ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(T)
カナナスキス・サミットと米ロ「準同盟」化の危険性
−ブッシュ政権によるイラク攻撃包囲網構築の到達点と反戦平和運動の課題について−


■私たちはこの間、小泉政権が強行する有事法制に反対する闘いに全力を傾注してきました。7月17日の第二次集約に向けて署名運動も大きな節目に来ています。あくまでも廃案を勝ち取るべく最後まで奮闘する決意です。

■そんな中、国際情勢を見回してみれば、ブッシュ政権が先制攻撃という非常に危ない戦略を明らかにしたり、カナナキス・サミットが行われたり、ブッシュ大統領が新中東「和平」構想なるものを発表したり、色んな出来事がありました。
 実はそのどれもが、来春と言われる対イラク攻撃本番に向けた周到な準備と根回しの一環であることを知り、正直驚きました。米のイラク攻撃について過小評価していたわけではありませんし、フォローを怠っていたわけでもありませんが、ブッシュ政権は私たちが知らぬ間に、私たちの想像以上に水面下で着々と準備をしてきているのです。

■そこでこの間の国際情勢認識の遅れを取り戻すべく、ブッシュ政権の対イラク攻撃準備の成功と失敗について、予想以上の具体的な進捗過程とその到達点について、翻訳や論評を取りまとめてみたいと思います。第一回目はカナナキス・サミットとイラク攻撃準備について、NHKのBS23というニュース番組の報道を題材に論評してみました。

2002年7月1日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



(1)本質はブッシュ大統領の新中東和平構想ではない。

 カナダで6月26日、27日に行われたカナナキス・サミットについて、6月27日のNHK衛星放送のBS23というニュース番組は、他のほとんどの新聞やTVが報道した角度とは一味違った角度から、しかし私たちの考えでは本質的な角度から今回のサミットを特徴付けました。一般に報道されているのは@ブッシュの新中東和平構想をめぐる是非について、A次回のサミットはロシアで開催されること、ロシアが格上げされG8になったこと、Bアフリカ援助問題、そしてどの報道もが一様に皮肉と批判を述べたように、C腫れ物にさわるように全く触れられなかった米国発の世界同時株安とドル急落の危機への対応策、むしろ現実とは正反対に世界経済の超楽観論が唱われたこと等々です。

 しかしこのBS23ではあえて新中東和平構想そのものを取り上げずに、「対イラク攻撃包囲網がどこまで構築されたか」という観点から特集を組んだのです。(同番組ではサミット特集として2日目の翌日28日には「アフリカ援助問題」を取り上げました)まさにブッシュ政権の今の最大の軍事外交懸案はイラク攻撃です。対イラク戦争をいつ、いかなる形でするか。これだけなのです。石油メジャーと軍産複合体のトップがそのまま政権を牛耳るブッシュ政権の本質なのかも知れません。内外政策全体が対イラク攻撃のシナリオに従属して立てられているのです。そう考えればイラク攻撃包囲網構築に今回の「サミットを使った」のは間違いないと思われます。

 新中東和平構想は、誰もが考えるように、それ自身に目的があるのではありません。有り体に言えば、ブッシュ大統領はパレスチナ問題などどうでも良いのです。むしろ対イラク攻撃にとってこれほど邪魔なものはなく煩わしいだけなのです。適当にごまかし丸め込んで、親米アラブ諸国を懐柔することができれば、もっとストレートに言えば、親米アラブ諸国の、エジプトやヨルダンの指導者が自国民に申し訳が立てば、反政府の暴動や大衆行動が起こらない程度の「和平」構想であればそれで良いのです。※

※だから新中東和平構想そのものを必要以上にかつ過度に論じるのは全くのピンぼけか、意図的に事の本質をずらせるための世論誘導でしかありません。がしかし、ブッシュ大統領がなぜこんなデタラメな「和平」構想でも出さなければならなくなったのか、その上に立てられるイラク攻撃シナリオがどれだけ脆弱なものか。これらについては2回目「ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(U)」で少し詳しく論じてみようと思います。


(2)サミットの場で対イラク攻撃網の構築はどこまで進んだか?

 ブッシュ政権が今回のサミットで一番やりたかったのは対イラク攻撃の根回しと各国の了解取り付けであったことは想像に難くありません。しかし一方でまだ対イラク攻撃を公然のテーマにすることができないのも事実です。BS23でインタビューを受けたカーネギー平和財団のアンドリュー・カチンズ氏は言います。「米はイラク問題を二国間でこっそりと話し合いたいのだ。」「全体会議の場で反対派が結束するのを避けたいからだ。」このようにおそらく対イラク攻撃網構築をめぐる根回しは、二国間で話し合われたと思われます。

 今回は新中東和平構想への同意取り付けが、イラク攻撃に対する同意取り付けの隠れたテーマだったと考えられます。実際ブッシュ提案を前にして、サミット会合の場で公然とそれに反論した国はありませんでした。アラファト議長の排除問題を公式の声明や議題からは除いて曖昧にし、G8各国は原則的にブッシュの提案に同意したのです。ブッシュ大統領はあくまでもサミットの場でアラファトは排除すると公言しました。

 最近のブッシュ政権の一国主義的傾向、ユニラテラリズムの暴走は常軌を逸しています。今回のブッシュの新中東和平構想も、このユニラテラリズムの実例の一つです。簡単に言えば、「同意しなくてもよい」「黙認すればよい」というやり方なのです。

 このユニラテラリズムが、対イラク攻撃網構築でも適用されると非常に恐ろしいことになります。軍事行動に参加しなくてもよい、反対はするな、黙認すればよい、というのですから。BS23の番組の中でイラク攻撃の最強硬派の一人ボルトン国務次官は言います。「イラク攻撃に新しい国連決議は必要ない。」と。おそらく父ブッシュの湾岸戦争の時のように国連安保理の決議と西側諸国の根回しで奔走することは、当時のような辛気くさい形ではしないつもりでしょう。

 ブッシュ政権が一番引き込みたいのはロシアでした。先のモスクワ条約締結でプーチン大統領は、面白いほどブッシュにすり寄り、親米親ブッシュを演出しました。似非核軍縮で合意したのですから、ブッシュ側が、ひょっとすると対イラク攻撃でも「暗黙の同意」は得られるかも知れないと期待するのも当然です。BS23でインタビューを受けたライス補佐官は言います。「イラク攻撃を支持しなくてよい。暗黙の了解を与えてくれればそれでよい。」と。彼女は、モスクワ条約締結の立て役者だったのですが、今度は対イラク攻撃の根回しで、プーチン大統領の理解を得ようとしているのです。イラクの大量破壊兵器の封じ込めでロシアと協力できると判断しているのでしょう。
 しかしロシア側にも障害はあります。モスクワ・カーネギー財団の副所長トレーニン氏は言います。「プーチン大統領もイラク問題の処理を誤ると米ロ関係を悪化させかねない。」その点で、「今回のサミットが、対イラク問題が焦点ではなく、パレスチナ問題が焦点になったことにプーチン大統領は安堵しているでしょう。ロシアはできるだけ、対イラク攻撃を先延ばししたいと考えているのではないか。」


(3)ロシアの親米外交路線への転換、米国のロシア抱き込みの成功で、ブッシュ政権のユニラテラリズム、軍事的政治的な世界覇権が一段とエスカレートする危険。

 ブッシュ政権にとって今回のサミットの最大の「成果」は、ロシアを正式にG8の一員、西側同盟国として迎え入れ、次回サミットの開催国として全体に承認させたことです。これは明らかに先の5月に行われた米ロ首脳会談とモスクワ条約でブッシュ大統領の言う通りABM条約破棄を受け入れ、MD推進容認を決めたプーチン大統領への「ごほうび」です。新たな米ロ二国間の「準同盟」関係は、サミットで一気に西側同盟への仲間入りの形で完全に組み込まれたのです。※

※実は、ロシアの親米外交路線への転換は、昨年の「9・11」以降起こったことです。今年5月の米ロ首脳会談も、カナナキス・サミットも、その延長線上にあるのです。この点については別の機会に論じたいと思います。

 ブッシュ政権にとって、ロシアの抱き込みは、二重の意味で新たなカードの確保になります。一方では世界の政治軍事情勢をリードすることであり、他方では中東への石油依存を減らしOPECによる石油供給と石油価格の主導権を奪うことです。そしてその両方とも、イラク攻撃の条件整備の一環と言えるのです。

 こうしてプーチン大統領の対米追随路線への思い切った外交政策の転換で、世界情勢は大きく変わろうとしています。米ロ関係の変化は、米欧、米日、欧露のそれぞれの国際関係全般を変化させつつあります。それだけ重要な問題なのです。おそらく「9・11」以降の世界情勢における最大の変化の一つは、この米ロ関係の急激な変化でしょう。

 しかし米ロ「準同盟」は非常に危険です。ブッシュ政権がサミットの場で高らかにロシアを抱き込んだことを歌い上げ、飼い慣らすことに「成功」したことは、つまるところ対イラク攻撃包囲網の最大の懸案を突破したのかも知れません。
 それだけではありません。このまま放置すれば、イラク攻撃以外の戦争拡大政策、先制攻撃戦略及び核使用戦略による軍事脅迫、ABM条約の破棄とMD推進の加速など、傲慢で横暴な一方的ユニラテラリズム、軍事的外交的暴走はエスカレートするでしょう。

 一時は中ロ「準同盟」と言われた中国とロシアとの友好関係、共同してアメリカの覇権主義に対抗しそれを牽制する関係は、「ロシアの裏切り」「抜け駆け」で事実上崩壊し、従来のような力を持たなくなりました。こうしたロシアの外交政策の転換と米ロ「準同盟」化に中国はどのように対応するのでしょうか。中国の動向は東アジア情勢全体に影響するため、また日米同盟、更には日中関係にも、朝鮮半島情勢や台湾海峡情勢などにも、重大な影響を与えるため、私たちも強い関心を持たないわけには行きません。

 すでにブッシュ政権は昨年1月の誕生直後からユニラテラリズム路線を強行しましたが、それは「9・11」が起こるまでは、中国、ロシア、EU諸国や全世界から総すかんを食らい自らを孤立化させるものでしかありませんでした。京都議定書を反故にし地球温暖化問題での合意を破棄したこと、ABM条約を破棄すると宣言しMD推進の強行を表明したことなど。米欧間の対立、米ロ間の対立、米中間の対立が重なり合い、「米国vs露・欧・中」のぼんやりとした対立関係が形成されようとしていました。ブッシュの独走を縛ってきたそのような国際関係が「9・11」で打撃が与えられ、最近のロシアの親米外交路線への転換でだめ押しするかのように掘り崩されてしまったのです。

 当面は、米ロの新しい「準同盟」関係が世界情勢、特に軍事情勢を仕切る傾向が強まっていくでしょう。確かにまだ流動的な要素はあります。ブッシュ大統領は、ロシアが離反傾向を示せばEUと組んで牽制するでしょうし、ロシアの方もブッシュを牽制するためにEUと組むこともあるでしょう。しかし米ロ「準同盟」化がこのまま進み定着すれば、ブッシュの暴走をエスカレートさせるという意味で非常に危険なファクターになることに違いはありません。


(4)米とG8でイラク攻撃の合意はまだない。世界の反戦平和運動の反対が介入する余地は大きい。今なら対イラク戦争を阻止することが出来る。

 サミットで鮮明に現れたように米ロ「準同盟」の形成は、世界の反戦平和運動にとって不利な国際情勢の変化です。新たな困難を突き付けるものです。ブッシュ大統領としては、イラク攻撃にあたって、G8全部の完全な承認を得ようとは思っていないのかも知れません。「黙認で十分」とすればブッシュ政権の暴走の危険が一層増すことになります。

 しかしBS23の番組で紹介されたブッシュ政権の中枢にいる人物たちのインタビューを聞くと、G8の間ではまだ対イラク攻撃網が構築されていません。サミットで対イラク攻撃を直接中心テーマに出来なかったことにその現状がよく表れています。
 イラク攻撃の最強硬派ウォルフォウィッツ国防副長官も、最近は独走に躊躇していると言います。「イラク問題は同盟国全体の問題。同盟国や友好国と協議して行く。」とトーンダウンしているのです。

 ブッシュ大統領の新中東和平構想も、サミット向けの付け刃でしかないことがいずれ暴露されるでしょう。むしろG8ではごまかすことが出来たが、中東諸国、とりわけパレスチナ民衆自身とアラブ民衆の間では受け入れられないことが次第に明らかになるでしょう。

 世界の反戦平和運動は、対イラク攻撃網をなかなか構築できない状況を利用して、アラファト議長を追放すると公言した露骨に植民地主義的な政策を露わにしたブッシュ政権の新中東「和平」政策の失敗を利用して、何としても自らの力でブッシュのイラク攻撃を阻止しなければなりません。今ならまだ対イラク戦争を阻止することが出来ます。私たち日本の運動は、有事法制の廃案を勝ち取ることで、またパレスチナ民衆との連帯を強めることで、ブッシュ政権のイラク攻撃準備にストップをかけたいと思います。