台湾の元「慰安婦」裁判を支援する会
台湾の元「慰安婦」裁判を支援する会 1999.10.16
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弁護団からの発言


清水由規子弁護士

 台湾の婦援会(台北市婦女救援社会福利事業基金会)からこの訴訟を頼まれて、2回台湾に行き、今回の原告になられたおばあさんたちのお話を伺いました。ことに被害者の中に台湾の中でもさらに差別を受けてこられた先住民の方たちがおられることに強い感銘を受けました。先住民の方たちは日本語ができるので、通訳を介さずにお話することができました。

 私も親たちを通して植民地統治時代には「高砂族」とよばれていた台湾の先住民については聞いている世代ですが、実際に台湾に行って、先住民族は決して一色ではない、いろいろな文化の違いがあることを初めて知りました。部族はみんな独立しており、言葉も違うので、先住民の方たちの共通語は日本語なのです。「慰安婦」として被害を受けた方たちは、違うところに住んでいても、共通語は日本語であり、その境遇も似通っています。このようなことも印象深いものがありました。

 もう一つ、ショックを受けたのは、被害者の中には何度も妊娠している方がいて、当初の陳述では、流産したという話が多かったのですが、何度も伺っているうちに、お腹にいた赤ちゃんを産んで育てたという方が出てきました。実は日本軍が撤退した後に、妊娠が分かったが、親が再婚相手を探してくれたのでその人と結婚した、私たち夫婦の上のこどもは実は日本兵のこどもだというような話も聞きました。こうした隠れた被害があったことがわかりました。そうした暗やみに埋もれていた話が出てきたのは、台湾のスタッフたちの努力のおかげでもあると思っています。

 被害者はどんどん年老い、亡くなっています。最初の訪問のときも、リストにあってお話を聞くはずの方が、私たちの訪問の直前に亡くなられてお通夜があったり、お話もはっきりしておられて、原告になられると思っていた方が、今では寝たきりになっておられる例もあります。

 弁護士の仕事は、机上で終わらず、自分が出掛けていかねば仕事にならないということから、どうしても多忙であり、提訴まで1年以上かかってしまったことに申し訳ないと思っていましたが、訴状の提出にこぎつけてほっとしています。

 この訴訟をお引き受けすることになって、難しい訴訟ではありますが、一生懸命やりたいと思っています。


藍谷邦雄弁護士

 今回の提訴で「慰安婦」関係の訴訟は8件目となりました。これまでに韓国の太平洋戦争犠牲者遺族会の訴訟、在日韓国人宋神道さんの訴訟、下関の関釜裁判、フィリピン、オランダ、中国、中国山西省というように7件の訴訟がありましたが、私は宋神道さん、オランダに次いで、今度で三つ目の裁判に弁護団として関係することになりました。「戦後補償を考える弁護士連絡協議会」(弁連協)の事務局長をしています。

 1991年の最初の「遺族会」訴訟の提訴から7年、すでに下関、フィリピン、オランダの3件が判決が出ており、秋には宋さんの判決が予想されています。そうした時期にあえて今新たな裁判を起こす意味はどこにあるのかということを考えてみたいと思います。 訴訟を起こす前に、婦援会ですでに1993年に台湾の「慰安婦」被害者についての調査報告書を出しており、これは詳細で論理的な報告書として評価されています。台湾では当初から婦援会が、元「慰安婦」被害者たちの生活の面倒をみながら、聞き取り調査を行ない、丁寧な報告書も出ていて、いつでも訴訟ができる態勢にはあったといえます。

 3年ぐらい前に、台湾では訴訟をしたいという話もありましたが、台湾ではこうした報告書だけではなく、台湾の政府に働き掛けて生活の援助も、ある程度の活動がすでに行なわれていることでもあり、あえて裁判をしなくても、別の運動でいいのではないかと申し上げたことがあります。しかし、その後、婦援会の中でもやはり裁判をという声があり、昨年春には、婦援会もおばさんたちもその気になっているということから、改めて裁判のを起こすということになり、私たちもこれをお引き受けしたのです。

 それでは今裁判を起こす意味がどこになるかといいますと、一つには、「慰安婦」制度そのものについては、吉見義明さんらの研究や、フィリピン、先行する裁判によって、概要はかなり明らかになっているといえます。しかし、台湾の問題については、日本の国内では意外に知られていないという点があります。日本の国内では台湾の歴史については、年取った人たちの間では植民地時代へのなつかしさも含めて知られていることも、〜植民地時代への懐かしさというのは問題ではありますが〜、最近の若い人々には台湾の歴史というのは知られていないということに、今回の裁判の準備の過程でもつくづく気付かされました。取材に来られた若い記者たちの中には、先住民の存在すら知らない人もいるぐらいでした。昔の人たちでしたら、日本が高砂族とよんでいた先住民のことは知っているでしょうが、今の若い人々には、そもそも、台湾に漢民族以外の先住民がおり、それがどういう人たちなのかということすら、知らない人が多いということです。そうなると、台湾の植民地時代にそれらの先住民の人々がどういう扱いを受けていたかというようなことはすでに遠い歴史の彼方に忘却されているのではないかと思います。それによって現実の台湾を見る目も失ってしまっているのではないでしょうか。

 これは日本の中でも、日中国交回復以後、日本の歴史や社会の教科書にも、台湾のことが載る率が少なくなり、朝鮮・韓国の植民地支配や中国への戦争の当時の惨禍を教えようという声があることの反面、台湾は一つの空白地帯となっているということであると思います。日本が半世紀にわたる植民地政策のことが日本人の意識から遠ざかっていることについて、この裁判を通して再度問題を提起できるのではないかと思っています。

 これまで「慰安婦」のことについては、連行時に強制があったかどうかということがもひとつの争点になってきました。しかし、台湾での状況をみると、特に先住民についてははっきりした特徴があります。台湾でも、漢民族に対する扱いは朝鮮・韓国の場合と似たような形で募集などの対応をとっています。しかし、先住民に対しては明らかに違っており、日本政府、軍、警察が独裁的な形で関与しています。台湾の植民地統治に際して、先住民に対しては警察によって日常生活の隅々まで管理し、日本語教育が徹底して行なわれました。そこで、「慰安婦」を募集するときも、ほとんど警察の命令に近い形で、日本の支配者が独裁的に女性を集めました。そうした意味で公権力の介入がはっきりしているといえるでしょう。

 日本人の中ではよく、朝鮮・韓国などに比べて、台湾の対日感情は悪くないといわれます。しかし、台湾の中でも植民地時代に対する思いは決してそういう言葉だけは言えないものがあり、日本人として忘れてはいけない多くのことが含まれていると思います。最近出ている小熊英二氏の「日本人の境界」という本の中にも、台湾の植民地政策のことはいろいろ書かれていますが、日本の植民地政策とは何であったかを思い起すきっかけとしても今回の訴訟の意味の一つであろうと思います。

 もう一つは、台湾は平和条約というかたちで戦後処理が行なわれていない数少ない地域であるということです。これまで日本政府は繰り返し、戦争の処理については条約で解決ずみだといってきました。欧米諸国に対してはサンフランシスコ条約で、その他のアジアの地域に対しては、それぞれの二国間条約により解決したといっているのです。しかし、朝鮮民主主義人民共和国と台湾についてはこのような処理は全くなされていません。共和国の方から訴訟を起こすことはまずありえないでしょうが、今回台湾の原告の方たちが訴訟を起こすことによってこの問題が浮上してきます。このことはこれまで訴訟の中自体で具体的な争点にはなってはいないが、日本政府の対応としては平和条約が前提とする戦後処理の体制を崩したくないというものがあります。そういう点では、この訴訟は台湾は歴史的な問題ばかりでなく、戦後処理という点でも一つのエポックになると思います。

 現在この訴訟と同時に、立法的な解決も求めなければならないということで、いろいろやっていますが、この立法処理においても、戦後処理が終わっていない台湾ということが一つの焦点となって、立法化に結びつく契機ともなり得るのではないかというのがこの訴訟の二番目の意味となると考えられます。  ついでに申し上げると、遺族会を除く七つの「慰安婦」関係の裁判の弁護団では現在、「元『慰安婦』への補償を求める弁護団協議会」を作っており、補償のための立法要綱を近日中には国内とアジア諸地域に明らかにする予定です。この運動の中でも、今回の台湾の訴訟は大きな支えと契機になりうると思います。

 この訴訟が、先行訴訟を受ける形で行なわれるのは、すでに申し上げた二つの特徴をもとめつつも、最終的には、原告になるおばさんたちが直接的に日本の国家に対して自分たちの存在を示し、日本政府に対する思いを発露をする場は現在では訴訟という手段しかないのかということです。おばさんたちは、ビデオでの証言などすでにいろいろな場で自分たちの思いを訴えてはきましたが、自分たちが日本政府に責任を求めていることを示し、日本国家と直接対峙する場所はやはり訴訟という場が最善ではないかと思っています。

 これまで韓国の裁判、オランダ、フィリピンで判決が出ていますが、論理的には下関判決の意義を最大限に生かしつつ、日本政府の責任を追及してゆきたいと考えています。


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