再論:不審船とスターウォーズ謀略

以下は、1999.4.7.pmnML向けmailの採録。


 自称名探偵の木村愛二です。

 不審船の件で、山下真さんが関連投稿の末尾に、私の意見を聞きたいと書かれたのですが、その前に一応、短いmailで疑問を投げ掛けてもいたので、気になりながらも、そのまま答えずにいました。

 ところが、本日、1999年4月7日、このところ「経済が土台」を重視して自宅で取っている唯一の日刊紙、日経朝刊に1面に、容易ならぬ「本社全国世論調査」の結果が載っていましたので、とりあえず、これまでに考えてきたことを略記します。この問題の日経紙面の表現では、「不審船」がすでに「工作船」に変わっています。関連部分は、つぎのようですが、その他の表現も、かなり「軍国主義的」になっています。

「3月下旬に日本の領海を侵犯した朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)の工作船に自衛艦が警告射撃し、論議を呼んでいるが、『停船させるためにはもっと厳しく対処すべきだった』が52.1%にのぼり、『当然』も35.4%、『やりすぎだ』は6.2%にとどまり、9割近くの人が今回の政府の対応を肯定的に受け止めている」

 この部分の次に挿入する形でゴシック文字の(関連記事2面)が入っています。2面を見ると、もっと長いので、こちらは全文転載を控えます。「工作船問題/自衛隊拡大/賛否分かれる」という見出しですが、「『やりすぎ』との意見は共産、社民両党支持者で10%を超えたものの、全体としてはわずかだった」とあります。

 この状況は、かなりキナクサイのです。一番重要なのは背景の理解が足りないことでしょう。いきなり戦争ではなくて、「矛盾」の字義その最たるもの、すなわち、攻撃用兵器と防御用兵器の売り込み合戦の古代からの歴史に関する知識が、一般人や政党幹部どころか、軍事問題のものかきにも不足しているのです。

 まずは「論より証拠」。丁度1週間前、1999.3.30.日経夕刊の2面に小さく載っていたベタ記事を、御覧下さい。

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 米のミサイル防衛6度目の実験失敗……【ワシントン29日=池内新太郎】米国防総省は29日、戦域ミサイル防衛(TMD)の柱の一つとして開発を続けている戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)について6度目の迎撃実験に失敗したことを明らかにした。度重なる失敗に批判が高まるのは避けられず、今後は日本も共同研究に参加する海上配備型上層防衛シスチム(NTWD)の開発促進が焦点に浮上しそうだ。

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「ベタ記事恐るべし」と言います。アメリカのヴェトナム戦争反対運動では、溜まり場の喫茶店や酒場の壁に、自分たちが重視するベタ記事を拡大して貼り、「これがヘッドラインでなければならない」と主張していたそうです。日本でも戦争中にベタ記事や雑誌の短い記事の断片から、敗戦が近いことを予測できたという話があります。

 私は、今から7年前に出した拙著『湾岸報道に偽りあり』の「はしがき」の終りに、つぎのように記しました。

「軍事評論家の藤島宇内は、『「日本のハイテク」に触手をのばす国防総省』(『エコノミスト』1991.4.23)の中で。『全米製造者協会』が『ブッシュ大統領に手紙を送り』、『新たな対日戦略研究班「チームB」を設置することを要求した』と記している。この要求の結果は、その後、『CIA委託研究書/日本2000年』となって世間の表面に現れた」

 藤島宇内さんは、こういう背景にまで目を配る数少ない軍事評論家の一人ですが、その後、単行本、『軍事化する日米技術協力』(未来社、1992)を発表しました。湾岸戦争で一躍有名になったミサイル迎撃兵器、パトリオットには「日本のハイテク」技術がたっぷりり含まれていました。しかし、あまり効果は上がらなかったのです。

 1993年7月16日、午後8時から45分間、NHK第3チャンネル「海外ドキュメンタリー」の枠で、アメリカの大手ネットワーク(録画せずに残念。誰か持ってませんか)の特集「消えたスターウォーズ計画・SDI戦略防衛構想の10年」が放送されました。レーガン大統領時代に、アメリカ国防総省と超巨大スポンサーの軍需産業が、小説から映画になったSF『スターウォーズ』の名で嘲笑され続けていた「大陸間弾道ミサイル迎撃システム」戦略防衛構想(SDI)の予算獲得のために、「迎撃成功!」の偽テレヴィ映像をデッチ上げていたでした。

 上記の日経「ベタ記事」の「米のミサイル防衛6度目の実験失敗」の事実が、曲がりなりにも発表される歴史的背景の一つとして、私は、上記特集「消えたスターウォーズ計画・SDI戦略防衛構想の10年」に結実したアメリカの放送関係者の貴重な仕事の影響を考えます。アメリカは、矛盾だらけの巨大国家なのです。

 ところが、すでにこれもmailでお知らせしましたが、やはり丁度、「不審船」騒ぎと同時に、米軍放送では、「弾道ミサイル防衛構想」(Ballistic Missile Defense System)をレーガンの偉大な功績として称えるアメリカの議員の気張った名演説が流れたのです。

 実は、これも例のテボドン騒ぎの際、mailに送ったのですが、あの時には「ちょっとヤバイ週刊誌」こと『週刊大衆』の知り合いの記者から電話取材を受けて、若干の謝礼を得たので、今度は、どうしようかと思案していたのですが、どこからも声は掛からずに稼ぎ損ねました。

 さて、もう一つ、習得したばかりのスキャナー技術により、著作権無視の無料サーヴィス、「論より証拠」。私の以上のような背景説明は、経済人から見れば別に珍しくも何ともないものなのです。朝・毎・読などの「ミーハー紙」ならいざ知らず、「経済紙」日経には以下のような、なんと、「ソウル支局」発記事さえ載っていました。

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1999.3.30.日経朝刊(8面・国際1)「地球回覧』欄

ソウル支局・伊集院 敦

BMD、米中ロ駆け引き激化/東アジア安保、日本も「主役」に

「けん銃の弾で相手のけん銃の弾を撃ち落とすようなもの」ともいわれる米国の弾道ミサイル防衛(BMD)構想を巡って、日米と中国との対立が激化してきた。構想の促進に直接火をつけたのは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のミサイル発射事件だが、各国が敏感になるのは東アジアや世界の軍事バランスに影響を与えかねないためだ。北朝鮮のミサイルへの対処という次元を超え、21世紀を見据えた軍事的覇権争いの様相を呈してきた。

「圧力の道具」に

「米国はBMD構想をいよいよ対中圧力の道具に使い始めた」……対北朝鮮政策の見直し作業を進めるペリー米政策調整官(前国防長官)が今月上句、政策調整のため日中韓を歴訪した際に台湾に立ち寄ったことについてソウルの外交筋の間でこんな見方が浮上している。ペリー氏が李登輝総統と話したテーマのひとつがBMD構想への台湾の参加。中国にとって最も神経質な問題だけに、ペリー氏の台湾訪問は「中国が北朝鮮のミサイルを抑える努力をしないと台湾を巻き込んでBMD構想を進める」との強烈なメッセージではなかったかという分析だ。

 中国の朱鎔基首相はそれを意識してか、北朝鮮の核・ミサイル問題は「独立国家(の主権に関すること)なので干渉できない」と突っぱねてみせ、構想に対抗するためロシアとの協議に動き出した。が、中国が最近、北朝鮮に中朝国境地帯のミサイル基地撤去などを要求したとの情報もあり、BMD構想の圧力を受けた中口両国がどう動くかも北朝鮮のミサイル問題の行方を左右しそうだ。

軍備競争を警戒

 それにしても中口はどうしてここまでBMD構想に反発するのか。中国の反対理由は台湾との関係を指摘する向きも多いが、「抑止のあり方が変わり、核・ミサイル戦略そのものへの影響が避けられななるからだ」と解説するのは韓国外交安保研究院の伊徳敏副教授。「核には核といった具合に『報復』中心だった抑止力の考え方が『防衛』中心に変われば、自らの核やミサイルが無力化する可能性があるためだ」と指摘する。

 構想が実現すれば日米中口の力学に大きな変化が生じるのは確実で、構想の中心である米国の強さは一段と高まるだろう。日米は「あくまで防衛目的」(高村正彦外相)と説得するが、中口にしてみれば軍事バランス上、これまでにない「防衛」の兵器だから余計に困るわけで、日米がいら説明しても新たな挑戦に映る。議論がすれ違いになり、構想が新たな軍備競争を誘発しかねないと警戒される理由もここにある。

「あのときはBMD構想を持ち出すしかなかった」。防衛庁幹部がこう打ち明けるように日本の研究参加は北朝鮮のミサイル発射で弾みがついた面があり、費用対効果や周辺国との関係で政府内には色々な意見があるようだ。が、結果として21世紀を見据えた軍事大国間の争いに組み込まれ、「東アジアのパワーゲームに主役の一人としでデビューした」(韓国軍事筋)と受け止められつつあるのが現実だ。

「スターウオーズ構想」と呼ばれ、BMD構想のひな型ともなった1980年代の戦略防衛構想(SDI)のときは、計画を積極的に進めようとする米レーガン政権の動きにゴルバチョフ共産党書記長のソ連がついていけず、後のソ連崩壊の一因になったとも言われる。

徴妙なゲーム

 BMDの配備は早くて2005~2010年で、実戦配備には予算がいくらかかるかもわからない。が、この手の構想は実際の配備による影響の前に計画を掲げることによる作用もあり、開係国のゲームは政治的に相当徴妙な段階に差し掛かりつつあるといえそうだ。

 中国との摩擦覚悟で防衛力を高めていくのか、あくまで経済力などのソフトパワー中心で北朝鮮のミサイル問題も事実上カネで解決していくのか。あるいは米国の戦略に引っ張られる形で両方で出費を強いられたり、それとは逆に全く別の新しい方向を模索するのか。実戦配備となれば本当の意味で日本の進路と東アジアの軍事バランスを左右する重大テーマとなるだけに、その場しのぎでない、中長期の安保ビジョンの設計が今から求められる。

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 さてさて、「中長期の安保ビジョン」って、いったい御幾らなのでしょうかね。私は、こういう問題での一番簡単で、しかも最強力の抵抗方法は、権力やその手先のマスメディアを絶対に信じないこと、すべてを疑って掛かることだと思います。「あれはまたスターウォーズだ」「スパイ大作戦だ」と、常に疑う人が増えることなしには、情報公開も進みません。それが「納税者基本権」「平和的生存権」を確立する闘いの基本姿勢なのではないでしょうか。

 以上。


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