[シリーズ米軍の危機:その1 総論]
ベトナム戦争以来のゲリラ戦・市街戦、二巡目の派兵をきっかけに顕在化した過小戦力、急激に深刻化し増大し始めた損害
−−世界最大最強の米軍を追い詰めるイラク人民の抵抗闘争の歴史的意義。これに連帯し合流する反戦運動の意義−−


<新シリーズ:米軍の危機について>
 私たちは新しいシリーズを開始する。昨年夏〜秋にかけて一気に顕在化した米兵の不満の噴出、相次ぐ命令拒否、士気の低下等々、様々な米軍事力の限界、米軍の危機、それを通じてイラク戦争がもたらした米国社会への反作用、社会的影響などについて、今後逐次紹介し、その全体像を明らかにしていきたい。ベトナム戦争症候群、湾岸戦争症候群ならぬ、イラク戦争症候群を含む、広義の意味での米軍の危機である。

 まずシリーズの第一回目は総論編、私たちの問題意識を概観することにしたい。これに2本の補足翻訳資料(米軍のローテーションに関するUPIの記事、米軍の損耗率に関する論文)を添付した。私たちが今回のシリーズで明らかにする最も重要な結論は、ベトナム戦争以来の激しい市街戦を体験する中で、世界最大最強の米軍のイラク戦争・占領遂行能力が、陸上戦闘能力というその決定的部分において軍事的に行き詰まり破綻し始めているいるということである。ブッシュ大統領の再選とブッシュ政権の戦争継続の強い意志にも関わらず、米軍が今後4年間にわたってイラク占領を続けることは、政治的にも経済的財政的にも異常に困難になっているだけではなく、まさに純軍事的な側面において極めて困難な局面に入ったということである。軍事力だけで事を決しようとするブッシュと米国の敗北はもはや避けがたいものとなっている。
※昨年11月のファルージャ攻撃の失敗と反米武装闘争の拡散の事実を前にして、国防総省内部、CIAなど政権中枢部から「敗北論」が急浮上してきた。国防長官の諮問機関「米国防科学委員会」作成の報告書は、事実上イラク戦争が失敗したと結論づけ、米軍は戦闘本位になっている取り組みを改め、復興本位に改めるべきだと提案した。「More Dissent in Pentagon Ranks Over Iraq War」by Jim Lobe January 11, 2005  Antiwar.com http://www.antiwar.com/lobe/?articleid=4328
※ニューヨークタイムズが暴露したCIAバグダッド支局の極秘の現地報告書も、事実上反米勢力の軍事制圧が困難であることを認めた。「2 C.I.A. Reports Offer Warnings on Iraq's Path」By DOUGLAS JEHL Published: December 7, 2004 NYTimes http://www.nytimes.com/2004/12/07/international/middleeast/07intell.html?
ex=1260075600&en=e0a2d9d7dd6de91e&ei=5090

※ワシントンポストはこう決め付けた。「ベトナムがまさにマクナマラの戦争になったように、イラクはラムズフェルドの戦争になった。」しかしその「ラムズフェルドが残した遺産がイラク・シンドロームではないか」というのだ。「Rumsfeld's Legacy: The Iraq Syndrome?」By Lawrence Freedman Sunday, January 9, 2005; Washington Post http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A58318-2005Jan8.html

2005年1月16日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




========= 目 次 =================
(1)はじめに−−一気に矛盾が表面化し始めたイラク占領体制。政権・共和党・国防総省内部から出始めた「出口戦略」「撤退」「戦略再検討」論。
(2)未曾有の米軍の危機が市街戦をきっかけに一気に顕在化。イラク戦争・占領下での予想を上回る米軍の被害が明らかに。
(3)米軍を未曾有の危機に陥れるイラク人民の歴史的闘争。これに連帯し合流する私たち世界の反戦運動もまた歴史的意義を持つ。
(4)百万人の米軍兵士がイラク戦争、アフガン戦争に動員された−−二巡目に入った派兵。公然化し始めた米軍の兵力不足と「過剰展開」(“overstretch”)問題。
(5)現役を補完する州兵・予備役も枯渇で投入できなくなりつつある。
(6)戦死者だけを見れば事の重大さを見失う。大量の負傷者、病人こそが米軍に深刻な打撃を与えている。
(7)急増し始めた精神疾患、PTSD。脱走兵の急増。2巡目の招集を極度に困難にする事態。
(8)劣化ウラン被害と早くも出始めたイラク戦争症候群。
(9)「下部兵士の反乱」−−米兵の士気の低下、士気の崩壊の徴候も出てき始めている。
(10)唯一の頼みの綱−−新イラク軍・イラク軍保安部隊の編成は全く進んでいない。それどころか崩壊の危機にある。
(11)米軍の現実はもっと厳しい−−負傷者の激増傾向。
(12)米軍内部の州兵・予備役兵に対する差別−−兵力不足、「過剰展開」の矛盾を集中的に被る州兵・予備役兵。



(1)はじめに−−一気に矛盾が表面化し始めたイラク占領体制。政権・共和党・国防総省内部から出始めた「出口戦略」「撤退」「戦略再検討」論。
 目前に迫る1月末のイラクの似非議会選挙の失敗がもはや誰も否定できなくなっている。ブッシュは強気だが、米軍関係者も傀儡政府の首相や大統領も延期論や不完全実施論で予防線を張り始めている。12付のワシントンポスト紙によれば、昨年12月のクリスマス前に大量破壊兵器・米政府調査団が捜索を打ち切っていたことが判明した。イラク戦争の唯一の「大義名分」がウソであったことがこれで確定した。
 また財政的にも、イラク戦費の膨張が軍事費全体を圧迫し始め、ミサイル防衛(MD)や海軍や空軍のハイテク兵器を削減しなければ、イラク駐留軍と陸上戦闘を維持することが出来なくなった。

 米国では「出口戦略」「早期撤退」を求める声が今年に入って一気に強まっている。ブッシュ大統領自身が13日、「柔軟な政策変更」を示唆した。米政府は1月早々、ゲイリー・ラック将軍が現地入りしイラク戦争の戦略を検討する、と発表した。一般には、イラク軍・保安部隊の戦闘遂行の効果を確認するためだと言われているが、同将軍のチームはより広範な任務を帯びており、より全面的な政策変更を行うかもしれないと、米政府高官は示唆した。
 先月、予備役を率いる将官が、現在の派遣政策は自分の部隊を退廃させ潰してしまうだろうというメモを上官に提出し、共和党を含む議会で大問題になっている。州兵・予備役などのパートタイム兵士を無茶なローテーションで使い始めたことが政治問題になり始めたのである。
※「US looking at rethink of strategy in Iraq」by Peter Siegel, Financial Times January 11th, 2005 http://uslaboragainstwar.org/article.php?id=7473
※「米大統領『見直し柔軟に』 米軍撤退巡り議論本格化」日経新聞2005/01/14

 またパウエルは11日、公共ラジオとのインタビューで、「いつ戻るかの時間表は明らかには出来ないが」との前置きをして、「イラク軍、保安部隊、警察がより大きな治安上の役割を担うことによって、米軍は今年中に撤退するだろう」と述べた。父ブッシュの側近だったべーカー元国務長官は長期駐留は否定しないものの「駐留が恒常的なものだとの印象を与えれば帝国主義("imperial design")と見られかねない」「出口戦略の段階が来た」と述べ、15万人の一部を撤退させる提案を行った。
※「Powell Sees Troops Returning This Year」Wed Jan 12, By BARRY SCHWEID, AP
http://story.news.yahoo.com/news?tmpl=story&cid=542&e=2&u=/ap/20050112/ap_on_go_ca_st_pe/us_iraq_3
※「Baker Urges Bush on Phased Exit in Iraq」January 13, 2005 EarthLink,http://enews.earthlink.net/article/pol?guid=20050113/41e60050_3ca6_1552620050113-2063663445

 もちろんブッシュにとって撤退の決断は容易ではない。政権と軍の威信がかかっている。撤退するも居座り続けるも多大の出血を覚悟せねばならない。引くに引けない泥沼化。これが現状である。現在のところ、ブッシュ政権にとっての対策は、米軍の増派とイラク軍の訓練、この二つだけである。しかしこの両方のメドが立たなくなっているのだ。昨年12月1日、国防総省は12,000人の増派を決め150,000人体制に増強するとの方針を打ち出したのだが、実数を増やすのではなく実は10,000人は任務延長で凌ごうしている。後述するように、この「ストップ・ロス」政策が米国内で大きな騒ぎになり始めている。
 またイラク人に軍・警察を委譲する「イラク化」政策も急速に破綻を見せ始めている。昨年11月のファルージャ攻撃後最大の激戦地になったモスルでは数千人のイラク人警官が職場放棄し、各地のイラク人保安部隊もゲリラ側の攻撃で多数の犠牲者を出している。逃亡と脱落者が急増し、治安部隊の確立が異常に困難になっている。
※「米、イラク戦略練り直し 軍増派や海外訓練案浮上」日経新聞2004/12/29


(2)未曾有の米軍の危機が市街戦をきっかけに一気に顕在化。イラク戦争・占領下での予想を上回る米軍の被害が明らかに。
 現在の米軍の危機を象徴する痛ましい事件が起こった。米カリフォルニア州中部セレスでこの1月9日、軍用銃を持った男が警官隊と撃ち合い警官1人を射殺、1人に重傷を負わせた末、自らも撃たれて死亡する事件である。第1海兵遠征隊第4連隊で運転手を務めるアンドレス・レイヤ容疑者(19)。ファルージャでの戦闘から一時休暇で地元に帰っていた。この米兵は帰隊命令を受けており、母親によれば、「イラクに再派遣されるのが嫌だった」「ファルージャから帰国した後、息子は変わってしまっていた。前とは別人みたいだった」と話している。典型的なPTSDだと思われる。
 しかし今回の事件は氷山の一角に過ぎない。妻殺し、家庭内暴力など、人格破壊でズタズタにされた多数の帰還兵士達が呻吟し苦しんでいる。
 これ以外にも、再派遣任務を拒否する兵士が続出している。ケビン・ベンダーマン軍曹(40)は、最初のイラク派遣の実体験から道徳的にこの戦争に反対するようになったと述べ、軍法会議の裁きを受けると言明した。
 いずれも、2回目の任務拒否の形を取っている。昨年から始まった、この無法で残虐な侵略戦争の派遣の二巡目を迎える中で新たな諸矛盾が吹き出しているのである。
※イラク帰還の米海兵隊員が警官隊と銃撃戦、射殺(朝日新聞)
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/kokusai/20050113/K2005011303040.html
※「War Veteran Refuses 2nd Iraq Deployment」By Russ Bynum The Associated Press Thursday 13 January 2005 http://www.truthout.org/docs_05/011405W.shtml

 現在もなおイラクを占領し続ける米軍は、ファルージャで住民大虐殺を行ったのをはじめイラク中部、スンニ派三角地帯、バグダッドのサドル・シティを中心に各地でイラク民衆の抵抗闘争に対する「掃討作戦」を繰り返し、多数の住民を無差別殺戮、無差別逮捕し続けている。米軍は1月末の選挙を何が何でも強行するために、ありとあらゆる暴虐の限りを尽くしている。

 しかし、昨年4月、8月、11月を頂点に繰り広げられた米軍と武装ゲリラとの、ベトナム戦争以来の激しい市街戦が、米軍の限界を一挙に顕在化させた。過剰展開の程度、戦死者数、負傷者数と重傷者の比率の高さ、米兵士が被っている精神的傷害とPTSDの深刻さ、逃亡兵の多さ、招集命令の拒否、現役兵士の軍当局への怒りの爆発、現役兵士・退役兵士などのイラク駐留軍撤退運動への参加等々−−イラク戦争開始以来1年9ヶ月を経て、米軍自身が完全にオーバーストレッチ(overstretch、過剰展開)の状態に陥り、イラク派兵軍の補充に行き詰まっていること、米軍に対するイラク人民の粘り強い武装抵抗闘争によって侵略軍である米軍自身が極めて深刻な損害を被っていることが、市街戦をきっかけに次々と表面化したのである。
※昨年夏以降、あるいは昨年後半はイラク占領開始以来、最も戦闘の激しかった時期であった。「Final Six Months of 2004 Deadliest Ever for US Forces in Iraq」January 1, 2005 by the Agence France Presse http://www.commondreams.org/headlines05/0101-03.htm
※「Deadly Year in Iraq Has Grown Worse as Military Struggles to Adjust Tactics」December 30, 2004 by the Associated Press http://www.commondreams.org/headlines04/1230-09.htm


(3)米軍を未曾有の危機に陥れるイラク人民の歴史的闘争。これに連帯し合流する世界の反戦運動もまた歴史的意義を持つ。
 言うまでもなくこのような未曾有の米軍の危機をもたらしているのは、イラク人民大衆のありとあらゆる形での反米・反占領の民族解放闘争、とりわけ米軍に軍事的ダメージを与えてきた武装抵抗闘争である。
 米軍の侵略と占領によるイラク人民の被害は、ファルージャで殺されたと言われる6000人をはじめ、市民の直接の犠牲者だけでも「イラク・ボディカウント」によれば1万5000〜1万7000人、戦争の間接的被害を含めれば10万人(英医学誌ランセットなど)にも上るといわれる。イラク占領監視センターのエマン・ハーマスさんは、10万人でも過小評価だと主張された。しかし、これらの犠牲を出しながらも、イラク中部スンニ派三角地帯を中心に、住民による武装抵抗闘争は止むどころか、ますます激しさを増している。
 ついに米軍は1月末の選挙に向けた在イラク米軍部隊を15万人に増員した臨時体制を今後4,5年間にわたって維持せざるを得ないことを認めた。イラク人民の抵抗闘争が米軍と米兵に損害の増大をもたらしブッシュ自身の首を絞め始めたのである。
※「英医学誌『ランセット』の論文「2003年のイラク侵略前後における死者数−−集落抽出調査」より「要約」部分翻訳  最低10万人の衝撃:学術調査が初めて明らかにした米侵略・占領軍による“イラク人大量虐殺”。ファルージャの犠牲者が異常に突出」(署名事務局)
※「メディアから隠された”大量虐殺”を告発−−ファルージャとアブグレイブ、大量殺戮と拷問・虐殺の実態を生々しい証言で語る−−」(署名事務局)

 ソ連の崩壊と社会主義世界体制の消滅後、米国は核戦力を含む世界最大最強の軍事力を笠に着て、肩を並べるものがいない唯一の軍事超大国として世界をその軍事覇権の下においてきた。アフガン、イラク、旧ユーゴなど、米に楯突く国は容赦なく米の圧倒的な軍事力の標的にされた。この絶対的なものに見えた米の軍事覇権が、イラク民衆の闘争によって根底から揺るがされている。かつてなかった歴史的な出来事が、現に私たちの目の前で起こっているのである。精密誘導兵器と近代的な軍事力で武装した圧倒的なパワーを持つ米軍が、住民らの待ち伏せ攻撃と手製爆弾で吹き飛ばされている。同じゲリラ戦とはいえ、彼らイラクの住民はベトナム戦争の時の北ベトナム軍や南ベトナム解放民族戦線のように、ソ連や中国や社会主義世界体制からの軍事的物質的支援を受けているわけではない。イラクでは、まるで巨像に蟻が立ち向かうかのように、住民が恐るべき規模の甚大な犠牲を払いながら、米軍占領軍に対して正面から立ち向かっているのだ。まさに驚嘆すべきことである。
※イラク国家情報機関トップは、現在イラクで活動する武装勢力は、中核部隊が4万人、これを支えるパートタイム部隊やボランティア部隊が20万人だと評価している。「イラクでは、レジスタンスは米軍よりも大きい」が結論である。これに対して米軍は全部含めて武装勢力は5千人〜2万人程度と過小評価していた。「Iraq Battling More Than 200,000 Insurgents: Intelligence Chief」January 3, 2005 by Agence France Presse http://www.commondreams.org/headlines05/0103-06.htm
※スコット・リッターは、「ムハバラート」(旧フセイン政権時代の秘密警察)が米の占領体制打倒するための古典的なゲリラ戦争計画を策定したと言う。50の“細胞”があり、それぞれ別々に活動している。コアの部分は数万人であるにしても、35万人の旧イラク軍兵士、300万人の武装バース党員が待ちかまえているというのだ。「Bush will lose in Iraq」By W.L. Floyd Online Journal Contributing Writer http://www.onlinejournal.com/Commentary/123104Floyd/123104floyd.html

 米国は、国力、経済と財政全部を戦争につぎ込んだにもかかわらずベトナム戦争で敗北した。米軍はいやしがたい打撃を被り、軍事力そのものに限っても、へとへとに消耗した。何万、何十万人の戦死者、戦傷者の帰還、兵士の間でのベトナム戦争症候群と呼ばれる深刻な症状が米国社会へ与えたインパクトは深刻極まりなかった。
 そしてイラク侵略開始後1年9ヶ月が経った現在、唯一の超大国となった無敵の米国に再び同様のことが起こり始めている。イラク戦費の負担は巨額の財政赤字となって米国経済と基軸通貨ドルの信認を揺るがし始めているだけでなく、米軍の損害自体が限界を見せ始め、もはや駐留を維持することは耐えられない段階に入り始めた。政治的社会的、財政的経済的矛盾と密接に絡み合いながら、米軍の軍事的危機が頂点に達したのである。米軍が撤退を迫られる時期はそう遠くはあるまい。あるいはすでに厭戦の声は押しとどめられない流れになって広がり始めているのかも知れない。PTSDをはじめとする病理が今後どのような形で広がっていくのか予想することができなくなっている。

 世界最大最強の軍事力で武装した超軍事大国としてのアメリカ帝国主義が、イラク人民によるイラク民族の全てを賭けた熾烈な歴史的闘争の中で軍事的に敗北しつつある。ブッシュはその無法で侵略的な暴走によって自ら墓穴を掘り、基軸通貨ドルと共にその帝国主義の支柱である軍事力において歴史的な凋落を起こし始めた。もちろん今私たちが問題にしているのはイラク駐留米軍の陸上兵力(陸軍、海兵隊など)の歴史的な損害のことに限られる。米軍事覇権の全体系は、海軍、空軍、核戦力、軍事諜報機関、そして世界中に張り巡らされた米軍基地網等々から成り立っており、これらが直接打撃を被っているのではない。しかし軍事覇権の最後的決着は地上戦で決せられる。この最も決定的な陸上兵力で限界に突き当たったのだ。

 イラク開戦に反対した反戦運動、開戦後の米英軍の侵攻そのものへの反対運動、その後の占領反対運動など、高揚と低迷、浮き沈みを経験しながら持続的に取り組んできた私たち全世界の反戦平和運動は、個々の国々、個々の地域、個々のグループや団体の取り組みは小さなものであるかもしれないが、その総体として、このイラク人民の歴史的な闘いに連帯することによって、現在まさに眼前で進行しているアメリカ帝国主義の歴史的な凋落と没落を促進する闘いに合流しているのである。私たちは、改めて自信と誇りを持ってイラク反戦の闘いを継続していきたい。


(4)百万人の米軍兵士がイラク戦争、アフガン戦争に動員された−−二巡目に入った派兵。公然化し始めた米軍の兵力不足と「過剰展開」(“overstretch”)問題。
 昨年12月9日付のUPIのマーク・ベンジャミン記者の記事によれば、イラク(およびアフガニスタン)に派兵された米兵の数はすでに延べ約100万人に達した。現時点でイラク占領に参加している兵士数は1月末の選挙強行に向けて13万8千から約15万人に増員されている。米軍にとって、これだけの規模の兵士を2年近くにわたって海外に派兵し続ける長期の大規模な軍事行動は近年に例がなく、ベトナム戦争以来初めてのことである。
 11月のファルージャ攻撃以後、事態は米軍にとって一層深刻となっている。イラク人民の攻撃は静まるどころか1月末の選挙にむけて更に激化している。今年予定されている憲法制定とその後の総選挙の過程に向けて、抵抗は収まるどころか一層激しくなると予想されている。武装抵抗闘争の激しさに押されて、とうとう米軍は選挙向けに臨時増員した15万人体制を、今後4〜5年間維持し続けることを決めようとしている。これこそ、抵抗闘争の前に増派し続けなければイラク駐留米軍がもはや持たないことの何よりの証明である。
※「1 million U.S. troops have gone to war」By Mark Benjamin Published 12/9/2004 (UPI) http://fairuse.1accesshost.com/news2/million.html
※「15万人態勢4−5年維持 イラク駐留で米陸軍幹部」(共同通信) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050107-00000087-kyodo-int

 米軍の規模はベトナム戦争時どころか、湾岸戦争時と比べても大きく縮小されている。にもかかわらず過剰任務が押し付けられているために、“overstretch”“overextention”、つまり「伸び切り」「過剰展開」と呼ばれる独特の兵力不足=兵力酷使問題が生じているのである。このことはあまり知られていない。詳しく見てみよう。
※私たちは1年半ほど前に、「伸び切り」「過剰展開」問題をいち早く取り上げた。しかし当時は今から考えればまだその初期の段階だった。現在の最大の特徴はイラク派兵が二巡目に入っていることである。一度は我慢した兵士達が堰を切ったように「もう嫌だ」という声を上げ始めたのである。「米軍のイラク向け過小兵力の顕在化と海外過剰兵力展開の危機−−イラク戦争の泥沼化・ベトナム化、米兵の士気低下と厭戦気分が一挙に露呈させた米軍の根本的弱点−−

−−現役の陸軍師団は10個(1個師団は約2万人前後、湾岸戦争時は18個あった)である。この他に地上部隊としては師団数で2個半に当たる海兵師団(半個師団分は沖縄海兵師団)があるだけである。徴兵制によって大量の兵士を動員できたベトナム戦争当時と比べて、志願制にある現在の米軍にとって、兵力の逼迫の厳しさは当時とは質的に異なる。
−−海兵隊を含めて現役12個半師団の内、5個師団が2003年春にイラク戦争に投入され(イラク自由作戦の配備部隊ローテーションでOIF1と呼ばれる)、その後の占領には4個師団が派遣される体制(OIF2)がとられている。派遣部隊は、ほぼ1年の周期で交代し、現在では第3次の部隊(OIF3)が交代に派遣されている。
−−これとは別にアフガニスタンにもアフガン戦争以来約1個師団が交代で派兵され続けている。
−−つまり、この2年間にイラクに5+4+4=13個師団、アフガニスタンに1+1+1=3個師団が派遣されたということである。

 以上の事実から何が読みとれるか。
@ 言うまでもなく、延べ派遣師団数(合計16個)は現役師団の数(12個半)を超えている。韓国配備の第2師団を除く全師団が1度はイラクまたはアフガニスタンに派兵されただけでなく、かなりの部隊が2回目の派兵を経験していることになる。単純な数字の上だけからいうと、今年中ごろから始まるOIF4で全部の現役師団がほぼ2回目のイラク配備を経験することになる。

A 実際には現役部隊の負担があまりに加重になるために、現役部隊の増設、州兵・予備役部隊のイラク投入を行っている。それでも当初から参戦している現役旅団の約半分が2度目のイラク派遣を経験することになる。
 上述のマーク・ベンジャミン氏の記事では30万人以上(つまり米兵3人に一人の比率)の兵士が2度目のイラク配備にあるとされているが、地上部隊(現役)だけを考えるとこの比率はもっと高い。いまイラクに配備されている部隊の多くは、2003年春に侵攻作戦に参加した部隊でもあるのだ。通常、現役兵といえども戦場への配備は、訓練1年、戦場1年、休養1年のサイクルをとるといわれる。しかし、イラクとアフガンで1度に5個師団が必要な現状は、それをはるかに上回る極めて過酷なペースなのである。

B この数字をもう少し詳しく現役戦闘旅団(1個師団は通常3個旅団で構成される)数で見てみよう。そうすれば、どの部隊がどれだけの期間をおいて派遣されているかよくわかる。米軍の現役戦闘旅団33個の内24個、実に7割が海外に派遣されている。イラク戦争後、現役旅団は40個近くに増やす途中にある。そのうちおおよそ14個(OIF−3からは17個旅団)がイラクに、2〜3個がアフガンにある状態なのである。33個ないし40個をこの16、7個で割れば、配備周期が2年少しでとうてい3年に満たないことは明らかである。

C もちろん現役だけでは足らないので州兵の旅団も投入するのだが、現役旅団のイラク・アフガニスタン派兵状況を示す下の[図表1]でわかるように、現役部隊の旅団は戦争後わずか2年の内に半分近くが再投入されている。今年の中頃から始まるOIF4で、米軍が現在持つ40個(戦争後33個から増設されている)の現役旅団の内、16個が2度目のイラク・アフガニスタン派兵を経験することになる。(当初からあった33旅団の半分である)
 すなわち現役部隊の米兵はイラクから帰って1年そこそこで再び地獄のような戦場に動員される状態にあるのだ。たとえば米軍の機甲師団の中で最新鋭の装備を保つ第4歩兵師団は、イラク戦争中から、2004年4月までイラク配備されていたが、今年(2005年)中頃には再びイラク配備になるのである。休養期間はわずか1年にすぎない。同じようにバグダッドに突入した陸軍第3歩兵師団の各旅団は2002年9月にクウェート配備され、2003年3月イラク侵攻、6月には本国帰還が始まったが、2005年1月に再配備される。休養期間は1年半に過ぎない。極度の緊張を強いられる戦場であるイラクから帰国しても、十分な休養期間もなく、1年たたないうちに実戦さながらの過酷な数ヶ月の訓練を再開し、そして再びいつ攻撃され殺されるかも知れないイラクに送り込まれる。
 後で述べるが、イラクに送り込まれれば、約10%近くが戦死、負傷、病気で戦列から脱落するのだ。こんな状態が何年も続く状況のもとで志願制の軍隊がいつまでも維持できるはずがない。戦争に何の「大義名分」もないことはもはや誰もが知ることとなった。「イラク解放」の美名もアブグレイブの虐待・拷問スキャンダルで色あせてしまった。何よりも派兵された兵士自身がイラク民衆から憎悪と嫌悪の目で見られていることを実体験しているのである。更にこの戦争・占領がいつまで続くのか見通しが立たないことが士気の低下に一層拍車をかけている。兵士達や家族の間では「出口の見えない戦争」への厭戦の気分が強まっている。ここ数ヶ月、米軍当局によるあの手この手の努力にもかかわらず、新規の兵士募集に大きな支障が出ていることも明らかになった。

 今や米軍の兵士不足は非常に深刻である。ブッシュ政権は現役部隊48万人体制を一時的に3万人増やして51万人体制とするとの議会承認を取り付けた。イラク15万人体制維持のためにはこれを永続化する必要がある。しかし、それをしても、1時期にはせいぜい1万人が余分に送り得る兵力となるだけで、焼け石に水の状態である。

[図表1] 米陸軍現役旅団のイラク・アフガニスタン派遣状況

※5列ある表のうち左端の1列は、師団司令部の派遣状況を示す。@はイラク自由作戦1(OIF1)、AOIF2、BOIF3、COIF4の時期を示す。□印はイラクへの派兵であり、▼印はアフガニスタンへの派兵である。
 右の4列は所属する旅団の派兵状況を示す。□印はイラク・アフガニスタンへ1度は派遣された事を示す。言うまでもなく全部隊が一度は派兵されている。■印(部隊名が色つき)はその部隊が2度派遣された(OIF4での予定も含む)ことを示している。16の旅団が2度の派兵である。右端の列の旅団はイラク戦争後に編成が始まった新しい増設部隊であるために、2度目はまだ始まっていない。
※なお、この「陸軍現役部隊の配備表」は米の軍事専門サイト「globalsecurity.org」から私たちが作成した。http://www.globalsecurity.org/military/ops/boots.htm


(5)現役を補完する州兵・予備役も枯渇で投入できなくなりつつある。
 現役師団の兵士を短期間に何度も戦場に投入することは不可能である。兵力逼迫を緩和するために、イラク戦争後に米政府は予備役部隊や州兵部隊を次々と動員しイラクに派遣してきた。「グローバル・セキュリティ」によれば、その比率はますます大きくなり、OIF2段階で在イラク兵力の40%に達しており、OIF3段階では43%に達すると言われている。投入された州兵/予備役兵の数も5万4千人にまで膨れ上がっている。[図表2][図表3]参照。

 イラクに派遣されている部隊は4個師団[約7万人]に加えてさまざまな輸送部隊や情報部隊、さらには空軍や海軍などの部隊が含まれる。これらの支援部隊の多くが州兵や予備役部隊で構成されている。そしてこれらの部隊が現役師団と比べて劣悪な装備で、抵抗勢力の手製爆弾や待ち伏せ攻撃に最も激しくさらされている。だからクウェートで兵士達がラムズフェルドに詰め寄ったように自分たちが危険に晒されているという不満も非常に強いのだ。

 ところがこの州兵・予備役兵部隊の動員も臨界点に近づいている。次の兵力配備計画(OIF4)では、州兵・予備役の比率は3割に落とさざるを得なくなっている。もう投入できる部隊が無くなってきたのだ。戦力の枯渇状態はそこまで来ている。
 本来、州兵は年に2週間軍務に着けばいい兵種で、戦時に限って連邦軍(米軍)に24ヶ月の動員が認められているにすぎない。州兵の部隊を次々と投入した結果、大部分の部隊が一度はイラク(あるいはアフガンやコソボ平和維持軍KFORなどに)に送らることになった。下の[図表4]で赤く塗られた旅団である。イラク派遣は訓練期間も入れれば1年以上の任務になる。一度派遣されれば、2度目は24ヶ月という制限期間を超えるのでもう派遣することができない。いわば州兵部隊は一度きりしか派遣できないのであり、とうとう派遣できる州兵部隊が底をついたのだ。下の表で黄色に塗られた部隊は休止中、あるいは装備の転換中で派遣できない部隊だ。従って今後派遣可能な部隊はわずか7旅団しか残っていない。もはや州兵・予備役で現役師団の穴を埋める事さえ不可能になってきたのだ。米軍の兵力不足はここまで深刻化している。

 事態に窮したペンタゴンは法律を変えて、州兵を何度でも派遣できるようにしようと画策している。しかし、軍務とは別の職業をもつ州兵・予備役を、政府の一方的な都合で好きなように戦争に何度でも投入できることなどできない。強行すれば、州兵制度そのものと矛盾し、兵士や家族の強い抵抗は避けられないだろう。しかも何の「大義」もない戦争である。実行に移すのは極めて困難である。
※「Reservists May Face Longer Tours of Duty」By Bradley Graham Washington Post January 7, 2005 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A54604-2005Jan6.html

 しかも、イラクで米軍の損害が一向に止まないこと、兵力逼迫に対応するために退役を延期し従軍期間を延長して兵士を国に帰さないことは、米軍が新たな志願者を求め、軍を補強することをますます困難にしている。米軍への新規志願者の減少は「憂慮すべき」状態にある。戦力補強ができない状態の下で、住民の武装抵抗闘争によって米軍はイラクで大変な出血を強いられているのである。
※退役延長が大問題になり始めた。米軍には兵役が満期になっても除隊を認めない「ストップ・ロス」制度がある。戦時中などの除隊による兵力低下を防ぐためである。ところが米国防総省はイラク議会選挙のための15万人体制維持を理由に、約1万人の駐留期間延長、つまり「ストップ・ロス」を決めた。これは入隊時の契約に反するなどとして、米兵8人が1月6日、ラムズフェルド国防長官などを相手取り即時除隊を求める訴訟をワシントンの米連邦地裁に起こしたのである。「イラク:米兵8人が駐留延長で提訴 ”約束違う”と」(毎日新聞)http://www.mainichi-msn.co.jp/today/archive/news/2004/12/07/20041207k0000e030041000c.html

[図表2]在イラク米陸軍の現役/予備役の比率


[図表3]陸軍州兵/予備役兵の数


[図表4]米陸軍州兵旅団のイラク・アフガニスタン派兵状況

※この表には州兵の全部隊が示されている。左端は右の各旅団が所属する師団名である。師団名のない下の19個旅団は独立旅団である。OIF4までにイラク、アフガニスタン、旧ユーゴなどに派遣される部隊は赤く塗りつぶした。黄色の部隊は休止中の部隊か、装備を転換中の部隊で派兵できない。白いままの7つの旅団だけが派兵可能である。
※なおこの「陸軍州兵の配備表」は米の軍事専門サイト「globalsecurity.org」から私たちが作成した。http://www.globalsecurity.org/military/ops/boots-guard.htm


(6)戦死者だけを見れば事の重大さを見失う。大量の負傷者、病人こそが米軍に深刻な打撃を与えている。
 米軍、その陸上兵力をベトナム戦争以来の危機に陥れているのは、派兵規模や「過剰展開」問題だけではない。米兵の犠牲の規模、度合いもこの30年間に例がない深刻さに達している。私たちはちょうど1年前、当時の米兵の被っている重大な被害について出来るだけ包括的に捉えようとした。今回はいわばその続編に当たる。しかし事態はまさにこの1年間で大きく変質したのである。否、この1年の損害こそが米軍の危機を招来したと言っても過言ではない。
※「増大する米軍兵士の犠牲と現状を直視せよ−−今日の米兵の悲惨な姿は明日の自衛隊員の姿となる危険」(署名事務局)

 後で翻訳紹介するポール・クレイグ・ロバーツ氏の記事「戦争犯罪」を一読して頂きたい。彼は戦死者だけではなく、負傷者を含めた犠牲者を、イラク駐留軍と比較して、米軍の損耗率を計算して私たちを驚かせた。実は私たちが今回のシリーズを開始するに当たってのヒント−−米軍が今現在陥っている深刻な危機を定量的に表現することが出来ないか−−を与えてくれたのは彼の問題提起なのである。

−−それによれば、戦争開始以来の米兵の死者は1280名(12月7日まで)を超える。言うまでもなくこの数字だけを見れば、戦死者が5万人を超えたベトナム戦争とは直接比較することはできない。だが、それでも戦死者数は近年には比べ得るものが無いほどの規模に達し、ベトナム戦争以来の記録的な多さとなっている。(月別、累計の死者数を[図表5][図表6]に示した)

[図表5]イラク戦争死者(月別)

※棒グラフ左端より順に2003年3月から始まり、右端は2005年1月(途中)である。icasualties.orgよりhttp://icasualties.org/oif/USChart.aspx

[図表6]イラク戦争死者(累計)

http://www.ac.wwu.edu/~stephan/USfatalities.html


−−しかし、それでも戦死者の数だけを見る限りでは、今回のイラク戦争・占領で米軍が陥っている危機の全体像を表すことは出来ない。否、むしろ過小評価に陥ってしまう。今回のイラク戦争ではとりわけ負傷者の数、その実態を見なければならない。米軍当局の発表では負傷者は9765人である。ところが、西ドイツのランド・シュトゥール米陸軍病院の報告によれば、約21,000人にも及ぶ。戦死者1人について8人から16人の負傷者である。
 これまでの戦争での死者と負傷者の比率が1対3、せいぜい1対5であったのと比べると負傷者率が非常に高い。普段着で戦うイラク人と異なり、米兵は装甲車両に入り、あるいは防弾チョッキを着用し、負傷すれば直ちに病院に転送することで、兵士が死亡するのを防いでいる。しかし、逆にその分極めて重傷の、つまり従来ならば戦死していたような重篤な負傷者が多くなっている。手足を失った重傷者が異常に多い。これらの兵士は原部隊へ復帰することはおろか、社会復帰に多大な困難を余儀なくされる。その多くが軍からの障害年金なしには暮らしていけないことになる。負傷者の増大が社会的に与えるインパクトは従来以上に大きくなっている。
※「US report: Nearly 21,000 US casualties」26 November 2004,Aljazeera.Net http://english.aljazeera.net/NR/exeres/66A82950-2E99-439A-AD90-8DBFD862F715.htm
 このアルジャジーラの報道によれば、米軍の「スターズ・アンド・ストライプ」紙・ヨーロッパ版11月26日付にベン・ムレイ氏が「20,802人の負傷者がドイツのランド・シュトゥール陸軍病院に搬入された」と書いた。併せて別の情報によれば、11月下旬段階で9,300人の負傷者のうち5,500人が原隊復帰が難しい重症患者だという。
 ところが国防総省は昨年末にようやく1万人を突破したと発表したにとどまる。おそらく統計の取り方をごまかして負傷者を少なく見せていると思われる。「負傷者1万人突破 イラク駐留米軍」(共同通信)http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2004/iraq4/news/0105-2706.html

−−ロバーツ氏の記事に従って、イラク戦争開始以来21ヶ月の戦死者と負傷者の数字を、ブッシュ政権の今後の4年間にそのまま延長すればどうなるか。合計4,206人の戦死者、負傷者を加えると4,206+69,000=73,206、7万人を大きく上回る死傷者となる。言うまでもなくこれらは殆どが地上部隊と考えられる。イラク配備の地上部隊だけを考えると、数字の上では現在イラクに派遣している兵士138,000人の約半数を失うペースの損耗率となる。実に3個師団に相当する数の兵士が損耗し戦闘不能になるということだ。
 イラクに配備された部隊が仮にずっと交代しないと考えると、国防総省の数字に基づいても死傷者数は4年後に32,085人+4,206人=36,291人に達し、配備兵力138,000人の26%に達する。陸軍病院の数字に基づけば死傷者数は73,206人なので実に配備兵力の53%にも達する。配備された米軍駐留部隊の半分がなくなった勘定である。[図表7]参照。

−−もちろん実際には部隊は交代する。だからロバーツ氏の試算は一つの比喩的な数字に過ぎない。私たちはより現実的なケースを考えて試算し直してみた。その結果、私たちはその場合でも損害は深刻であるという結論を引き出した。[図表7]の (c) / (b)参照。
 仮に予備役・州兵の動員を見込んで兵員数を多めに想定して、米軍に3回のローテーション分の兵士がいるとしても、ブッシュ第2期目の終わりの4年後には1ローテーションあたりの人数13〜15万人について2〜3万人以上が死傷し戦列を離れることになる。その時点で米軍の派遣可能戦力は2〜3万人分、約20%も減少したことになる。138,000人体制として[図表7]の (c) / (b)=22%。通常の軍隊は2割の戦力を失えば通常の任務を果たすのが困難になる。まして、戦闘や輸送に関わる部隊での損耗が最も激しいだろうから、これらの部門の戦力低下を補うことはますます難しくなるであろう。これだけで長期にわたってイラクに大量の占領軍を送り続けることが難しいことを示している。

−−更に今から1年後、今年末の米軍の損耗率を試算してみよう。それでも、米軍が受ける被害、戦力損失は深刻だということが分かった。「図表7]の2005/12 の列にあるように、今年の年末には負傷者(ドイツ病院発表)、脱走兵を加えて、累計43,611人、今年だけで15,800人の戦力を失う計算になる。15万人体制が維持されているとしても10%以上の損耗率になる。(c)/(b)で10.5%。10人に1人の兵士が部隊を去る状況になるのだ。米軍は組織的に大規模な戦闘に従事しているのではない。しかし、住民による執拗な不屈の武力抵抗闘争によって、戦争時を上回る兵力を動員しながら、そのときをはるかに上回る損害を受け続けている。
 1年で2割の戦力を失えば、間違いなく戦力として崩壊する。ここで試算した10.5%の損害は、米軍部隊をただちに崩壊させたり機能麻痺に追い込むことはないかも知れないが、大量の出血と深刻な打撃を与え、兵士達に大きなショックを与える数字である。部隊は1年後には交代しなければ持たなくなっているという数字である。今のところはまだ交代は行われるが、同じか、あるいはそれを上回る消耗戦をつぎの交代部隊は強いられるのである。いつまでもこの損耗率で戦闘態勢を保てるはずがない。


[図表7]米軍兵士の損耗率

※この表は私たちが、公表・非公表の数字を元にして試算した米軍兵士の損耗率である。
 (a) = 死者+負傷者(公式発表)+脱走兵
 (a)' = 死者+負傷者(ドイツ病院数字)+脱走兵
(a)"= 死者+負傷者(公式発表)
(c) = (a) / 3
 最も実態を反映しているのは1ローテーション当たりの損害(米軍の任務を3ローテーションと見なし、負傷者についてはドイツ病院の数字を採用、(a)’を3で除した)のイラク駐留軍兵士138,000に対する割合、(c)/(b)である。
※注意してほしいのは、上記表の兵士損耗率の数字全てが精神疾患、PTSDの数字を除いての数字だということである。もしこの数字が公表されれば、損耗率は跳ね上がるに違いない。後述するように死者、負傷者以外のこの精神疾患・PTSDは10万人ものレベルに達していると言われており、これらの疾病は帰還兵士に多いため、再派遣の際に、矛盾が一挙に噴き出すであろうことは間違いないからである。


(7)急増し始めた精神疾患、PTSD。脱走兵の急増。2巡目の招集を極度に困難にする事態。
 米軍の兵力損耗は、死亡と負傷だけではない。戦場での負傷に加えて戦闘と砂漠の過酷な気候による疾患、特に精神疾患による大量の戦線離脱、本国送還が報告されている。これが米兵を襲っている最新の現象である。
−−「グローバル・セキュリティ」のサイトによれば、精神疾患による戦線離脱者は国防総省発表の負傷者数にほぼ等しく1万人に達するという。実際には戦死、負傷者に加えて疾患による戦力低減も加わるのである。
※「U.S. Casulaties in Iraq」(globalsecurity) http://www.globalsecurity.org/military/ops/iraq_casualties.htm

−−更に最近の報道はイラク派遣が決まった部隊からの脱走、従軍拒否者の数、いわゆる脱走兵が5,500人にも及ぶと伝えている。その一部はカナダ政府に政治亡命を求めるまでになっている。彼らの多くは信念に基づいて不正義の戦争に従事することを拒否し、刑に服してでも軍務を拒否している。米軍部隊は派兵される前から一定の脱走者によって減少しているのである。

−−更にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を持つ帰還米兵が急増している。本国の米軍医当局はPTSD患者の洪水が押し寄せるのではないかと恐れている。PTSD患者数は10万人に達するのではないか(つまりイラクに派遣された約50万の兵士の5分の1)のではないかと見積もられている。
 戦争の「大義名分」は完全に破産した。米兵はイラク戦争、占領の正当性を感じなくなった。もはや大量破壊兵器の嘘も米政府自ら認める結果となっている。「イラク解放」どころか、イラク民衆が米兵を憎悪と嫌悪で見ていることを肌で感じさせられている。自分が上部からの命令で、何の罪もないイラクの人々に殺戮を繰り返し、乱暴狼藉と横暴を繰り返していること、これが兵士達のPTSDを深刻化させている。ベトナム戦争では不正義の戦争を戦ったことによる帰還兵士のベトナム戦争症候群は極めて大きな社会的影響を及ぼした。米国社会は長い間その「後遺症」に苦しんだ。
 最新の報道では、イラク戦争でも帰還兵の中に早くも戦争症候群の症状を現しているものがいる、と報告されている。その数が10万人に達すれば広範な影響を社会全体に及ぼすことは避けられないだろう。米国は不当な侵略戦争と占領をイラクの人民に対して行ったことのしっぺ返しを、これらの兵士の精神疾患とPTSDを通じて被らずにはおかないだろう。


(8)劣化ウラン被害と早くも出始めたイラク戦争症候群。
 更に「湾岸戦争症候群」が再度発生する可能性も大きい。湾岸戦争では、戦地に投入され復員軍人局の給付有資格者約50万人の内、半数以上の26万人が治療を要求し、3分の1以上の18万6千人が労働不能に対する補償請求を行った。これは戦死者が148名にとどまったのとは対照的に、帰還兵に戦争を原因とする大量の病人を出したことを示している。
 湾岸戦争症候群の原因は劣化ウラン弾の使用が最も疑わしいが、劣化ウラン弾は今回も大量に使用されている。兵士達が再び湾岸戦争症候群に襲われる可能性は非常に高いと考えられる。すでにニューヨークの憲兵部隊の体調不良を訴えていた帰還兵からUMRC(ウラニウム医療研究センター)は劣化ウランを検出している。大量の兵士が同じ病気で倒れる可能性があるのだ。
※このUMRCの調査研究に関しては私たちが最も精力的に取り組んできた活動の一つである。詳細は「イラク戦争劣化ウラン情報」の以下の号をご覧頂きたい。
★No.18 2004年6月30日 「ニューヨーク・デイリーニュース・スクープのその後 議会を巻き込んだ劣化ウラン被曝米兵の闘い−− 米軍当局のサボタージュと猛烈な巻き返し
★No.17 2004年4月9日 「ニューヨーク・デイリーニュース・スクープ−−劣化ウランに毒された?ショッキング・レポートは暴く:おそらく州兵たちはアメリカのハイテク兵器の犠牲者であろう」(続報最終)
★No.16 2004年4月7日 「ニューヨーク・デイリーニュース・スクープ−−劣化ウランに毒された?ショッキング・レポートは暴く:おそらく州兵たちはアメリカのハイテク兵器の犠牲者であろう」(続報)
★No.15 2004年4月5日 「自衛隊員も被曝から無縁ではあり得ない。改めて自衛隊の撤兵を要求する−−ついに公表されたサマワ帰還米兵の劣化ウラン被曝の事実!−−そこに住み続けざるを得ぬイラク住民の深刻な被曝被害をも示唆する−−


(9)「下部兵士の反乱」−−米兵の士気の低下、士気の崩壊の徴候も出てき始めている。
 昨年10月には輸送部隊の20名近くが危険な地域への輸送命令を拒否して出動しない事件が発生した。12月にクウェートを訪問したラムズフェルド国防長官は、同長官を取り囲んだ兵士達から「廃品置き場から鉄板や防弾ガラスを探して輸送車(の装甲)に使っている」「従軍期間の強制的な延長はいつ終わるのか」など厳しい質問を浴びせかけられ立ち往生した。
 「従軍期間の延長」=ストップ・ロスに対しては兵士達による訴訟も提訴された。戦闘の最前線でイラク人達を殺したり、虐待したりする現役兵中心の兵士達に、ブッシュ政権のために人殺しをさせられているというトラウマが広がっているだけではない。道ばたに仕掛けられた手製爆弾の一番の被害者である輸送部隊−−予備役や州兵の部隊の比率が高い−−では、自分たちが現役部隊より劣悪な装備を押しつけられていること、待ち伏せ攻撃に対し何の対策もなく、非装甲のトラックなどで立ち向かわされている差別的扱いへの不満が渦巻いて、一部では命令拒否や厭戦の雰囲気が広がり始めている。
※駐イラク米軍が国防長官に“文句”−環境劣悪 「駐留いつまで」 (東京新聞)http://www.chunichi.co.jp/iraq/041209T1521002.html

 また、イラクで人道に反する人殺しに加担させられることに反発して、出動を拒否したり、逃亡する例も報告されている。それが周囲の人に対する殺人事件にまで発展するまでになっている。また、帰還兵が精神的に破綻し、自分の妻・子供を殺したり危害を加えたりするベトナム戦争当時に多発した事件も起こり始めている。
※米兵、2度目のイラク出動拒否 反戦を主張(CNN) http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200501140006.html
※ファルージャ帰還兵、休暇中に警官と銃撃戦で死亡(CNN) http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200501120014.html
※イラク帰還の米海兵隊員が警官隊と銃撃戦、射殺(朝日新聞) http://www.asahi.com/international/update/0113/012.html


(10)唯一の頼みの綱−−新イラク軍・イラク軍保安部隊の編成は全く進んでいない。それどころか崩壊の危機にある。
 米軍が損害を減少させることができる唯一の頼みの綱は、「イラク化」−−新イラク軍、保安部隊の編成、警察の組織化−−である。特に新イラク軍部隊の編成が決定的で、米軍は実際の戦闘はイラク軍に任せ、米軍地上部隊はその訓練や後方支援に退くことで被害を減らそうと考えていた。ところがこの思惑は完全に崩れた。この「イラク化」政策の破綻が米軍の目算を完全に狂わせることとなった。本来27万人のイラク軍が編成されて米軍に取って代わっていたはずであった。しかし、[図表8]に示されたように、実際には昨年6月、ナジャフ攻撃の前の15万人をピークに減少し、逃亡・逃避が激しくなり、今では10万人さえ維持できなくなっている。イラク軍に依存して米軍の負担と損害を減らすシナリオは挫折したままである。

[図表8]イラク軍の数の推移

※このグラフはイラク軍と保安部隊の推移を表すもの。On-Handは実際の人員、shortfallは不足数を指す。昨年半ばを境目に、今年1月の選挙に向けて必要数を一気に引き上げる予定だったが、実際には10月頃を境にして逆に減少に転じたことが分かる。「globalsecurity」の「Iraqi Military Reconstruction]参照 http://www.globalsecurity.org/military/world/iraq/iraq-corps3.htm


(11)米軍の現実はもっと厳しい−−負傷者の激増傾向。
 以上これまで詳しく見てきた分析は、イラク民衆の抵抗が現状のレベルであることが前提されている。しかし実際は逆である。武装抵抗はますます激化・先鋭化し、拡散している。ファルージャの大虐殺はこれらの武装抵抗闘争の拠点を住民ごと皆殺しにすることにあったが、結果は完全に裏目に出た。ファルージャでは抵抗闘争を制圧できないばかりか、ファルージャにとどまらずイラク民衆全体の怒りと反撃を呼び起こした。イラク似非議会選挙の強行、更に憲法制定会議の招集、憲法に基づく総選挙とスケジュールが目白押しの今年、武装抵抗闘争による犠牲はますます強まる徴候を見せている。この中で、米兵の損害がこれまでと同じテンポで増える保証はどこにもない。おそらく昨年明らかになった傾向、負傷者の増加率そのものが増える傾向が今後も続くだろう。

 米軍事専門サイト「グローバル・セキュリティ」などが公表している米軍の死者数、負傷者数の傾向は、昨年に入って以降、武装抵抗闘争の先鋭化をまともに食らったことで、犠牲者が激増していることを示している。「図表10」は米軍兵士の負傷者数を3ヶ月毎平均で表したグラフである。昨年3−5月から、つまり4月のファルージャの戦闘前後から負傷者数が激増し3〜4倍になっていることが分かる。更に変化率をより分かりやすく見るために移動平均グラフ[図表11]で比較すればどうなるか。屈折点は昨年1月、見事に昨年に入ってから負傷者が激増している様子が出ている。
 それは負傷者だけに限っても、[図表7]の損耗率を試算した際に前提とした数字(1年後、2年後の負傷者数はこれまでの単純平均を加えた数字に過ぎない)が過小評価であることを意味する。イラク駐留米軍の危機と弱体化、崩壊は、上記で検討した数字を上回るテンポで加速することになるだろう。

[図表9]負傷者−毎月


[図表10]負傷者−3ヶ月毎平均


「図表11」負傷者−移動平均

(globalsecurity http://www.globalsecurity.org/military/ops/iraq_casualties.htmより)


(12)米軍内部の州兵・予備役兵に対する差別−−兵力不足、「過剰展開」の矛盾を集中的に被る州兵・予備役兵。
 すでに述べたように、イラクに派兵された米軍の現役部隊の多くは2度目の派兵となっている。兵士達は見通しの立たない戦闘に、休養も訓練もないままわずか1年あまりで再び投入されている。ようやく1年の派兵期間(それも延長されている)を終わって本国に帰還できても、休む間もなくまた戦場に駆り出されるのである。しかも、目前に迫る1月末の選挙から、憲法制定、総選挙というスケジュールの中で、部隊の10%にあたる兵員を死傷、病気、逃亡によって失うことになる。現役部隊ともちろん、予備役であっても、政府の命令があれば、契約期間を超えて任務に就かねばならない。軍とイラクから逃げだすことは法律上出来ない仕組みになっている。しかも予備役部隊だからといって安全なのではない。予備役部隊の主任務である後方勤務の輸送部隊の方がむしろ貧弱な装備で攻撃の矢面に立たされ続ける。このような状況の下で、部隊が受ける深刻な損害だけでなく、兵士の間に厭戦気分が広がり、士気の崩壊が進み始めているのである。

 それだけではない。負傷して帰還しても十分な保障が受けられるわけではないのだ。今回のイラク戦争では手足を失った重傷者が多い。彼らには社会復帰に極めて大きな困難が待っている。帰還米兵の間ではPTSDの影響を含むベトナム戦争症候群ならぬイラク戦争症候群の影響が早くも非常に高い割合で出ている。
 本来戦場に行くことなど予想していない州兵達は職場、家族から引き離され戦場に長期間送られた。更に無理をして部隊を送り続け、州兵の軍務期間の延長などの強硬策、あるいは「隠れた徴兵制」復活、すなわち貧しい民衆を騙して、半ば非合法な形で新兵狩りをしてまで「徴兵」すれば、米国内で社会・政治問題になり、反戦運動も強まらずにはおかないだろう。すでにその兆候が出ている。




翻訳資料
100万の米軍隊が戦争に行った
マーク・ベンジャミン UPI 12/9/2004
「1 million U.S. troops have gone to war」By Mark Benjamin
http://fairuse.1accesshost.com/news2/million.html


ワシントン、12月9日(UPI) ―― ペンタゴンのデータによれば、戦闘が始まって以来ほぼ100万の米軍がイラクあるいはアフガニスタンでの戦争に配備された。

そのデータはまた、それらの軍役兵士の3人に1人が二度以上行ったことを示している。

ペンタゴンは水曜日UPIに対し、すべての軍役兵士のうち累計で955,000の軍隊が9月末までに「イラク作戦」あるいは「不朽の自由」作戦のために配備されたと確認した。それらの軍隊の300,000以上が二度以上配備されたと、ペンタゴンは語った。

ある政府情報筋は、配備された軍隊の総数がその後100万に達していそうだと語った。

ペンタゴンのデータは、戦争に役務した軍隊のうち708,000人が現役軍隊であることを示している。それは、米国の140万の現役軍隊のざっと半分が戦争に行ったことを意味する。予備軍と州兵部隊からの245,000をわずかに越える軍隊もまた配備されている。

軍事専門家はその新しいデータが、米軍がその限界まで、あるいは限界を越えて、酷使されて(stretched)いることを示していると語った。「それは、我々の軍隊が不足していることを示している。それは疑問の余地がないと思う」と、退役海兵隊中将バーナード・E・トレイナーはUPIに語った。「こうなると明確に予想したものは誰も、あるいはほとんど誰もなかった。」

トレイナーは、軍がベトナム以来これほどの数で戦ったことはなかったと思うと述べた。 「軍は、完全にあまりにも薄く引き伸ばされている」とトレイナーは語った。

イラクでの戦争は2年に満たない。ペンタゴンによれば、現在140,000の軍隊がイラクにあり、16,000がアフガニスタンにある。

国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、今週クウェートで軍隊に話をしたとき、老朽化した装備、装甲車の不足、そして言われた期間を越えて現役任務が続いていると言う兵士たちについてのうんざりするほどの苦情を聞いた。

トレイナーはUPIに、兵士たちが公然と首脳部に反対する異常な行動を起こすとすれば、それは問題の兆候であると語った。「兵士の中に文民首脳部に対する支持の減退が存在するというのは、危険な兆候だ」とトレイナーは言った。

クウェートで一人の兵士がラムズフェルドに、軍隊のストレスが他のテロ攻撃に対する米国の反撃能力を弱めないかと尋ねた。ラムズフェルドは、米国が「いつでも招集できる250万をはるかに越える人員」を持っていると答えた。「だから、我々には必要とする能力があると確信して良い」と。

「しかしながら、ストレスがたまった部隊という要素があり、我々はそれについて多くを読み、テレビで多くを聞いている、そしてそれは事実である」と、ラムズフェルドは言った。しかし彼は、これは「我々の保有する総兵力が少ないからではなく、現役と予備役とのバランスが適正でないからだ」と付け加えた。

ペンタゴンのスポークスマンは、955,000の軍隊がどこに展開されているかの内訳を明らかにしなかった。

そのデータは、様々な軍役に配備されている現役勤務と州兵と予備役部隊の数を列挙している:
- 現役勤務軍隊(Active duty Army):280,000
- 国家陸上警備隊(陸軍州兵)(Army National Guard):90,000
- 陸軍の予備軍(Army reserve):65,000
- 沿岸警備隊(Coast Guard):1,500
- 沿岸警備隊の予備軍(Coast Guard reserve):200
- 国家航空警備隊(空軍州兵)(Air National Guard):41,000
- 空軍(Air Force)151,000
- 空軍の予備軍(Air reserve):23,000
- 現役勤務海兵隊(Active duty Marines):99,000
- 海兵隊予備軍(Marine reserve)15,000
- 現役勤務海軍(Active duty Navy):177,000
- 海軍予備軍(Navy reserve):11,000.



翻訳資料
戦争犯罪
ポール・クレイグ・ロバーツ 12/08/04 「クリエイターズ・シンジケート」
「War Crime」by Paul Craig Roberts
http://www.lewrockwell.com/roberts/roberts83.html


12月6日、ペンタゴンのボス、ドナルド・ラムズフェルドは、イラクにおける死と破壊をさらに4年続けることを約束した。この戦争が米国の納税者に毎月60億ドルを支払わせ続けると仮定すると ―― これには復興費用、ブッシュ政権の主な貢献者のための入札なしの契約、およびバラバラに吹き飛ばされ疲弊しつつある軍備の肥大する交代費用を含んでいない ―― それは2880億ドルに達する。その合計をこの戦争がすでに米国納税者に支払わせた1490億ドルに加えると、合計4370億ドルになる。

人的損失に話を移せば、2003年3月20日から2004年12月7日まで(およそ21か月)に、イラクで1,280人の米軍が殺され、9,765人が負傷したとペンタゴンは発表している。ペンタゴンによる負傷者の数字は、ドイツのラントシュトゥールにある米陸軍病院の報告と矛盾している。米陸軍病院の報告は、感謝祭の週[訳注:11月第4週]の時点で、ほとんど21,000人のイラクで負傷した米国人を扱ったとしている。その病院によれば、半数以上があまりにも重傷のため自分の部隊に戻れなかった。

反乱がエスカレーションしないと仮定しても、戦争をあと4年継続すれば、さらに2,925人の米兵が殺され合計4,205人に達する結果となるだろう。ペンタゴンによる負傷者数を使用しても、新たに22,320人の米軍が負傷し合計32,085人になる。米陸軍病院の数字を使えば、新たに48,000人の米軍が負傷し合計は69,000人になる。

米国がブッシュの2期目の期間にイラクで138,000人の米軍隊を維持することができるものと仮定しても、米軍の死傷者数(ペンタゴンの数字)は、イラクの米軍の26%になる。陸軍病院の数字を使用すれば、米軍の死傷者数は、イラクの我が軍全体の53%になる。

現在の軍事人員動員体制は、これらの損失に交代を供給することができない。現在の軍隊兵力は、予備軍および州兵の部隊を召集することにより、また兵士の勤務期間の契約期間を越えた延長により維持されている。契約期間は、米軍が法廷で争っている慣行である。何万もの人の生涯や結婚や家計が、予備軍と州兵の部隊のイラク戦争への投入によって引き裂かれ破壊されている。

ブッシュは、そのような法外なコストを代償として何を達成しようとしているのか。

ブッシュは我々の同盟関係と半世紀の米国外交政策の友好関係を破壊した。

ブッシュは、何もなかったところに反乱を生み出した。

ブッシュは中東における米国の名声を破壊し、中東の人々の中での米国支持を1桁に減少させた。

ブッシュはオサマ・ビン・ラディンをヒーローにし、何万ものテロリストを彼の仲間に補充した。一方では同時に、我々が押しつけた非宗教的な傀儡の統治者から中東の人々を遠ざけた。

少なく見ても、ブッシュは、侵攻から21か月間で14,619人から16,804人のイラクの民間人の死に責任を負っている。病院、死体公示所、メディアの報道から集めた資料によれば、これらの数字は民間人の死を少なく見積もっている。すぐに埋葬すべきとするイスラムの要求に沿って、長引く米軍の都市部への攻撃の間、多くのイラク人がサッカー場や裏庭に埋葬された。英医学雑誌「ランセット」の中の最近の報告書は、2003年3月20日以来100,000人のイラク人が殺されたと見積もっている。この数字は、米国の侵略に先立つ10年間以上の間の禁輸と米軍の空爆によるイラク人の死者数を含んでいない。

米国の占領のさらに4年間の継続に、報告されたイラクの民間人の死を反映させれば、「付随的損害」として殺された民間人51,621人という数字を得る。ランセットの数字を反映させれば、ブッシュの2期目の終了までに民間人死者328,571人という数字になる。

次に、負傷した民間人があるが、その数字は明らかでない。民間人の負傷者に対する死者数の割合を、米軍のそれと同じだと仮定するならば、報告された死者数は民間人の負傷者数392,320人という数字を与える。ランセットの評価は、2,497,139人という負傷者数を与える。

米軍兵士の死者1人に対して7.6人の負傷者という比率は、負傷した民間イラク人の計算にはおそらく低い。米軍は装甲車の中で移動し、ヘルメットと防護服で保護され、そして半径4分の1マイル内のすべてを殺す砲弾や重爆弾の標的にはならない。イラクの民間人の比率は死者1人に対し10人ないし15人の負傷者で十分あり得る。

ブッシュを再選させた米国人たちは知っているのだろうか。誤りを認めようとしない大統領が、5000億ドルを乱費するコースに固定されており、36,290〜73,205人の米兵を殺し、あるいは負傷させること以外に目的もなく、死傷者数443,941〜2,825,710人に及ぶイラク民間人への「付随的損害」を伴うということを。

サダム・フセインが「大量殺人者」であるとすれば、ブッシュ大統領および彼を再選させた者たちが行うことは一体何であろうか。

2004年12月8日

ロバーツ博士<PCRoberts@postmark.net>は、「政治経済学研究所」におけるジョンM.オーリンの同僚であり、「インディペンデント研究所」の研究仲間である。彼はウォール・ストリート・ジャーナルの前共同執筆者、ナショナル・レビューの前寄稿編集者、および米財務省次官である。彼は「善意の暴政」の共同執筆者である。