ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(]])
石油強奪と戦争特需:対イラク戦争は石油=軍事帝国アメリカの“巨大公共事業”
−「石油動機説批判」「石油無関係説」のいかがわしさ−

1.はじめに−−石油強奪と戦争特需。早くも「戦利品」分配の談合に忙しいブッシュ政権と石油・軍事・業界・ロビイストたち

ロイター
 皆さん、こんなことが許されていいものでしょうか。国連安保理で米英の武力行使新決議のごり押しをめぐる外交戦が土壇場を迎える中、ワシントンの政財界では一つの“巨大公共事業プロジェクト”が注目を集めています。ブッシュを大統領に担ぎ上げ、政権に自分たちの経営陣やロビイストたちを送り込んだ石油・軍事・建設エンジニアリング等々の関連業界が族議員やロビイストを巻き込んで、ブッシュ政権と一緒に「フセイン後」の石油強奪計画、戦争特需計画を相次いで打ち出し、談合によってこの血塗られた戦争ビジネスの「戦利品」分配に狂奔しているのです。

■米石油メジャーでイラク油田を支配する計画が発覚。
 まず今やブッシュとネオコン(新保守主義)の宣伝マシーンと化した米財界右翼の新聞ウォールストリート・ジャーナルが今年1月16日に掲載した記事から。「イラクの油田を支配する計画がすでにある」というのです。米国務省と国防総省がハリバートン、スラムバーガー、エクソン・モービル、シェブロン・テキサコ、コノコ・フィリップスなど、石油メジャーと石油関連巨大企業の役員を集めて非公式会合を開きそこで取り決めたようです。言うまでもなくハリバートンはチェイニーが副大統領になるまでCEOをしていた軍事・石油サービス会社です。
 業界団体である石油産業調査財団の会長ラリー・ゴールドシュタインは言います。「もし我々が戦争するなら、それは石油のためではない。だが戦争が終わったその日から、全てが石油のために動くことになる」と。−−ここまで開き直り堂々と言えば大したものです。
※「What Role the Oil Industry Playing in Bush's Drive to War?」by Ralph Nader Feb14, 2003 by CommonDreams.org http://www.commondreams.org/views03/0214-08.htm
※ "US Oil Wants to Work in Iraq," by Thaddeus Herrick, Wall Street Journal , January 16, 2003
http://hightower.fmp.com/weblogitem.php?id=11

■なぜ今米政府と米ゼネコン業界が「イラク復興」の受発注ブームに沸くのか。
 次も3月10日付のウォールストリート・ジャーナルから。米政府が第一次案件約9億ドルの工事契約をすでに米関連業界各社に提示し、しかも驚くことに勝手に入札手続きを開始したといいます。発注元は米国際開発庁。そこが米大手ゼネコンに「戦後復興計画」の受注詳細文書を出したのです。油田の改修を筆頭に水道・道路・港湾・病院・学校などの土木建設を中心とする巨大公共事業。ハリバートン、ベクテルなど、かつて湾岸戦争でも大儲けした戦争ビジネスが群がっています。ベクテルもまた戦争の度に肥え太る、共和党の重鎮たちが経営する党丸抱えの「死の商人」です。
 他人の国をメチャクチャにしておいて「復興」を商売にする!!戦争が始まる前から、侵略者の側が勝利を祝うかのように戦争特需を発注し、それを堂々と受注する「戦争国家」アメリカの巨大な“政商”たち、異常異様というしかありません。

■文字通り“マッチポンプ”。戦争で火を付けて戦争ビジネスに消化させる!
 米国防総省は3月6日、イラク油田の消火を監督する業者に、米ハリバートン傘下のケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)が選定されたことを発表しました。
※ハリバートン子会社をイラク油田消火業者に選定=米国防総省(ロイター)
http://newsflash.nifty.com/news/ta/ta__reuters_JAPAN-106769.htm

■米占領軍がイラクの兵士を“奴隷労働”に使う驚くべき計画が明らかに。
 米国防総省高官は3月11日、「戦後復興計画」を公表し、イラク正規軍の元兵士を復興作業に活用する方針を打ち出しました。建物・道路・橋の改修、がれきや地雷の除去など。おそらく上で紹介した「戦争ビジネス」「死の商人」らの管轄下で酷使されるはずです。これは正真正銘の現代版「奴隷労働」に他ならず、大量の捕虜を「苦役」にこき使うことも含まれるでしょう。彼らの傲慢と横暴はどこまでエスカレートするのか。はらわたが煮えくり返ります。
※「戦後復興にイラク兵活用=3地域で分割統治−米」(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030312-00000122-jij-int

 一体こうした事実は何を示すのか。石油=軍事帝国アメリカが、いわば対イラク戦争を、“一大公共事業”として、“戦争ビジネス”として遂行している唾棄すべき姿、どす黒く醜い「死の商人」の姿ではないでしょうか。これに、すでに言い尽くされている米国自身の大軍拡と巨額の軍事予算を軍産複合体にくれてやる問題が付け加わるのです。侵略国家アメリカにとって戦争とはまさに“公共事業”なのです。
※「Oil plays starring role in plans for post-Hussein Iraq」By David R. Francis |Feb11, 2003 The Christian Science Monitor http://www.csmonitor.com/2003/0211/p02s02-woiq.html
ここには石油がポスト・フセインの計画の中で主役を演じると書かれている。そして国営イラク石油が米英系の石油メジャーに「民営化」されるだろう。そうすれば世界のこの石油産業の勢力図は塗り替えられ、米英系メジャーエクソン・モービルやBPの力関係が大きくなるだろう、と予測する。「石油無関係説」が言うようなバカげた議論、すなわちイラク新政権は世界の石油会社に平等にその利権を分配するという甘ったるい見通しは絶対あり得ない。
※「ストローは石油がカギとなる優先課題だと認めた」。これは正直。今パウエルと結託して国連で主戦論をぶっているイギリスのストロー外相が、石油が英外交の優先課題であると認めたのだ。
「Straw admits oil is key priority」Ewen MacAskill January 7, 2003 The Guardian
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,869867,00.html


2.「石油のための戦争」を否定する官民一体となった宣伝攻勢。
 上で紹介したたった幾つかの事例だけでも、「石油」は今回のイラク攻撃と何の関係もないと、平気で言える神経が私たちには全く理解できません。

 ところがブッシュの強引な開戦を目前に控えて、ブッシュ政権、その代弁者、特に欧米の主戦論や翼賛報道に立つマス・メディアや好戦的論客たちが最近相次いで「石油のための戦争」という非難に反論・反撃を開始しています。日本のマスコミもこれを真似て「石油無関係説」をさりげなく主張し始めました。ごく一部ですが、反戦平和運動内部にも同様の傾向が出ています。ここでは主な論点を取り上げ、やはりブッシュ政権の最大の狙い目、目的の一つが中東の石油資源の支配と略奪であることを論証したいと思います。軍事覇権やイスラエル防衛という理由も「複合目的」にはなりますが、「石油」を否定するものにはならないはずです。
※「イラク攻撃『石油動機説』 米不満顔」産経新聞2003年2月24日。
※ニューズウィーク日本版の2003年3月12日号の特集「対イラク攻撃 石油のための戦争か」。ここでは囲みでタリク・アリ「主張:アメリカの狙いは石油と覇権だ」、下記で紹介するマックス・ブートの「反論:石油陰謀説は幻想、これは善意の戦争だ」が掲載されている。
※グリーンピースは今年2月「戦車に乗ったタイガー」(THE TIBER IN THE TANKS)というパンフレットを出した。副題は「エクソン・モービル、石油依存とイラク戦争」。ここではブッシュのイラク攻撃の背景にある米の石油・中東戦略、米の石油への渇望、特に世界最大の石油メジャーエクソン・モービルの利害を暴露し、今回の戦争が「石油のための戦争」であることを鋭く指摘している。http://www.stopesso.com/pdf/tigerinthetanks.pdf


エクソンのトレードマークはタイガー
 「石油無関係説」は官製プロパガンダです。石油資源の支配・略奪というドロドロとした露骨で醜い、従っておよそ自国民や世界の民衆には言えない、否同盟国でさえ表立っては支持できないブッシュの侵略戦争の本質・目的を覆い隠し、美化する議論に過ぎないのです。いわば真の狙いを覆い隠す“イチジクの葉っぱ”です。
 単なる論戦上のことであれば目くじらを立てることではないでしょう。しかし侵略が迫っています。何の罪もないイラクの子どもたち数十万人のいのち、何百万人の民衆のいのちがかかっているのす。ここへきてブッシュ政権の血塗られた意図を美化し肯定することなど決して許せるものではありません。

 詳しくは末尾の【資料・解説編】で代表的な議論を紹介し批判しますが、とりあえず主な論点をここで紹介しておきましょう。

■主戦派の「石油動機説批判」その1−−ブッシュ政権の石油・軍事戦略を無視。イラクと中東石油への異常な渇望を覆い隠す姑息な議論。
 資料編で紹介したトーマス・リップマン、石井彰・藤和彦各氏の主張に特徴的ですが、彼らは@まずアメリカの石油・軍事戦略を意図的に無視し、A次に「イラクなど重要じゃない」「中東石油はアメリカの消費のわずかしか占めない」などと、イラクおよび中東の「低さ」「不必要性」を訴えるのです。米の歴代政権が中東の石油資源を「死活の利益」として軍事外交戦略の根幹にしてきた歴史的事実をごまかし否定するのです。米中東政策の歴史を否定し忘却するものに他なりません。
 彼らはブッシュ政権が誕生後最初に出した基本政策が石油・エネルギー政策−−チェイニー副大統領が一昨年5月に出した「包括的エネルギー政策」−−であったこともわざと隠します。そこにはこう書かれています。「大統領はエネルギー安全保障を貿易と外交の優先課題にする」と。
※「30年のむずがゆさ」(The Thirty-Year Itch)By Robert Dreyfuss March/April 2003 Issue
これは非常に役に立つ論文である。1970年代初めの石油危機から30年、米のタカ派は湾岸の石油資源を奪おうと躍起になってきた。しかしソ連という存在があったし様々な政治的制約があり軍事外交戦略で苦労してきた。それでも着実に中東への軍事覇権は拡大してきた。第1段階:緊急展開戦力、第2段階:中東中央司令部設置、第3段階湾岸戦争、第4段階:アフガニスタン戦争、そしていよいよ第5段階:イラク−−このような歴史的脈絡の中で、今回のブッシュのイラク攻撃を捉えようとするものだ。『マザージョーンズ』というリベラル誌の最新号に掲載されている。表題にあるように、欲しいのに直接モノにできない「むずがゆさ」を一気にすっきりさせようというのがイラク攻撃なのである。まさに暴虐!
http://www.motherjones.com/news/feature/2003/10/ma_273_01.html

■主戦派の「石油動機説批判」その2−−イラク石油の切り売りでは戦費をまかなえない!?イラク攻撃の“不採算性”で「石油動機説」を否定する暴論。
 「イラク石油を取っても戦費の方が高くつく」「市場から買う方が安い」等々。これはマックス・ブート、ジョン・タトム氏らの議論です。そもそも戦争を“採算”、あるいは「原価と利益」でしか見ることができない、およそ人間として許せない議論です。しかし戦費を全部ブッシュが自分で負担するなど考えられません。殺戮と破壊、国家崩壊の後始末は日本や同盟諸国や国連に必ず押し付けるはずです。

■主戦派の「石油動機説批判」その3−−石油=軍事=イスラエルの三位一体から成るブッシュ政権の特異な権力構造、権力実態を覆い隠す。
 主戦派の批判全てに共通するのは、石油業界、自動車業界、軍産複合体など米の旧い重厚長大産業の経営者やロビイストたち、ネオコンという極右シンクタンクに総結集した壮大な帝国主義=植民地主義国アメリカの復活の野望を持つごろつきのような連中−−こうしたブッシュ政権を構成する特異な権力者の存在や性格を全く無視することです。

■反戦派の「石油動機説批判」−−「石油」に「軍事=帝国」「イスラエル」を対置。「複合原因」に「単一原因=石油」を対置。
 主戦派とは別に、別の立場から「石油動機説」を批判する人々がいます。資料編で紹介したブレンダン・オニール、ポール・ウッドワード、キャスリン・クリスチッソン各氏です。これら反戦派の「石油動機説」批判の共通した特徴は、「石油動機説」に「軍事=帝国=覇権動機説」、「イスラエル動機説」を機械的に対置する議論です。イラク攻撃の「複数原因」の中から「一つ」を取り出し、別の「一つ」に対置するやり方です。
 しかし石油か軍事か、石油か帝国か、石油かイスラエルか等々ではありません。石油も軍事も、石油も帝国も、石油もイスラエルもなのです。あれかこれかではなく、あれもこれもなのです。そしてこの「あれもこれも」を人格的に体現するのがネオコンなのです。
 ここにもブッシュ政権の特異な権力構造、権力実態、それらを人格的に代弁するネオ・コンサーバティブ(略してネオコン)という強烈な帝国主義イデオロギーを持つ権力者たちの一群の特殊性−−つまり石油=軍事=イスラエルの三位一体−−が無視されているという事情があるのです。
※『アメリカ帝国への報復』(集英社)を書いた、米のリベラルなシンクタンク日本政策研究所の所長チャルマーズ・ジョンソン氏は最新の論文「なぜアメリカはイラク攻撃にこだわるのか」で言う。「石油、イスラエル、国内政治」、この3つは全てブッシュのイラク攻撃の重要な要因をなすが、「真の理由」は「帝国主義と軍事主義の仮借なき圧力」だと結論付ける。邦訳は『軍縮問題資料』2003年3月号にある。原題は「Iraqi Wars」by Chalmers JohnsonJanuary 10, 2003 http://www.antiwar.com/orig/johnson1.html


3.なぜ今「石油無関係説」なのか?−−ブッシュの真の狙いを見透かし始めた米国と世界の民衆への苦しい弁明。
 しかし今なぜ「石油無関係説」を言い訳しなければならないのか。それは自国民も世界の民衆も、イラク攻撃に何の大義名分も正当性もなく、単に石油資源の支配・略奪が目的であることを見透かし始めたからです。少なくともそれが決定的な目的の一つであることを見抜き始めたからです。まるで見られた者が恥ずかしさのあまり思わず急所を隠したかのようではありませんか。

 昨年10月の国際反戦行動以来、世界中の集会やデモ行進のスローガンは「石油のために血を流すな!」「石油のための戦争反対!」などで埋め尽くされています。今年1月18日、2月15日の国際反戦平和運動の空前の歴史的高揚の中で最も前面に押し出されたスローガンも「石油」でした。ブッシュ政権とすれば、イラク攻撃に対する国内外からの非難に答えなければ分が悪くなってきたのです。
 「最後通牒」という開戦の切迫にもかかわらず世界中がブッシュを疑っています。なぜ今、如何なる理由でイラクを攻撃するのか、世界中の民衆と国々が重大な疑問を持っています。今回のイラク攻撃そのものが何の大義名分も正当性もないこと、それどころか国連憲章にも国際法にも反する正真正銘の侵略行為であることを感じ取り始めているのです。

 とにかくブッシュがイラク攻撃を公言し始めた昨年初めからこれまで攻撃理由がコロコロ変わってきました。文字通り大うそつきが、そのいかがわしい目的を知られたくないばかりに、次から次へ、ああだこうだ、なんだかんだと屁理屈をこねている様です。

 皆さんは最新の攻撃理由をご存じですか?何と「自然資源の保護」なのです。2月26日ブッシュ大統領はネオコンの巣窟AEIという研究所でこう述べました。「『死にゆく政権』からイラク国内の天然資源を守る」と。まぁ何と崇高な目的なこと!「略奪」を「保護」と言い換えるとは・・・。盗人猛々しいとはこういうことを言うのです。これまでも米政権高官たちは言い放ってきました。フセインが油田を爆破するから云々。しかし考えて下さい。仮にフセインがそのような振りを見せたとしましょう。それはなぜなのか?アメリカが攻め込むからです。そう、つまりブッシュが戦争をしなければ、油田は完全に守られるのです。ブッシュが守る必要などどこにもありません。ブッシュよ、イラクの自然資源(油田)を守りたいのならイラクを攻撃するな!
※「戦争の場合、イラク油田を破壊行為から守る=米大統領 」(ロイター)2003年2月27日
http://news.lycos.co.jp/topics/world/us_president.html?&cat=17&d=27reutersJAPAN105897

 ちょうど1年前、ブッシュは「フセインは悪者だ」(いわゆる“悪の枢軸”)と決め付けましたが、もちろん世界はそれでは納得しませんでした。彼らは何度もビンラディン・アルカイダとの関係説をぶち挙げましたが何の証拠もないために世界は納得しませんでした。イラクの虐げられた国民を解放するという歯が浮くような理由など誰も信じませんでした。もちろんパパがフセインに殺されかかったんだという理由も世界は信じませんでした。

 そしてようやくたどり着いたのが昨年11月の国連安保理決議1441。理屈抜きにやってしまえばいい、世界に説明する必要などない、邪魔するやつなどくそくらえとばかりに暴走する政権内のネオコンを一旦おさえて、パウエル国務長官がインチキくさい茶番劇の「ハト派」という主役を申し出て世界への“ごまかし役”を買って出ました。パウエルのシナリオは、この1441決議を盾に「大量破壊兵器」疑惑で難癖を付け、査察妨害、「重大違反」を口実に攻め込むものでした。ところがそれから4ヶ月、ブッシュ=パウエルの思惑が大きく外れてしまったのです。巻き返しのきっかけになるはずだった2月5日のパウエルの「新証拠」もウソがばれてしまい反転攻勢シナリオも崩れました。むしろ2月14日の査察「追加報告」を転機にして逆に仏独露の「国連査察派」が一気に優勢に立ち、米英主戦派が予想外の国際的孤立を強いられてしまったのです。米寄りのブリクスUNMOVIC委員長でさえ、不十分性を指摘しながらも査察が進展しているため今後数ヶ月は査察が必要なことを主張しています。つまりブッシュ政権は「大量破壊兵器」と「国連査察妨害」では戦争できなくなってしまったのです。これ以上この問題を出せば自分の首を絞めることになります。
※「ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(][)ブッシュのイラク先制攻撃========石油=軍事帝国アメリカの世界覇権とこれに立ちはだかる史上空前の巨大な国際反戦行動」2003年2月21日 署名事務局
※「イラク査察継続を要請 数カ月必要とブリクス氏」(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030308-00000017-kyodo-int

 3月7日のUNMOVIC、IAEA報告と外相協議は、国連査察の大きな流れ、米英の孤立をより鮮明にしました。米英は苦し紛れに武力行使容認の新決議を出すことで、都合が悪くなった国連査察を一刻も早く打ち切ろうとしています。昨年あれだけ強引に1441を押し通したのはブッシュその人ではなかったか。査察が軌道に乗り始めたのに、もうやめではあまりにも勝手ではありませんか。
※元々イラクの「大量破壊兵器開発・保有」自体が、アメリカのでっち上げであり、もしわずかばかり残っているとしてもそれは周辺の脅威になるほどのものではないことは、1991〜98年のUNSCOMの査察実績で分かっていたことである。先日来日されたスコット・リッター氏の説得力ある説明と、再現ドキュメンタリー映画「査察の真実」にも明らかである。


4.「イラク民主化説」「中東民主化説」のバカバカしさ。−−結局は石油=軍事帝国アメリカの世界覇権が真の戦争目的。
 「大量破壊兵器」=「国連査察」を攻撃理由にすることに失敗したブッシュ政権が最後の目くらましに出したのが「イラク解放説」「中東民主化説」です。これほど人をバカにした議論はありません。何十万、何百万人ものイラクの子どもたち、2千2百万人ものイラクの民衆を殺し傷つけ死の淵に立たせておいて、彼らの「解放」などよく言えたものです。それをそのまま大本営発表のように大仰に伝えるマス・メディアの堕落も度外れのものと言えるでしょう。
※この「イラク民主化」説も総スカンを食らい、今週に入って出してきたのが「見せしめ」説。ここでイラクを成敗しなければイランや北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)など他の「ならず者」国家を甘やかすことになるという論理だ。しかしこれが戦争の大義名分になるのか。人道も国際法もあったものではない。

 イラクの子どもたち、無防備の市民を大量殺戮するだけではありません。ブッシュによる「軍事独裁政権」を樹立するという「戦後構想」が急浮上してきました。国際法も民族自決権も無視、自分の好き放題に軍事力で世界を作り替えるというのです。ドイツのヒトラーも顔負けのまるでファシズムのような勢力圏の拡大ではありませんか。歴史の歯車を100年以上も逆転させる「帝国主義と植民地主義の時代」への復古です。
 最近、米軍が直接の軍政を敷くと聞いて、「傀儡政権」構想に参加してきた有象無象の怪しげな「亡命イラク人」たちが、「梯子を外された」と一斉に批判を始めました。ブッシュ政権の言うことを真に受けて尻尾を振って付いていった者が今更何を言うかと言う感じですが、この経緯を見ても「イラク民主化説」がウソとデマゴギーで塗りたくられていることが明らかです。
※「米大統領:「アラブ全体を政治改革」対イラク戦後の構想示す(毎日新聞)
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200302/27/20030227k0000e030075000c.html
ブッシュは2月26日、ネオコンの巣窟「アメリカン・エンタープライズ研究所」(AEI)の会合においてフセイン政権崩壊後の「イラク民主化構想」に関して演説し、「イラクの民主化」、更には「中東の民主化」、そして「パレスチナの民主化」を公言した。また、「我々も必要な限り、イラクにとどまる」と述べ、長期の米軍占領支配を示した。(「民主化」を「親米化」に読み替えること)
※「米のイラク統治に改めて反対=反体制派」(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030307-00000111-jij-int
※「米軍によるイラクの統治はない=イラク反体制組織」(ロイター)。この議論の背景には、米国防総省と国務省との占領統治をめぐる対立があると言われている。こんなバラバラな状況でよく開戦に突っ走るものだ。結局こうした米政権内の権力抗争のしわ寄せを受けるのはイラク民衆なのだ。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030307-00000763-reu-int
※「戦後イラク、3地域に分割=民政官が暫定統治−米」(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030308-00000422-jij-int

 ここまでくると皆さんも何がなんだか分からなくなると思います。ああ言えばこう言う。なんだかんだ・・・。全部屁理屈なのです。この一貫性のなさの中に、口が裂けても本当のことが言えない真の理由が隠されているのです。


5.イラク攻撃の真の狙いは石油=軍事帝国アメリカの復活。クリントン政権からブッシュ政権への権力交代、世界覇権の形態変化を歴史的観点から見る必要がある。
 それでは一体何がブッシュ政権によるイラク攻撃の真の理由、真の目的なのか。結論は、石油=軍事帝国アメリカの世界覇権の復活、つまり石油=軍事覇権を通じた世界支配復活の最大のテコがイラク攻撃だということではないでしょうか。

パンフレット「ブッシュ政権と軍産複合体」
 クリントン政権は1990年代を通じて、金融イノベーションと最新のIT産業の勃興を結合させ、ドル=金融=IT帝国の世界覇権とグローバリゼーションで世界を支配しようとしましたが、壮大なバブルの崩壊で行き詰まりました。それに代わって石油・エネルギー産業と軍需産業を機軸にして自動車産業、鉄鋼産業から化学産業まで広範な旧産業の復活を目指し、新帝国復活の野望を掲げて登場したのがブッシュなのです。クリントン政権からブッシュ政権へ−−おそらくこのアメリカ帝国主義のあり方、有り様の急激な歴史的変貌を見なければ、歴史的観点からイラク攻撃を捉えなければ、今起こっていること、これから起ころうとしていることは理解できないのではないか。私たちはそう考えます。

 ブッシュ政権とその政策の政治的性格は、大統領を先頭に主要閣僚の構成、各官庁の主要官僚の出自、人脈とロビー関係、政策立案を担当するシンクタンク、そして権力の実態が何かによって決まっています。言い尽くされたことですが、ブッシュ政権は石油・エネルギー産業と軍産複合体、そしてあまり言われていませんが決定的に重要な自動車産業の経営者やロビイスト、そして重要なのは一群のイスラエルロビーから成る、極めて偏った特異な権力構造を持った政権だということです。軍事−石油−イスラエルが三位一体となった政権です。
※「Car Wars−The US Economy Needs Oil Like a Junkie Needs Heroin - And Iraq Will Supply Its Next Fix」by Ian Roberts January 18, 2003 by the Guardian/UK
http://www.commondreams.org/views03/0118-01.htm
この記事は非常に興味深い。対イラク戦争を「自動車戦争」と名付けているのだ。つまり石油がぶ飲み経済の最大の源泉である自動車の大量生産と大量購入、モータリゼーションの更なるエスカレーションを糾弾している。まるでそれは「ヘロインのようだ」と。


6.石油−軍事−イスラエルの三位一体。それら全部を体現するネオコン。ネオコンの野望と異常さを理解することなしにはイラク戦争もブッシュ政権も理解できない。
 私たちは、軍事と石油の人脈と権益を露骨に体現するこうしたブッシュ政権の特殊な構造と実態に着目し、昨年秋に相次いで、パンフレット『ブッシュ政権と軍産複合体』、『イラク:石油のための戦争』を発行しました。もちろん準備の都合上別々に論じる形になったのですが、実際には切り離せません。同じ人物がそれらの権益全部を体現しているケースが多々あるくらいです。ブッシュ政権とその政策は、軍事−石油−イスラエルの三本柱を同時に実現し遂行する政権なのです。


パンフレット「イラク:石油のための戦争」
 その最たるものが「石油戦略の軍事化」「石油戦略と軍事戦略の結合・一体化」です。1970年代末のカーター・ドクトリンに代表されるように、戦後一貫して、とりわけ1973年の第一次石油危機、1979年の第二次石油危機以降、1990〜91年の湾岸危機、1999〜2000年のミニ石油危機に至るまで、アメリカはイラクを含めて中東地域全体とその石油資源を「死活の利益」と見なし、中東戦略=石油戦略を軍事外交戦略の機軸に据えてきました。それが9・11をきっかけに、その特異な政権基盤を背景に一気に「石油戦略を軍事化」したのです。

 私たちは『石油のための戦争』において、今のブッシュのイラク攻撃を考える4つのポイントを指摘しました。まず第T章、米中東戦略の根幹である対イラク国連制裁=「封じ込め戦略」の破綻。巻き返し策としての対イラク戦争、という捉え方です。ブッシュ政権はクリントン政権の対イラク政策、すなわち国連制裁と国連査察をワンセットにした「封じ込め」政策を全面否定したのです。

 次に第U章、米石油・エネルギー戦略の「軍事化」としての対イラク戦争。これはクリントン政権末期に始まり、ブッシュ政権の誕生で全面化したものですが、国際石油市場から石油を調達するのではなく、世界最大最強の軍事力に訴えてでも石油資源を強奪する方法を前に出し始めたということです。
 アフガニスタンと旧ソ連圏中央アジア諸国、限りなくロシアに深く食い込む形での軍事基地建設と兵力展開、パキスタンの軍事的な抱き込み、その前のコソボや旧ユーゴ諸国への軍事的プレゼンス、トルコへの恫喝と懐柔、フィリピンへの軍事介入と軍事駐留の復活、インドネシア国軍への関与の復活、ベネズエラ政変への介入、コロンビアの石油パイプラインの直接的な護衛、エクアドルの米軍のプレゼンス拡大、アフリカのアンゴラの抱き込み等々。グローバルな米軍事力の展開と石油確保は、誰も否定できないほど露骨で全面的で系統的なものになっているのです。

 そして決して忘れてならないのは、イスラエル・ロビイストを兼ねたネオコンの一群による中東という“イスラム教徒の海の中”での「イスラエル防衛」を最優先とする執拗なイラク攻撃政策です。『石油のための戦争』では、第V章OPEC=サウジの切り崩し、米−サウジ関係行き詰まりからの脱却の「切り札」としての対イラク戦争、という見方です。これは併せて第W章、ブッシュ政権の権力構造の特異性と脆弱性−−石油メジャーと軍産複合体の人格的代弁者ネオ・コンの暴走としての対イラク戦争、につながります。
 ネタニヤフ政権下の極右シオニストたちが、そのまま米のネオコン系シンクタンクを開設し、その人脈がほとんどそのままブッシュ政権の閣僚や官僚になったという驚くべき事実です。エジプトやヨルダンの牙は抜いた。イスラエルには逆らえなくなった。あと中東地域に残るイスラエルの敵国は、近代工業基盤と層の厚い知識人や科学者を持つイラクだけだというのです。米権益の宝庫サウジアラビアは直接攻撃できない。しかしサウジ王政の最期は近い。今のうちにフセインを倒し、更にはイラクを壊滅し立ち上がれないほど殺戮と破壊をやっておけば、将来に渡ってイスラエルの「安全保障」は確保できる。そう目論んでいるのです。


7.ブッシュの好戦性と凶暴さのもう一つの源泉はキリスト教右派の「十字軍」思想。まるで自分が伝道師になったかのような振る舞い。
 昨年9月の国連演説と11月の国連安保理決議1441以降、まるでパウエルが主導してきたかのように見えますが、彼はあくまでも制服組の軍人に過ぎません。現在のブッシュ政権の冒険主義的で野望とも言える大胆なイラク侵略構想、世界覇権構想を立てる器量もないし、ましてや「ハト派」なんかではありません。単に権力にしがみつく軍官僚に過ぎません。かつての米軍統合参謀本部議長として制服組派閥の実力者として、軍事作戦が成功するような専門的立場からの「保証」を求めただけなのです。ネオコンが主張する小規模侵攻・短期決戦で失敗すれば結局は軍の制服組に責任転嫁されることを恐れて、作戦も規模も「幅」を持たせようとしただけなのです。(彼が気骨ある「ハト派」ならとっくに辞任していたはず)

 やはりブッシュ政権の本質、その凶暴性、侵略性の実態であり推進力であるのは、石油メジャー=軍産複合体=ビッグスリー=米重厚長大産業であり、それらの人格的代弁者たるネオコンなのです。ヨーロッパや日本などの他の「帝国主義の上に立つ帝国主義」「帝国の上に君臨する帝国」、石油資源と軍事力の世界的な独占によって、かつてどの歴代米政権もなし得なかった「アメリカ帝国」を築くこと。この妄想とも言える野望を持ったネオコンが共和党を乗っ取り、アメリカの政治権力をも乗っ取った。−−こうした理解なしには、今のイラク攻撃やブッシュ政権の内外政策を理解することはできないでしょう。

 私たちは『石油』パンフレットと『軍産複合体』パンフレットで、一つだけ決定的に重要な要素を欠落させました。ここでそれを補いたいと思います。それはブッシュ大統領自身の伝道師的・プロテスタント原理主義的な妄想、神がかり思想です。彼はビリー・グラハムという南部キリスト教右派新興宗教の伝道師の虜になっています。チェイニーやラムズフェルドやウォルフォウィッツなど狡猾なネオコンにとってこの「宗教おたく」ほど操りやすいキャラクターはありません。「あいつは悪だ」とブッシュの耳元でささやくだけで興奮してしまい前後見境なく「やっつけてしまえ!」と号令をかけるのですから。

 それだけではありません。ホワイトハウス全体がキリスト教右派原理主義の原理で動き始めているという空恐ろしい現実です。神への祈りと聖書の黙読で始まる大統領の執務。聖書研究会で支配されてしまったホワイトハウス。アシュクロフト、エバンスなどキリスト教右派が政権内にごろごろ。「十字軍」と「勧善懲悪」の超単純思考。宗教地域社会計画局というキリスト教右派支援の新しい政府機関。ブッシュその人を伝道師に見立て、あるいは神に祭り上げ祈祷する「大統領のための祈りチーム」100万人の組織化−−これらは国家と宗教との「政教分離」に対する明らかな違反行為でありアナクロニズムです。国際法や国際秩序など政治的力関係はくそくらえ。犠牲者になるイラクの子どもなど生身の人間のいのちなどどこ吹く風。ブッシュは自分たちが大量に虐殺する「イラクの兵士や無実な人々の安全のために祈ってやる」のだとうそぶく始末。

 この薄気味悪い「宗教おたく」がアメリカの最高権力者にして米軍最高司令官に登り詰めたことの、世界と人類にとってのこの上ない危険性を、私たちは軽視してはなりません。全世界の反戦平和の民衆の力でイラク攻撃を阻止し、この神がかり大統領を権力の座から引きずり落とすことこそが、21世紀の平和を切り開く唯一の道なのです。
※「指導者ブッシュ 結びあう侵攻と政策 イラク攻撃は『勧善懲悪』」日経新聞2003年3月12日。
※特集「ブッシュ 大統領を動かす神のささやき」ニューズウィーク日本版2003年3月13日号。
※「ネオコンと連帯する宗教右派 攻撃への神の後ろ盾 民主帝国アメリカン・パワー」毎日新聞
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/nybomb/tokusyu/power_1/05.html


2003年3月12日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




【資料・解説編】*************

■「石油のための戦争ではない」トーマス・リップマン ワシントン・ポスト 2003年1月24日。
 氏は次の3点を指摘する。
@もしイラク原油が欲しいなら米は対イラク経済制裁を解除すればいいわけで、血を流すことはないはず。
Aイラン、リビアなどから調達できる。イラク原油など必要ない。
Bフセイン後の政権が米に石油利権を与える保証はない。


 しかしどれもこれも話にならない。論理も歴史もめちゃくちゃ。@については、これまで対イラク経済制裁=「封じ込め」継続こそが米中東戦略の根幹だったのである。制裁解除などとんでもない。なぜなら制裁を解除すれば湾岸の中心に反米政権が何の制約もなく復活するから。アメリカはこれが嫌だったのだ。そのため陰謀、空爆、査察妨害などクリントン政権を通してなりふり構わず策略を弄し武力を行使してきた。例えば、国連査察が進めば経済制裁解除を要請される。だから1998年に難癖を付けてUNSCOM査察にスパイ活動をさせ破綻させた、その上で一方的に空爆をして査察体制そのものをぶっ潰したのである。
 しかしあくまでもクリントンは査察継続=「封じ込め」継続で自制してきた。これがブッシュ政権の誕生、9・11でガラリと変わる。制裁を解除せずにイラク石油を略奪する手っ取り早い方法、それが今回のイラク侵略なのである。
※イラク攻撃の背景を知るには、米中東政策の歴史、とりわけ湾岸戦争後の12年の歴史を知らねば全く理解できない。私たちのパンフレット『イラク:石油のための戦争』第T章を参照されたい。

 Aについては、イラクをイランやリビアと同列視することは意図的なねじ曲げとしか言いようがない。中東におけるイラクの意義をわざと低める政治的な主張である。サウジに匹敵する石油埋蔵量、その良質で安価なイラク原油。それだけではない。サウジや湾岸の王政諸国には欠如している潜在的な工業生産力、インテリゲンチャと技術者の厚い層の存在である。エジプトやヨルダン、イランやリビアにもないものなのである。ブッシュ政権のうちにまず一番手強いイラクをやってしまえば、イランやリビアはいずれ親米になびく、簡単に片付くと見ているのだ。

 Bリップマン氏は下僕がご主人に逆らうことがあり得ると考えているのだろうか。それとも新政権が傀儡政権でないと言い張るのだろうか。しかし最近ではその必要はなくなった。反論するまでもない。むしろ米政権自身が直接軍政を敷くと公言し始めているのだから。どれもこれも子供だましの議論である。さすがに主戦派ワシントン・ポスト!
※「It's Not a War for Oil」Thomas W. Lippman WashingtonPost January 24, 2003
http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A35690-2003Jan23


■「石油のための戦争?今回は違う。」マックス・ブート ニューヨーク・タイムズ 2003年2月13日。
 外交評議会上級研究員である筆者は言う。
@フセインを打倒しても、1990年の湾岸戦争前の水準の日量350万バレルに戻すのに3年と約50億ドルがかかる。
AOPECの団結を崩し急激な価格低落を実現できるというが、テキサスを基盤とするブッシュ大統領にとって一番いいのは18〜25ドルであって低ければいいというものではない。
B油田の修復に400億ドル、戦費500〜600億ドル、復興に200〜1000億ドルなど巨額の財政支出がかかる。それでは採算が合わない。


 ブート氏最大の誤りは、ブッシュ政権を牛耳るネオコンという特異な権力構造を全く無視していることにある。経済的合理性で動かないのが、ブッシュのネオコンたちなのである。「地政学リスク」という懸念からすでにNY株式市場が崩落し始め、ドルは下落傾向を強めている。これまで政権の経済政策を支えてきた経済閣僚たちは次々と辞任してしまった。アメリカ経済を再び「双子の赤字」のどん底に突き落とすほどの巨額の赤字をネオコンは全く意に介せずといった感じだ。復興などどうでもいい。軍政を敷いて油田だけを米軍で警護すれば済むのだから。現にナイジェリアやインドネシアのアチェコロンビアなどではそうしている。その国や国民のことなどお構いなしなのだ。

 言い換えれば、石油メジャーや軍産複合体による“究極の贅沢な金儲け”か。ぼろ儲けのためには、一方でイラクの民衆と子どもたちを数え切れないほど殺しまくり国土を破壊し尽くす。他方で米と同盟国の財政を湯水の如く消尽し、足りなければ一般民衆から増税と収奪で搾り取る。人類と世界を犠牲にした金儲け!
※"A War for Oil? Not This Time," by Max Boot This op-ed article by Max Boot first appeared in The New York Times, February 13, 2003.
http://usinfo.state.gov/topical/pol/terror/03021301.htm


■「イラクの石油はアメリカの目標ではない。」ジョン・タトム フィナンシャル・タイムズ 2003年2月13日。
 タトム氏はかつて欧州系金融機関UBSのカントリー・リサーチの責任者で、今はシカゴ大学で経済学を教えている。氏は主張する。「1990年のイラク−クウェート紛争の教訓は他の国から奪うより買う方が普通は安いということだ。」「これは現在米のイラクに対する関係でも真実である。米は、イラクで起こることとは無関係に、石油を生産し誰からも買うことができるだろう」と。

 氏もまた上記のブート氏と同様、コストが合わないというのだが、ブッシュ政権のネオコンとその特異性はここでは言わない。しかしこれまでの歴代米政権はそろばん勘定で軍事外交戦略を決めてきたのだろうか。米ソ冷戦時代の対ソ核対決はコストを計算して戦ったのだろうか。ベトナム戦争はどうだろう?コストが合ったから侵略したのだろうか。どれも否である。
※「Iraqi Oil Is Not America's Objective」By John Tatom Financial Times, February 13, 2003
http://www.usembassy.at/en/download/pdf/tatom.pdf


■「反戦であることは石油を意味しない」ブレンダン・オニール クリスチャン・サイエンスモニター 2003年1月23日。
 オニール氏はリベラル派である。彼は反戦記者ジョン・ピルガーを批判する形で、コソボ、ソマリア、アフガニスタンなどを「石油理論」(the oil theory )で一色に塗りたくるのは間違いだと指摘する。もちろん彼が言うようにコソボもソマリアもアフガニスタンも、それぞれ非常に異なった戦争であり、それ自身のダイナミズムと目的を持っている。しかしイラクと石油との関係を、コソボやソマリアと石油との関係と同列視することがそもそも間違っている。

 また彼は言う。「石油理論」は「陰謀理論」の一種だ。怠惰なレトリック遊びをしている時は過ぎ去った、もっと大人びたアプローチをしなければならない、と。しかし逆だろう。史上空前規模の国際反戦行動の「石油のために血を流すな」のスローガンほど、世界中を団結させ、ブッシュの「大義名分」の欠如を示す的を射た表現はない。

 むしろ彼が主張する「イラク・石油無関係説」こそが異端説である。彼が本当にそう考えるなら皆に分かりやすく証明する必要があるだろう。だがオニール氏最大の欠陥は、ブッシュのイラク攻撃には一体如何なる衝動力と背景があるのか、その独自の系統的な見解を出していないことである。
※「Being antiwar isn't about the oil」By Brendan O'Neill Christian Science Monitor January 23, 2003
http://www.csmonitor.com/2003/0123/p09s02-coop.htm


■「それは帝国だよ、バカな!」ポール・ウッドワード イエロー・タイムズ 2003年2月22日。
 反戦運動内部からの「石油動機説」批判の代表的なものは、「石油」に「軍事」を対置する議論である。しかし“石油か軍事か”ではない。“石油も軍事も”である。今のブッシュ政権の政策全般を策定しリードしているのは、繰り返し言うようにネオコンだが、そのネオコンは石油メジャーと軍産複合体の両方の利害を代弁する人格なのである。そして彼らは広大な「アメリカ帝国」の覇権構想をビジョンとして描いているのだ。あれかこれかではない。あれもこれもである。そして石油覇権と軍事覇権を併せ持つ「帝国」も。
※''It's the empire, stupid!''Date: Saturday, February 22, 2003 By Paul Woodward
Editor of The War in Context (http://warincontext.org)YellowTimes.org Guest Columnist (United States)
http://www.yellowtimes.org/print.php?sid=1089
※"Uninformed protesters drive the wrong message home" Feb21, 2003 By Ash Pulcifer
YellowTimes.org Columnist (United States) http://www.yellowtimes.org/print.php?sid=1088
「無知な抗議者たちは国内に間違ったメッセージを送り込む」この表題もよくない。アシュ・パルシファー氏は言う。イラク攻撃の理由は「複雑だ」。ここまではその通りである。ところがそこから変な方向へ行ってしまう。「石油は確かに役割を演じる。だがその意義は戦争準備が長引くにつれて低くなってしまった。」「この矛盾は石油の経済問題を通り越して、パワー・ポリティックスのショーに変わってしまった。」そこで国連と安保理での米英と独仏露のやりとりを論じる。しかしこれはあくまでも政治場裏の対立・対抗関係である。ブッシュ政権のイラク攻撃の衝動力と軍事外交戦略が変わったわけではない。筆者は表面的な動きに振り回されているだけではないか。


■「石油はこの戦争に反対する唯一の理由にすべきではない」ビル&キャスリン・クリスチッソン カウンターパンチ2003年1月21日。 
 反戦運動内部で、もう一つ「石油動機説」に反対する議論がある。それは「イスラエル要因」を無視するなという主張である。これとしては正しい主張である。しかしだからと言って「石油」を否定するとはやり間違いだろう。
 すでに述べたように私たちは、「石油」−「軍事」−「イスラエル」を三位一体としてブッシュ政権のネオコンが軍事外交戦略を策定し実行していると考える。
※「The Peace Movement is Making a Mistake Oil Shouldn't Be the Only Reason for Opposing This War」by BILL and KATHLEEN CHRISTISON CounterPunch January 21, 2003
http://www.counterpunch.org/christison01212003.html


■『世界を動かす石油戦略』石井彰/藤和彦 ちくま新書 2003年1月。
(1)本書は石油専門家が書いた入門書である。筆者たちは、結論として、日本政府に対して、石油供給源の多様化、石油調達手段の多様化、エネルギー源そのものの多様化、特に北東アジア・極東ロシアからの天然ガス・パイプラインの投資を政治主導で整備することを主張する。(p218)これだけを見れば特別な提案ではない。
 しかし新書という啓蒙書として、アメリカと石油の関わりについて知りたいと考える一般の読者を惑わし、ブッシュ政権の薄汚い野望−−中東石油資源の支配と略奪−−を巧妙にごまかす格好の入門書となっている。

(2)著者たちの主張の特徴は、第一に、石油をめぐる政治と経済の機械的二分論である。石油地政学と国際石油市場、石油をめぐる世界政治世界経済、この2つの要因を極端に単純化し機械的に分離する。その上で石油は政治で動くのではなく経済で動く。石油は「戦略商品」ではなく「市況商品」になった。同様に、石油専門家の言う通りに動くのであって政治家(彼らの言い方では「リアリスト」的国際政治・軍事専門家)の言う通りには動かない等々と主張することである。(p67-71)
 もちろん石油の市況商品化、石油市場の比重の飛躍的な高まり、先物・投機商品への転化などは確かである。しかしだからこそブッシュ政権は、その反動としてコントロールしにくくなった石油を直接武力で奪い取ろうとしているのである。著者ら自身が別のところで白状するように、9・11以降、石油が政治で動く「可能性は高まってきた」(p214)。

 著者たちは第二に、ブッシュ政権の特異な権力構造、権力実態を問題にしない。石油の動きを極端に単純化された「経済」「市場」からしか見ないのだから当然だ。クリントン政権との違いや区別は全くない。その意味でブッシュとその政策を美化するものである。著書にはブッシュ政権の大統領、副大統領をはじめ主要閣僚、次官級高官たちの国内石油業者、石油メジャー、石油ロビーとの癒着構造の分析が全くない。ブッシュ政権誕生後にまず最初に着手したのがなぜチェイニー主導の「石油戦略」であったのか。なぜ京都議定書からの離脱だったのか。これへの説得力ある説明がない。
 ブッシュ政権の軍事外交戦略と石油戦略は、「経済学」や市場関係を配慮したものではない。これとは逆に徹底的に軍事外交戦略と石油戦略を結合させ、いわば「石油戦略の軍事化」とも言うべき特異な戦略で動いているのである。著者らが思い上がるように「石油専門家」が政治を動かすのではない。ブッシュ政権の「政治家」こそが現実の政治を動かすのだ。

 著者たちは第三に、アメリカにとっての中東石油の位置付けをわざと相対化し低めている。「中東地域からの輸入原油は全体の石油消費量に対し1割台でしかない」「1次エネルギー消費全体で見ると、そのシェアは5%未満」(p35)「世界の石油生産量の約3割弱に過ぎない」「錯覚している」「必ずしも世界の圧倒的地位を占めているわけではない」(p48)等々。
 しかしそれならなぜ歴代米政権が中東戦略=石油戦略を軍事外交戦略の機軸に据えてきたのか。中東へのアメリカの軍事的政治的介入の歴史と歴史的事実を全く無視するものである。「チェイニー報告」が述べるように、アメリカにとって石油資源はエネルギー安全保障の根幹なのである。自動車とモータリゼーション一つを例示するだけで十分だ。しかも今後10〜20年を問題にすれば自動車産業を中心に膨大な需要増を予測しその確保を至上命題にしている。アメリカが世界最大の石油浪費大国かつ自動車大国であり、従ってそれら業界代弁者や新旧経営者からなるブッシュ政権の石油への渇望は、石油市場の価格変動しか見えない著者らには視界に入って来ないのであろう。

(3)著者は事実上今回のイラク侵略支持である。なぜなら「米国による近年の世界石油戦略の主たる目的はあくまで、国際石油市場の正常な機能維持」だからであり、「唯一の超大国、覇権国家であるため国際石油市場のケアをやらざるを得ない」(p57)からである。「同盟国・・・の経済を守るためにボランティア活動」をしているからであり(p37)「我々は米国に対して足を向けて寝られない」(p40)からであり、「米国は事実上の覇権国として、特に冷戦終結後の唯一の超大国として、自らの望むと望まざるとにかかわらず、国際石油市場が正常に機能するよう、中東湾岸で政治的・軍事的にコミットせざるを得な」(p38)いからである。しかし「市場安定」は、米石油戦略の一機能に過ぎない。ブッシュ政権が始めた石油資源の支配と略奪は目に入らないのである。
 皆さんもお分かりだと思うが、著者らは「石油動機説」を批判する時には「石油の経済」を問題にしながら、アメリカの中東戦略を支持する時には「石油地政学」を問題にするのである。ひどいご都合主義だ。

 結論。この本は「石油地政学」論の俗論を批判するという触れ込みで、さりげなく「石油のための戦争」を批判、二元論やごまかしを使ってブッシュのイラク攻撃を支持するよう導くものである。しかしブッシュのイラク攻撃は、著者が否定するのとは反対に、「米国企業の利権擁護や帝国主義時代のような『資源の囲い込み』」(p56)なのである。



ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢:

(T) カナナスキス・サミットと米ロ「準同盟」化の危険性
    −ブッシュ政権によるイラク攻撃包囲網構築の到達点と反戦平和運動の課題について−

(U) 米中東政策の行き詰まりと破綻を示す新中東「和平」構想
    −−ブッシュ政権がなかなか進まない対イラク戦争準備に焦って、
       「仲介役」の仮面すら投げ捨て公然とシャロンの側に立つ−−

(V) イラク攻撃に備え、先制攻撃戦略への根本的転換を狙うブッシュ政権

(W) 国際法・国際条約・国連決議を次々と破り無法者、ならず者となったブッシュのアメリカ
    −− 鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番のならず者はだーあれ −−

(X) [資料編] NHK ETV2000 より 「どう変わるのかアメリカの核戦略〜米ロ首脳会談を前に」

(Y) 米ロ首脳会談とモスクワ条約について
    −−米ロ「準同盟国」化で現実味増したブッシュの先制核攻撃戦略

(Z)「兵器ロビー」
    20年ぶりに復活する米軍産複合体

([)ブッシュ政権の露骨な戦争挑発行為と対イラク侵攻計画
        −−対イラク戦争阻止の反戦平和運動を大急ぎで構築しよう

(\)ブッシュのイラク攻撃と国連査察問題
        −−再び急浮上しようとしている国連査察の実態を暴く

(])イラク「無条件査察」受け入れ後の米の対イラク戦争をめぐる情勢について
        −−国連を舞台にした二転、三転の熾烈な外交戦、それと並行して進むブッシュの戦争への暴走

(]T)絡まり合うイラク情勢とパレスチナ情勢−−−
        イスラエル軍が再び議長府を攻撃

(]U)こんなウソとデタラメがイラク攻撃の論拠になるのか?
    −−国連と世界各国の民衆をバカにする9/12ブッシュ国連演説と9/24ブレア報告−−

(]V)なぜイラクの犠牲者について語られないのか?
    −−「10.7 一周年 ブッシュの対イラク戦争に反対する大阪集会」基調報告より−−

(]W)国連安保理決議1441に抗議する
         −−ブッシュは「強制査察」を開戦の口実にするな

 国連安保理決議1441に講義する(PDFファイル)

(]X)日本のマス・メディアと対イラク戦争−−−−−−−−
         ブッシュ政権に同調し対イラク戦争を煽り始めた日本のマス・メディア

(]Y)翼賛報道体制に抵抗する2人の気骨あるジャーナリスト

(]Z)まさか、こんな茶番劇がイラク攻撃の根拠になるの?
    「決定的証拠」出せず。ウソとはったりのパウエル国連報告

(][)ブッシュのイラク先制攻撃===
         石油=軍事帝国アメリカの世界覇権とこれに立ちはだかる史上空前の巨大な国際反戦行動

(]\)劣化ウラン戦争を許すな!大量虐殺戦争にストップを!