われらに向かって大地は閉じていき、最後の道へとわれらを追い立てる
通り抜けんがため、われらは四肢をちぎり捨てる
大地がわれらを締めつける
・・・・・・・・・・
最後のフロンティアが尽きた後、われらはどこに行けばよいのか
最後の空が果てた後、鳥はどこを飛べばよいのか
最後の息を吸った後、草花はどこで眠ればよいのか
---マフムード・ダルウィーシュ
"After the Last Sky"
この詩に注目したのは、それが1982年の出来事〔イスラエルのレバノン侵攻〕をふまえて書かれたものだからです。この時、パレスチナ人は、1948年に続いてふたたび生活を築き上げていた国を追われたのです。この2度目の追放は、レバノンからでした。ただし、今度の事件に見舞われた世代は、48年当時の世代に比べずっと政治的で、はるかに高い意識を備えていました。そのため、破滅という感覚もありましたが、それと同時に、再生という感覚もありました。つまり、最後の空、最後の道を通り抜けるということが暗示しているのは、たとえこれが最後のものと思われようとも、その向こう側にはまたもう一つの道、もう一つの空、もう一つの大地が開けているということです。・・・・・・僕らは、どうやら最後のフロンティアにいるらしく、本当にこれが最後の空を見ているのらしい。この先には何にもなくて僕らは滅びていく運命にあるようだ。そういうことは分っているのだけれど、それでもまだ僕らは、「ここから、どこへ行くのだろう」と問いかけているのです。僕らは他の医者にも診てもらいたい。「おまえたちは死んだ」と宣告されただけで は、納得しません。僕らは進み続けたいのです。  ― エドワード・サイード
(『ペンと剣』 クレイン 1998 Copyright Reserved)
★ちくま学芸文庫で新版を出しました。初版の頃はパレスチナに関する情報を入手する手段が非常に限られていたので現在からみると訳注などで不本意な部分が多々あったのですが、新版では大幅に手直ししました。旧版をお持ちの方のために、このサイトを利用して訳注のアップデートを行なっていきます。

ペンと剣



The Pen and The Sword

『ペンと剣』は、アメリカのコミュニティ・ラジオのトーク番組「オルターナティブ・ラジオ」のプロデューサーのデイヴィッド・バーサミアンが、エドワード・サイードをゲストに招いて行なった一連のインタヴューをまとめたものです。商業メディアによる情報管理に対抗して独自のメディア発信とネットワーク活動を行なうバーサミアンは、現在一二〇以上のラジオ局に配信されているこの番組を通じて、ノーム・チョムスキーやハワード・ジンなどメインストリームのメディアが取り上げない反体制知識人の声を、全米のみならず世界に向けて送りつづけてきました

長期にわたってつみ重ねられたインタヴューであることから、この本はおもしろい効果を生んでいます。

第一に、この本が格好のサイード入門書となっていることが挙げられます。単刀直入な質問と答えという形式によって、テキストや世俗批評をめぐる考え方が非常にわかりやすいことばで表現されているからです。平易な表現をとりながらもサイードの思想のエッセンスがたくさん盛り込まれ、こんな短い本の中に凝縮してまとめられています。サイードの活動は、文学、音楽、政治と幅広い分野にまたがっていますが、それらの領域はサイードの中で密接に絡み合っており、会話の中でも独立した領域として扱われるのではなく、相互の関連のなかで登場し、同一の地平で語られています。この本を読み終える頃には、サイードっていったいどんな人だろう、どんなふうに発想し、どんな関心を持つのだろうということが、よくわかってくるでしょう。

第二に、インタヴューというものの即時性から、時の経過による客観情勢の変化とそれに伴う内面的な変化がある程度うかがわれることです。本書に収録された5本のインタヴューは87年3月から94年2月まで、ほぼ7年という長期にまたがっています。この期間に、パレスチナ問題をめぐる情勢は大きな変化をとげましたし、サイード個人としても、健康問題を含めて人生における大きな転換期の一つを迎えていました。インティファーダ発生前夜の最初のインタヴューと、オスロ合意合意成立直後におこなわれた最後のインタヴューのトーンを比較すると、前者では解放運動のゆくえにいまだ漠然とした希望がこめられているのですが、後者では焦燥感や逼塞感が色濃くなっているように訳者には感じられます。

とはいえ現状がどんなに絶望的に映ろうとも、サイードは、破滅的な状況を冷静に把握したうえで希望につながる道を積極的に見いだそうとする姿勢を貫いています。この意志による楽観主義という態度こそが、まさにこの人物の真骨頂であり、2003年9月ついに白血病に倒れたそのときまで、世界への関心を保ち、つながり続けることを可能にしていたのでした。

インタビューの中から、幾つかのテーマを選んで一部抜粋してみました。

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Originally posted in 1998