密室取引:農水省跡地利用計画 3

個人税収日本一「文化人都市」を舞台の「民主主義」猿芝居

親の国が子の自治体に「借金して時価で買え」?

親の国(食糧庁)が子の自治体(武蔵野市)に
不用土地を「借金して時価で買え」と迫る餓鬼地獄現出

 1998年3月27日、武蔵野市の本年度予算を決定する定例議会本会議、定刻午前10時前に傍聴に詰め掛けた市民有志は午後1時半まで待たされた。

 遅延の理由は「予算特別委員会委員長の酒気帯び運転事故」だった。「道路交通法違反」による「検挙」は3月25日未明。読売と毎日の27日付け「武蔵野版」頁に、ともに2段見出しの記事が載っていた。朝日、日経、産経は「特オチ」である。

 読売記事の方が中身が濃かった。「石井一徳議長」のコメントも取っており、「鈴木有臣市議(56)(自由民主クラブ)」が「予算特別委員長を努めて」(読売)いたと報じたが、その読売ですら、その「予算」の中身を報道していない。この事故報道をめぐるメディア批判は別途、詳しく展開する。

 本会議は「鈴木君の謝罪」のための登壇を許した。これが国会ならば、内閣総辞職にまで発展しかねない不祥事であるにもかかわらず、無気味な沈黙が支配する市議会本会議場の演壇で用意の文章を棒読みにした鈴木市議が、「謹慎」のためにそそくさと、前につんのめるようなぎこちない足取りで退場すると、代わって予算特別委員会の副委員長が登壇し、これまた官僚作文による用意の予算審議報告を朗読した。

 武蔵野市の本年度予算案の中には、総予算比で約2%、同じく総予算比で約10%しか使えなくなっている財政規模の「投資的経費」の約20%に当たる「農林水産省食糧倉庫跡地(略称・農水省跡地)取得費」初年度分の10億円が計上されていた。取得総額の予定は「時価」による約73億円の想定で審議されたが、公示価格は暴落を続けており、1997年1月1日基準で61億円、隣接地が41億円となっており、不動産業者情報によると、相場は30億円である。

 同跡地は、中央線武蔵境駅の南口に道路一つ隔てた駅前一等地で、隣接の既買収地を合わせると約5千平米になる。1971年(昭46)には「駅周辺開発計画」の目玉として指定されながら、以来27年間、草茫々の空き地のまま放置されていた。

 ところが1997年秋にわかに、市長提案で武蔵野市議会が「農水省跡地利用計画検討特別委員会」を設置した。設置提案の理由について土屋市長は、食糧庁から「取得見通しなき場合は、競争入札で処分する旨の通告があった」「(『武蔵野市議会報』97・11・16)と説明していた。

 取得価格に関しては、土屋市長自らが、全面積を時価でという主旨で次のように説明した。

「(市役所の南側にある)市民公園を国有地の払い下げを受けた当時は、[中略]ただになるとか、いろいろなそういう制度があったんですけれども、今はどんどんそういう制度がなくなりまして、いわゆる時価で売買すると、こういうのが原則ですから」(右特別委員会議事録)

 上記「市民公園」の場合、3分の1が時価、3分の2が無償譲与であったが、取得時の市長は前任者だった。この時期から勤めてきた市議も何人かいたのだが、以上のような市長の経過説明に対しては何らの異議も提出されないまま、審議の結果は特別委員会で賛成多数、予算委員会、本会議でも賛成多数で、同跡地取得計画が可決された。

 計画に疑問を呈して反対した市議は、29名(定員30名のところ1名欠員)の市議の内、諸派の「市民の党」(2名)と無所属(1名)の計3名だけだった。共産党(3名)は、この同問題では賛成に回った。武蔵野市にはすでに約5百億円の買い過ぎ「塩漬け」土地がある。土地開発公社保有地は借入金勘定で、市債を合わせると丁度約5百億円の赤字財政となっている。しかし、「地元住民の要望に応える」と称した土屋市長の新たな土地取得計画提案が通ったわけである。次の関門は「予算特別委員会」だったが、その際、奇怪な噂が私の耳に入った。

(この経過は別項「既成政党」問題でも記した)

「本間まさよ(共産党武蔵野市議)さんが農水省に行ったら、土屋市長が越権行為と怒った」というのである。議員が調査するのは当然。しない方が多いのが問題なのに、怒るとは臭い。何か隠している

 ピーンときた私が、農水省、大蔵省などへ電話しただけで取り寄せた大蔵省理財局発「国有地の有効活用について」の「現行」通達は、1991年(平3)に出され1991年(平4)に一部改正されたものである。

 そこには、地方自治体が「信託」を受けて「無償」利用、いくつかの減免「優遇措置」、「無償貸付」などの「処分」方法が明記されている。本法の「国有財産法」は1948年(昭23)制定だが、1991年(平3)改正以後は変更がなくて、前記通達と同様の地方自治体優遇措置が明記されている。全面積時価売買方針などは、どこにもない

 通達ではむしろ、「特に、国有地は国民共有の貴重な資産であり、[中略]残り少なくなっている[中略]状況に鑑み、公共用優先の原則を更に徹底」と強調している。前述の市長の説明は完全な嘘である。

 農水省の催促が3年前の1996年からなら、なぜ1998年の3月を最終期限のように説明したのか。私の判断では、最早、多言は要しない。値引きが絶対に不可能とは考えられない。五選出馬を表明している土屋市長は、1999年春の市長選で、反市長派から必ず持ち出される土地開発公社問題に備えると同時に、農水省との「密室」交渉での「値引き」を自慢する予定だったに違いない

 裁量権限を握る農水省幹部の姿勢にも疑問がある。そこで私は農水省広報室に会見を申し入れ、3月25日、市民有志とともに、食糧本庁経理課大山課長補佐及び亀山財産担当課員と面談した。

 基本的な問題点は、密室談合で巨億の市財政資金による土地取引相談が行われた事実にあるが、両担当官は率直に「文書確認なし」を認めた。「3月31日は年度末の目途。固執しない」とも明言した。「全面積を時価」については譲らずに顔を赤らめながら、「米が売れなくなって食糧庁の予算は苦しい」という。ただし、大山課長補佐自身が認めたように、彼らの段階では明らかに値引きの権限は与えられておらず、「売れ」という上の命令にただただ従っているだけである。

 私は、陰で動くフィクサーを想定する。結果として市に財源はないから、土地開発公社が銀行から借金して買うことになる。銀行としては返済確実な相手への融資の実績となる。こんなに旨い商談が今の日本の崩壊寸前状況の中で他にあるだろうか。問題の跡地は農水省の特別会計になっているが、処分方針については大蔵省の承認を得なければならない。一省庁の懐具合だけで、法律の解釈ばかりでなく、大蔵省通達すら無視されるようであれば、もはや、この国は無法地帯である。

 もともとは地元の食糧集積地だった土地を、家族にたとえて考えれば、親に当たり、しかも「地方交付金」を支給して地方自治体を援助すべき立場の国が、やはり累積赤字を抱える子の地方自治体に「借金して時価で買え。買わねば民間に競争入札で売ってしまうぞ」などと脅して良いものだろうか。酷い飢饉では、親が子を食ってしまうという実例もあるそうだが、国民でもある地方自治体の市民としては到底納得できない話である。


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