『NHK腐蝕研究』(4-8)

《あなたのNHK》の腐蝕体質を多角的に研究!
《受信料》強奪のまやかしの論理を斬る!

電網木村書店 Web無料公開 2004.1.5

第四章 NHK《神殿》偽りの歴史 8

放送単一ゼネスト、レッドパージ、そして日放労の成立

 古垣らは、放送ゼネストつぶしの《国家管理》にも、積極的に協力した。彼等には、自立の労使関係を築こうとする努力は見られなかった。

 ただし、ストのきっかけとなった読売争議については若干のまとめがあるのに、放送ゼネストからレッドパージにいたる放送単一のたたかいについては、断片的な記録しかない。ラジオ時代だけでなく、いまのテレビ時代についても、放送人は文章にまとめるのが苦手だという話がある。しかし、それだけが原因ではない。なぜなら、文章家の多い新聞の方の読売争議についても、まとまったものが出てきたのは、つい最近のことだからだ。

 また、レッドパージそのものの記録についても、基本的な事情は同じであった。簡単にいえば、戦後の闘争の指導の中心となっていた共産党が、四分五裂、半ば非合法下の状態となり、過去の整理どころではなかったからである。その上、まだまだ生き残りが多い大衆運動の総括ともなれば、赤軍派の「ソーカツ」のように本物のコロシはないにしても、歴史上の抹殺行為がありやなしやと疑心暗鬼を呼ぶ。うかつにふれると、怪我をするから、手を出し難くもなるのだ。

 ともかく、大衆運動ともなれば、歴史はますます複雑である。それぞれの部署を受け持った活動家が、自分なりの理想と夢を抱いて闘い、自分なりの無念の想いを残しているのだから。そしていまもなお、闘いは引き継がれ、傷跡もそのままに、明日の闘いを描がなければならないのだから。

 ともあれ、ここは紙数もないこと。これもちょうど手頃の古い文章を見つけたので、それを裏面ストーリーの代用とさせていただく。筆者は吉本明光(ラジオ評論家)とあり、敗戦から三年目、「NHKはなにをしている?」と問う四ページの短評の一節である。

 「企画、交渉、演出の三者がプロダクションを形成して一切のプログラムが放送されるシステムは、昨年四月一日から実施する予定だったが、半歳おくれた十月一日から発足し、まだ軌道に乗りきっていない。当時の単一組合が賃上げ闘争から政治闘争に移行して、リスナーの利益を犠牲にして混乱させさえすればよいという共産党フラクションの妨害と、放送現業者の保守的な職人気質、そして公表をはばかる利権問題があるからだという。……(略)……七千八百名の組合は、一昨年放送ゼネストを敢行した産別傘下最左翼の組合であったが、昨年反共を旗印にした第二組合が生れ、さらに最近第三組合が結成されて三分した。その現有勢力は第一が千二百、第二が五千五百、第三が二百で、残りは去就を明らかにしていない。

 では第三組合はなぜ生れたか。それは第二組合への清算事項であり、更に弱電流と活字の差こそあれ、同じジャーナリズムの組合運動への大きな示唆を持っている。第三組合は放送編集権の確立、ひいては放送事業の健全な発展と放送プログラムの進歩的充実をスローガンにしている。第二組合は共産党フラクションとシンパを排撃したが、第三組合は一切の政党、団体のフラクションを否定し、ラジオの政治化、利権化を排撃すると共に、第二組合が高野会長、古垣専務、桜井常務の、すなわち経営者の御用組合である不純性を衝いているという。このことは経営者に対する不信任であり、無言の抗議である。

 第三組合は企画部、演出部と大阪中央放送局の放送現業の中枢部を網羅している。だから、第二組合の五千五百、第一の千二百に対して僅か二百にすぎないが、放送編集権の確立、放送プログラムの進歩充実に直接の影響力を持っているわけである。

 観点をかえていえば、新聞社の編集、営業、工務が一緒に作っている世界に類のない組合から、編集局が独立して一つの組合を結成したことに当るのであって、放送編集権の確立ということは、リスナーの利益擁護であり、さらに文化の向上への基点である。この意味で、第三組合今後の動向は注目に値いする。

 第三組合の委員長は『話の泉』のディレクター永山弘である」(『中央公論』’48・4)

 こういう過渡期を経て、第三組合からも「経営者の御用組合」と呼ばれた第二組合、いまの日放労が、唯一無二のNHK労組(現在の通称)となる。因みに、日放労がNHK労組の通称を自ら使いだしたのは、上田哲の選挙でのイメージアップのためである。

 ただし、すでに紹介したスポーツアナ飯田次男らの分裂策動が発端とはいうものの、やはり、権力の弾圧こそが、放送単一分解への真の出発点であった。そしてその時、電波局長としてスト破り国家管理の指揮を取ったのが、網島毅である。その網島が、つい最近のNHK第二次基本問題調査会では会長代行、放送衛星も打ち上げた宇宙開発公団では理事長等々、NHKの守護神よろしく活躍を続けているのだから、戦後はまだまだ終っていないようである。


(4-9)日放労よ、どこへ行く