− パンフレット −
「イラク:石油のための戦争」
ブッシュはなぜイラクを攻めたいのか


 ブッシュがイラクを攻撃する本当の目的、本当の狙いは何なのか。−−それはイラクの石油資源の略奪であり、サウジアラビアを含む中東の石油資源の支配です。欧米では「石油のための戦争に反対!」「石油のために血を流すな!」が当たり前のように反戦運動のメイン・スローガンになっています。しかし、一口に「石油のための戦争」と言っても、そんなに単純なものではありません。

 本パンフレットは、ブッシュがイラク開戦を決断した経緯、湾岸戦争後の国連制裁と中東戦略、米国と世界の石油事情および石油戦略、OPECの動向と米の対応、石油メジャーの振る舞い、ブッシュ政権内の対立と超タカ派の特異なイデオロギー等々、イラク攻撃と石油と中東に関わる極めて複雑な政治的歴史的過程をできるだけそのまま再現しようと努めました。

 私たちはこのパンフレットの作業を通じて、ブッシュ政権は世界平和の敵であると同時に、地球環境を破壊し、人類の生活と生存を脅かす最大の敵でもあることを確信しました。
 21世紀を戦争の世紀、地球環境破壊の世紀に変えてしまう彼らの野望と妄想は、世界中の民衆の反対運動の力で挫折させなければなりません。そしてその力は市民一人一人の小さな力が集まって初めて発揮されるものです。ブッシュの対イラク戦争を何としてもストップさせましょう。

 このささやかなパンフレットを、対イラク戦争阻止のために活用して頂ければ幸いです。ぜひとも多くの反戦平和を願う市民の皆さんにご一読いただき、ご意見、ご感想を寄せて下さい。
表紙のポスターは「PeaceAware.com」という米ニューメキシコ州の平和運動グループのサイトからのものです(http://www.peaceaware.com/)。
 著作権法上の「fair use」にもとづいて使用しています。

主な内容:

発行にあたって――イラク:石油のための戦争

○イラク:石油のための戦争―ブッシュはなぜイラクを攻めたいのか
第T部 米中東戦略の根幹、イラク国連制裁=「封じ込め戦略」の破綻。巻き返し策としての対イラク戦争。
第U部 米石油・エネルギー戦略の「軍事化」としての対イラク戦争。
第V部 OPEC=サウジの切り崩し、米−サウジ関係行き詰まりからの脱却の「切り札」としての対イラク戦争。
第W部 ブッシュ政権の権力構造の特異性と脆弱性−−石油メジャーと軍産複合体の人格的代弁者ネオ・コンの暴走としての対イラク戦争。
第X部 地球温暖化と地球環境破壊の最大の源泉としての米系石油メジャー復活の野望−−ブッシュ政権は世界平和の敵であると同時に、人類の生活と生存を脅かす最大の敵。

○ 付属資料
翻訳資料集[1] イラク―石油―戦争
        ――米石油・エネルギー戦略の「軍事化」――
翻訳資料集[2] ブッシュ政権の権力の実態:石油メジャー
        ――米石油・エネルギー戦略に表れた癒着・一体化構造――
翻訳資料集[3] ブッシュ政権の暴走と脆さの秘密
        ――政権・政策の中枢を牛耳るネオ・コンサーバティブ――

 2002年12月15日発行 A4判136ページ

 頒価 1部800円+送料

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  目 次  


発行にあたって――イラク:石油のための戦争

○イラク:石油のための戦争―ブッシュはなぜイラクを攻めたいのか

第T部 米中東戦略の根幹、イラク国連制裁=「封じ込め戦略」の破綻。巻き返し策としての対イラク戦争。
第1章 はじめに−−米中東戦略全体の危機と動揺。対イラク国連制裁=「封じ込め戦略」の崩壊。
(1)米中東戦略全体の危機。その根幹をなす対イラク国連制裁の崩壊。国連制裁の政治史と対イラク戦争。
(2)9・11と対イラク開戦。決断は今年1月の「悪の枢軸」宣言。

第2章 「スマート・サンクション」押し付けの失敗−−米が制裁戦略で初の全面敗北を喫す。

第3章 国連制裁という名の人道に対する最悪の犯罪−−「封じ込め」戦略の過酷。
(1)イラクの乳幼児死亡を激増させる「民族抹殺」=「ジェノサイド」。
(2)劣化ウラン弾:罪なき民衆に放射性物質をばらまく許し難い戦争犯罪。
(3)国連制裁の名による対イラク植民地化。
(4)制裁の「一部解除」とは名ばかり。新たな制裁強化=「石油・食糧交換プログラム」。

第4章 制裁解除の一歩手前まで来ていた対イラク国連制裁。起死回生策としての対イラク戦争。
(1)制裁解除の流れが急速に拡大――経済制裁解除で守勢に立っていたクリントン政権。
(2)起死回生の制裁解除阻止策こそ対イラク戦争によるフセイン打倒。

第U部 米石油・エネルギー戦略の「軍事化」としての対イラク戦争。
第1章 はじめに−−米の「石油危機」と新石油・エネルギー戦略の“軍事化”。「石油は買うものではなく奪うもの」。
(1)クレア教授の洞察力と『世界資源戦争』としての対イラク戦争。
(2)ブッシュ政権における軍事外交戦略と石油戦略との結合。

第2章 ブッシュ政権による石油調達の「多様化・分散化戦略」。
(1)“石油”でブッシュとプーチンの利害が一致。
(2)ブッシュの対アフガニスタン戦争の中心問題は石油・天然ガス利権。
(3)石油略奪のために中南米やアフリカにまで軍事的政治的介入を活発化。

第3章 チェイニーと石油メジャー合作の新石油・エネルギー戦略−−中東をはじめ世界中から石油を略奪するには戦争も辞さず。
(1)1999-2000年「ミニ石油ショック」とチェイニー報告――米支配層最大の関心に浮上した「石油供給問題」。
(2)石油を買うのではなく力づくで奪う。――9・11がブッシュ政権の石油・エネルギー戦略を軍事化させる。
(3)世界的な中長期石油需給展望のアンバランスと石油メジャーが動かすブッシュ政権の特異な戦略思考−−「石油を制する者、世界を制す」。

第4章 石油・自動車・軍産複合体−−石油浪費産業群の全面復活の異様な姿。
(1)ブッシュ政権とどす黒いオイル・コネクション。
(2)石油メジャーの1998年危機と生き残りを賭けた復活。大規模再編と5大独占体制の形成。――「上流部門」への集中投資と世界の有望油田地帯制覇の野望。

第V部 OPEC=サウジの切り崩し、米−サウジ関係行き詰まりからの脱却の「切り札」としての対イラク戦争。
第1章 はじめに−−米・サウジ同盟をめぐる亀裂と戦略論争。

第2章 OPEC復活の兆しとその資源ナショナリズムに対する憎悪・敵対。
(1)1999-2000年「ミニ石油ショック」とOPEC復活の兆し−−減産破り常習犯ベネズエラの民族主義石油資源防衛政策への転換。
(2)イラクのOPEC復帰と石油を武器にした石油戦略の発動。

第3章 サウジ依存の石油支配の限界。親米・傀儡国家イラクの樹立によるOPECへの対抗と石油価格支配の野望。
(1)「多様化・分散化」では賄いきれない。中東石油を支配することなしに石油市場も石油価格も支配できない。
(2)忍び寄るサウジ王政崩壊の危機。行き詰まる「米−サウジ関係」。
(3)「米−イスラエル関係」優先に転換を図るブッシュ政権の超タカ派=親イスラエル・ロビイスト。
(4)フセインを打倒することでOPECを切り崩し、中東地域全体の力関係を根底から覆す奇策。

第W部 ブッシュ政権の権力構造の特異性と脆弱性−−石油メジャーと軍産複合体の人格的代弁者ネオ・コンの暴走としての対イラク戦争。
第1章 はじめに−−ネオ・コンサーバティブが主導するイラク開戦の暴走と脆さ。

第2章 米政府・米系石油メジャーによるイラク石油奪回の野望−−イラクの石油権益をめぐる醜い「再分割戦争」。
(1)これはまるでイラクの石油権益の「再分割戦争」。
(2)武力で石油・天然資源を略奪した「帝国主義と植民地支配の時代」への復古を想起させる。

第3章 「ブッシュ・ドクトリン」は時代錯誤の極致。イラクの軍事占領をテコに中東における植民地支配の復活・再構築を追求。
(1)「ブッシュ・ドクトリン」は「石油略奪ドクトリン」。
(2)対イラク戦争と軍事占領によって中東の石油資源を支配する−−ブッシュ政権内新保守主義者の「新帝国主義」イデオロギーが先導する「石油のための戦争」。

第4章 展望のないまま暴走する「新帝国主義」的冒険主義の脆さと弱点−−イラク戦争を阻止することで、世界平和と地球環境最大の脅威となったブッシュ政権に痛打を与えよう。
(1)対イラク戦争阻止の意義。ここで許せば更なる暴走も。
(2)対イラク戦争阻止のもう一つの意義。21世紀を戦争と地球環境破壊の世紀にしないために。

第X部 地球温暖化と地球環境破壊の最大の源泉としての米系石油メジャー復活の野望−−ブッシュ政権は世界平和の敵であると同時に、人類の生活と生存を脅かす最大の敵。
第1章 はじめに−−石油資源の浪費は戦争にも環境破壊にもつながる。

第2章 京都議定書の破棄−−クリントン政権時代の抜け穴だらけの環境保護規制にすら反発と不満を強めた石油メジャー・エネルギー独占資本。
(1)ブッシュ政権最初の仕事となった京都議定書破棄。
(2)ブッシュ政権の背後でうごめき、京都議定書からの離脱を働きかけた石油メジャー・エネルギー独占体。
(3)ブッシュ政権の「地球温暖化防止政策」は「地球温暖化促進策」。
(4)皮切りに過ぎない京都議定書離脱。企業利益優先の環境保護行政の根本改悪が始まった。

第3章 南ア ヨハネスブルク・サミットを乗っ取り「環境サミット」から「開発サミット」に変質させた米多国籍企業と石油・エネルギー独占体。
(1)ブーイングの嵐に迎えられた企業広報部とロビイストだらけの米政府代表団。
(2)京都議定書の具体化・進展の妨害の先頭に立った米系石油メジャー。
(3)世界の民衆は気がついている。サミットが米多国籍企業と石油・エネルギー独占によって乗っ取られたことを。米政府の背景に彼らがうごめいていたことを。
(4)ブッシュ政権を、環境保護運動、反原発運動と反戦平和運動、反核平和運動の総合した力で追い詰め打ち倒すことが世界平和と地球環境保護の差し迫った課題。


○ 付属資料

翻訳資料集[1] イラク―石油―戦争
        ――米石油・エネルギー戦略の「軍事化」――
1 『石油と戦争』
        ゴパル・ダヤネーニ&ボブ・ウイング WAR-TIMES 2002年6月 第3号
          “Oil and War”
          (http://www.war-times.org/pdf/Oil%20leaflet.pdf)

2 『戦争の車輪に油をさす石油』
       マイケル・T・クレア 「The Nation」 2002.9.16
          “Oiling the Wheels of War”
          (http://www.thenation.com/doc.mhtml?i=20021007&s=klare)

3 『イラク危機の中心にあるアメリカの石油問題』
       ネイル・マッケイ 「サンデー・ヘラルド」 2002.10.6
          “Official: US Oil at the Heart of Iraq Crisis”
          (http://www.commondreams.org/headlines02/1006-03.htm)

4 『イラク危機の展開に待機する石油会社』
       ロバート・コリアー(「SFクロニクル」スタッフ) 「サンフランシスコ・クロニクル」 2002.9.29
          “Oil firms wait as Iraq crisis unfolds”
          (http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/c/a/2002/09/29/MN116803.DTL)

5 『イラク: それは石油に関係しているか?』
       A・J・チェン 「保健と社会正義研究所」 2002.10.13
          “Iraq: Is It About Oil ?”
          (http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=15&ItemID=2470)

翻訳資料集[2] ブッシュ政権の権力の実態:石油メジャー
        ――米石油・エネルギー戦略に表れた癒着・一体化構造――
1 『石油とブッシュ政権』
       マーク・J・パーマー 「アース・アイランド・ジャーナル」 2002年秋
          “Oil and the Bush Administration”
          (http://www.thirdworldtraveler.com/Oil_watch/Oil_BushAdmin.html)

2 『アメリカ:エネルギー産業の影響力を示すタスクフォース文書』
       キャット・ラザロフ 「環境ニュース・サービス」 2002.5.22
          “USA: Energy Task Force Documents Show Industry Influence”
          (http://www.corpwatch.org/news/PND.jsp?articleid=2613)

3 『大統領のエネルギー計画は非難されたーー記録文書は業界の関与を示している』
       マーク・サンダロー,ジョン・ウィルダーマス 「サンフランシスコ・クロニクル」 2002.3.27
          “President's energy plan lambasted
                    Documents show industry's hand”
          (http://sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/chronicle/archive/2002/03/27/MN156040.DTL)

4 『権力を買い世界を売った大統領』
       エド・ブリアミー 「オブザーバー」 2001.4.1
          “The President who bought power and sold the world”
          (http://www.observer.co.uk/international/story/0,6903,466615,00.html)

翻訳資料集[3] ブッシュ政権の暴走と脆さの秘密
        ――政権・政策の中枢を牛耳るネオ・コンサーバティブ――
1 『ブッシュ政権においてタカ派対タカ派の争いがある』
       アイボ・H・ダールダー、ジェームズ・M・リンゼー 「ワシントン・ポスト」 2002.10.27
          “It's Hawk vs. Hawk in the Bush Administration”
          (http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A20256-2002Oct26)

2 『サダムでスキットルズ遊び(ドミノ倒し)』
       ブライアン・ホイッテイカー 「ガーディアン」 2002.9.3
          “Playing skittkes with Saddam”
          (http://www.guardian.co.uk/elsewhere/journalist/story/0,7792,785394,00.html)

3 『米国のタカ派は中東全域を標的としている』
       トム・カーバー BBC NEWS (WEB) 2002.10.11
          “US hawks target Middle East”
          (http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/2321837.stm)

4 『ブッシュは大統領になる前にイラクの「政権交代」を計画していた』
       ネイル・マッケイ 「サンデー・ヘラルド」 2001.9.15
          “Bush Planned Iraq 'Regime Change' Before Becoming President”
          (http://www.commondreams.org/headlines02/0915-01.htm)




発行にあたって−−
イラク:石油のための戦争


(1) ブッシュがイラクを攻撃する本当の目的、本当の狙いは何なのか。−−実は、米軍が臨戦態勢に入りイラク攻撃が秒読み段階に入った現在でも、ブッシュ大統領はそれを公式に表明していません。「フセインは悪だ」「打倒する」「殺す」。それだけなのです。こんな乱暴で滅茶苦茶なことがあるでしょうか。今回の対イラク戦争は、そもそも無法かつ不当な侵略であることでは同じなのですが、対アフガニスタン戦争と比べても、いつ、いかなる理由で決断したのか、全く曖昧でいい加減なのです。
 最近でこそ大量破壊兵器とその査察問題が国連決議1441で騒ぎ立てられていますが、これは攻撃する本当の理由ではありません。なぜなら、ブッシュ政権はずっとこれまで兵器査察など必要ないとこれを拒否してきましたし、この国連決議の1年近くも前に開戦を決断していたわけですから。後でこじつけたものに過ぎないのです。

(2) それでは何が本当の狙い、本当の目的なのか。−−それはイラクの石油資源の略奪であり、サウジアラビアを含む中東の石油資源の支配です。欧米では「石油のための戦争に反対!」「石油のために血を流すな!」が当たり前のように反戦運動のメイン・スローガンになっていることは皆さんもご存じの通りです。

 しかし取り組んでみて分かったのですが、一口に「石油のための戦争」と言っても、そんなに単純なものではありません。単純化すればウソになるでしょう。米国の石油需給関係からストレートに出てくるものでも、エクソンモービルのトップがブッシュ大統領に命じて決まったものでもありません。ブッシュがイラク開戦を決断した経緯、湾岸戦争後の国連制裁と中東戦略、米国と世界の石油事情および石油戦略、OPECの動向と米の対応、石油メジャーの振る舞い、ブッシュ政権内の対立と超タカ派の特異なイデオロギー等々、イラク攻撃と石油と中東に関わる極めて複雑な政治的歴史的過程が介在しているのです。本パンフレットは、それらをできるだけそのまま再現しようと努めました。論旨が込み入ったものになってしまいましたが、ご了解いただけたらと思います。
 
(3) 私たちは以前、マーク W.ヘロルド教授、ウィリアム D.ハートゥング氏というお二人のまとまった英文論説を翻訳したのですが、今回の「石油と戦争」に関しては小冊子にふさわしいまとまった英文論説を見出すことができませんでした。畢竟、専門家でもない私たち自身が自力で研究し取り組むしか手だてがありませんでした。それも邦字の日刊紙、各種雑誌、石油・エネルギー関係のシンクタンクのレポート以外は、ほとんど欧米のインターネット情報です。

 熟慮と検討の結果、本パンフレットは、イラク−石油−戦争をめぐる複雑な政治的歴史的過程の中から、是非とも論じなければならない5つのテーマを立て、5部構成として編集しました。そして巻末には【付属資料】として、私たちが研究と分析に際して参考にした「石油と戦争」に関連するインターネット情報を翻訳し資料集として添付しました。
 一気に読み通すのは長すぎて困難かもしれません。第T部から第X部まで、どこからも対イラク戦争につながっていきます。また各部がそれぞれ読み切りになっています。ですから興味、関心のある部分から読み進めて頂ければと思います。

第T部 米中東戦略の根幹、イラク国連制裁=「封じ込め戦略」の破綻。巻き返し策としての対イラク戦争。
第U部 米石油・エネルギー戦略の「軍事化」としての対イラク戦争。
第V部 OPEC=サウジの切り崩し、米−サウジ関係行き詰まりからの脱却の「切り札」としての対イラク戦争。
第W部 ブッシュ政権の権力構造の特異性と脆弱性−−石油メジャーと軍産複合体の人格的代弁者ネオ・コンの暴走としての対イラク戦争。
第X部 地球温暖化と地球環境破壊の最大の源泉としての米系石油メジャー復活の野望。

 これらは全てクリントン政権からブッシュ政権の誕生へ、更には9・11を転機にブッシュ政権の軍事外交政策全体が対イラク戦争へ急速に発展していった政治的歴史的プロセスの中から5つの断面を切り取ったものです。

 第T部は、国連制裁と対イラク戦争がテーマです。米中東戦略の根幹が対イラク国連制裁であることを論じ、米とイラクの間の諸矛盾、諸対立を湾岸戦争後の国連制裁の政治史を辿る中で明らかにしようとしたものです。ブッシュ政権は、国連制裁という「封じ込め戦略」では、もうイラク支配を維持できないと考え、起死回生の巻き返し策としてフセイン打倒、対イラク戦争を決断したのです。
 ここでは米主導のイラク制裁の悲惨と過酷を徹底的に批判することにより、その制裁の不当性と犯罪性、制裁破綻の背景にも迫ってみました。制裁を根底から弾劾する見地抜きには、ほんとうの意味でイラク問題を理解することはできない、−−これが私たちの最も重要な結論の一つです。

 第U部は、米石油戦略と対イラク戦争です。9・11を転機として、ブッシュ政権が石油・エネルギー戦略を「軍事化」し始めた危険性について明らかにしました。その背景には、最近の米の「石油危機」、米国内での「石油枯渇傾向」の現実味が増す中で、すなわち石油輸入がますます増大する中長期展望の中で、米が新たな石油・エネルギー戦略の確立を迫られている現状があります。
 現在のブッシュ政権の軍事外交戦略を捉えるには、石油戦略抜きには何も分かりません。私たちは昨年来の対アフガニスタン戦争をもう一度、米の石油・エネルギー戦略の中に位置付け直す必要を感じました。

 第V部は、米−サウジ関係の行き詰まりと対イラク戦争がテーマです。現在、米中東戦略と石油戦略の両方の結節点である米−サウジアラビアの同盟関係が最悪の危機に陥っています。ブッシュ政権のネオ・コンたちはは、フセインを打倒しイラクに親米傀儡政権を樹立することによって、サウジを切り捨てこれに代わる新たな同盟国に仕立てようとしているのです。

 第W部は、イラク開戦を一貫してリードする新保守主義者(ネオ・コンサーバティブ)の突出と暴走がテーマです。現在では彼らの存在は日本のマスコミでも注目され初めていますが、彼らの出生の秘密はどこにあるのか、なぜここまでブッシュ政権の中枢にまで大量に食い込んでいるのかについてはまだ知られていません。(この点については前回のパンフレット『ブッシュ政権と軍産複合体』のネオ・コン関連の部分を併せて参考にしていただければ幸いです。)
 結論から言えば、彼らこそが、国連制裁からの起死回生策として、石油戦略の「軍事化」策のカナメとして、米−サウジ関係行き詰まりの打開策として、前面に立ってイラク攻撃を追求しているのです。
 国連安保理決議1441以降、パウエルをはじめ本来の共和党保守反動層が実権を握ったかのように見えますが、ブッシュ政権の権力構造の暴走と弱点の源泉がネオ・コンにあることに変わりはありません。

 第X部は、ブッシュ政権による地球環境破壊と戦争拡大との一体性、その共通の根源である“石油”がテーマです。クリントン政権時代の、企業寄りの緩やかな環境保護行政ですら邪魔だと考え、ゴア政権誕生阻止で総結集した石油メジャー、エネルギー独占、石油多消費型産業の支配者たちの復活と環境規制の全面的緩和・撤廃の野望を批判しました。
 また石油・エネルギーの浪費構造こそが、一方では石油を求めて世界中の石油資源を略奪しようとするし、他方では一切の環境規制を葬り去りCO2を無制限に排出しようとするのです。環境保護運動と反戦平和運動は深いところで結び付いていると言えます。

(4) 私たちは、米のアフガン侵略に反対する署名運動を開始して以来、ブッシュ政権の特異な権力構造、権力実態の分析を痛切に感じてきました。ブッシュ政権は、軍産複合体と石油メジャーから成り立っています。その意味で、このパンフレットは軍産複合体が好き放題振る舞う過程を描いた『ブッシュ政権と軍産複合体』の直接の続編です。これを機会にこの2冊を是非ともワンセットで読んで頂きたいと思います。

(5) ソ連崩壊後のポスト・ポスト冷戦時代は、今やブッシュやブレアの側近たちが、自らを「新帝国主義者」「民主帝国主義者」と呼ぶまでに、その軍事的覇権主義と植民地主義的な石油資源の略奪とを結び付けて世界支配の野望と傲慢さを前に出すようになりました。現象形態だけから言えば、まるで植民地戦争で天然資源を略奪する1世紀以上も前の野蛮な時代への復帰、復古です。その意味で、私たちは戦後比すべきものがないような新しい時代に足を踏み入れたのです。

 しかし他方では、彼らの支配欲と野望を土台から浸食し掘り崩す条件も同時に拡大しつつあります。アメリカと西側資本主義経済の循環的構造的危機の深刻化は、戦前の大恐慌以来のものです。今世界全体を覆い始めているデフレーションの危機は、過去に先例がない新しい性格を帯びています。今までのところ劇的な爆発はしないものの、時々発作的な金融的経済的危機が起こり、何よりも金融政策と財政政策の従来型の解決の見通しも、新しい方策もメドが全く立たない状況にあるのです。

 また地球温暖化と地球環境破壊による諸影響の顕在化も過去の時代にはなかったことです。工業や農業、社会的消費構造の浪費的なあり方そのものを根本的に変革しなければ、また原発へ復古するのではなく再生エネルギーへ前進することなしには、人類と地球環境の破滅しかないという時代に入り込んでいるのです。

 ブッシュの対イラク戦争は、このような全く新しい時代に人類が踏み込む中で強行されようとしています。イラク攻撃がたとえ短期で終了したとしても、イラクの軍政そのものの不安定、軍事費の膨大な負担と財政赤字への転落、石油価格の大変動と石油市場の混乱、それを引き金とするアメリカと世界の経済的危機の深刻化、サウジやヨルダンなど近隣諸国の政治的経済的危機、中東地域全体の政治的不安定化、中東全域での反米感情、反米運動の高揚、更には全世界における反戦平和運動の高まり等々は、避けられないでしょう。

 21世紀を戦争の世紀、地球環境破壊の世紀に変えてしまう彼らの野望と妄想は、世界中の民衆の反対運動の力で挫折させなければなりません。そしてその力は市民一人一人の小さな力が集まって初めて発揮されるものです。ブッシュの対イラク戦争を何としてもストップさせましょう。

*  *  *  *  *  *  *  *

 予めお断りしておかねばならないのですが、このパンフレット全体を通じて研究対象は石油に絞り込んでいます。第一次エネルギーと第二次エネルギー、または天然ガス、原発、再生可能エネルギーを含めたエネルギー総体の評価や見通しは触れることができませんでした。

 最後になりましたが、第U部とその関連資料をまとめる中でマイケル T.クレア教授の『世界資源戦争』や英文の諸論文から大いに示唆を受けました。また教授の論文の翻訳についても直接快諾を頂きました。
 米の反戦紙『WAR TIMES』編集局には「石油と戦争」という特別号の翻訳掲載について快諾を頂きました。
 米リベラル系オンライン『The Nation』にも翻訳掲載の許諾でお世話になりました。これら翻訳に関して私たちのような小さな市民運動の願いを聞き入れて頂いたことに改めて深く感謝する次第です。

 このささやかなパンフレットを、対イラク戦争阻止のために活用して頂ければ幸いです。ぜひとも多くの反戦平和を願う市民の皆さんにご一読いただき、ご意見、ご感想を寄せて下さい。


2002年11月30日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局