女性に対する暴力の調査の実施が緊急の課題であると明 記され、法制面を含めた対策の検討などが指摘されている。しかし、同答申には、 社会問題としてとらえる視点が弱く、女性への暴力を、個人的問題として把握す る傾向がみられる。1993年国連「女性に対する暴力撤廃宣言」では、社会の側 の問題解決を図らなければ解決できないことを明らかにした。調査に際してもこ の視点で臨む必要がある。

  1. 実態を反映した総合的施策の必要性
  2. 買売春について
  3. ドメスティック・バイオレンス(DV)
  4. セクシュアルハラスメント
  5. 被害を受けた女性への警察の対応
  6. 日本軍性奴隷制と「国民基金」の問題

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1 実態を反映した総合的施策の必要性

 政府回答文書の最大の問題は、女性に対する暴力について実態を反映していな いことと、総合的施策の欠如である。

 売春防止法によって各都道府県に義務設置されている婦人相談員・婦人相談所 が受けている相談の大半は、女性に対する暴力に直接間接に関連している。売防 法制定当初から、性的な被害を受けた女性たちの相談・保護、自立支援は婦人相 談員・婦人相談所の主要な業務であった。

 1970年代半ば頃まで、暴力から逃てくる女性への援助施策は皆無に等しく、 婦人相談所の一時保護所が、女性と子どもの緊急避難場所として事実上の機能を 果たすことになった。各都道府県ごとに違いはあるが、婦人相談所の相談・一時 保護理由の中では、夫・恋人からの暴力の占める割合は一貫して高い。

 近年、女性に対する暴力に関する相談は全国的に増加傾向にある。夫等の暴力 だけでなく、望まない妊娠や子ども時代の性的な虐待、心身に障害がある女性か らの相談なども目立っている。このような実態の中で、今回の政府報告によると、 母子生活支援施設のみが逃避受け入れ施設として活動しているかのような記述 は事実に反する。しかし婦人相談所には売防法上の施設という限界があるため、 民間女性シェルターや、ホットラインが緊急対応の役割を担っている。

 また、知的障害者、精神障害者への異性介助や性暴力が多発している問題があ る。婦人相談所を公的シェルターとして位置づけ直し、婦人相談員の専門性を明 確にするなど、女性の人権に関わる問題の総合的な対策実施が急務である。

 1995年に起こった阪神大震災直後の混乱した町や避難所においても、女性や 子どもたちへの性暴力の問題が発生した。震災から4年が過ぎたが、「震災と女 性への暴力」に関する実態調査は未だに行われていない。日本では「防災や復興 対策」において、国も自治体も「女性への暴力」の視点が欠除している。「災害 時における女性への暴力防止と被害対策」を組み入れることを各自治体に義務づ ける必要がある。

 1994年に在日韓国・朝鮮の女性に対する暴力事件が頻発した。北朝鮮の「核 疑惑」を発端に、女生徒が着ているチマチョゴリが切り裂かれた。最近も「テポ ドン」疑惑で同じことが起きている。これは構造的問題であり、速やかに対策を 講じる必要がある。

 マスメディア、特にテレビが放映する女性への暴力シーン、強かんシーンなど は看過できない問題である。週刊誌やマンガのポルノ、女性の性を強調した広告 など日常の中でも女性の性の商品化が進んでいる。性差別的表現は、人権侵害で あり、暴力であることを基本に、マスメディアのあり方に対する調査・啓発活動 を行う必要がある。

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2 買売春について

 風俗営業適正化法は、従来から、ソープランド等の風俗関連営業が営業時間や 営業地域を制限することで容認されている問題がある。これらの制限は、年少者 の立ち入りの規制を目的とするとなっているが実際には、営業区域の制限によっ て逆に性産業の密集地が作り出されている。そこでは性風俗特殊営業が公認され、 従来から売春防止法の抜け道という指摘がされてきた。こうした場所で働く女性 たちの権利保障については、業者は関わらず、個人間の問題という形を取ってい るため、日本人、外国人を問わずますます女性たちの被害は訴えにくくなってい る。公的労働相談窓口などで、性風俗産業に従事する女性のための信頼できる相 談窓口を開くことが必要である。

 1998年の風営適正化法の一部改正はパスポート保持の禁止と、負債の禁止に よって、外国人女性を奴隷状態から逃げやすくさせた面もあるが、一方において は買売春に関わる外国人女性の存在を見えなくさせる恐れがある。外国人移住労 働者の権利保障は、資格外滞在であろうと「不法就労」であろうときちんと保障 されなくてはならない。

 主に、タイ、コロンビア、中国、台湾、韓国、フィリピンなどの女性たちが人 身売買の対象となっている。しかし不況により、環境は劣悪化し、不当に科せら れた負債は高額になり、管理が厳しいため逃げることもできない。しかも負債の 早期回収のため転売を頻繁に行っている。女性たちが帰国できても、ブローカー に見つかり殺害されたり、再び連れ出されて売られることもあり、身の安全を脅 かされている。ブローカーは観光ビザのみでなく、興行ビザ、婚姻、養子、日本 人になりすますなどあらゆる方法で女性たちを入国させている。ブローカーの厳 罰化が必要だが、女性たちがブローカーと一緒に逮捕されて罰せられるのは不当 である。またブローカーが「不法就労罪」のみで罰せられていることが根本的な 解決を遅らせている。警察等関連機関による国際的連携を通した、ブローカーの 撲滅と「人身売買禁止条約」に基づいた女性たちの保護が必要である。外国人に よる単純労働を認めることも根本的解決の一つといえる。

 また、テレホンクラブが少女の性的被害・性暴力を引き起こす要因の一つとな っている。少女たちを買う男性に対する施策はまったくない状態であり、被害を 受けた女性への医療的援助・精神的援助は皆無に等しい。相談窓口もほとんどな いのが現状である。少女たちが孤立化し放置されている状況を変え、少女たちが 性的自己決定能力を獲得できるように援助していかなければならない。

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3 ドメスティック・バイオレンス(DV)

 ドメスティックバイオレンスは女性への人権侵害であり、犯罪であるという認 識が極めて弱い。男性優位の社会において、夫や親しい者が女性を殴るのは大し たことではない、女性は我慢するものとされてきた結果、被害にあった女性の声 をあげにくくし、身内や地域、社会的サポートが得にくい状態にある。

 DVが潜在化されてきた要因の一つに、女性の経済的自立が困難な状況がある が、大きな原因の一つに警察の対応があげられる。1997年に、「フェミニストカ ウンセリング堺」が行った調査(調査対象:協力申し出者 回収数:347うち暴 力被害体験者数229人)のうち、警察の対応については、何回か電話したり交番 に行ったが、暴力を振るっている相手が夫と分かると、何もしてもらえなかった /外で殴られているとき警察が「夜も遅いし静かに」といって立ち去った、という回答 からも明らかである。加害が継続する恐れが強い犯罪であるので有効な介 入が最初からなされなくてはならない。

 DVは、外国人女性にも及んでいる。離婚した場合、ビザの心配、子どもの親 権が取れるか、将来日本で育てることができるか、故郷の実家に仕送りできなく なったらどうするかなどの心配や不安で、逃げるのが遅れ、被害が大きくなる。 言葉の不自由に加え、法律・習慣を知らないことからの不安が非常に強いが、公 的機関は外国人に理解を示さないため、不当な扱いを受けている。

 警察、司法、福祉関係、教育、医療関係者等は、こうした現状に対して、シェ ルターの開設と運営、相談活動を行っている民間女性団体との連携を深め、特に 行政はシェルターへの財政的支援を行っていく必要がある。さらに、DVが犯罪 であることを明確にして、迅速かつ適切な対応で安全確保を図り、被害からの回 復のサポートや生活援助、加害者の処罰などを盛り込んだ総合的なDV防止法の 制定が急務である。DVの根本的解決のためには女性の継続的自立の保障が行わ れなければならない。

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4 セクシュアルハラスメント

 学校でも職場でも地域でもセクシュアルハラスメントの被害が相次いでいる。 あらゆる場での不平等なジェンダー構造を背景にした抑圧の力の行使に原因が あることが、裁判などの中で女性たちによって明らかにされてきた。 企業では、人員整理のために、女性をターゲットにしてセクシュアルハラスメ ントを行い退職を強要している。大学関係では、教授が院生や学生、職員、非常 勤講師などに教育上、職務上の支配・従属関係を背景に権力を行使するため、「NO!」ということは、学業・研究を捨てるに等しく深刻な問題となっている。97 年に、キャンパス・セシュアルハラスメント全国ネットワークが設立され、情報 交換や各大学におけるガイドラインづくり、政府への働きかけを行っている。

 人事院規則や改正均等法には、セクシュアルハラスメント防止の配慮義務など が規定されたが、省庁や企業など内部的な対応では、被害にあった女性は相変わ らず声をあげにくいし、救済も得にくいのが実状である。教育機関においても同 様であり形だけ整えただけで現実的な対応能力がなく、依然として学外へ援助を 求めざるをえない状況が続いている。外部の第3者機関が対応できるように規則 や法律を変える必要がある。

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5 被害を受けた女性への警察の対応

 米軍基地を抱えた地域に起きている性暴力は深刻なものがある。沖縄県は、ホ ステスや風俗営業に従事する女性が多い。そのような女性に対する性暴力犯罪は 周囲からも仕方がないで済まされ、本人も告発しないことが多い。マスコミも含 めて、アメリカ兵と交際する女性を、「アメ女」などと表現したり、性暴力被害 を受けた女性への偏見がみられる。加害者が身近な人の場合ほど、被害届が提出 されにくい。加害者の大半は被害者の知り合いである。被害にあったとき、逃げ たり叫んだりしたのは1割にすぎない。ところが司法判断では、未だに被害者の 抵抗の度合いが問われており女性の経験は無視されている。

 性暴力事件は、警察に訴えても起訴となる確率が極めて低い。95%位の確率で 被害に有罪の可能性がない限り検察は起訴しないとも言われている。これでは、 被害にあった女性は正当に裁判を受ける権利すら奪われていることになる。

 性暴力犯罪の親告期限が半年では被害者が告発を決断するのは難しい。このこ とから強姦・強制猥褻罪の「親告罪」は外し、期限の限定は行わない。また、刑 事・民事裁判では原告からの申し出があれば裁判の非公開、特定傍聴人や被告の 退廷等を行うべきである。

 司法機関、行政機関で、ジェンダー教育プログラムの研修を実施する必要があ るが、社会全体の認識を高めるには、現行法の改正とともに、上記のような内容 を盛り込んだ女性に対する暴力禁止・防止法制定に取り組む必要がある。

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6 日本軍性奴隷制と「国民基金」の問題

 日本軍性奴隷の被害にあった女性たち(韓国、在日韓国人、フィリピン、中国, 台湾、オランダ)は、日本政府への謝罪と賠償を請求して裁判を行っている。

 1998年国連人権委員会少数者保護・差別防止小委員会が採択した強かん・性 奴隷制特別報告者マクドゥーガル報告は、戦時性暴力不処罰の循環を断つべきだ と、加害者の刑事責任訴追・処罰を勧告した。日本政府は速やかに勧告を行う必 要がある。

 1995年に日本政府が発足させた「女性のためのアジア平和国民基金」(「国民 基金」)は、日本国民のお詫びの気持ちを表わすために、国民から募金した金を 「償い金」として被害者たちに払うという制度で、募金などの諸費用や、医療、 福祉費などは政府の予算から出すことになっている。しかし、被害者の多くは「国 民基金」は、真の公式謝罪ではなく、国家賠償でもなく、政府が法的責任を免れ るためにつくったものであると、受け取りを拒否した。こうした被害者の気持ち を受け止めて、日本国内でも、「国民基金」反対運動が広がった。女性の人権と 正義の回復を求めている被害者に対して、ただ単に金だけ渡そうとするものであ り、「国民一人ひとりも責任がある。国民も謝罪の意思をあらわすべきだ」とい う「国民基金」の考え方は、真の責任者を免罪にする役割を果たしていると考え られるからである。このような被害、加害両方の国での「国民基金」反対の動き は被害国政府にも反映し、台湾、続いて韓国の政府が被害者に対して「国民基金」 と同額の支援金を支給した。しかし、財政的に苦しいフィリピン政府はこうした 措置をとらなかったうえ、被害者には貧困者が多く、「国民基金」側の「被害者 が高齢であり、病気がちである」ことを理由にした強引な支給工作により、受け 取る被害者もふえている。また、韓国の一部の被害者にも秘密裏に支給している といわれる。

 「国民基金」のもう一つの問題は、被害者同士、被害者と支援団体、日本国内 の支援団体の間に受け取るかどうかをめぐって分裂・亀裂をもたらしていること である。そのうえ、「国民基金」の中に女性の人権活動に政府の助成金を支給す る部門があり、海外や日本国内の女性NGOに助成金受け取りを働きかけ、応じ る女性団体と財政的に苦しくても受け取りを拒否、辞退している女性団体との間 を分断する結果になっている。女性団体は、助成金部門を引き離すよう要求して いる。

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