『湾岸報道に偽りあり』(48)

第三部:戦争を望んでいた「白い」悪魔

電網木村書店 Web無料公開 2001.6.1

第八章:大統領を操る真のアメリカ支配層 4

エネルギー総合戦略に逆らうと「暗黒街ルール」

 日経産業新聞は一九七八年七月に「核メジャー80年代の戦略」という六回連載の「海外取材報告」を特集したが、第五回の大見出しは「政治動かすベクテル……」となっており、文中で、「米国核ビジネスの中で、ウラン生産、濃縮、原子炉、使用済み核燃料処理など、一貫したエンジニアリング技術を持ち合せているのはベクテル社だけである」という評価をしている。

 もちろん、技術だけではなく、「政治力」も相当なものである。

『ベクテルの秘密ファイル』によると、一九七九年、ベクテルはサンフランシスコの本社にアメリカの大手原子力メーカーと電力会社十三社の代表を招いた。原子力発電マフィアとでも呼ぶべきこのボス会議は、「エネルギー知識普及協議会」と称するロビイスト集団を結成し、年間四千万ドルの広告費拠出(ただし電気料金値上げでまかなう)を決定した。ベクテルだけでも、「ワシントンで有給のロビイストを十三人以上も抱えていた」。

 だが現在、スリーマイル事故後のアメリカ国内では、新しい原子力発電所の建設は困難である。ベクテルは事態を見極め、サッサと国内の原子力部門を縮小した。「脱原発」とまでいわれている。しかしベクテルは、石油にはじまって、石炭(液化を含む)、天然ガス、火力発電と、あらゆる既存のエネルギー資源に支配力を及ぼし、バイオ技術による未来のエネルギー資源開発にまで先鞭をつけている。原子力に関しても、日本との関係で、三菱重工業、日立製作所という大手と提携を深め、ここでも中東の利権とバーター方式で、日本国内での仕事を狙っているようだ。決して完全に原子力から足を洗ったわけではない。

 エネルギー産業に関してもベクテルは総合戦略で世界をにらんでいる。

 背後には、ベクテル自身が重役のポストを握るロックフェラーやモルガンなどの、多国籍財閥が控えている。ベクテルは「アメリカ株式会社」の一員なのだ。

 すでに本書の冒頭で紹介したように、湾岸戦争後に出された一流の研究書『アメリカ現代史』では、共著の学者たちが「執拗に数量的分析をおこない、そこから、『アメリカ帝国主義』の問題を考える手掛りを得ようと」努力し、今度の湾岸戦争に関しても、「世界的帝国主義体制の先端にある『アメリカ帝国主義』のあらわれである」という分析を発表している。

「アメリカ帝国主義」は「健在」である。いや、むしろ、以上見てきたような支配体制と、国内の貧富の差拡大、殺人犯罪激増、コカイン産業の隆盛、マフィアの陰然たる支配強化、などなどの状況を考え合わせれば、名にしおう「アメリカ帝国主義」の悪の華は、今まさに、その盛りを迎えているのではないだろうか。そうだとすれば、日本も、世界も、それなりの心構えをし、確実な対応の研究を急ぐべきであろう。

 特に日本は今、ベクテルが主導する国際航空物流革命の拠点として、次々に大型国際空港建設の波に洗われている。関西新空港は「建設摩擦」の突破口だった。今では「国際物流センター」新千歳空港が香港新国際空港とともに、ベクテルが請負った「青写真」にもとづいて建設されようとしている。

 かつて日本列島改造政策を推進した田中角栄は、アメリカでローッキード汚職の証拠書類を暴露され、闇将軍の座から墜落した。このような機密資料を入手し、暴露し得るものは、アメリカのトップ、もしくは秘密情報機関のメンバー以外にはあり得ない。ことの真相は、日本の成り上がり闇将軍が、こともあろうに国際的なエネルギー戦略をめぐらし、石油マフィアを中心とするアメリカ財閥の逆鱗にふれたがため、と推測されている。アメリカが、というよりもアメリカの巨大企業が主要戦略とする分野では、常に「邪魔者は殺せ!」のルールが支配してきたのではないだろうか。

 アメリカが今もなお自信を持って輸出できるものは、「傭兵」「大型航空機」、そして、政治力とコンピュータ・ソフトを駆使する「大型開発プロジェクト」である。

 日本は今のところ、その分野での「良きパートナー」とされているようなのだが……。


(49) 地球改造を計画する日米連携開発財団「GIF」