『NHK腐蝕研究』(2-9)

《あなたのNHK》の腐蝕体質を多角的に研究!
《受信料》強奪のまやかしの論理を斬る!

電網木村書店 Web無料公開 2003.11.6

第二章 NHK《受信料》帝国護持の論理 9

“受信料は税金である”との米軍指令をどうする?

 受信料を税金と考える説は多い。

 戦前の出発点は別として、現在では、ともかく徴収することが先に決っていて、あとからリクツを張りつけるのだから、諸説があるのも当然。戦後に、はじめて放送法の根幹が問われはじめたころにも、準公報の『電波時報』誌上などで、担当官らの論議が盛んに行なわれている。たとえば、電波監理局放送業務課長(当時)の鎌田繁春などは率直そのもので、こう書いている。

 「受信料の考え方としては、放送サービスの対価、受信機設置料、受信機設置許可料、税金など、いろんな言葉でいろんな風にいわれている」(同誌、’54・9)

 以来二十七年、まさに諸説紛々だから、並べ立てればキリがない。だから、ここでは「国際的見解」に頼ることにしたいが,別に国連総会などで問題になったわけではない。日本国領土内に侵入し、条約上の特権を有する某国とのミニ国際紛争が、ここ数年来続き、NHKの旗色は、いかにも悪いのである。

 一九七六(昭和五十一)年初頭には、在日米軍司令官名で、「全軍に告ぐ。NHK受信料は支払うに及ばず」の指令が発せられた。米軍人、軍属とその家族は、安保条約にともなう地位協定によって、日本国政府から免税特権を得ている。そして、もともとNHKの受信料を支払っていた米軍人は、いなかったようである。

 「米軍がこの不払い“指令”を出したのは、NHKの取り立て部隊の動員がきっかけらしい。基地外に住む米軍家庭に英文パンフレットまで持参してどっと押しかけ、取り立てを一斉に開始したため、テレビの受信料など支払う習慣のないアメリカ人は騒然。米軍当局に問い合わせが殺到したため、統一見解をまとめ、この指令となったらしい」(『サンケイ新聞』’76・2・1)

 これに対するNHK側の反論は、当然、“受信料は税金にあらず”の一点張り。“特殊な負担金”説を振りかざす。

 「NHK営業総局は米軍の『受信料税金説』を真っ向から否定,『受信契約は税金とは違う特殊な負担金』であると主張する。また、NHKが受信契約を結ぶさいの根拠としている放送法でも、外国人や米軍関係者にたいする除外規定はとくに設けられていないところから、『基地内外を問わず、米軍関係者からも受信料は徴収できる』というのがNHK側の基本的態度だ。

 またNHK受信料問題は、国会でも取り上げられたことがあり、NHKは『放送法、日米安保条約にもとづく地位協定からも米軍関係者の受信料徴収は当然』との見解を明らかにしていた」(同前)

 つまり、「放送法」という日本の国内法と、「安保条約」という国際条約を持ち出しての争いなのだ。だが、この時、普段はNHK批判の論陣を張っていた評論家、いまは放送批評懇談会理事長の志賀信夫が、NHKに塩を送ったのだから、不思議である。よもや、“愛国心”に駆られて、放送理論を曲げるつもりではあるまいが、志賀もやはり、「放送法」をタテに談話を発表した。『サンケイ』がつけた小見出しには、「放送法の解釈間違えている」とあり、つぎのように、「日本人みんなの反感」へと、感情に訴えていくのだ。

 「在日米軍はまったく放送法の解釈を間違えている。NHKは放送法によって明らかにされているように国営放送ではなく、特殊法人である。受信料が税金であるという解釈はどのように放送法を拡大解釈してもでてこない。NHKはスジを通し抗議文を正式に渡し、訂正を求めることが必要だ。日米地位協定によって集金人が基地内にはいれないとするのなら、NHKは政府と折衝し、在日米軍に支払ってもらうように働きかけてもらうか、国の在日米軍関係費用から出してもらわなければならない。在日米軍も日本に住んでいるのだから、受信料を支払わないと、日本人みんなの反感をかうことになる」(同前)

 しかし、以来五年もの“日米”受信料戦争の“戦果”は、わずか六世帯……ファーリースト・ネットワーク・トオキョ……サージャント云々、なのである。なぜなのであろうか。日本人はナメられっぱなしなのだろうか。かの“核兵器イントロダクション”論争のように、翻訳のごまかしまであるのだろうか。いずれにしても、問題はやはり、安保条約そのものの解釈にあるようだ。

 つまり、「在日米軍人、軍属および、その家族は日米地位協定で日本政府から免税特権を得ている」(同前)という在日米軍司令官の見解は、同地位協定第十三条の第三項にもとづいている。だが、「免税」の範囲については、同第一項で、「合衆国軍隊が日本国において保有し、使用し、又は移転する財産について租税又は類似の公課を課されない」と記されている。

 この「租税又は類似の公課」という文章は、ちゃんと日本語で書かれ、国会の承認を受けているのだから、翻訳云々の争いではない。だから、NHK受信料もしくは“負担金”が「類似の公課」に当たるのかどうかを、外交交渉で決定しないことには、「放送法」の解釈を云々しても無意味なのである。しかも、日本国民でさえ納入の強制がないというのに、米軍基地内には集金人も入れないのだ。国会でも、毎度のように珍問答が続いている。

○中塚参考人 米軍の基地内に居住する軍人軍属につきましては、事実上は契約はいたしておりません。

○藤原委員 それではなぜ契約をされないのか、お答えをいただきたいと思います。

○中塚参考人 現実に、基地内に私どもの集金担当者が立ち入るのは困難だからでございます。

○藤原委員 在日米軍の基地内に入れない理由は、一体何でしょうか。

○中塚参考人 法律的には入れないなにはございませんが、実行上入って契約、集金活動をやるのはきわめて困難だからでございます。……(略)……

○藤原委貝 NHKの集金人が基地内に入れるように、郵政省はいままでその手だてをしていたのかどうか、大臣、お答え願いたいと思います。

○石川(晃)政府委員 この件について特段の配慮はいたしておりません。

(一九七七年三月十五日「逓信委議事録」)

 これでは、NHKも郵政省も口先ばかりで、あえて“日米”受信料戦争を遂行する気なし、と見る他はない。ずるいのは、不可能を知りながら、“努力”を約束することだ。しかも、「安保条約の解釈」へと問題を詰めないのも、官僚的術策のひとつである。というのは、国際的解釈に至ると、NHKの不利は眼に見えている。公共放送の受信料を、はっきりと税金にしている国は、たくさんあるからだ。また、国際的な放送制度の論争は、NHKの望むところではない。ただし制度問題はのちの課題として、ここでは、受信料税金説の、自然法的根拠を固めておきたい。


(2-10)強奪と強制のNHK流“法の精神”