戦後秘史伏せられ続けた日本帝国軍の中国「阿片戦略」詳報

勅令「阿片謀略」
その5:大東亜共栄圏の阿片需給計画

 ところで、蒙疆の阿片は日本の阿片政策の中で、どのような位置を占めていたのであろうか。

「大東亜共栄圏各地域を通ずる阿片政策確立に関する件」というタイプ印刷で12ページの報告書がある。「蒙古連合自治政府駐日代表部」の用箋を使用。執筆者は、「興亜院華中連絡部次長」の陸軍小将落合甚九郎。宛先は「興亜院政務部長」である。

「従来南方各地域においては、比島を除きいずれも阿片制度を制定して、これを吸飲せしめつつ概ね莫大なる財政収入を挙げいたるところ、今般大東亜戦の勃発にともない、これら地域が主として仰ぎいたるインド阿片の輸入途絶……完全なる阿片欠乏を招来」、「早急に大東亜共栄圏を通ずる大阿片政策を確立し円滑なる需給計画を樹立」「差し当り支那産特に蒙堯産をもって充つるの外途なしと存ぜらる」

 これにも詳しい数字が載っているが、よく見ると「南洋華僑」の人口統計なのである。そして、「由来阿片の吸飲は中国人の嗜好品と称せられ、特にこれが「いん者」(中毒患者)に至りては大体人口の百分の三」という計算。つまり、「潜在的」阿片「消費者」のマーケット調査である。

『資料/日中戦争期阿片政策』が出版された翌年の1986年には、やはり大労作の『続・現代史資料12/阿片問題』(みすず書房)が出た。こちらはとくに興亜院関係文書、外務省の電報・文書の収集に重点が置かれている。

 こちらにも、やはり「興亜院華中連絡部」の作成になる「昭和17年度支那阿片対策打合会議資料」という文書がある。それには、「昭和16年度需給実績」が、次のように記されている。

1、前年度より越高
 イラン品  425(単位千両)
 蒙疆品   352
 その他品  35
  計    812

2、本年度受入高
 蒙疆品  5759
 その他品  445
  計   6204

 一見して明らかなように、日米開戦の「昭和16年」には、「イラン品」(「インド」洋を経て来るイラン・イラク・トルコ産阿片は、用語上混同されているらしい)の輸入がゼロとなる。「蒙疆品」がなければ、お手上げの状況である。

 ほかにも「共栄圏の阿片事情」(南方開発金庫調査課、昭和18年8月)という18ページの論文があり、「大東亜省調」の数表が収められている。「阿片の生産消費」地域として「満州」「蒙疆」「華北」「中支」「タイ」「マレー」「蘭印」「仏印」「その他」とあるが、「蒙疆」は生産量もトップだし、唯一の輸出地域である。


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