米軍用地強制使用裁決申請事件

同  明渡裁決申請事件

  意見書(一)


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第四 却下事由〈その一〉−−憲法違反  一 安保条約は憲法に違反し無効である。  本収用手続は、日米安保条約日米地位協定米軍用地特措法及び土地収用法に基 づき、在日米軍に対しその必要とする施設・区域を提供することを目的に、地主らか らその所有する土地を強制的に収用することの可否を問う手続である。  しかし、日本国憲法は軍隊の駐留とその為の土地の強制収用を認めておらず、安保 条約をはじめ地位協定、米軍用地特措法は違憲であり無効である。  1 安保条約は憲法の非武装平和主義原理に反し、憲法前文・憲法九条二項前段に 違反する。 (一) 日本国憲法が徹底した非武装平和主義の原理に基づいており、前文において は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにする」と規定して いる。  右規定の意味は、積極的な戦争準備行為あるいは戦争の実施を禁止しているだけで なく、広く消極的な不作為を含めて、政府の行為が原因となって戦争の惨禍が起こる ことのないようにすることにある。政府の行為が原因となって、他国間の戦争に巻き こまれて、その惨禍を受けることを一切なくすることも当然に含まれている。 した がって、在日米軍の駐留と「極東」における米軍の自由行動を認める安保条約六条は、 憲法前文に違反する。 (二) また、憲法前文は、「日本国民は、・・・平和を愛する諸国民の公正と信義 に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と述べ、日本国民の安全 と生存は軍事力によらず、「諸国民の公正と信義」によって確保することを明らかに しているが、安保条約六条は、アメリカにのみ我が国に軍事基地を設置することを認 め、その軍事力=在日米軍によって日本国民の安全と生存を維持しようとするのもの で、この点でも憲法前文に違反している。 (三) 憲法九条二項前段は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と規 定している。その趣旨は、前文で示された非武装平和主義の原理を具体化し、あらゆ る戦力の保持を否定することによって、自衛戦争であると侵略戦争であるとを問わず、 一切の戦争を不可能ならしめるところにある。  このような憲法九条二項の前段の法意からすれば、我が国自体が軍隊を保持しない ということの外に、我が国の領土に外国の軍隊も保持しないということも当然に同条 項に含意されているものと解される。 (四) したがって、在日米軍は、右「戦力」に該当するので、その駐留を認める 保条約六条は、憲法九条二項前段に違反する。  なお、砂川事件上告審判決は、「(憲法九条二項)がその保持を禁止した戦力とは、 わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいう」として、 わが国に駐留する外国の軍隊は「戦力」には該当しないとした(昭和三四年一二月一 六日判例時報二〇八号一〇頁)。しかし、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起 こることのないやうにする」という点からみて、自国の戦力と外国の戦力を区別する 理由はない。指揮権・管理権のある自国の戦力の保持さえ禁止されるのであるから、 指揮権・管理権のない外国の戦力は、なおさら禁止されるべきことは明白である。駐 留米軍は、自衛隊という日本の戦力と密接な提携関係を持ち、相互補完と支援関係に ある戦力であることは明白なのである。  2 安保条約は米国の世界戦略に基づき米国の国益を第一義目的に行動する米軍の 駐留と基地確保を目的としており憲法九条に違反する。 (一) 安保条約第五条は、「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、 いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであること を認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する ことを宣言する。」としており、これがアメリカ軍の日本防衛義務を定めたものとさ れる。しかし、在日米軍が日本を防衛しているというのは全くの神話にすぎない。 (二) 平成四年三月五日、米下院軍事委員会でチェイニー米国防長官(当時)は、 「米軍が日本にいるのは、日本を防衛するためではない。日本は必要とあればつねに 出動できるための前方基地として使われるのだ。しかも、日本は米軍駐留経費の七五 %を負担してくれている。極東に駐留する米海軍は、米国本土から出動するより安い コストで配備されているのだ」と証言した。  また、平成八年七月一一日、小渕恵三自民党副総裁ら二五人の国会議員のほか財界 人その他が加わっている有力な民間政策提言団体「グローバル・フォーラム」(代表 世話人・大河原良雄元駐米日本大使)の「日米同盟とその東アジアにとっての意味」 をテーマとする会合において、コツサ元米国国防大学研究部次長は、クリントン米大 統領・橋本首相による「日米安保共同宣言」について、「米軍が日本に駐留している のは、主として日本の国益を守るのであるという神話を壊すのに役立った」と評価し、 「大統領ははっきりと、米軍が日本に駐留しているのは、何よりも我が国(米国)の 国益にかなうからであるといった。米軍は日本の利益を守るために日本に駐留してい るという見方は間違っている」と述べた。 (三) 在日米軍の実態を直視するならば、在日米軍が日本を守っていないことは明 らかである。  軍事評論家の田岡俊次は、「在日米軍の各部隊の任務をつぶさに見れば、直接日本 防衛に当たっている部隊はほぼゼロ、と言ってよい。米陸軍は一九〇〇人で、そのほ とんどは情報要員と補給要員であって、情報要員はNSA(国家保全局)の傘下にあ って電波傍受に当ったり(橋本・カンター会談の国際電話盗聴もNSAの功績とされ ている)、日本の技術資料を収集して、日本人通訳に翻訳させて送る、などの仕事を している。」「海兵隊も沖縄を交代で揚陸艦に乗艦するための待機所、訓練場として 使っており、担当範囲は西太平洋、インド洋全域で日本防衛のための兵力ではない。 特に第三一海兵遠征隊(三一MEU・一個歩兵大隊基幹、約二〇〇〇名)は南西アジ ア、ペルシャ湾を担当範囲とする米中央軍に加わることを任務とする部隊だ。」「米 空軍は五九年の松前・バーンズ協定以来、日本防空の任務は持たず、嘉手納の第一八 航空団のF−15五四機は、ほぼ常に一部を韓国烏山に派遣してきた。嘉手納はむしろ 韓国防空の後方基地だった。三沢の第三五戦闘航空団(F−16四〇機)は、八〇年代 の米戦略では米ソ開戦の際、オホーツク海にひそむソ連戦略ミサイル原潜を対潜部隊 が早期に処理することになっていたため、その障害となるエトロフ、サハリンのソ連 空軍基地を攻撃するために配備された。米第七艦隊は西太平洋、インド洋全体を担当 し、これも直接日本だけを守る兵力ではない。」とその実態を分析している(『軍事 研究』九六年一月号七一頁)。 (四) 従来、岸首相とハーター国防長官との間で合意された「条約第六条の実施に 関する交換公文」に基づく「事前協議」によって、在日米軍が「極東条項」を逸脱す ることはないとされてきた。  しかし、ベトナム戦争や湾岸戦争において、一度も「事前協議」がなされなかった という事実を見るならば、「事前協議」が米軍の自由出撃の何らの歯止めになってい ないことは明らかである。  のみならず、「朝鮮半島などの有事の際、米軍が在日米軍基地から直接出撃するの は日米両国の事前協議の対象となるが、その事前協議で日本政府は米軍の行動の自由 を大幅に認めるという『保証』を沖縄返還交渉の過程で米側に与えていた」ことが一 九六九年の米国務省機密文書で明らかになった(一九九六年八月三一日付『読売新聞』 )。 (五) これらの事実は、在日米軍の実態が、日本防衛の軍隊でなく、アメリカの国 益を第一義的目的として行動する世界のどこにでも出動できる部隊であることに照応 して、米軍の自由出撃に対し「歯どめ」とされてきた「事前協議」も、もはやなんの 制約にならないことを明らかにしており、安保条約の違憲性は、安保条約制定時より も、一層強まっている。  現に、イラク北部のクルド自治区へのイラク軍侵攻に対する、一九九六年九月の米 軍による「懲罰」行動に、三沢の米軍基地から出撃したが(一九九七年三月二八日付 『朝日新聞』「日米安保・第五部 在日米軍6」、これは「武力の行使」に他ならず、 イラクに設定された飛行禁止区域の監視活動に一九九六年六月以降三沢及び嘉手納基 地から米軍戦闘機が直接参加しており、これは「武力による威嚇」にあたるのである。 また、米軍と自衛隊とが共同して「武力による威嚇」を行った例として、昨年一一月 四〜一七日の「日米共同統合実動演習(キーン・ソード九七)」ある。これは米軍と 自衛隊の双方から一万数千の兵員と多数の航空機及び艦艇が参加し、日本海の公海上 などで展開された演習であるが、北朝鮮に対する威嚇効果を意図したものであった。  このように米軍の存在及びその活動が、日本国憲法に反しているのである。  3 安保条約は核安保条約であり、憲法前文、九条に違反する。 (一) 日本が唯一の被爆国であるが故に、憲法前文の「戦争の惨禍」に、核兵器に よる被害をも当然に含んでいる。従って、徹底した非武装平和主義の立場に立脚した 憲法は、日本が核兵器を製造・保有することを、憲法九条二項の「戦力」にあたるも のとして禁止していると解される。また、他国が日本に核兵器を持ち込むことも、そ れが日本政府の同意のもとになされるかぎり、憲法九条二項の「戦力」に該当し禁止 される。さらに、他国の核兵器が日本の領土内に持ちこまれなかったとしても、日本 が同意した条約の目的遂行のために他国の核兵器が日本の領土内において使用可能な 状態におかれているならば、核兵器の使用可能性それ自体が威嚇的効果をもつが故に、 「武力による威嚇」として憲法九条一項により禁止されるものと解される。 (二) アメリカが核大国であることは公知の事実であり、日米安保条約もアメリカ の核戦略を前提にして運用がなされている。そして日本の歴代の政府は、アメリカの 「核抑止力」=「核の傘」依存を明らかにしてきた。  たとえば、佐藤栄作総理大臣(当時)は、昭和四〇年一月三〇日の衆議院本会議に おいて、「私どもは、通常兵器による侵略に対しては自主防衛の力を堅持する。国際 的な核の脅威にたいしましては、わが国の安全保障については、引き続いて日米安全 保障条約に依存する。」と述べている。また、平成七年一一月二八日に閣議決定され た「平成八年度以降に係る防衛計画の大綱について」(いわゆる新「防衛計画の大綱」 )も、「核兵器の脅威に対しては、‥‥米国の核抑止力に依存するものとする」( 『平成八年版防衛白書』三一七頁)と述べている。  これらは、すべて在日米軍が核兵器使用可能な状態におかれていること、すなわち 日米安保条約がアメリカの核戦略を前提にした核安保条約であることを自認している ものである。日米安保条約にもとづき、アメリカ軍がいつでも核兵器を使用可能な状 態において他国を威嚇している以上、日米安保条約は核安保条約として憲法九条一項 に違反していることは明白である。 (三) 日本への核兵器のトランジット(通過=核兵器を積んだままの寄港・発着の ほか一時的に核兵器を陸揚げしたり、一時貯蔵することも含まれる)は事前協議の対 象にならず黙認されること、日本への核兵器のイントロダクション(持ち込み=核兵 器を長い期間、本格的に配備すること)は事前協議の対象になるが、日本政府は常に 同意することという内容の密約(第一次核密約)が、一九六〇年には旧安保条約改定 交渉の裏で結ばれている。また、一九六九年一一月二一日には、沖縄への核持ち込み については日本政府は常に同意する旨の密約(第二次核密約)がなされている。  第一次核密約の存在は、ライシャワー元駐日大使などの発言や、一九六六年二月二 四日付のラスク国務長官の在日アメリカ大使館あての極秘訓令電報によって明らかに されており、また第二次核密約については、一九六九年の佐藤・ニクソン会談に際し、 佐藤首相の密使として活躍した若泉敬の『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』(文芸春秋 四四八頁)によって明らかにされている。  これらの核密約は、日米安保条約が核安保条約(核軍事同盟)であるからこそ必要 になったものである。それゆえ、核密約の存在は、日米安保条約の違憲性を裏付ける 極めて重大な事実であるということができる。  4 安保条約は日本国民の平和的生存権を侵害している。  日本国憲法は、徹底した平和主義の理念を実現するためには、単に戦争および戦争 準備と軍備を全面的に否認する法制度を設けるだけでは不十分であると考え、人の平 和的生存を、たんに国家が平和政策をとることの反射的利益としてとらえる従前の理 解から原理的な転換を遂げて、平和をまさに権利として把握し、「恐怖と欠乏から免 かれ、平和のうちに生存する権利」を確認した。これが平和的生存権である。日本国 憲法のこのような構造に鑑みれば、平和的生存権とは「平和的手段によって平和状態 を維持・享受する権利」(樋口陽一・佐藤幸治・中村勝男・浦部法穂『憲法』青林書 三六頁)であると解される。  ところで、日米安保条約第六条は、アメリカに軍事基地の設置と軍事行動の自由を 許容しているが、軍事基地は、言うまでもなく戦争遂行と戦争準備行為のために使用 されるものであるから、軍事基地の設置を許容する日米安保条約六条は、日本国民の 平和的生存権を侵害するものである。  また、第七回公開審理において意見陳述のあった宮森小学校への米軍機墜落事故 (速記録四七頁以下)に代表される基地被害は、軍事基地の存在及び軍隊活動による 生命・身体・自由に対する侵害として平和的生存権を侵害するのである。  さらに、アメリカは、安保条約に基づく在日米軍基地を利用することによってベト ナム戦争、湾岸戦争を遂行し、日本政府は、これに協力加担してきたが、この点から みても、日米安保条約は、日本国民の平和的生存権を侵害するものである。  5 「日米安保共同宣言」路線は、安保条約の違憲性をますます明らかにしている。  日米安保とは、冷戦に対処するために結ばれた軍事同盟である。しかし、冷戦は一 九八九年を境に終結し、冷戦が終結した以上、冷戦に対処するために結ばれた軍事同 盟は、その存在理由を喪失したと言ってよく、日米安保条約が一旦解消されても何ら おかしくない情勢が生まれたのである。  ところが、アメリカは、ジョセフ・ナイ国防次官補を中心に冷戦終結後の新しい情 勢の中で日米安保条約体制をいかに再構築するかの作業、日米安保条約の再定義作業 を受けて、一九九六年四月一七日に発表されたのが「日米安全保障共同宣言−二一世 紀に向けての同盟」である。この「日米安全保障宣言」においては、米国のアジア太 平洋地域における軍事的なプレゼンスの維持を前提に、日米安保条約が、アジア太平 洋地域の「安定」と「繁栄」維持の基礎に位置づけられるとともに、「地球的規模の 問題」に対する協力の土台に据えられた。  在日米軍基地がアメリカの世界戦略のための基地になっていること、在日米軍がア メリカの政界戦略に基づき現実に「武力の行使」や「武力による威嚇」を行っている ことは、既に見たとおりである。今回の「共同宣言」は、このアメリカ軍のグローバ ルな展開にあわせて、日米安保条約の第六条の「極東」を「アジア太平洋地域」に変 えるものである。  今や日米安保条約の運用の実態は、日米安保条約の文言とは全く似ても似つかぬも のに変質しつつある。そしてそのことは、制定された時から違憲の存在であった日米 安保条約の違憲性の程度が極めて重大になり、日米安保条約は違憲であることがます ます明らかになりつつあることを意味している。  6 以上、今日において日米安全保障条約および在日米軍の違憲性は疑う余地のな い程度に明らかになったといえる。


ヤ 前項] [ユ 目次] [次項 モ] 


出典:反戦地主弁護団、テキスト化は仲田。


沖縄県収用委員会・公開審理][沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック